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(投稿:by 僻地の産科医)
「雇用関係なし」で働く大学院生は4割強
大学により雇用関係の有無や診療従事の実態に差
橋本佳子
2009年2月24日 m3.com
http://www.m3.com/iryoIshin/article/92408/?pageFrom=m3.com
文部科学省はこのほど、2008年10月時点での大学病院における大学院生の診療従事の実態や雇用関係の有無などの実態調査の結果を明らかにした。全国79大学に所属する医系大学院生は計1万9122人で、うち大学病院で診療に従事する大学院生は8360人。うち44.9%に当たる3757人は、病院とは雇用関係にないことが分かった(表1)。
雇用関係にない場合、診療中に何らかの事故に遭っても、労働災害保険の適用は受けない。このため、「学生教育研究災害障害保険」あるいはそれに類似した保険に独自に加入することになるが、この「保険加入者」の割合は、「病院とは雇用関係にない大学院生」の93.2%に上った。
「雇用関係にない大学院生」の数は前年よりも15.3ポイント減少、「保険加入者」の割合は20.9ポイント増加とそれぞれ改善している。これは2008年6月末に、文部科学省が全国の大学医学部、医科大学に、「大学院生が診療に従事する場合は、労働災害保険の適用が可能になる雇用契約を締結するなど、適切な対応が必要」という趣旨の通知を出したため。
「雇用なし」「一部従事」、最多は京都府立大
もっとも、「保険加入者」の割合が9割を超えたことで、診療中の事故は大半が補償されるものの、そもそも雇用契約なしに診療すること自体、問題だと言える。編集部が別途入手した文科省の資料によると(下記表、情報公開請求を通じて得たデータ)、「雇用なし」の3757人のうち、「自主的従事」は2593人、「一部従事」1164人(表2)。文科省高等教育局医学教育課によると、「自主的従事は、自分の研究目的あるいは自分の技術向上のために診療に従事すること。また一部従事は、病院の業務として一部診療に従事すること」だ。ただし、明確な定義をして調査をしているわけではなく、「雇用なし」の場合でも、謝金などを支払っている場合もあり得るという。
「病院の業務」として、「一部診療に従事」する1164人は、本来、雇用関係を結ぶべき対象だ。さらに、確かに大学院生が臨床研究のために、特定の症例等について「自主的従事」することはあり得るが、前述のように「自主的従事」と「一部従事」の線引きは必ずしも明確ではない。
さらに、表1では、文科省は大学院生のデータのみを一般的に公表しているが、表2の通り、それ以外に「診療に従事する研究生」がいることが分かる。計2472人のうち「雇用なし」は80.4%(1987人)に上るが、うち保険加入者は「1162人(58.5%)」(医学教育課)にとどまる。
また、大学院生・研究生の雇用契約の有無、診療従事の実態や保険の加入状況は、大学による相違もある。一番問題となる「雇用なし」「一部従事」の大学院生の数が最も多いのは、京都府立医科大学。以下、京都大学、日本大学、長崎大学、慶應義塾大学、三重大学・山口大学などと続く。
文科省は「当然、適切な雇用関係を結ぶよう、大学に求めていく」と言う。ただ「雇用あり」「雇用なし」の定義、さらには「自主的従事」と「一部従事」の線引きなど、調査自体に曖昧な部分があるため、必ずしも実態を反映していない恐れもある。大学院生の雇用は厚生労働省の問題でもあるが、「今回のデータは、正式には厚労省には渡していないが、これまでのやりとりの中で、このような大学病院の状況は厚労省も把握していると思う」(医学教育課)という。診療に従事する場合は、個々の大学院生が、大学に雇用関係を結ぶよう働きかけ、“自衛”するとともに、問題提起していくことも重要だ。
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