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(投稿:by 僻地の産科医)
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医事小論
事故調と諫早医師会アンケート
諫早医師会理事 満岡渉
(長崎県医師会報 2008年12月号 p24~27)
諫早医師会では、今年8月に全国の郡市医師会に向けて死因究明制度に関するアンケートを行い、9月にその結果を公表した。これについては、ネット上のメディアを中心に多くの報道がなされたが[1][2]、紙ベースでも記録を残しておくようにと高原会長から指示があった。筆者はこのアンケートの担当理事として、アンケートを行なうに至った経緯とその結果を本稿に総括してみたい。
既にご存知の方も多いと思うが、厚生労働省は、昨年春から医療事故調査委員会(=医療安全調査委員会)を中心に置いた新しい死因究明制度の創設を目指して検討を重ねている。経過をかいつまんでいえば、昨年10月厚労省がこの制度の「第二次試案」を発表して以降、多くの医療関係者から疑問や反対意見が噴出した。これを受けて厚労省は、今年4月に「第二次試案」を修正した「第三次試案」を発表し、6月には「第三次試案」を法案化したとする「大綱案」を公にした。現在は法案提出の一歩手前という状況にある。民主党は、厚労省案への対案として、同月「民主党案」を発表している。
一方日本医師会は、厚労省の第三次試案について賛否を問うアンケートを今年4月11日に都道府県医師会に送付、47都道府県医師会のうち36医師会(77%)が第三次試案に基づいた究明機関を創設すべきだと回答したとして、5月27日「厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解」を発表し、同案に賛意を表明した。
厚労省案(第三次試案・大綱案)に対しては、日本医学会や日本外科学会なども賛成しているが、一部の都道府県医師会や郡市医師会、さらに日本救急医学会や日本麻酔科学会などの学会団体は反対を表明している。われわれ諫早医師会でも、昨年末からこの問題について勉強会や講演会を行なって検討を重ねた結果、今年1月に第二次試案に反対する意見書を日本医師会に提出し、5月には第三次試案に反対するパブリックコメント(以下パブコメ)を厚労省に提出した。
われわれがこの制度(厚労省案)に反対する理由を以下に簡単にまとめるが、詳細は、上記のパブコメ[3]や、当会が発表してきた関連文書[4][5]をご参照いただきたい。
厚労省案の骨格となる枠組みは、「診療関連死の医療機関から医療事故調への届出を強制し、事故調が過失の有無と軽重を判定し、重大な過失があればこれを警察に通知する」というものだ。事故調査と責任追及を連動させているのが、厚労省案のもっとも本質的な問題点である。この「責任追及の判定のための事故調査」という枠組みを基礎として、以下のような個別・具体的問題が生じる。
(1)事故原因の科学的究明ができず、事故の再発防止もできない。
(2)事故調査報告書が鑑定書となり、民事紛争が激化する。
(3)強力な行政処分によって厚労省の権限が拡大され、医療が統制される。
(4)医療への刑事介入も抑制されない。
われわれ諫早医師会の立場はさておき、この制度は、すべての医療従事者とわが国の医療の未来に極めて重大な影響を及ぼす問題であることは間違いない。当然日本医師会の見解も一般会員の意見を十分に反映したものであるべきだろう。ところが、「日医見解」に示された、都道府県医師会の77%が厚労省案に賛成という点は、この議論に参加している者の実感から甚だしく乖離していた。
その実感とは、勤務医・開業医を問わず、多くの現場の医師がこの制度のことを知らず、厚労省案が内包する重大な危険性に気付いていない。しかし、一部のこの問題に関心を持つ医師は、その圧倒的多数が厚労省案に反対している・・というものである。根拠を挙げる。
日経メディカル・オンラインが今年5月30日に開始した、「あなたは第三次試案に賛成?反対?」という調査(現在進行中)では、回答した526人の医師の92.5%が第三次試案に反対している[6]。
ネット上の医療系メディアの最大手であるソネット・エムスリー(m3.com)は、今年6月20日から7月13日にかけて、一万人を超える医師を対象に大規模な調査を行っている。死因究明制度の厚労省案と民主党案のどちらを支持するかという問い対し、「どちらとも言えない」44.2%、「民主党案支持」が41.5%、「厚労省案支持」は14.3%という結果であった[7]。
極めつけは、厚労省に寄せられた第三次試案に対するパブコメであろう。一読していただければ明らかだが、これらのパブコメはいずれも非常に精密・真摯なもので、この制度について相当勉強していなければ書けるものではない。厚労省のホームページ[8]で公開されたこれらパブコメを分析した大阪船員保険病院の木内淳子医師らによれば、7月末までに個人パブコメを提出した404人(うち医師は303名)の意見の内訳は、第三次試案に賛成11名、修正を求めるもの38名、反対348名であった。反対と修正要求を合わせた割合は、実に95%に上る[9]。
以上の数字と、「日医見解」に示された厚労省案賛成77%という数字とを見比べれば、誰でも「日医見解」が一般医師会員の意見を反映していないのではないかという疑問をもつだろう。
われわれ諫早医師会が、全国960の郡市医師会(政令指定都市の区医師会や大学医師会を含む)に直接アンケートを送ったのは、一般医師会員にもっとも近い郡市医師会で、厚労省案への賛否が議論されているのか、「日医見解」がそれらの意見を反映しているのかという点を明らかにしたかったからである。
アンケートは、8月5日に発送し、9月5日までに447の医師会から回答を頂いた。以下が集計結果である。
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アンケート集計結果 (送付数:960 回答数:447 回収率:46.6%)
Q 1.貴医師会は、日本医師会または所属の都道府県医師会から、厚労省案についての賛否を質問されたことがありますか?
1.質問されたことがある・・ 48(10.74%)
2.質問されたことはない・・395(88.37%)
未回答・・・・・・・・・ 4( 0.89%)
Q 2.厚労省案についての賛否を、貴医師会の理事会などで正式に議論されたことはありますか?
1.賛否を議論した・・・・・ 25( 5.59%)
2.賛否を議論していない・・325(72.71%)
3.議題として話し合ったことはあるが、賛否は決めていない・・95(21.25%)
未回答・・・・・・・・・ 2( 0.45%)
Q 3.Q2の質問で1と回答された医師会にお尋ねします。厚労省案に賛成ですか?
1.厚労省案におおむね賛成である・・ 15( 3.36%)
2.新制度の趣旨には賛成するが、厚労省案にはまだ問題があるのでこのままでは賛成できない ・・44(9.84%)
3.反対である・・・・・・・・・・・ 16( 3.58%)
未回答・・・・・・・・・・・・・372(83.22%)
Q 4.貴医師会では、この問題を一般会員へ広報周知するための説明会などを行なわれましたか?
1.行なった・・・・・ 17( 3.80%)
2.行なっていない・・428(95.75%)
未回答・・・・・・ 2( 0.45%)
Q 5.民主党は厚労省案への対案として、6月に民主党案を発表しています。民主党案をご存知ですか?
1.内容まで知っている・・・・・・・・・・・・ 42( 9.39%)
2.聞いたことがあるが、内容はよく知らない・・215(48.10%)
3.聞いたことがない・・・・・・・・・・・・・185(41.39%)
未回答・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5( 1.12%)
Q 6.民主党案について、貴医師会で正式に議論されたことはありますか?
1.議論した・・・・・ 4( 0.89%)
2.議論していない・・440(98.44%)
未回答・・・・・・ 3( 0.67%)
Q 7.Q6で、1と回答された医師会にお尋ねします。厚労省案と民主党案、どちらがよいと思われますか?
1.どちらかといえば、民主党案の方がよい・・ 11( 2.46%)
2.どちらかといえば、厚労省案の方がよい・・ 2( 0.45%)
3.どちらともいえない・・・・・・・・・・・ 49(10.96%)
未回答・・・・・・・・・・・・・・・・・385(86.13%)
Q 8.この新制度について何かご意見があれば教えてください。
意見記載あり・・・・121(27.07%)
意見記載なし・・・・326(72.93%)
なおQ3は、Q2で「1」と回答した方に限定して尋ねたものですが、実際にはそれ以外の方も回答されているので、回答総数はQ2で「1」と答えた方よりも多くなっています。Q7についても同じです。
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この集計結果の示すところは明らかだ。郡市医師会では、この問題について十分に議論していないし、まして厚労省案の支持を決めてはいない。日医や都道府県医師会から意見を尋ねられてもいないということである。「日医見解」は一般医師会員の意見を反映していない。
われわれは、アンケートの回答内容以上に、回収率が重要だと考えていた。960のうちどれだけ回答してくれるのか。300なら大成功だが、せいぜい200だろうと予想していたわれわれにとって、447の回答は期待を遥かに上回る結果であった。またアンケートQ8のコメントでは、多くの郡市医師会が日医の意思決定過程に疑問を呈し、われわれの活動を支持してくれた。これらのコメントは紙幅の都合で本稿には掲載しないが、当医師会のホームページに公開予定である。
これに基づいて9月12日、われわれは日医に、「集計結果」、「コメント集」とともに、以下の「要望書」を提出した。これら3点は各都道府県医師会、郡市医師会にも送付している。われわれが言いたかったことは、この「要望書」に書き尽くしている。
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平成20年9月12日
日本医師会 会長 唐澤 祥人 様
諫早医師会
会長 髙 原 晶
新しい死因究明制度に関する要望書
現在、厚生労働省が法案提出に向けて準備を進めている、医療安全調査委員会の創設を中心とした新しい死因究明制度については、医療従事者のみならず関係各方面から賛否さまざまな意見が表明されています。
貴会では、今年4月11日にこの制度の厚労省第三次試案についてのアンケートを都道府県医師会に送付し、47都道府県医師会のうち36医師会が第三次試案に基づいた究明機関を創設すべきと回答したとして、5月27日「厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解」を発表し、同案に賛意を表明されました。
しかし、われわれ諫早医師会は、一般の医師会員の間でこの制度についての議論が十分になされておらず、厚労省案に賛成する合意も形成されていないと考え、別添(1)のようなアンケートを8月5日に全国960の郡市(区)医師会に送付いたしました。現在までに447の医師会から回答をいただきましたので、その集計結果を別添(2)にまとめ、お知らせいたします。
Q2にありますように、郡市医師会の94%は厚労省案についての賛否を決めておらず、73%は議論すらしておりません。また、88%の医師会は、厚労省案についての賛否を貴会または都道府県医師会から尋ねられたことがなく(Q1)、96%の医師会で、会員に広報周知をしていませんでした(Q4)。これだけを見ても、日医会員の間でこの問題についての合意形成はおろか、十分な議論がなされていないのは明らかです。
貴会執行部はわれわれが選出した代表であり、会の運営を付託している以上、われわれとしても、わが国の医療に関する諸案件を、すべて郡市医師会や一般会員に諮るよう求めるものではありません。しかしながら、とりわけこの死因究明制度は、わが国の医療の未来を左右するほど重大で、また医療従事者の間でも賛否が大きく分かれる極めて複雑な問題です。このような問題については、十分な情報に基づいた広く開かれた議論を行い、なるべく多くの日医会員の合意を得るよう、最大限の努力がなされるべきであると思います。別添(3)の各医師会からいただいたコメントにありますように、これはわれわれのみならず大多数の郡市医師会の希望でもあります。
貴会におかれましては、この制度について、厚労省案だけでなく民主党案も含めた十分な情報を一般会員に広報周知し、徹底した議論を踏まえて、改めて日本医師会としての見解をとりまとめていただくよう切にお願い申し上げます。
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関連URL
[1] http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080916_1.html
[2] https://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=18266
[3] http://mric.tanaka.md/2008/05/15/_vol_64_1.html
[4] http://mric.tanaka.md/2008/06/12/vol_79.html
[5] http://mric.tanaka.md/2008/07/22/_vol_98.html#more
[6] http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/doctors/blog/editors/200805/506637.html
[7] http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080714_2.html
[8] http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/iken-matome080516.html
[9] http://mric.tanaka.md/2008/09/01/_vol_116_3.html
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