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(投稿:by 僻地の産科医)
「聖地」と呼ばれる地域の方との対談です。
でももう、かなりわかりきっていらっしゃって、
見解、素晴らしいと私は思っています(>▽<)!!
一度ホームページを見てあげてください。
対談○産科医療を考える
地域で安心してお産ができるようにするために
市民と医師にできること
日経メディカルオンライン 2008. 8. 27
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200808/507615.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/200808/507615_2.html
(3)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/200808/507615_3.html
各地で産科医不足が顕在化、深刻化している中、7月29日にまとめられた政府の「五つの安心プラン」(詳細はこちら )でも、産科医療を担う医師への財政的支援や離職防止対策が打ち出された。国の取り組みもさることながら、産科医療の現場で、市民や医師が今できることは何なのか――。地域で安心してお産ができるよう、行政への働きかけや勉強会などを行っている市民グループ「安心なお産を願う会」(滋賀県彦根市)の冨江小夜香さんと、国立病院機構名古屋医療センター産婦人科の野村麻実さんに話し合ってもらった。共に子育て真っ最中ということもあり、実感のこもった対談となった(編集部)。
「出産や子育てをもっとポジティブにとらえ、必要なサポートが受けられる社会であってほしい」と語る冨江小夜香さん。
周囲の産婦人科医が辞めていく
冨江 彦根市立病院の産婦人科が、2007年3月末より分娩の取り扱いを中止するということを知り、地域でお産ができなくなっては困ると、急きょ、「彦根市立病院での安心なお産を願う会」を立ち上げ、産婦人科医の招聘を求める署名活動を行いました。
その過程で、産科医が不足しているのは彦根市に限らないことや、産科医療連携の枠組み、システムを構築することの重要性が分かってきました。そこで、4月に「安心なお産を願う会」と名称を変更し、現在は行政への働き掛けのほか、市民や妊婦を対象とした勉強会などを行っています。
野村 私は産婦人科勤務医として働いて10年ほどになります。小学生の子供がいます。妊娠したとき、勤務していた病院の院長から暗に退職するよう言われ、労働基準局に駆け込んで、何とか産前産後各6週間の休暇を取得し、帝王切開で出産しました。
その病院で医師が産休をとったのは、私が初めてだったんですよ。まだ医師不足と言われていなかったころのことです。子供が新生児集中治療室(NICU)に入るという経験もしました。出産6週後に職場に復帰、すぐに月12回の当直で、乳汁分泌が止まってしまいました。
冨江 大変な経験をされているのですね。
「長時間労働の結果、医師が疲れ果て辞めてしまう。残った医師は余計に忙しくなってしまう、といった悪循環が、産科医療の現場では起こっている」と語る国立病院機構名古屋医療センター産婦人科の野村麻実さん
野村 私はこれまで仕事を辞めないよう頑張ってきたつもりです。でも、ここに来て急に、私の周囲でも、産婦人科医の離職が目立ちます。同世代の産婦人科勤務医が、結婚や出産などを機に、10人ほど次々に辞めました。
お産を扱う病院(2次医療施設)で産婦人科医が手薄になると、私が現在勤務しているような3次医療施設から、2次施設に人を送らなければならなくなり、結果的に、両方のマンパワーが不足してしまいます。さらに、筋腫合併例の帝王切開など、以前なら2次施設で対応していたようなケースでも、「万一のことがあってはいけないから」と、3次施設に送られることが増えています。
冨江 マンパワーが不足しているのに加えて、集中の結果として分娩数が増えたら、一人ひとりの妊婦にかけられる時間は、どうしても少なくなってしまいますね。
野村 私の勤務する病院には、お産の方だけでなく、癌の手術を受ける患者もいらっしゃる。手術室は他の診療科も使っており、びっしり予約が入っています。こうした過密スケジュールのため、一人ひとりの方に、起こり得るリスクも含めて、すべてのことを説明することが、十分にできていません。これでは最終的に、患者さん、妊婦さんの満足につながらないと思うし、医療訴訟が増える要因にもなると思います。
冨江 今のような状況では、産科医療が崩壊してしまうのではないかと不安です。医師不足対策として、医療機関の集約化が叫ばれていますが、良い面もある半面、あまりにも集約しすぎたら、中核的な医療機関で働く医師がパンクしてしまいます。その結果として仮に、妊産婦死亡率が上がるようなことになれば、責任の矛先が医師に向けられ、ただでさえ足りない産科医が、さらに辞めてしまうことになりはしないかと心配です。
生まれてくる命を軽く見てはいけない
冨江 私たち自身、反省しないといけないと思うのは、命をあまりにも軽く見すぎているのではないかということです。出産とは、お腹の赤ちゃんもがんばって、お母さんもがんばって、そうしてようやく1つの新しい命が生まれるということです。運命や目に見えない力もきっと働いていると思います。
赤ちゃんは元気に生まれるのが当たり前、事故なんか起こりっこないと思うこと自体、人間の“おごり”ではないかと思います。若い妊婦さんがヒールの高い靴を履いたり、ジャンクフードを食べたりしているのを見ているので…。私たちが行っている妊婦さん向けの勉強会では、情報提供と同時に、体によい食事やおやつを出したりしています。妊婦さんが、自分の体はもちろん、日常生活を見直すきっかけになればという思いからです。
野村 実際、妊娠中の体の変化に神経質なほど敏感な人がいる一方で、まるで無頓着な人もいますね。情報がないからかもしれませんが、自分で適切な判断ができる人が少ないという印象があります。
少子化、高齢化の影響も大きいです。高齢で出産すると、その分、出産に伴う母体のリスクも高まります。気持ちや見た目はいつまでも若い人が多いのですが、子宮や卵巣は若いままではないのです。
冨江 食事や生活習慣が悪いから、体の年齢は、昔よりむしろ上がっているのかもしれません。やはり、病院に行けば産婦人科医が何とかしてくれるというのではなく、自分自身、自分の家族は自分で守るという自覚が必要です。
このままでは、本当に地域から産婦人科医がいなくなって、病院で出産できなくなってしまう。そうなってから気付くのでは遅いのです。これまで一生懸命、身を粉にして働いてきた産婦人科医にとっても、もしもそんなことになったら、つらいことではないでしょうか。
野村 その通りです。私自身、これまでせっかく産婦人科医としてやってきたので、いま辞めるのは惜しいという気持ちがありますし、妊婦さんや赤ちゃんを何とかして救いたいと思います。しかし、「死亡した妊婦の遺族が訴訟を起こした」などという記事を読んだ私の家族は、「自分の体や家族のことも考えて」と言っています。家族の支えがなければ仕事を続けられないので、本当に悩みます。
産科医療の現場でがんばっている友人に相談したくても、お互いに忙しすぎてなかなか時間が取れないですし、私が「こんな状態で悩んでいる」と打ち明けることで、相手までやる気をなくすようなことがあってはいけないとも思います。「一緒にがんばりましょう」と言ってくれる医師もいますが、産婦人科以外の診療科が多いですね。
経済優先の考え方を見直し
信頼関係を回復するところから
冨江 食の安全、環境、医療など、いろいろな問題が、実は根っこでつながっているような気がします。
背景にあるのは、何でも経済優先で、お金さえあれば、便利さや快適さを手に入れられるし、それが当然という価値観。それから、自分の不摂生は正さずに、自分以外の誰かがうまくやってくれるだろうという期待。そういうところから見直していかなければ、産科医療の問題も、簡単には解決しないのかもしれません。
野村 医師の長時間労働も、経済優先が関係しています。診療報酬は国が決めていて、病院はその収入の範囲で経営しなければならないから、効率が要求される。例えば1人の医師が、時間をかけて10人の患者さんを診るより、時間をかけずに30人の患者さんを診るほうが“効率的”なんです。
でも、時間をかけないといっても限界がありますから、どうしても長時間労働になってしまいます。その結果、医師が疲れ果て、辞めてしまう。残った医師は余計に忙しくなってしまう、といった悪循環が、産科医療の現場では起こっているのです。
未来が見えない、どうすればいいのか分からないというのが正直なところです。
冨江 でも、変化がないわけではありません。ある病院での小児科医不足をきっかけに、地域の母親が立ち上がり、いつ受診すべきかなどを勉強し、コンビニ受診を控えるといった動きにつながったという例がありますね。そうすることにより、医療者にとっても、医療を受ける側にとっても、必要な労力を必要なところにかけることができますから、トラブルも減ってくるはずです。
彦根市立病院では、産婦人科医の招聘はまだできていませんが、院内助産所ができ、少しずつですが分娩の取り扱いを始めています。一歩前進だと思うので、つぶれないようにがんばってほしいと思っています。
野村 厚生労働省の「安心と希望の医療確保ビジョン」にも、「医療従事者と患者・家族の協働の推進」が掲げられています。
冨江 本来、子供は社会の宝ですし、妊娠、出産期間中の母子の結び付きつきは、女性だけが体験できる幸せです。出産や子育てをもっとポジティブにとらえ、必要なサポートが受けられる社会であってほしいと思います。
医師の過重労働にしろ、分娩を甘く考える事にしろ、結局「日本社会のあり方」が映し出しているんだなと、思います。
投稿情報: げ〜げ〜 | 2008年8 月29日 (金) 17:56
資料提供です。
イギリスの産婦人科専門医会(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists)がpdfで34ページに及ぶイギリスの産婦人科医の現状と将来の展望のリポートを出しています。
2004年の11月に英国産婦人科専門医会(専門医試験合格者で構成される)に入ったのは171名で、うち英国の医学部卒業生はたったの12名で、この12名のうち男性医師は3名。
英国の医学部卒業生が産婦人科に進まず、海外の医大卒の医師が英国の産婦人科医療を支えている現状。
しかも、産婦人科専門医になる医師は、年々減少・・・産婦人科医師を増やして、持続可能は産婦人科医療を目指す為の英国の方策は・・・
A Career in obstetrics and
gynaecology: recruitment and
retention in the specialty
http://www.rcog.org.uk/resources/Public/pdf/career_report_rcog.pdf
In November 2004, 171 candidates were admitted to the Membership of the
Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. Only 12 were graduates of
UK universities and, of these, three were male. This stark observation brought
home to many, more sharply than many other statistics, the effects of the crisis
in recruitment to our specialty and the increasing difficulty we have in
persuading young men and women to seek a career in obstetrics and gynaecology.
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年8 月29日 (金) 21:38