(関連目次)→なぜ産科医は減っているのか 他科でも顕著な医療崩壊
勤務医なんてやってられない! 医療安全と勤労時間・労基法 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
勤務医・開業医の比率に大きな変化はないが
勤務医の勤続年数が減少している
江原朗
(日医雑誌第137巻・第5 号/平成20(2008)年8月 p1030-1031)
http://pediatrics.news.coocan.jp/my_paper/ishikai2008_8.pdf
はじめに
医師臨床研修制度の導入以降,医師不足が進行していると報じられているが,医師総数の減少が生じているわけではない.地域の基幹病院に勤務していた医師が減少しているといわれるが,彼らが開業したのか,あるいは,別の病院に転職したのか詳細が不明である.そこで,平成14 年から18 年にかけての推移を検討したので報告する.
I.方法
医師・歯科医師・薬剤師調査1)を用いて勤務医・開業医の比率を計算し,賃金構造基本統計調査2)により勤務医の勤続年数の推移を求めた.なお,女性の勤務医の平均勤続年数が公表されたのは平成17 年以降なので,新医師臨床研修制度の導入が勤務医の勤続年数の変化に及ぼす影響は,男性に限定して検討した.
II.結果
勤務医(病院に従事する医師)と開業医(診療所に従事する医師)の比率を表1 に示す.勤務医も開業医も増えているが,従事先別の比率は病院診療所では,平成14 年の1.76 から平成18 年の1.77 と大きな変化はない.
勤務医の性別・年齢別の平均勤続年数を表2に示す.男女共に,年齢層の上昇と共に勤続年数が長くなる傾向がある.男性の勤務医に関して新医師臨床研修制度の導入の影響を検討した.30 歳代後半の平均勤続年数は,平成14 年の4.0 年から平成18 年の2.7 年へ,40 歳代前半の平均勤続年数は平成14 年の6.7 年から4.9 年へ,50 歳代前半の平均勤続年数は11.6 年から8.2 年へ,50 歳代後半の平均勤続年数は平成14 年の14.5 年から平成18 年の10.3 年へ,60 歳代前半は平成14年の18.4 年から平成18 年の12.0 年へと短縮していた.
III.考察
平成16 年4 月の新医師臨床研修制度の導入の前後において,勤務医(病院に従事する医師)と開業医(診療所に従事する医師)との比率に大きな変化がみられなかった.しかし,4 年間で勤務医の勤続年数が40 歳代後半を除き,30歳以降64 歳までで減少している.特に,30歳代後半,40 歳代前半の中堅層では,平成14年の70% 程度まで勤続年数が短縮している.勤務医の労働市場が流動化しており,地域の救急医療は崩壊せざるをえない.
確かに,新医師臨床研修制度の影響で,各大学の医局が地域の病院から医師を引き上げた結果,勤続年数が短縮した可能性もある.しかし,50~64 歳のベテランクラスの勤続年数も,平成14 年と比較して70% 程度に短縮している.したがって,勤続年数の短縮を大学医局からの引き上げだけに求めることはできない.
勤務医が開業しないのに,勤続年数が短縮した理由として,急性期病院から慢性期ないしは介護施設へ転職したことが考えられる.急性期医療では,24 時間365 日の救急応需が求められることも多く,多くの医師が疲弊している.したがって,30 歳代後半以降の医師が急性期を扱う公的病院から慢性期を扱う民間病院へ移っている可能性がある.
急性期における救急医療を確保するには,労務管理の適正化が必須である.勤務医の開業医へのシフトだけではなく,勤務医が急性期から慢性期の施設へシフトすることも考慮して医療政策をすすめるべきである.
文献
1)厚生労働省大臣官房統計情報部:医師・歯科医師・薬剤師調査
「第1 表医師数の年次推移,業務の種別」,平成18 年.
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/180/2006/toukeihyou/0006337/t0139935/K0001_001.html
2)厚生労働省大臣官房統計情報部:賃金構造基本統計調査
「第5 表職種・性,年齢階級別きまって支給する現金給与額,所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」.
平成14 年http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data14/305_01.xls
平成16 年http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/30501.xls
平成18 年http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data18/30501.xls
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