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(投稿:by 僻地の産科医)
2006年の「産科と婦人科」
を掘り起こしてきましたo(^-^)o
特集は
「産婦人科医減少に歯止めはかかるか―現状と対策―」
そろそろ2年になりますね!
結果は皆様ご存知の通りですが、2年前の文献とはいえ
ちゃんと現在の状況を髣髴とさせるきちんとしたレポート
となっています。どうぞ ..。*♡
産婦人科開業医の現状
大都市と地方都市
加来隆一 田中純也 布川香樹
(産科と婦人科・2006年・8号(7-12)p951-956)
要旨
わが国の2004年・の出生数は約111万人である.その内,診療所での出生が47.0%(52万2,000人)で.病院での出生は51.8%(57万5,000人)である.出生の50%以上を診療所が行っている県が47都道府県中24あり,半分以上に増加した.診療所での出生が最も多いのは,佐賀県の73.6%で,病院での出生が多いのは,最多が香川県の72.5%である.大都市では東京区部は67.1%が病院での出生である.現在,病院と診療所の区別なく,どの地域でも産科施設の減少が続いている.神奈川県支部の将来予測では、県内で2015年には1万人の妊婦の受け入れ先がなくなるという.今後,十分な拠点病院を維持する産科医を確保できなくなるのは明らかで,その負担を軽減するためにも開業医の役割が大きくなりつつある.
はじめに
ここ数年,医師不足,過酷な勤務,医療訴訟の増加1)などから,分娩の取り扱いをやめる病院や診療所が増加している.この稿では、分娩を扱う診療所の現状について述べる.厚生労働省の2004年の人口動態の詳細(確定値)を分析しまた,日本産婦人科医会に報告されている情報について解説する.一部は日本産婦人科医会報に掲戟している.
全国の施設別の出生割合
1.診療所での出生の割合が漸増
2004年の出生は約111万人である.全国の出生の47.0%(52万2,000人)が診療所での出生で,診療所での分娩が微増している.ちなみに,1990年の診療所での出生割合は43.0%で、2000年では45.2%であった(表1).
2.病院での出生の割合が漸減
病院での出生は,2004年には51.8%(57万5,000人)で、漸減している.1990年には55.8%まで増加し,2000年には53.7%であった(表1).しかしながら,開業医も病院の勤務医も減少中で,この傾向が続くかどうかまったく予測できない.今後は大きな変化がある可能性がある.
都市部と郡部の出生 一大きな差はない-
全国の施設別の出生を都市部と郡部に分けてみると,都市部での出生が8割強(82.5%)になる.都市部では病院での出生が52.3%で,診療所での出生が46.4%である.わずかに病院での出生が多い.郡部での出生をみると,病院での出生が49.4%に対し,診療所での出生が49.7%と,ほぼ同じである.いずれにしても全国平均では都市部と郡部に極端な差はみられない.
都道府県別の出生一地域差が非常に大きい-
都道府県別の施設別の出生割合をみると,分娩の50%以上を診療所が行っている県が47県道府県中24あり、半分以上になった.ちなみに,1992年でこの割合は15の県であった.2002年で20であり、2年で新たに4つの県が増えた).
1.診療所での出生が多い県 一佐賀県が最多-
出生の6割以上を診療所が占める県が9県ある.最多は佐賀県で73.6%が診療所で出生する.次いで福岡県(69.7%),岐阜県(67.2%)が多く,以下,長崎県、大分県,宮崎県などの順で九州地方に多い(表2).
このような地域では都市部でも産科を取り扱う病院がない地域がたくさんある.開業医が地域医療に貢献している典型的な地域であろう.
2.病院での出生が多い県 一香川県が最多-
病院での出生が6割を超えるのは,診療所と同じ9県である.最多は香川県で,72.5%が病院で出生し,次いで長野県(68.5%),東京都(66.5%)の順となり,以下,北海道,秋田県,山形県と続く(表3).必ずしも大都会のある地域ではない.
大都市での分娩
―福岡市は約7割が診療所での出生ー
厚労省の統計による14の大都市の場所別の出生割合を,病院での出生が多い順に並べてみた.
病院での出生割合が一番高いのは東京区部で,67.1%である.次いで仙台市(66.4%),大阪市(62.8%)で,以下、横浜市,川崎市,神戸市の順となる.
大都市でも診療所での出生割合が高い都市がある.福岡市では69.7%が診療所での出生で,次いで北九州市(62.6%),千葉市(62.5%)に多く,あとは50%以下である(表4).
福岡市では,市内の大学病院を除く9中核病院中,地域周産期母子医療センター担当2次施設6ヵ所が分娩取り扱いを中止している.
3大都市の現状
1.東京都一区部-
東京都の出生数は約10万人で,病院での出生が66.5%と多く,診療所の出生は31.2%である.
中心の区部では,病院での出生が67.1%で,診療所の出生が30.9%である.2005年10月の時点で23区中5つの区には分娩を扱う診療所がなく,1つの区には病院がない.しかし,千葉県寄りの一部の区では逆に診療所での出生が非常に多い.
東京都の24の市部では,病院での出生が65.3%で,診療所での出生が31.3%である.3つの市部には分娩を扱う病院がなく,4つの市には診療所がない.
総括して東京都では病院での出生割合が多い(表5).
2.大阪市
大阪府の出生数は約8万人で,病院では58.4‰診療所で39.9%が出生する3).
中核の大阪市では62.8%が病院で出生し、35.9%が診療所での出生である.大阪市以外の大阪府では病院での出生が56.7%と少なくなり,診療所での分娩が41.5%となる(表5).
大阪府には産婦人科または婦人科を設置している病院が109ある.2005年3月の時点で,分娩を扱う病院は79(72.5%)である.中心の大阪市内では病院の出生割合が減少し,分娩を扱う病院は63.4%に減る.大阪府では,この4年間に19の病院が分娩をやめているという.この中には公立病院や病床数300~400の大病院も7つ含まれている.
大阪市内の26区のうち,7つの区でお産を扱う病院がなく,そのうち2区では病院も診療所もない.また、診療所も127の分娩を扱う診療所が104に減っている.1999年に診療所で分娩を扱う施設は31.6%あったが,4年後の2003年には24.0%に減少した.
3.名古屋市
愛知県の出生数は約7万人で,病院で46.7%が出生し診療所が52.2%と半数を占め,診療所の割合が高い.
中核の名古屋市では,病院での出生が49.2%で、診療所での分娩が49.0%と,ほぼ病院と診療所の割合が同じである.名古屋市以外の愛知県では,病院での出生が45.7%と少なくなり,診療所での出生が53.4%となる(表5).
2005年7月の愛知県産婦人科医会のアンケート調査で,分娩を中止した時期のデータがある.分娩中止の時期は昭和50年代6施設,昭和60年代~平成5年20施設,平成6~15年46施設であったが、平成16年から平成17年6月のわずか1年率で10施設が中止し、加速度的な減少が報告されている.
地方での例
大都市での現状を述べたので,地方の一部地域の現状について解説する.
1.岩手県
-58市町村中,分娩施設があるのは12のみ-
岩手県の出生数は1万1,167人で,病院で51.2%、診療所で48.6%が出生する.県内には58の市町村があるが、2005年3月の段階で分娩施設のある市町村は12のみであり,46の市町村には分娩施設がない.県内には45の分娩を扱う施股が点在しており,開業医が重要な役割を果たしている.2名以上の複数医師の診療所が14施設ある.分娩を扱う病院は平成16年に全県で14病院ある.県立病院や市立病院など,7つの病院がすでに分娩の取り扱いを中止している.
2.奈良県
-10年間で5つの病院と17の診療所が分娩を中止-
奈良県の出生は1万1,749人で,病院で50.0%が,診療所で48.1%が出生する.分娩を扱っている施設は病院22のうち16(72.7%),診療所が67のうち19(28.4%)である.ここ10年間で5つの病院と17の診療所が分娩を中止した.産婦人科の医師の高齢化はどの支部も同様であるが,産婦人科医会の医師の年齢構成をみると,153名中で60歳以上の会員が40.1%(70歳以上23.9%)を占めている.
神奈川県支部の将来予測
―約10年後には1万人の妊婦の出生場所がなくなる―
神奈川県支部から産科施設の深刻な将来予測が報告されている.神奈川県内の183の分娩取り扱い施設(対象184)へのアンケート調査によるもので,今後の分娩収り扱いの継続の意思と中止の時期まで調査している.2004年には対象の産科施設で6万9,862件の分娩があった.この出生数は2015年(平成27年)には約1万人減ると推定されている,しかし,分娩も減少するが,産科施設の減少も起こるため,2015年になると,約1万人の妊婦の受け入れ先がなくなるという.
現在でも神奈川県の出生は約9,500人が遠方の帰省先や東京都などの近隣の地域で出生している.
おわりに
病院,診療所の区別なく、どの地域でも産科施設の減少が続いている.今後,産科医不足はますます顕著になると予測されるため,産科施設の重点化が議論されることは当然である.しかし,多くの地域で開業医抜きの構想は現実的に無理であろう.現在の産婦人科医不足の中で,簡単に「健診は診療所で分娩は病院で」といえない地域が大部分である.
今後,十分な数の拠点病院を維持する産科医数を確保できなくなるのは明らかで,その負担を軽減するためにも,むしろ開業医の役割は大きくなっている.
文献
1)加来隆一:医事紛争防止と病診連携.周産期医
学 31:1221-1225,2001.
2)加来隆一:これ以上,産科医を減らしてはいけ
ない.日本産婦人科医会報,平成18年2月号.
3)厚生労働省:平成16年人口動態調査1B上巻
出生第4・7表.
4)小林 高:有床診療所の立場から 日本産婦人
科医会学術集会特集号 平成17年2月号.
5)厚生労働省:平成16年人口動態調査1B上巻
出生第4.9表,第4.10表.
6)片瀬 高:支部からの声(福岡県).日本産婦人
科医会報 平成18年1月吋.
7)岩永 啓、都竹 理:支部からの声(大阪府)
日本産婦人科医会報 平成17年11月号.
8)鈴木正利:平成17年7月の緊急アンケート調査
結果.愛知県産婦人科医会報 平成18年1月号.
9)塚谷栄紀:支部からの声(岩手県).日本産婦人
科医公報 平成17年-4月号.
10)平野貞治:支部長は語る①.日本産婦人科医
会報 平成18年1月号
11)小関 聡:神奈川県内の産科医療機関における
分娩収り扱い実績と将来予測.日本産婦人科医
会報 平成18年3月号.
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