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(投稿:by 僻地の産科医)
周産期医学 8月号からです(>▽<)!!
特集は 妊娠34週以降の早産(Late Preterm)をめぐって
こちらは母体の方からいつ産むのが最適か?という論文。
↑以前にあげた論文をみていただければ分かりますが、
母と子供(胎児)の利害は妊娠中には一致していないのです。
母体には、妊娠は負担だから。
そんなことを考えながらいつも治療をしています(>▽<)!!!
多胎児とLate Preterm : 最適な分娩時期とは?
―母体合併症の観点から―
埼玉医科大学総合医療センター母子総合医療センター
高木健次郎 大原 健 松村英祥 関 博之
(周産期医学 vol.38 N0.8 2008-8 p995-998)
はじめに
生殖補助医療の普及・進歩により広く行われるようになり,それに伴い周産期医療は多くの問題を抱えるようになってきた。その一つに多胎妊娠の問題があげられる。多胎妊娠は単胎妊娠と比べて早産率が高く,さらに母体偶発合併症や児の合併症も多く,またNICUへの児の入院は複数の病床を占拠するため,ベッドコントロールの問題からも苦慮することが多い。そのため可能な限り妊娠期間を延長させるために,長期の入院管理や子宮収縮抑制薬の投与が必要となる。そのため多くの周産期センターでは多くの多胎妊娠が病床を占拠しているのが現状と考えられる。ちなみに米国では1)単胎と比べて,多胎妊娠では入院期間が長く合併症も多いことから,医療費は平均で約40%増であるという。
そこで本稿では多胎妊娠における妊娠34週以降の早産について母体合併症の観点から分娩時期に関して解説する。
多胎妊娠の頻度
多胎分娩数は,1996年に日本産科婦人科学会から「体外受精における胚移植数を原則3個以内にする」という公告が出されてから品胎以上の妊娠は増加していないが,双胎妊娠は依然,増加してきている。日本人口動態統計によれば,総分娩数に対する多胎の頻度について1975年を1とした場合,2000年では双胎は1.7倍,品胎で4.5倍に増加していたという。
ちなみに当院における統計では図1に示したごとく過去10年の双胎分娩数は年々増加してきているが,三(品)胎分娩数は,ほぼ横ばい状態であり,さらに四(要)胎以上の例は認められなくなった。
多胎妊娠の分娩時期と背景
末原3)の報告によれば多胎における早産率は表1に示したごとくとなり,妊娠37週未満の早産率は約50%であり,さらに妊娠32週以降37週未満の早産は約40%となっていた。
またACOGのpractice Bulletin(No.56,2004)によれば,多胎妊娠における分娩週数の平均は双胎で35.3週,品胎で32.2週,四胎で29.9週と報告されている。因みに,当院における2006年度の集計をみると,双胎は117例,品胎が5例で計122例あり,妊娠37週未満の早産例は111/122例(91%)で,特に33~36週の早産が89例(72.9%)と,Late Preterm に相当する例が大半を占めた。そのうち自然妊娠が58例(47.5%)となり,半数以上は排卵誘発が行われており,33/122例(27.0%)がART(生殖補助医療)による妊娠で,31例は排卵誘発のみの妊娠であった。
ちなみに現在集計中の2007年度の分娩統計でも多胎分娩は133件と,さらに増加傾向にある。それらの分娩週数についてみると図2に示したごとくで,妊娠36週以前の分娩が約50%であり,先に示した日本人口勤態統計の結果2)に基づく多胎妊娠における早産率と同様の数字であった。また妊娠34~36週のLate Preterm に相当する分娩数は50例(37.6%)であった。
母体の偶発合併症と管理
当院における2007年度の分娩統計で品胎は2例あり,分娩週数はそれぞれ,妊娠30週と32週で,いずれも母体肺水腫を合併していた。一方,双胎例における妊娠34週以降37週未満の分娩例の偶発合併症をみると,表2に示したごとくとなった。
妊娠34,35週では妊娠高血圧症候群や肝機能異常が1/4程度と高率に認められた。先述したACOG Practice Bulletinでも,多胎妊娠では,Preeclampsia,切迫早産,PROM,常位胎盤早期剥離,腎盂炎,産後出血などの合併症による母体入院は約6倍であるとしている。Krotzら4)の報告によれば,単胎妊娠と比べて双胎妊娠では,妊娠35週以前に発症する妊娠高血圧は12.4倍,妊娠高血圧腎症は6.7倍,拡張期血圧110mmHg以上の頻度は2.2倍であるといわれる。また多胎妊娠で妊娠高血圧腎症を発症した場合は,より早期で,より重症になりやすいとの報告もある。さらにARTで妊娠した場合,原因は不明であるが自然妊娠による多胎と比べて妊娠高血圧症候群の発症リスクが高いという。 Lynchらは198例のARTによる多胎妊娠と,330例の自然妊娠による多胎例を比較した結果,母体年齢や経産回数を調整しても妊娠高血庄腎症の発症はART群で高かった(relative risk 2.1)という。
さらに今回検討した自験例で,肝機能異常を3例に認め,うち2例は血小板減少を伴っていた。HELLP症候群の確定までは至らなかったが,品胎/要胎で妊娠高血圧症候群を合併した場合,50%強にHELLP症候群を発症したという6)。また肝機能異常を認める場合は,急性脂肪肝との鑑別も重要である。急性脂肺肝は肝機能検査値の異常に加えて,血液凝固異常,低血糖,高アンモニア血症などを主微とし母見の死亡に至る重篤な合併症である。症状は脂気,嘔吐,全身倦怠感などで,症状は数日~数週間に及び,分挽詩は出血管理の問題があり,さらに分娩後は腸炎や尿崩症などを起こすことがある。急性脂肺肝の頻度は単肺では1/10,000であるが,双胎では2%弱,品胎では7%程度に認められるという7・8)。
また,多胎妊娠の合併症として米国では肺塞栓の問題があげられている。肺塞栓の発症率は妊娠・産褥期は非妊娠詩の5~6倍といわれ,危険因子には多胎があげられているが,その他として帝王切開分娩,妊娠36週未満の分娩,母体高年齢(35歳以上),BMI 25 以上などがあり1),それらはしばしば多胎妊娠に合併するものである。また多胎妊娠では,しばしば切迫早産の管理目的で長期入院,臥床を必要とするが,それ自体も血栓塞栓症のリスクとなる。
次に早産治療はほとんどの多胎妊娠で行われているが,子宮収縮抑制薬の長期投与による副作用もしばしば経験される。β刺激薬では,母児への頻脈,不整脈,心臓不全などの心血管系の副作用や妊娠糖尿病の誘発などの影響かおりレさらにステロイドや過剰輸液などが重なると肺水腫を起こす場合がある。我々の症例では,晶胎の2例において1例は分娩前にリトドリン点滴で治療中,妊娠31週にステロイド投与をしたところ,1週間後に胸水貯留を認め妊娠32週に帝王切開となった。他の1例は,分娩前にリトドリン点滴を施行しており,妊娠30週に子宮収縮が増強し帝王切開で分娩となり,術翌日に肺水腫,両側胸水貯留を認めた。2例とも利尿剤投与で胸水は消失し,軽快退院となった。
さらにその他の副作用として顆粒球減少,横紋筋融解症などの重篤な異常を認める場合があり,長期の子宮収縮抑制薬投与例では注意を要すると考える。
多胎妊娠における母体合併症からみた分娩時期は?
多胎妊娠における望ましい分娩時期は児の成熟が期待できる時期と考えられるが,多胎妊娠に伴う母体合併症には貧血などの軽症なものから,母児の生命に危険を及ぼす重篤な異常もある。 Leeら9)は表3に示した異常を分娩の適応(potential indication)としてあげている。その中で母体因子と考えられるものを下線で示した。
それらのほとんどが上述したごとく緊急性を要する異常であるため,母体にとっての最適(安全)な分娩時期は異常が出た場合には可能な限り早い時期といわざるを得ない。
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