(関連目次)→医療事故と刑事処分 目次 医療事故安全調査委員会
(投稿:by 僻地の産科医)
というわけでシンポの続きですo(^-^)o ..。*♡
遺族側「医療者と患者はパートナー」 死因究明制度でシンポ(1)
死因究明制度でシンポ(3)
医療者側「正当な医療に刑事免責を」
熊田梨恵
キャリアブレイン 2008/06/18
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16649.html
<医療者側の主張>
【シンポジウムの関連記事】
死因究明制度シンポ(1)遺族側「医療者と患者はパートナー」
死因究明制度シンポ(2)弁護士側「刑事裁判では真相究明できない」
【関連記事】
対象範囲で厚労相と異論―死因究明制度の法案大綱公表
医師法21条を「削除」―民主議員案
舛添厚労相「法案大綱で議論を」―死因究明制度
カルテ提出拒否に罰金30万円以下-死因究明制度の原案
■「医師への刑罰は予防にならない」
日本産科婦人科学会・岡井崇理事
岡井氏は、医療安全調査委員会(医療安全調、仮称)について、「設置の趣旨には賛同するが、中身に問題がある」と述べた。死因究明制度の法案大綱案では、厚生労働省の第三次試案に警察への通知の範囲として記載されていた「重大な過失」は消えたが、「標準的な医療(行為)から著しく逸脱した医療」の表記が残っていることを、同学会として最も問題視していると指摘。「(警察に)通知されると、捜査当局は『専門家が判断したのだから』と、『重大な過失』として(捜査が)進み、刑罰を与えられることは間違いない」と述べた。
岡井氏は、患者や家族が医療者の刑事免責を認められない気持ちは分かると前置きした上で、「誤解されるかもしれないが、医療提供側からすると、正当な業務の遂行として行った医療行為に刑事罰を与えないでほしい。医師も看護師も、もともとは『命を救いたい』という気持ちでこの仕事に就いたのであり、ネガティブな人間は一握りにすぎない」と訴えた。また、刑罰について、罰を与えなければ反社会的行為を予防できないという観点から設けられていると指摘した上で、「手術がうまくいかなかったとして医師に刑罰を与えるなら、予防行為にならない。わたしたちも毎回最善の医療ができているわけではない。さまざまな条件があり、後悔することがしょっちゅう。それなのに、反省の言葉を述べると刑務所に行き、犯罪者ということになるのか」と疑問を呈し、罰を受けた当事者だけでなく、周囲の医療者の意欲も減退するとした。また、医療者側が刑事罰を科される可能性におびえ、原因究明が遅れると訴えた。
■救急医療への事故調査、「後出しじゃんけん、負けばかり」
日本救急医学会・有賀徹理事
有賀氏は、限られた時間と状況の中で展開される救急医療の特徴について、「救急医療の場面は、さまざまな問題を抱えた患者が来て、それを救急医が整理して、次の専門医に回す。専門医も手術が必要(との判断)であれば、次の医師に回す。後医(こうい)に行くほど問題点が整理されていく。『標準的な医療行為』から言うと、最初は結構逸脱していたということはあり得る」と説明。こうした救急医療の特徴を、厚労省の死因究明制度についての検討会は全く理解していないとして、「つまり、『後出しじゃんけん、負けばかり』ということ」と皮肉り、厚労省の考えている医療安全調は現在の救急医療にそぐわないと主張した。
また、現在の救急の受け入れ不能などの問題は、厚労省のこれまでの施策によって引き起こされていると指摘し、「システムエラーそのものが、患者に迷惑を掛けている。その意味で、厚労省だけでなく(他の省庁も)議論してほしい」と述べた。
■「行政のリード、専門家は反省すべき」
日本麻酔科学会・阪井裕一氏
阪井氏は、日本麻酔科学会として第三次試案の趣旨には賛同するが、内容に賛同できないと主張。医療安全調について、「『原因究明、再発防止』と『責任追及』が両立できないなら、前者を優先すべき」と述べた。
また、厚労省が医療安全調の設置を進めていることについて、「本当は医療界に設置すべきだったが、現状では不可能だった。外圧により、行政がリードしてこうなっていることに、われわれ専門家は多いに反省すべき」と語った。
■「民度の低さを反省」
国立がんセンター中央病院・土屋了介病院長
土屋氏は、「個人個人は一生懸命やっているが、医師総体、医療従事者全体としては自律・自浄作用がない。中に悪い人がいたときに、自分たちで整理できていない」と述べた。
医療安全調の設置については、臨床研修医制度の例を引き合いに「制度が始まって4年たっても見直しが行われていない」と指摘し、同様の懸念を示した。「厚労省への不信感を言いだすと切りがないが、一番の原因は、厚労省は2年で担当者が変わること。『小さく生んで大きく育てよう』と言った担当者が、知らんぷりして別の仕事をしている。次に来た人は申し送りで『こうなっている』と聞く。日本の場合は一度法律になると金科玉条のごとく押し付けてくる。変えようとしない。変えることは立法府に期待するが、そういう事例を見ていない。では立法府の責任かと言うと、国民が選んでいるから、民度の低さを反省する」
また医療安全調を医療界に設置すべきとする意見については、「引き受けるべき団体がない。医師会は開業医の集まりで、ここ(会場)にいる勤務医の場合、ほとんど『B会員』でおざなりに席を置いているだけ。わたしは施設長だから『A会員』だが、わたしが代議員になれるとはとても思わない。坪井栄孝先生が、がんセンターを辞めて自分で診療所をつくり、(日医)会長にまで上り詰めた。(しかし)志半ばで医師会の総研もつぶれようとしている。医師の自律的団体もできない」と述べ、否定的な見解を示した。
また、病院は医療事故後の対応ができていないと指摘。「プロとしての自覚が足りない。教育の問題であり、医師の質自体が問われている。(患者と医療者が)お互いの信頼を持ちながら、医療安全調を小さく生んで大きく育てられる社会になってほしい」と締めくくった。
■「こんなに恨まれていたとは驚いた」
全国医学部長病院長会議・大学病院の医療事故対策に関する委員会、嘉山孝正委員長
嘉山氏は遺族側の意見を聞いた上で、「びっくりした。これほどまでに病院がいんちきをやっているのかという感じがしてしょうがない」と述べた。
山形大医学部長でもある嘉山氏は、1999年に横浜市立大医学部付属病院で起きた患者取り違え事故の発生後に、「国立大学附属病院医療安全管理協議会」が設立され、医療事故の調査結果について公表する制度が既に実施されていると指摘した上で、「こんな医療安全調をつくられるのは迷惑。われわれの一番の原則は、事故をきちっと調査すること。それが患者のためになり、医療の質を上げる」と主張した。また、大学病院の調査は隠ぺいできないようになっていると強調した上で、「振り返ると、石を投げられているのでびっくりしている。こんなに患者さんがわれわれを恨んでいたのかと思った。大学病院で(このようなこと)はないと思っていた。東北地方ではあまりないと思う。東京でこんなにあるのはなぜかと思うと、患者の取り合いをやっているからでは」と述べた。
また、自身のこれまでの経験を紹介し、「事故が起こった時に病院長に報告し、院内調査委員会で調査し、当事者の医師とわたしで(患者側に)謝罪した。(患者側には)心のケアが一番うれしい。事実を話して謝罪し、氷解している。謝罪したら、かえって涙を流して喜んでくれた。誠意を尽くすことだ」と述べた。
最後に、「トップがちゃんとすれば自浄作用ができる。病院長、学部長、学長がしっかりすれば、医療界は信頼が得られると思う」と強調した。
コメント