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(投稿:by 僻地の産科医)
「この事件がこれで終わるとは到底思えない」
“医療事故調”のシンポ
「医療者が反省すべき点は多々あり」
m3.com編集長 橋本佳子
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080908_2.html
9月6日の「医療の良心を守る市民の会」主催のシンポジウム「中立公正な医療調査機関の早期設立を望む」では、“医療事故調”のほか、8月20日に判決が出た福島県立大野病院事件についても議論された。
「大野病院事件で、刑事上の過失は別として、医療者に反省点はないのか。もしないのであれば、再発防止などはあり得ないことになる。大野病院事件に言及する以上、事件について把握していると思うので、率直な意見を聞きたい」との質問に対するシンポジストの回答の骨子は以下の通り。(発言順)
渡辺清高・国立がんセンターがん対策情報センター室長(医師)
医療者と患者という関係で、どこまで妊娠や出産のリスクを説明していたかなどの点で、課題が残るのかもしれない。その場所で医療をせざるを得ない、つまり医療提供体制がそれでいいのかについて、議論していく必要がある。大きな視点から学ぶべきことを考え、生かしていくべき。事件から学ぶべきことはたくさんある。
安福謙二・大野病院事件の弁護団(弁護士)
弁護人であったという制約から逃れることはできない。本件裁判では、事故調査委員会が指摘した論点が3つあった。そもそもこの3つで十分だったかについて誰も議論していない。また、この中から検察官は一つの点のみ取り上げた。マンパワーが足りなかった、輸血・輸液が足りなかったことも事故調査委員会は指摘しているが、その点は検察は取り上げていない。細かいことを言えば、検察側の捜査段階での事由と、起訴状との間には違うところがある。しかし、弁護人である私としては、起訴された事案について申し上げることが精一杯。それを踏み越えることは、弁護士倫理にかかわるので、今日の段階では話すことはできない。しかし、いずれ時期が来れば、この事件は徹底的に検証されるべきときが来るだろう。単に産婦人科の学会だけではなく、他学会、さらには行政的なレベルでの議論も大いにやるべき。
さらに国民にとって、医療とは何か、どこまで求めるのか、あるいは求めることが可能なのか、という点も議論すべき。この大野病院事件には本質的な問題が凝縮されている。同時にご遺族のことを考えると、この事件がここで終わるとは到底思えない。
木下正一郎・弁護士
私は本事件に関与していないので、事実経過を詳細に把握しているわけではないが、患者側の弁護士をしているので、遺族の方がどう考えているかについてお話はお聞きしたいと思っている。また、再発防止という観点から反省すべき点はある。他の医療スタッフが応援を求めた方がいいのでは、と言ったにもかかわらず、手術は続行されたと聞いている。真相究明という観点からも、もう一度、裁判で明らかにならなかった点を検証する必要があると考えている。
鈴木寛・民主党参議院議員
現場担当医師、病院長、県庁含めて反省すべき点は多くある。私が知っている限りの範囲で申し上げるが、患者さんが死亡した後から、これら三者が、ご遺族が納得するまで十分に何度でも説明すべきであった。なぜこれができなかったのかを検証すべき。医師とご遺族のコミュニケーションをさせないようにしたのは、県の担当官の指導だと聞いている。
私はある県庁に2年間勤めていた経験があるが、県庁の役人は様々な問題が起きても、「事なかれ主義」。紛争当事者間が直接、同じ場所にいて対話などをさせないようにする傾向にあり、「お詫びに行った方がいいだろう」と思っても、「行かないでください」となる。こうした意識がこの国の行政担当者に根深く残っている。
しかも、県庁の職員の人事にはローテーションがある。土木をやっていた担当者が医療をやることはあるが、医療におけるコンフリクト(紛争)は他の分野と決定的に違うと私は思っている。しかし、事務的で紋切り型で県が対応してしまうケースが散見される。
県立病院は県にとっては出先機関。その病院長と県の担当者で議論が分かれたときには、つい最近までは県の担当者の指示に従わざるを得ない構造になっていた。
古川俊治・自民党参議院議員(医師、弁護士)
大野病院事件については、報道や判決など、極めて限られた情報しか知らないが、今回の判決は刑事判決としては妥当だと考える。しかし、今の日本では医療に限らず、まず民事裁判を行い、悪質なものなどについて刑事裁判を行うのが一般的。今回の事件は、本来は民事事件として処理されるべきものが、刑事裁判になった点がおかしいと思う。また、医師、医療界が反省すべき点は多々あると思う。私は外科医だが、「もっとうまくできただろう」ということはあり、悩み、反省する。こうした考え、文化をプロフェッショナルとして持つことが、重要だと思っている。
なお、大野病院事件で死亡した患者の父親もシンポジウムに出席。最後に次のような趣旨の発言をした。
大野病院事件の遺族のコメント
「3年7カ月、いろんな多くのことを知ることができた。それで県に、(医療事故再発防止のための)要望書を出した。娘が亡くなる以前は、(死亡する可能性があるほど)大変だということも聞いていなかった。これまで、ただ真実を知りたいということで求めてきた。(関係者の意見に)食い違いもあった。自分の娘が何か悪いことをしたのか、と思うこともあった。医療界への不信感を取り除くために、医療側には前向きな姿勢を示してもらいたい。また真実を知りたいという思いに応える環境整備をしてもらいたい」
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