(関連目次)→大野事件
(投稿:by 僻地の産科医)
【 お茶の水だより 】
大野病院事件の教訓を今後の糧に
(日本医事新報 N0.4401(2008年8月30日)p32)
福島地裁は20日、大野病院事件で逮捕・起訴されていた加藤克彦医師に無罪判決を言い渡した。判決後、福島市内で記者会見に臨んだ加藤氏は、死亡した患者・遺族に対し改めて謝罪の意を表明した上で、弁護団、学会、医師会、ネット上で支援活動を展開した有志など、公判を支えた人々にそれぞれ謝意を示し、その都度、深々と頭を下げた。
会見に同席した主任弁護人の平岩敬一氏は、判決内容を評価する一方で、現在検討が行われている「医療安全調査委員会」に触れ、「専門的で中立・公正な機関がそれなりの検討をしていれば、加藤氏が起訴されることはなかった」と述べ、同制度の創設を歓迎する考えを示した。
しかし、厚労省が6月に公表した医療安全調査委員会設置法(仮称)の大綱案には解決すべき問題点も多い。大綱案では、医療安全調査委が警察への通知を行う範囲について「標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡」などと明記しているが、今回の裁判で最大の争点となったのが、この「標準的な医療」だった。
検察側が標準的医療として主張した「剥離を中止し、子宮摘出手術等へ移行する」は、医師を長とする大野病院事故調査委員会が17年3月に作成した事故報告書に記載された結論を発端としている。これに対し、公判で弁護側は複数の医師の証言等を根拠に「用手剥離を完了し、止血操作を行う」という正反対の内容を掲げて反論。最終的に弁護側の主張を容れる判決となったが、同一の処置に関し医療界内で意見が対立し得ることを示す結果となった。
「標準的な医療から著しく逸脱した医療」に該当するかについて大綱案では、「医療機関等の規模や設備、地理的環境、医師等の専門性の程度等を勘案し、医療の専門家を中心とした地方委員会が判断する」としているにすぎず、今回のように医師の意見が対立する症例に関して正常に機能するかは疑問が残る。
加藤氏は会見で、「突然の逮捕拘留から今日まで、長い、何もできない、悶々とした日々だった」と振り返った。加藤氏のこうした経験は、医療安全調査委の意義を改めて示す一方で、未だに残る制度設計の綻びの一つを露呈させるきっかけともなった。加藤氏は今後について、「私は医師という仕事が好きだ。地域医療で患者さんにできることを精一杯やりたい」とも述べた。こうした実力と意欲を兼ね備えた医師に新たな「犠牲者」が出ないよう、大野病院事件の教訓を糧として、新制度の議論を慎重に行うべきだ。
にゃー!
『日本医事新報』編集部に、文句言っといてください。
× 逮捕拘留
○ 逮捕勾留
投稿情報: YUNYUN | 2008年9 月 8日 (月) 21:28