(関連目次)→妊婦さんと感染症 性感染症と中絶について考える
(投稿:by 僻地の産科医)
今月号のメディカル朝日が届きましたo(^-^)o ..。*♡
2008年6月1日発行
性感染症と戦うシリーズですo(^-^)o ..。*♡
いきなり第三回ですみません。
先月号のHPVとか、他のもよいので紹介しようと思いつつ、
なんとなく第三次試案にかかりきりになってしまっていたので!
最近のHIVは本当にお薬さえ飲み続けることができれば、
そして発症前ならば寿命がかなり長くなっています。
そして次々と新薬が!
HIVの新薬開発には日本人の満屋教授が、
世界に誇れるすばらしい功績なのです!
(講演をきいたことがあります。素晴らしかったです!)
誇りを持っていい分野です!
性感染症と戦う 第3回
HIV感染症・エイズの現在
国立国際医療センター
エイズ治療・研究開発センター長
岡 慎一
(Medical ASAH1 2008 June p66-69)
HIV感染症に関する報道はめっきり少なくなってきた。一般のみならず医療機関の間ですら、HIV感染症に対する意識が薄れてきているのではないかと危惧する今日この頃である。「治療の進歩によりもうHIVは怖くなくなった」という間違った認識が漠然と広がっている可能性もある。
しかし、HIV感染症そのものの病態はなんら変わっているわけではない。治療を受けなければ死に至る病であることは、今も同じである。
また、治療法が進歩し、予後が飛躍的に改善したとはいえ、治癒するわけではない。このため、一生涯治療を続けなければならない。感染者本人にとっても、社会にとっても、治療継続に伴う肉体的、精神的、時間的、経済的損失は計り知れない。
さて、HIV感染症の現在のトピックスは、増え続けるHIV感染者をどうするかという点と、新薬導入により動き出した新しい治療の二つであり、この2点について紹介する。
年間報告数過去最高は「良い兆し」か
2007年末までのHIV/AIDS(エイズ)の報告数は、HIV感染着が9392人、AIDS患者が4450人で、これに血友病のHIV感染者数1438人を加えると、合計で1万5280人になる。 07年1年間のHIV/AIDS報告数(速報値)によると、HIV感染者(1048件)とAIDS患者(400件)の合計報告数は、1448件(1日当たり約4件)で、1年間の報告数としては、過去最高であった。
今回の報告の中で特記すべきは、HIV感染者数が初めて年間1000件を超えたことであろう。着実に感染者数は増加していることを示している。一方、明るい兆しとしては、保健所等における検査件数が15万3816件と前年を大幅に上まわり、過去最高であったことである。
過去8年間の年ごとの新規HIV/AIDS患者数と検査件数を見ると、検査件数に比例してHIV感染者数は増加している。これと相反してこの数年間は、AIDS発病者の増加にはブレーキがかかってきていることが分かる(図1)。これは、検査により早期発見がなされていることを示していると考えられる。このことは、今後のHIV/AIDSの動向を予測するうえで非常に重要なポイントである。
確かに現在はHIV感染者が増えているように見えるものの、これはHIV検査の推進に対する対策が有効に機能していることを示す一時的な現象である可能性がある。感染者の早期発見はHIV感染爆発を抑える唯一の方策だから、もしそうであればこれは悪いことではない。現在のHIV検査対策に並行して、HIV感染に対する予防キャンペーンを推進することにより、いずれHIV感染者数も頭打ちになってくるはずである。
拠点病院所在地周辺にうかがえる問題
HIV/AIDS検査体制は地域差が大きい。検査体制が整っている地域においては、HIV感染は無症候の時期に見つかるが、体制が不備で検査に対する敷居が高い地域では、AIDSを発病してから見つかることが多くなる傾向がある。したがって、その地域の大雑把な検査体制は、「AIDSで発見された患者数」を「HIV感染者の段階で発見できた数」で割った比率(AIDS/HIV比率)から把握することができる。
東京および全国8ヵ所のブロック拠点病院の位置する都道府県と、その都道府県と接する周辺県(例えば東京都の場合には、千葉県、埼玉県、神奈川県。石川県の場合には、富山県、福井県)のAIDS/HIV比率を図2に示した。東京やブロック拠点病院の存在する道府県では、AIDS/HTV比率は1.0を下回っており、HIV検査体制はまずまずであることが分かる。とくに東京都、宮城県、石川県、大阪府では、この比率が非常に低い。
ところが、宮城県や石川県の周辺地域では、AIDS/HIV比率が一変して上昇し2.0を超えるに至っている。このような地域では、受検者が検査を受けにくい何らかの原因があるはずであり、対策が必要である。
もちろん地方の街においては、居住地に近い保健所ではプライバシーの問題からむしろ隣の県の検査所を好むこともありうる。石川県や宮城県などは、まさにそのような状況かもしれない。東京都や大阪府でも、交通の流れから自宅のある地元よりも職場のある都会での検査が多いのも、事実である。こういった地域では、その地域全体での検査体制や予算配分を検討する必要があろう。
足並みそろわぬ啓蒙と検査体制
もう一つの大きな問題は、保健所や検査センターの検査体制の二極化の問題である。例えば、いくつかの保健所や検査センターでは、即日検査や夜間休日検査を取り入れ受検者が検査を受けやすい体制をとっているが、いまだ1ヵ月に1回だけ、しかもウイークデーの午前中1時間だけしか検査を受け付けていないところも少なくない。これでは、「HIV抗体検査は保健所で無料・匿名で受けられます」という宣伝文句は、過剰宣伝だと言わなければならない。
このため、検査が受けやすい保健所や検査センターでは、検査を受ける人の予約でいっぱいになり、HIV抗体検査を希望しても検査が受けられない事態が起こっている。
図3に東京都および大阪府における献血10万件当たりのHIV陽性率を示す。全国平均が徐々に増え、07年には2.0を超えてしまったが、これは、HIV感染者の数が徐々に増加している傾向をそのまま示しているのであろう。
問題は、02年以降の大阪での増加であろう。 HIV感染者数は、人口比を見ても東京のほうが大阪より多いにもかかわらず、大阪における献血でのHIV陽性率が増え続けていることである。
大阪では、ちょうどこの頃より、かなり積極的にHIV抗体検査を促す活動が始まった。この活動が効果を上げ、検査件数が増加したにもかかわらず、検査できる場所が限られているために検査を希望する人が保健所や検査センターで検査を受けることができず、献血に流れた可能性がある。大阪における検査体制の充足が期待される。
予防啓蒙活動と検査体制、この両輪がそろえば、大阪での状況は一気に好転するものと考えられる。
期待されるプライマリケア医の役割
現状では、保健所や検査センターでの体制が不十分であることから、これらの機関は必ずしもHIV感染者発見の主流ではない。むしろ抗体検査により、HIV感染症発見の中心となっているのは医療機関である。すなわち、プライマリケア医のHIV感染者発見における役割は、非常に重要であると言える。
米国でもこの現実を受け、06年9月に医療現場におけるHIV抗体検査のルーチン化を推奨するに至った。ルーチン化とは、B型肝炎などと同様、受診時の基本検査の中に取り入れるということであり、検査前カウンセリングや文書同意を行わないということである。従来までの検査システムからすると180度の施策転換となった。
一方、プライマリケア医にとっては、HIV感染者に遭遇する機会が増えたとはいえ、発見から治療導入まで行うのは現実的ではない。プライマリケア医にとって最も重要なことは、HIV感染者の治療ではなく、HIV感染者の発見にある。実際には、HIV感染者発見時の病歴を聞いてみると、それまでに当然HIV感染症を疑うべき既往があるにもかかわらず、プライマリケア医をすり抜けていることが少なくない。
まだ日本では、HIV抗体検査のルーチン化か制度化されたわけではない。したがって、どのような患者を診た時にHIVを疑ったらいいのかを知っておく必要がある。
HIV感染者側から見た合併疾患として頻度が高いのは、梅毒などの性感染症と帯状庖疹である。ちなみに日本においても、性感染症などのHIV感染症を疑うべき患者を診た時には、HIV抗体検査は04年の保険改定で保険適応になっている。ぜひこれらの疾患を診た時には、HIV抗体検査の実施を躊躇しないでいただきたい。
現実はこれとは全く相反している。私たちが毎年行っている拠点病院調査では、STD(性感染症)を診た時にHIV抗体検査を行っているのは、わずか27%であった。いまだに、STDを診たとしてもHIV抗体検査を行うと保険診療からカットされてしまうと考えられているようである。この数字は、ここ数年改善されておらず、4年たった今でも04年の改定が生かされていない。拠点病院ですらこの数字である。制度の広報が必要だ。
誤解を打ち崩す多剤併用療法導入後のデータ
検査を受ける側、行う側両者にとって、実際の検査につながらない最も大きな原因は、HIV感染症に対する誤解と差別・偏見である。治療の進歩により漠然とHIV感染症の予後は良くなったことは知られていても、やはり心の中には「もし感染していたら自分の人生は終わりであり、苦しんですぐに死んでしまう」という思いが小さくない。
こうした誤解を持つ人たちに対して、最も科学的ではっきりとした数字を示しだのがデンマークでのコホート研究による報告であろう(図4)。
このデータによると、1996年以前の、いわゆる強力な多剤併用療法(HAART療法)ができなかった時代には、もし25歳でHIV感染と診断された場合の平均余命は7年前後であるが、その余命が初期のHAARTで約25年に現在のHAARTで40年近くまで改善されたことが示されている。
25歳の感染者が40年生きるとすると65歳である。これは、通常の人が働いている期間をカバーしている。HIV感染者も、もはや絶望してひきこもっている場合ではないのである。
HIV感染症に対する治療法は、今も進歩している。健常人25歳での余命は50年であり、まだ10年の開きはあるが、この差は今後も縮まっていくと考えられる。 もちろんこれは、AIDS発病前に抗体検査でHIV感染症が分かり、適切な時期に適切な治療が行われた場合のシナリオである。こう考えると、漠然とHIV感染症を怖がっているのではなく、積極的にHIV抗体検査を受けるべきであると言える。
先ほど、医療機関におけるHIV抗体検査が広がっていないことを述べたが、そのもう一つの原因が、医療従事者の中に相変わらずHIV感染症に対する差別・偏見が残っていることである。「陽性と分かったら自分で抱えなければならないのではないか」「転院させると医療拒否ととらえられるのではないか」などと、いろいろ考えてしまい、結局検査しないのが一番楽だと考えてしまっている現状もあろう。
しかし、今の治療の進歩を考えれば、HIV感染症を見つけることは、その患者の命を救うことになるのである。専門医療機関への紹介は、医療拒否でも何でもなく、適切な対応である。ぜひ積極的な検査を行い、HIV感染者の発見に貢献してもらいたい。
大きな期待が特てる 「第3世代の治療薬」
現在、約20種類前後の抗HIV薬が認可されている。 HIV感染症の治療は、これらの中から3~4種類を併用するHAARTが治療法の中心である。適切な時期に適切なHAARTを受ければ、HIVを長期にわたりコントロールすることが可能になった。このためHIV感染着の予後は、飛躍的に改善した。
HAARTが導入された97年頃は、1日20錠近い薬剤を複雑なスケジュールで飲まなければいけなかったが、最近では、1日1回数錠での治療が可能となった。その意味では、治療法は、確実に進歩している。
しかし、現在の治療法も完全ではなく問題点も多い。その基本方針を図5に示すが、key drugとして非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)もしくはプロテアーゼ阻害薬(PI)のどちらかを選択し、これにバックボーンとして核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤を選択するのが基本である。この治療からすると、治療を受けているすべての患者がNRTIを服用することになる。治療の長期化に伴い、NRTIによるミトコンドリア障害や、key drugによる脂質代謝異常などが大きな問題になりつつある。
治療薬は、20種類とはいえ、この10数年問、先に挙げた3系統の機序の薬剤に限られていた。このため、長期服用に伴う副作用も、肝障害とミトコンドリア障害や脂質代謝異常に集約されてきた感がある。今やHIV感染者は、エイズで死亡するのではなく、心血管障害で死亡するのではないかとまで言われるようになってきている。
これに対し、2007年10月に米国で認可になったインテグラーゼ阻害薬は、10数年前のプロテアーゼ阻害薬以来久しぶりの新しい機序の薬剤である。もちろん認可直後であるので、この薬剤による慢性毒性がどのような形で出てくるのかは不明である。しかし、少なくともこの薬剤をうまく使えば、今までの必ずNRTIが含まれていた治療法から解放され、大きな問題であったミトコンドリア障害や脂質代謝異常からも解放される可能性が出てきた。
まさに第3世代の治療薬の時代に入ってきたようであり、1997年にHAARTが始まった時以来のワクワクした期待感に包まれている。
当院もエイズ拠点病院で、これまで帝王切開4例を行い、4年前からHIV患者さんの維持透析を行っています。
岡先生が書かれたすばらしいレポートですが、唯一いま困っているのが、専門医から非専門医(プライマリ・ケア医)への技術移転と医療連携がなかなか進まないことです。拠点病院勤務の医療者と非拠点病院勤務の医療者間のHIVに対する意識、偏見に大きな格差があり、その溝がなかなか埋まらないためと考えています。当院が進めてきた糖尿病の医療連携のようには、なかなかうまくいきません。
投稿情報: 平井 愛山 | 2008年6 月10日 (火) 08:24
そうなんですよね。
結局、拠点病院○投げホイ!で終わっちゃうので困ってしまいます。
拠点病院が立ち行かなくなった場合はどうすればいいのでしょうか?
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年6 月10日 (火) 12:01
HIVについて,今の治療薬の進歩など知りたかった事がわかりやすく載っていてすごく勉強になりました。
投稿情報: あゆみ | 2008年10 月 5日 (日) 15:40