(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
個人用のパブコメ中間発表の整理を始めてみました。
OCRですので、誤字脱字はお許しください。
あとざっと独断と偏見でまとめを。
↓ 今までの分です
【参考ブログ】
宣言
まーしーの独り言 2008年05月25日
http://blog.goo.ne.jp/marcy1976/e/2ed4dd5abdd5d2d13b7f0e73af123c06
【15】 30代 医師
1)刑事抑制の内容をきちんと法文化してほしい。
理由
別紙3捜査機関との関係の中で問1に対する答2:「・・刑事手続については、(途中略)、対応することになる。」
問1に対する答3:「その結果、刑事手続の対象は、(途中略)、謙抑的な対応が行われることとなる。」
問2に対する答2:「・・捜査に当たっては、(中略)対応することが考えられる。」とあります。
これらは、捜査機関に対する希望的推測でしかなく刑事抑制の法的な根拠とはなりえません。過失致死傷罪で医療者個人を罰することが可能になってしまうならば、ハイリスクな医療を続けることは非常に難しくなります。
人間は間違えるものであること、医療は不確実であることを認識して欲しい。
何かが起きたら必ずそれは誰かのせいであるという考え方でいいのでしょうか?
今後の日本の医療のために、感情を排した冷静な考えを根拠にした組織となることを願っています。
2)段落(40)「重大な過失」の定義が暖味なままなので、後からどのようにでも線引きができてしまう。
3)段落(20)届出の基準が暖味。届出のアルゴリズムはその分岐において医療者側の視点と遺族の視点とのずれが生ずるのは明らかであり、混乱をもたらすと思います。
≪勝手なまとめ≫
・捜査機関の法的抑制とはならない
・重大な過失の定義があいまい
・届出基準があいまい
【16】60代 医療機関管理
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕事件を契機に、「医師法21条の異常死の届出」と「医療現場における業務上過失致死罪の適応」の問題について様々な論争が巻き起こっています。
私達、医療関係者の願いは「警察が医療現場に介入しないこと」、「医師法21条の改正」および「死因究明・再発防止のための調査機関の設立」の三点です。厚生労働省(平成20年3月29日、医療未来研究会での佐原康之厚労省医政局総務課医療安全推進室室長)によれば「医療事故の原因を究明し、再発防止を図る仕組みが必要だが、現状はこれを専門に行う機関がなく、刑事・民事手続にその解決が委ねられているので、中立的な第三者機関に届出を行う制度を創設すべく検討がなされ、「医療安全調査委員会」の設立案が第三次試案として4月3日に発表されました。現在は、異常死があれば医療機関は警察へ届け出るが、新たな制度では医師法を改正し、医療機関からの届出は安全調査委員会へと一本化し、遺族からの届出も委員会が受け付ける制度となっています。
新制度では医療機関から委員会へ届け出れば、医師法21条の警察への届け出は必要ないとされていることから、私達、医療関係者が希望していた「医師法21条の異常死の届出」と「死因究明・再発防止のための調査機関の設立」の二点は達成されそうですが、「警察が医療現場に介入しないこと」の問題は解決されるのでしょうか。新制度になれば、遺族や第三者による警察署への告訴・告発による届け出はストップされるのでしょうか。遺族・家族が希望するのは、第一義的に医療側と同じ「原因究明・再発防止」や「自浄作用」なのでしょうか。それらは建前であって、警察に駆け込む本当の想いは「医療ミスがあったかなかったか判らないが、愛する家族が死亡した」、「あの医者を処罰して欲しい」という怒り、恨み、復讐の感情ではないでしょうか。
ここで流れをわかりやすくする為に、厚生労働省が設置をすすめている医療安全調査委員会の流れを「右の道」とし、遺族や第三者からの警察署への訴え(告訴・告発)の流れを「左の道」とします。「右の道」は「原因究明t再発防止」への道であり、「左の道」は「処罰」、「非難,罵倒」、「捜査」の道ともいえます。問題なのは今回の新しい「右の道」より「左の道」が誰でも容易に入れて、道も広くなっていることです。遺族が「右の道」へ届け出ずに、あるいは「右の道」と同時に「左の道」へ届けた場合はどうなるのでしようか。
刑事で相手を訴えるということは、その相手を罪に問い、刑務所に入れるなどの処罰をしてもらう為になされます。この相手を訴えるやり方が告訴・告発で、警察署か検察庁にすることになっています。告訴は相手が犯罪を犯したことと、その相手を処罰してもらいたいという意思を申し出ざるだけでよく、告訴できる人も遺族に限らず、弁護士でも第三者の誰でもできます。警察は告訴を受けた場合は速やかに事件を検察庁に送致しなければならないとされています(刑事訴訟法246条)。つまり、遺族や第三者から警察署に届け出がなされれば、百パーセント書類送検がなされ、書類送検がなされた時点でマスコミが事件を報道することになります。マスコミの報道はその原因が何であったのかとか、過失があったかどうかよりも、死亡の重大性のみが強調されて報道されます。「患者が死亡したのだから、マスコミの報道ぐらいがまんしなければならない」のでしょうか。医療事故の報道は、せめて検察が起訴を決めてから、ほんとうなら裁判で決着がついてから報道されればまだしも、「有罪か無罪かも判らない」、「医療ミスがあったのかなかったのかも判らない」、「あったとしても本当は軽い過失であったかも判らない」段階で、マスコミによって刑事事件として報道されるために、一般の人は「医療ミスという犯罪があった」、「人殺しがあったかも知れない」という印象や理解がなされます。マスコミの影響は大きく、報道された医療機関では患者や妊婦の受診が激減し、医療の萎縮、休業や医療機関の倒産にまで追い込まれることが多々あります。遺族や第三者が納得ができないという感情で警察に駆け込むことによって、医療機関は地域の財産なのに、マスコミ報道がなされ、白か黒か判らない内に医療機関が崩壊していくのはあまりにも苛酷で不公平といわざるを得ません。新制度に届け出がなされてもマスコミの報道はなされるでしょうが、それは原因究明・再発防止のとり組みが始まったという内容のもので、書類送検のときのように犯人扱いする内容にはならないことが救いとなります。
医療梯関の評判を落しめようと考える第三者や、賠償金や示談金を日当に遺族にたきつけて事件を公にしようと考える第三者が、警察に告訴・告発することでマスコミ報道が悪用されているかも知れません。現に、京大病院医療過誤事件(平成18年3月に脳死肺移植手術を受けた患者が7カ月後に死亡した事件で、京都府警捜査1課と川端署は、平成20年3月13日に業務上過失致死容疑で、呼吸器外科医、心臓血管外科医、麻酔科医の3人を書類送検した事件)にその例がみられます。事件後に京大病院内の安全調査委員会では原因究明と再発防止の検討が行われ、「チーム内の意思疎通が十分でなく、手術中の対応に重大な過誤があった」とする調査結果を平成18年10月に発表しました。このように当該病院できちんとした対応・検討がなされていて、同年5月以降は脳死・生体を問わず肺移植手術が自粛され、担当教授は辞職し、患者ご家族に説明と謝罪がなされ、遺族とは示談が成立し、遺族による警察への訴えもなされていないのに、第三者によって告発され書類送検されています。
この事件の意味するところは大きいものがあります。どのように院内や院外の安全調査委員会で「真相究明・再発防止」が検討されても、遺族に説明や謝罪がなされても、いつでも第三者による「左の道」から事件への介入や、委員会の調査や委員会の無力化が容易に可能であるということです。新制度が発足しても刑事が委員会の上に立てば、この制度は何の機能も果たさないばかりか、刑事の医療への介入を手助けする機関になってしまいます。新制度では「遺族が告訴.告発しても、警察は委員会による調査を勧めることになる」とか、「捜査に当たっては、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会の調査の結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる」と説明されていますが、これらは口約束にすぎず、法律的に担保されていません。告訴権は誰にでもあり、それがなされれば自動的に検察へ送検される制度が現存している法律です。
どうすれば「右の道」と「左の道」を合涜させ「原因究明・再発防止」の目的に向かわせることができるのでしょうか。新たな制度をつくる場合には、まず医師法21条の「異常死体の範疇から診療行為に関連する死亡をのぞく、という一文を付す」(日本医学会のパブリックコメント)というように医師法の改正をすることが第一歩です。もともと医師法21条の拡大解釈により医療現場は混乱に陥っているわけですので、委員会へ届ければ警察-届けなくても良いという条件付きではなく、拡大解釈がなされないように法改正がなされるべきです。そのうえで、日医のいうように「医療事故を犯罪捜査から切り離すJことです。新制度では医療事故は被害者がいる犯罪であるととらえています。「患者の取り違えや投薬ルートの誤りなど初歩的な注意義務を怠った過失により、患者のかけがえのない生命を犠牲にするのは許されない」、「過失で死ぬのは許さん」という姿勢になっています。過失を肯定するわけではありませんが、どこの世界にも過失はあります。とくに医療は一定の侵襲を加えることによってはじめて成り立つ業務であり、医療における過失は「それがどんなに小さなものであれ、わずかに下手だったとか、わずかに判断ミスをした」ものであれ重大な結果(死亡)となります。新制度では「刑事処分は"重大な過失''に限定する」となっていますが、そうなればほとんどすべての過失が刑事処分になってしまいます。医療行為における過失は、被害者の救済や過失をおこした責任者の行政処分や民事賠償は必要であっても犯罪(刑事)ではありません。いつの時代から日本は患者を助けようとした者を犯罪者と同じように裁くようになったのでしょうか。捜査楼関へ通知する事例は、医療水準からの逸脱の程度や、過失の重大さで決めるのではなく、犯罪性の有無によって決められるべきです。
日本産婦人科学会は平成20年2月29日に「資格を有する医療提供者が正当な業務の遂行として行った医療行為に対して、結果のいかんを問わず、"業務上過失致死罪"を適応することに反対するJと発表しています。交通事故などの一般的な過失と医療での過失は「応招義務と善意の行為」の点で異なります。「民事は警察では扱わない」というように「医療過失は警察では扱わない」、「警察は犯罪を扱う」という原則を確認、確立していただきたいと思います。そうすることが業務上過失致死容疑での警察の介入を防止することもなるし、遺族が「左の道Jへ届け出ても「右の道」へ合流させることも可能となります。「過失は犯罪ではない」という論理や概念が欠如していれば、どのような委員会でも魂のない制度になり、医療界は不安を抱えたまま萎縮医療は続くことになります。新制度はもっと概念的に検討され、医療側と患者側が納得でき、世界に誇れるような制度になって欲しいものです。
≪勝手なまとめ≫
・捜査機関の抑制とはなっていない
・医師法21条を改正し「異常死体の範疇から診療行為に関連する死亡をのぞく、という一文を付す」
・医療と刑事処分の齟齬
【17】30代 医師 p50
第三次試案拝見しました。
一瞬、大分良くなったかと思いましたが、(別紙3)捜査機関との関係についてを読んで絶望的な気分になりました。
結局、医療安全委員会の枠組みの中では、刑法上の業務上過失致死はそのままであり、警察は独自の捜査権を妨げられないということです。東京地検特捜部長・最高検公判部長を歴任し、現在は弁護士のらはっきりと仰っております。
http://ww.m3.com/tools/Iryolshin/080408_2.html
つまり、「医療安全委員会」が迅速に進まない場合には遺族の早く解決をしてくれという提案があれば、警察は捜査に乗りだすのです。現実問題として、このままでは費用・人員が圧倒的に不足していますので、いくら院内事故調などを作らせようとも、「医療安全委員会」がパンクするのは当然です。
そのような警察の捜査が頻発するようなら、調査委員会の権威は地に落ちます。
しかも、行政処分は今より厳しくなるのですから、医療の崩壊が加速度的に進むのは当然です。医師を処罰するのが「医療安全委員会」の設立日的なのでしょうか?
元々の設定として、「真相究明」、「再発防止」、「遺族の慰撫」、「当事者の責任追及」、を1つの組織で行おうということ自体が無理なのです。あくまでも、医療者の刑事的な責任追及が目的だというのなら、議論の余地はありません。遺族の慰撫にはなりますが、WHOに「世界一」と認められた日本の医療は滅びるしかありません。そうなった場合、その責任は厚生労働省にあることを、あらかじめブログなどで宣言しておきます。
もし、「真相究明」、「再発防止」を目的とするのなら、この「医療安全委員会」が刑事訴追の既存ルートを「法的に」制約するものとならなければ、自らの非を正直に供述することはできません。医療安全委員会による「刑事手続き相当」意見無しには、刑事捜査着手および起訴を出来ないと法律に明記してもらいたい。それが「真相究明」、「再発防止」を願うわれわれの願いです。
また、医療安全が目的というのなら、医療安全の専門家が一人も委員会に入っていないのは何故でしょうか?医療安全を掲げるのなら、WHOのガイドラインを尊重すべきではないでしょうか?厚労省は意図的にWHOのガイドラインを隠して議論を進めています。
座長に刑法学者であることからも、医療者の刑事責任を如何に決めるかが最初から主題になっていることは明らかです。医療者に罰を与えれば医療事故が減ると考えるのは、医療安全の流れから見れば、あまりに時代遅れです。
医政局長は、
「国民の皆様におおむね御理解がいただけましたなら組織面等の検討も加えたうえで可能であれば今国会中の法案提出も目指したい。」と仰っていましたが、われわれはもっともっと時間をかけた、更なる議論を要求します。厚労省は警察や検察と議論し、刑事訴訟法を改正すべきです。日本の医療を守りたいのならば、WHOのガイドラインに沿った調査機関を作るべきです。
≪勝手なまとめ≫
・捜査機関の抑制とはなっていない
・「真相究明」、「再発防止」、「遺族の慰撫」、「当事者の責任追及」、を1つの組織で行うのが無理
・行政処分のみ強化されている
・WHOの勧告にもとづいた医療安全調査委員会を作るべき
【18】 50代 医師 p53
第三次試案に強く反対します。
多くの関係者の論議によって、厚労省の試案は修正され、問題点も明確になりつつあります。あと一年、試案で三~四回ほど努力を積み重ね、他省庁との実効的な調整を進める事が出来れば、制度として禍根のないものに近づけるだろうというのが、率直な感想です。
逆に、今、この第三次試案で良しとすれば、折角の関係者の論議の深まりが中断され、拙速な判断で決めたこの制度によって、医療の問題点は放置され、固定化されてしまうことになってしまいます。現実の医療状況は、ますます厳しくなってきています。「医療事故死亡での原因究明・再発防止」に限らず、厚労省が抱える領域には多くの課題が山積しています。医療関連に限っても、地域医療の疲弊、産科救急医療問題、高齢者医療制度、療養ベッドの削減、リハビリ等の診療制限、メタボ検診、医師の技術料抑制、違法な医療労働放置など、いずれの課題も、解決の目途は立っていません。
第三次試案の問題は、こうした医療行政が抱える絡み合った関連課題の一つであって、孤立した課題ではありません。そして、この問題は厚労省単一省庁の努力で解決できるものでもありません。鋲務省、総務省等との十分なすりあわせが必要ですし、何よりも政治決断により医療関連予算の適正な予算確保も前提となるでしょう。医療事故の原因究明・再発防止を目的とした制度が、結果的に、実勢に救命・診療する医師への懲罰制度となるようでは、萎縮医療が加速し、本来、国民が享受すべき医療は崩壊してしまいます。ですから、医療安全調査委員会の制度は、充分な検討を重ねる必要があるのです。第三次試案では、根本的な修正はなく、このままでは患者さんにとって好ましい診療環境には繋がりません.i調査委員会の本来の目的である、原因究明、再発防止を、阻害する重大な問題点を、二次試案に引き続き継承しているからです。全国医師連盟世話役として、医療安全調の拙速な新設には反対いたします。
重大な問題点とは、
【遺族から告訴があった場合には、警察は捜査に着手することになる】と明記されている点(問2の回答2)と、調査委員会と捜査機関との情報交換問題(通知の有無とは何か、通知内容が不明、実質的連動)があげられます。このままでは、医療事故の際、関係者からの証言が得られにくくなり、原因究明、再発防止の目的は果たせません。これらの問題点は、いずれも、安全委員会の判断を起訴要件とし、安全委員会等を訴訟前置強制するなど、特別法で安全委員会の位置づけを規定しないことに由来するものです。
一方、前回の試案から詳細な明示となり改善された部分としては、
1 届け出義務違反は、刑事罰ではなく行政処分(行政命令)
2 地方委員会に対する黙秘権
3 調査終了前の事情聴取機会と委員会の少数意見付記
4 施行準備期間の設置
などが、あります。パブリックコメントを含めた多くの関係者の提言により、こうした改善が見られたことを評価したいと思います。しかし、上記した重大な問題点が解消されていない以上、これらの修正事項は、不十分な修正にとどまりますo
また、新たな問題点として浮かび上がった事項として、
1 問題点の多い機能評価機構を情報提供機関として公式に位置づけたこと、
2 調査チームメンバーを非常勤国家公務員として、該当事務方よりも低待遇にする懸念
3 委員会の最終報告書以外の調査資料の管理や取り扱いが不明
などがあり、いずれも、懸念材料として浮上しています。
厚労省試案で課題とした、医療事故死亡での原因究明・再発防止策の制度的確立は、現在の医療情勢全体を見渡したときに、唯一の優先事項ではありませんが、決定的な意味を持っています.それは、医療崩壊から再生-転換するために必要な、医療供給側の現場の士気に直接関わる問題であるからです。
医療崩壊という、いわば敗戦濃厚な時期に、医療現場で戦う兵士達をいたわることをせず、あたかも補給路を断ち、後方支援のないまま、憲兵制度を作る愚は取るべきではありません。困難な救命や診療にチャレンジし続ける私達医師の診療技術は、10年以上かか:'て、研鎖し文字通り血と汗の試練の中で培われたものです。私達医師の初心や努力をもっと信頼して欲しいと思います。現場の医師達が、誇りを持って医療に携われるようにすることを抜きにして、医療の再生は不可能だと深く思っています。
一、【医療問題の焦点】
医療問題の焦点は、WHOが世界一と評価している日本の優秀な医療が、医療費抑制政策などの放置により、ついに医療崩壊を迎えてしまった現状をどう立て直すべきかという問題に絞られてきています。「医療安全調査委員会制度」は、医療再生に向けた視点を持たなければ、いずれ、破綻するでしょうo医療自体が崩壊したときに、医療事故の原因究明も再発防止も、もはや意味がありません。日本の医療に横たわる構造的問題点を含めて、広く国民的論議を行い、医療問題を医療供給側と医療需要側との両者間の問題に援小化せず、国の問題として政治問題として論議する事が重要です。 医療安全委員会
は、禍根を浅さないよう、じっくりと時間をかけ、単独省庁の枠を超えて、他省庁との十分な調整をし、特別法の制定を追求実現するべきです。
二、【莫大な予算は有効に使うべき】
厚労省は、新設する医療安全調査委員会には、中央の委員会のほかに、地方ブロック単位に委員会を設置し、更に中央、ブロックにそれぞれ調査チームを構成させるとしています。このような組織を維持するには、課長・部長級の公務員を大幅増設する必要性があり莫大な予算を必要とします.今、医療費抑制政策によって、直接患者を救済し、診療する為の費用が削減されています。このような、医療費削減をしながら、原因追及にも再発防止にも繋がらない新組織設立の予算を組むことは、省益を叶えることにはなっても、国民の利益に反するものとなってしまいます。
三、【医療訴訟地獄が加速する】
訴訟不安と過労、赤字診療により、現場の医師達の逃散が進行しています。本来、予見と回避の不可能性が生じる医療には、予見回避義務の過失・責任を問う現行の司法枠組みはなじまないと考えます。医療安全調査委員会でのレトロスペクテイブ(後方研究)な調査報告は、医療事故再発予防に供されるべきものです。これが公費で行われ、本来ブロスペクテイブな責任を問うべき医療裁判に過って導入されることになれば、医療訴訟は続発し、アメリカ型の医療訴訟地獄が到来してしまいます。
厚労省の言う、医療安全調査委員会の新設は、現行診療の限界や問題点を改善する方向ではなく、現場の医療提供者に鞭を打ち、医療訴訟の続発による訴訟地獄社会を生むことになります。総じて、幾つかの修正はあったものの、第三次試案に提示された医療安全委員会は、医師にも患者さんにも納税者にも、配慮を欠いたものとなっていると指摘せざるを得ません。
≪勝手なまとめ≫
・他の省庁との十分なすりあわせを。
・委員会の最終報告書以外の調査資料の管理や取り扱いが不明。
・調査委員会に莫大な予算をかけるくらいなら、医療費などの検討により医療崩壊を食い止めるべき。
【19】 70歳以上 医療機関管理
(8)委員会の設置場所 総務省下が望ましい
(10)解剖の必須性 5年後に見直し いずれは非解剖例に広げてほしい。
(25)遺族が原因究明を求めた場合の非解剖例の取り扱いを明確にされたい。医療機関側が重大な事故との認識がないのに、遺族が訴える場合が少なくないことが想定されるため。
以上で第三次試案に賛成します。
≪勝手なまとめ≫
・委員会の設置場所を総務省下に。
・解剖は必須。非解剖例に広げるのはいずれで。
・非解剖例の取り扱いについて明記必要。
・以上が満たされれば賛成できる。
【20】 30代 医療機関管理 P58
2(40)医療安全調査委員会の報告は原因究明や再発防止のためとうたいながら、結局のところ、遺族が刑事告発した際の訴訟の資料として使われます。そして、それは、被告にとって不利な一面のみを使われることになります。医療安全調査委員会の報告が刑事告発の資料に利用されるのは、医療従事者の良心を逆手に取るようなことであると思います。遺族告発による刑事事件として取り扱われるならば、事故調査には協力せず、医療を良くするための学会発表をやめ、事実を隠蔽する方向への流れは更に加速されるでありましょう。
結局のところ、調査委員会の報告は、刑事告発のため情報収集としての制度になります。現実に、刑事告発は遺族の心情を救済する手段としての色彩が濃くなってきています。遺族の心情に答えるような形での刑事告発この調査委員会が入った場合には、調査委員会の告発以外の刑事訴訟は起こされるべきでないと考えます。
2 (43).悪質なものと判断されたものを調査委員会が刑事事件として告発するような記載がありますが、依然「悪質」の定義が不明瞭です。調査委員会は遺族代表のような立場の人もいます。この立場から見れば本音としたら、「死」に至った過失は全て「悪質」と考えたいでしょう。試案のなかで「このようなことが想定されている」とあっても、さらにはっきりと基準を決めなければ混乱するのは必至です。ただし、遺族からの要請による再調査や委員の変更等は行われて良いと思います。
3 以下は試案に対するコメントではありません。
(試案に対するコメントに対する反論)
法曹界の代表と想定できる河上和雄氏のコメントに対する反論として
- 最も医師が懸念しているのは、医療安全調査委員会と刑事手続の関係ですが、この点について問題があると。
こうした仕組みを作るためには、刑事訴訟法の改正が必要ですが、第三次試案では触れることができなかったのでしょう。刑事訴訟法上では、警察や検察が捜査権を持つと定めています。第三次試案では、調査委員会の通知がないと捜査ができないような書き方をしていますが、これは法律を無視するものであり、到底受け入れられないでしょう。
謙抑的に対応するのは当たり前の話です。また、警察・検察が捜査を進めるにしても、調査委員会の意見を尊重することは考えられます。ただそれは、どれほど信頼できる組織を作るかにかかっています。これまでは医師同士のかばい合いなども見られたわけです。本当に信頼できる権威のある組織を早急に作ることができれば、いずれは厚労省が考えたように、警察・検察がその調査結果を尊重する時期が来るかもしれません。さもなければ、全然相手にしないことになります。
この意見に対する反論
警察の独断と偏見に満ちた捜査と刑事告訴によって、医療現場が混乱し医療ができなくなっている実態を、この論者はまったく無視している。「謙抑的に行動するのは当たり前の話です。」と述べているが、この「当たり前」のことができないがために混乱を生じた。そしてこの論者のように実態を知らない人間が「今までの法律の原則からは」という見解でもって論議をすすめてきたから混乱が生じるようになった。過去に作られた法律が現状に合致せずに問題となっているケースがあることをこの論者は知らないのであろうか?現状に合うように法律を改正するべきだ。
- 調査委員会の調査結果が信頼できる意見であるかどうかは、実績の積み重ねで判断するのでしょうか。
そうだと思います。ただし、それまでの間に、医師や医療者が何らかの問題を起こすと、捜査機関はそれを放置していいのかということになります。結局、捜査機関は独自に動くわけです。
さらに第三次試案では、遺族が告訴した場合にも、「警察は、調査委員会の専門的な判断を尊重し、調査結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる」としていますが、「考えられる」だけであって、「考えられない」場合もあるわけです。
要するに前述のように、厚労省は警察や検察と議論はしたのでしょうが、それが第三次試案に全然入ってきていないのです。
この第三次試案は、医師の故意や過失に基づいて、患者の死亡もしくはそれに近い医療事故が起きた場合に、厚労省は「今後の医学の発展のために」という大義名分を掲げて死因の調査を行うというものです。しかし、故意などを犯した医師について、その責任を追及する姿勢が全然ありません。「俺たちに任せろ、われわれの調査結果を見て、俺たちが言ったことだけを捜査しろ」という書き方をしていますが、前述の通り、刑事訴訟法を改正しない限り、それはあり得ません。
この意見に対する反論
警察が強権を発効して威嚇しようとしている姿勢が、この論者の意見から読み取れる。また、正確な分析に基づいて論議をした結果の調査委員会の結論を軽視する発言である。まさにこれは、正確な情報と正確に医学知識、そして冷静な判断に基づいて結論を出すというプロセスを無視した警察の倣慢な態度である。
- 第三次試案では冒頭に「調査委員会は、責任追及を目的としたものではない」と掲げています。
それは当然の話です。厚労省には、責任追及、つまり刑事罰や民事罰を課す権限がないからです。法体系を変えない限り、あり得ないことを、あり得るように書いているのは、非常にミスリードさせるものではないでしょうか。行政処分にしても、「現在、医師法等に基づく処分の大部分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されているが、委員会の調査による速やかな原因究明により、医療事故については、医療の安全の向上を目的とし、刑事処分の有無や量刑にかかわらず、医療機関に対する医療安全に関する改善命令等が必要に応じて行われることとなる。行政処分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されているが」とあります(別紙3)。
厚労省は行政処分の独自の権限があるにもかかわらず、今まで実施してこなかったこと自体をまず問題視すべきです。調査委員会を作ったからといって、厚労省が新たにできるようになるのでしょうか。
これに対する反論
だから、このような委員会を立ち上げようとしているのである。
- 刑事処分はどう適用すべきだとお考えですか。
医師や医療関係者から刑事罰から解放して、医学の発展のために医療事故の原因究明などを行う。そういう考え方を進めていくと、医師や医療関係者が何をしようと、犯罪にはならないことになります。しかし、それでは世論の支持は受けられません。特に医療過誤で家族を亡くした遺族にとっては納得できないわけで、あり得ないことです。
厚労省が医学的な観点から調査などを行い、医療事故を客観的に評価して、医療の透明性を確保する、それは結構なことです.しかし、刑事責任や民事責任を追及するのは別の話で、厚労省の仕事ではありません。
これに対する反論
この論者は何を試案から読み取っているのであろうか?「医師や医療関係者が何をしようと犯罪にはならない」という極論にどうしていたるのか、理解に苦しむ。
- それでは先生は第三次試案をどう見ているのでしょうか。
厚労省が医師の立場に立つことは必要でしょう。それはいいのですが、医師の立場に立ち、刑事罰や民事罰から医師をできるだけ遠ざける、調査委員会が一手に引き受けるという形で厚労省の権限を強化する方向性を出したのが第三次試案だと思っています。それも法律を無視して、厚労省の力が及ばない警察・検察に対して、調査委員会の言うことを聞かなければならいないとしています。
第三次試案の「おわりに」の部分に、「本制度の確実かつ円滑な実施には、医療関係者の主体的かつ積極的な関与が不可欠となる」とあります。この試案は、関係省庁の権限を奪う内容なのですから、「厚生労働省の広い視野からの検討と、関係省庁との十分な連絡が必要」と書くべきです。けれども、こうした観点が欠如しています。
この意見に対する意見
指摘の通り、法律そのものを見直す、あるいは権限の見直しは必要である。法律や権限の見直しには、法曹界や関係各省の反発は多いかと思う。しかし、現実に警察の介入によって、医療が崩壊しつつある事実に目を背けて欲しくない。
また、全体として、警察の権限を維持拡大することに固執した論調である。この論調こそ、警察の横暴ぶりを増大させる。取調べの実態は、桐喝と脅迫である(踏み絵を含む)ことはさまざまな報道で周知しているものと思う。また、警察内部での抑制の効かない組織体制は、医療機関とは比較にならないほど遅れている。警察の捜査事態が告発されることはないからである。医療は失敗を分析し新たな方法を模索し、それを学会等で公にする。警察は自らの失敗を隠蔽する。その警察に何ができるのか?
≪勝手なまとめ≫
・調査委員会の報告は、刑事告発のため情報収集制度
・「悪質」の定義が不明瞭
・刑法の改正を
・警察は医学知識による冷静な判断を信用していない
・刑法の改正を
【21】40代 医師 P64
医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明.再発防止等の在り方に関する試案一第三次試案-」を拝見しました。
(以下の文章中のカッコ内の数字は試案中の段落番号に該当します)
第二次試案よりも,厚生労働省が設置を目指している医療安全調査委員会の目的が「責任追及」ではなく、死亡原因の究明や再発防止、医療安全が主眼であることが明記されていること(7).医療死亡事故の届け出範囲が限定的になったこと(20).医師法21条との関係が整理され,委員会に届け出を行った場合警察への届け出は不要とした点(19)は評価できます。
しかし.故意でなく患者の状態に起因する合併症で死亡した場合でも遺族の訴えがある.もしくは警察が必要と認めた場合は警察が捜査を行うことができることになっています(25)。
別紙3には「謙抑的」と書かれていますが,謙抑的では不十分です。この点がわれわれ臨床医の一番懸念しているところです。実際,4月4日の衆院厚生労働委員会では民主党の岡本充功議員の質問に対して,警察庁米田壮刑事局長が遺族の求めがあれば警察は捜査に乗り出すと明言しています。これでは別紙3に記載された捜査楼関との関係についての問答集がまったく意味をなしません。
医療死亡事故においては,必ず委員会の調査を前提として.その結果故意や悪質な過失があった場合のみに警察の棲査がおこなわれるような仕組みが必要です。また故意の事件に関しては当然刑事事件の対象なので,調査結果を警察に提出するのはかまいません。しかしシステムエラーに起因する事故の調査結果を警察に提出する可能性があれば.当事者が自らに不利となる発言をするとは思われません。凶悪犯罪の被疑者にさえ黙秘権はあります。委員会での調査結果はそこで完結すべきで.警察捜査に流用してはいけません。
そうでなければ再発防止という大きな目的は永久にかなえられないことになります。また民事訴訟の証拠とすることも禁止すべきです(44)。
またもうー点重要な点として.調査委員会に遺族側の代表を入れることに反対します(13)。委員会では医学的見地からの専門的検討が行われるべきであり,遺族側の代表にはその能力がないことが理由です。遺族側の代表が入るべきなのは,委員会での調査結果を踏まえたADRの場であり,無過失保障などについてもADRで十分検討すべきでしょう(45)。ただし,そこで補償がなされた場合,民事訴訟は免責とするべきと思われます。
以上の点を改善したさらなる試案の作成が絶対に必要であり.この不完全な第三次試案を運用するような拙速な行為をすべきでありません。世界に誇るべき日本の医療制度が,厚生労働省の手により崩壊したと後世の歴史家から指摘されないよう.慎重に現場の意見を汲んだ制度作りをお願いしたいと思います。
≪勝手なまとめ≫
・捜査機関の抑制ができていない
・調査結果の刑事・民事への提供は不適切
・遺族側の代表を入れることに反対
・拙速な法案化に反対
【22】不詳 P66 (秀逸です!!!!)
医療事故(安全)調査委員会第3次試案に反対する。
実態から診療関連死亡調査委員会にしたらいい。
しかしどう読み込んでも断罪を志向しているとしか読み取れない。医療事故(安全)調査委員会設立は医療法21条異状死の拡大解釈と、日本法医学界の「異状死ガイドライン」(平成6年)、死亡診断書マニュアルなどなどに加えて、さらに萎縮医療を促進する因子にしかならないと思える。
医療を行なう時間と空間を共有する医療者のうちの誰かが不適切な行為処罰に値する行為と判断したとき、その告訴をもって刑事捜査着手の端緒とすればよい。および親告罪とするのがよい。病との闘いはダイナミックに展開している。限られた時間、スタッフ、設備の中で判断決定遂行されている。その時空間とは異次元にいながら、しかもレトロスペクテイブにその時空間にいた者を断罪するなど許される行為ではない。その時空間にいた者の反額、・検討、反省のみが次なる安全の手がかりになる。悪意の無い医療によって犠牲となった者は社会全体で支えなくてはいけない。
人の智恵はたいしたものではなく、医学は未完成であり、医療資源には限りがあり、医療制度もまた完全ではない。医療の現場、最も患者・病に近いところにいる医療人個人を処罰することで何も改善はしない。
医師法21条の異状死から診療に関連する死亡が除外され、警察・捜査機関-の戟告が除外されたとして、遺族から警察・捜査機関-の告訴が従来通りであるのなら、医療人を断罪するルートが増加したにすぎない。診療に関連する死亡を親告罪として、医療事故(安全)調査委員会の「刑事訴追妥当」の意見を捜査機関介入の必須条件とするような仕組みのほうが明瞭であると思う。訴求手続きは医療事改(安全)調査委員会に対して行なえばよい。ただし医療そのものが侵害行為であることから、刑事免責なしなら医療は成立しない。民事の争いも医療事故(安全)調査委員会の調査を必須とすればよい。刑法や医師法などの周辺整備が無いまま医療事故(安全)調査委員会設立には反対である。
炙り出すべきは悪意の介在する「医療」であり、悪しき結果となった善意の医療ではない。調査することに医療資源を投入し、病と直接的に対峠する者は細るばかりで医療は崩壊必然と感じている。
≪勝手なまとめ≫
・とても医療安全を志した機関とは思えない
・診療に関連する死亡を親告罪とすべき
・悪意の無い医療によって犠牲となった者は社会全体で支えるべき
【23】 40代 その他医療従事 P67
離島の医師確保を担当する立場からご意見申し上げます。離島に働く医師にとって、医療事故は極めて大きな問題です。私自身離島で働いてきましたが、医療安全に責任者として係わったこともあり、ずっとこの間題を肌で感じてきました。離島の住民は離島で働く医師を根拠なく能力の低い医師と認識しがちです.現実には優秀な先生方がたくさんいらっしゃいますが、住民の理解はそういうものです。そこで医療事故が起これば過誤のあるなしにかかわらず、能力の低さゆえ起こったものだとされてしまいます。それでも医療が成立しているのは医師が離島にいてくれることと日頃の診療への感謝の気持ちと、自分達が離島で暮らしていることから来る「仕方がない」という受け入れの気持ちがあるからです。離島の医師はそのことを十分に認識した上で島に生き、よりよい医療を目指しています。
しかしひとたび医療訴訟が起これば話は変わります。住民に訴えられた瞬間に医師の住民に尽くそうという気持ちは萎えて島を去ってしまうことになり、医師を訴えた島には二度と医師は寄りつきません。また一人でも刑事立件されればその影響は他の島にまで波及し、医療過誤の恐怖が支配した結果、無医地区が多発することと思います。
事故調査委員会を作ること自体には賛成しますが、提示された第三次試案では地域医療を破壊しかねない重大な問題をはらんでおり、賛成致しかねます。
第三次試案に従って医療安全調査委員会が設置された後、医療事故の処理はどう変わ
るのでしょう?例えばよくニュースに流れる、軽量栄養カテーテルを胃でなく気管に誤挿入し、肺に栄養剤を流し込んでしまう事故は、明らかに医療過誤ではありますが、滅多にないと
いうよりしばしばみられる事故にあたり、それゆえに手技に伴う想定可能な合併症でもあります。
同様に中心静脈栄養のためのカテーテル留置についても、動脈穿刺で大量出血を起こしたり、肺を突き刺して気胸を作ったリ、胸腔内に留置して栄養剤を入れ呼吸困難を引き起こしたりして死亡につながってしまった事故を耳にします。これも明らかな医療過誤ですが、やはり手技を行なう前から想定可能な合併症でもあります。
もちろんこれらの事故が起こりうることを医療従事者は知っており、十分に注意して事故が起こらないように確認しながら行なっていますが、それでもこれらの事故は後を経ちません。ヒトの個体差が大きいためです。医療に安全・確実というものはありません。あるのはより安全でより確実な医療までなのです。
これらのような最初から想定され、かつ十分な注意の上で行なわれていながらもしばしば起こる事故は、言い方を変えれば「医療行為に伴う合併症」ともいえます。むしろ医療従事者はそのような認識をし、その上でより安全でより確実な医療を追求しています。
私自身は過去に上記のような事故を起こしたことはありませんが、今後も起こさないという自信は全くありません。運がよかっただけでしょう。このように医療従事者は成功する確率は高いけれど、最初から100%成功すると思っていませんから、たまたまうまくいかなかった事例と認識しますが、遺族は医療過誤と認識します。
遺族は謝れと言うでしょうが、患者に必要な常識的手技を常識的に行なって、結果がうまく行かなかったからといって残念ですとは言えても、ごめんなさいとはなかなか言えません。
現在、医療行為に伴う合併症は医療過誤として取り扱われ、警察が動けば業務上過失致死に問われますし、民事では高額賠償が待っています。いずれかが裁判で認められれば厚生労働省から行政処分をも受けます。
医療安全委員会が設置された結果、これがどのように変わるのでしよう。第三次試案では委員会が医療過誤であると判定することはほぼ間違いありません。委員会から警察・検察関与はおそらく通報されないことでしょうが、遺族が告訴すれば捜査に入ることが確実であり、感情的になった家族が告訴に打って出ることは十分に考えられます。また民事裁判を有利に進めるために刑事告訴を起こしているかのような事例もみられています。
このようにいくら委員会が警察に通報しないといっても、遺族の告訴で警察は動きます。医療行為を原因とする死亡は明らかで資料もそろっていますから、おそらく裁判所も業務上過失致死を認め有罪はほぼ確定的です。
患者のために行なっているとか一定の確率で起こるということは一切考慮されません。合併症とは認識されないでしょう。裁判所の判断は根拠となる法律が変わらない限り、今後も変わらないものと思われます。
では民事はどうでしょうか。
これまでは事故の説明は基本的に口頭で行なわれ、必ずしも文書は渡されてきませんでした。ところが委員会の設置によって(これらの事例では当然に報告義務を生じますので委員会が調査します)遺族に調査報告書が交付されます。もちろん納得できる遺族もいるでしょうが、手元に資料を置くことによって民事訴訟に訴え出る家族が必ず増えると思います。すなわち訴訟が乱発する可能性が高いと思われます。
まあ行政処分だけは軽減されるかも知れません。
以上極論でも何でもありません。普通に予想されることだと思います。
これで医療従事者に安心であると賛同を得るのは難しいのではないでしょうか?
(1)
原文を.・・切なる願いである。国と医療関係者には、その願いに応えるよう・・と是非修正を御願いします。医療事故の責任があたかも医療関係者のみにあるとするのは看過できません。もちろん過去の医療側の隠蔽体質と説明不足が医療不信の一国となったことを否定する気はありませんが、現在では情報公開、インフォームドコンセントの徹底、接遇改善など業務の増大で限界を超える程の良質の医療を国民に提供しようと努力が続けられています。しかしその一方で国による医療費抑制、過重労働の放置、国民への医療の実態の周知不足、国民に対する死生観教育、暖昧な法整備で医療訴訟を頻発させてはいないでしょうか?
患者に対する気持ちと使命感で働く医療従事者によって、過重労働であろうとも何とか支えられてきた医療が、労働環境に対する無策と患者からの過剰な要求で心折れようとしています。
国は決して第三者ではありません。むしろ今後は医療事故を減らすために国による医療政策の改善努力も不可欠です。適切な医療費を確保して医療従事者を増やし、国民に医療を守るという意思統一を促し、死生観を学ばせ、法改正で事故を減らすという努力をすることが必要です。
「国と」という一言を入れることと入れないことには大きな違いがあります。
(7)
「委員会は、医療関係者の責任追及を目的としたものではない。」とありますが、結果として刑事訴追されないことが制度上全く保証されていません。むしろ文を続けるならば、「委員会自体は刑事責任追及を目的としないが、結果的に警察や検察が刑事責任を追及することに情報提供という形で協力できる。」と読めます。現に別紙3では裁判所の令状さえあればすべての資料を警察に提供することができることが明記されています。警察は当然令状を取るでしょう。
警察や検察は謙抑的に対応する「だろう」という話はありますが、法的担保は一切ないため裁量次第でいつでも訴追が可能ですし、委員会の判断を無視することもできます。
警察・検察・法務省は第三次試案に何の問題点も指摘しませんがーこれは法務省が管轄する部分には一切手を触れられておらず、法務省にとっては「謙抑的に対応してね」という法的根拠のない御願いを受ける代わりに、厚生労働省が医療従事者を訴追しやすいように法務省に協力してくれるというのが第三次試案の本質だからです。
ただし私は再発防止のために医療棟関や悪質な医療従事者に対しての行政処分の根拠になることや、民事訴訟に情報提供することは否定しません。
(8)
委員会の設置場所は厚生労働省内にあるべきではありません。中央委員会の提言が厚生労働省に向けられることも十分に考えられ、厚生労働省内に存在すれば、なされるべき提言に抑制がかかる可能性があります。総務省か内閣直轄の機関である方が、思い切った有効な対策を打ち出せます。
(9)
今医療訴訟は全国至る所で頻発しており、医療安全委員会を国民が知ることで、これまでに比べ遥かに多くの事例が検討されることになることは容易に想像され、地方ブロック単位での地方委員会設置程度では、制度導入直後は膨大な件数の処理が予想されます。将来状態が落ち着いて統合することになるにせよ、最初は慣れない業務に従事する人材を確保することを考えれば処理する案件は少ない方がよく、導入当初は各都道府県単位での設置が望ましいと思われます。
(10)・(13)
メンバーには調査チームにも地方委員会にも事故防止の専門家が入ることが必要であり、その視点で事故を調査しなければ再発防止に必要な情報収集は不可能です。真相究明に必要な情報と再発防止に必要な情報は違うことを認識すべきです。
また臨床医については現実に患者を診療し、事故防止の現場にいる勤務医が入るべきで、経営を業務の中心にしている病院長や研究を活動の中心としている教授だけで構成されてはいけません。現場を知らない委員で固めては、理想論に終始する可能性が高いからです。現実の医療を見据えた分析が必要です。具体的には一定数以上の外来患者と入院患者を診療している医師とすべきで、試案にはでていませんが、その臨床医が調査チームとして活動するにあたっては、その間の代替診療をサポートする措置が必要と思われます。
(12)
中央に設置する委員会は、医療の安全の確保のための施策等に関して関係行政機関等への勧告、建議等を行うこととされていますが、これは早急に必要でかつ重大な提案を行なうことになると思われるため、提言を省庁が無視できないように権限をしっかり明記することが必要になると思います。
(15)
中央委員会事務局については天下りが取りざたされている中、公益法人であってはいけません。国家公務員が通常業務としてあたるべきです。地方委員会調査チームについては都道府県職員を通常業務としてあたらせてもいいと思いますが、運営費は国単独の補助金で対応すべきです。
(17)(22) (23) (25)
届け出義務の範囲については、医療が患者満足のために行なわれること、もともとの異常死届け出の意義が犯罪の存在可能性について警察に告知することにあること、かつこの試案が医療過失事故を刑事事件として取り扱わないことを目指していることを前提に設定を考えるべきです。
医療に関連する死亡は警察に届け出て刑事事件として取り扱う必要がある案件と、それ以外で委員会に届け出て事故の真相究明や再発防止策をとるべき案件に大きく分けられます。
まず刑事事件として取り扱う範囲を医師法第21条における異常死のうち、医療に関連する異常死を故意の介在する死亡を否定できない死亡と定義し、明文化します。これについては旧来通り医師法第21条に基づく警察への告知を行なうことを義務づけますが、医療機関における届け出責任者は医療機関の長とします。医療法に場所を移した方がよいかも知れません。多少以前より届け出範囲が広がりますが、制度を維持するための保険として必要と思われます。これを除外すれば、近年起きた看護師による筋弛緩薬注入による殺人事件のような病院内で起こる事故に見せかけた殺人を警察が認知できなくなり、制度導入後にもし一件でもこの様な事例が発生すればその時点でこの制度に警察・検察の同意が得られなくなり、制度破綻する可能性があります。
ただし警察が介入して故意が介在しないと判断された時点で、警察には捜査を終了してもらいます。重大な過失については故意による事案とは完全に区別して捜査の対象外とし、むしろ医師法第21条における届け出義務の範囲から外れるものとします。これは重大な過失の多くはシステムエラーによるものであり、個人を対象とした刑法になじまないからです。そのような事案こそまさに事故調査委員会が調査すべき事案です。
遺族が警察へ告発するチャンスを奪うことは、逆に医療への不信から訴訟の頻発につながる可能性もあります。憲法上も請願権としての告発権を剥奪することはできず、今後も告発が行なわれることは想定されます。しかしこの場合も捜査自体は認容しますが、故意の存在の検証が警察の役割であり、それが否定された時点で警察には捜査を終了してもらいます。
委員会の調査によって後日故意の介在が明らかになった場合にのみ委員会は警察に届け出ることとしますが、故意に事件を隠蔽したわけでない限り、届け出責任者に届け出義務違反の責任は聞えないものとします。
委員会への届け出については、医療過誤による死亡であると医療機関が判断した場合と家族が報告を要請した場合に医療機関が事故発生を委員会に報告することを義務づけます。合併症は届け出対象になりませんが、遺族は合併症なのか過誤なのか判断できませんから医療機関で対象外と判断される事例であっても遺族から報告を要請された場合には報告を義務づけます。
遺族が医療機関に報告を要請しづらい場合、あるいは後日疑いをもった場合も考え、遺族が後日直接委員会に報告できることにしますが、この場合も医療機関が報告の必要なしと判断していた場合には報告義務違反に問われないこととします。
(18)
届け出先は大臣になっていますが、調査チームが現場に入るのは解剖の必要性の判断も考えれば報告からできるだけ早い時期がよく、24時間体制での対応が望まれ、窓口としては地方委員会の方が適しています。遺族からの報告も受け付ける以上、電話で地方委員会に報告することができるようにし、地方委員会は事案の概略を聴取後、調査チーム派遣と同時に所轄大臣宛として中央委員会に事案の概略を届け出ます。すなわち報告義務は医療機関、届け出元は地方委員会ということになります。
(19)
医療における異常死の定義を故意の介在する死亡を否定できない死亡と明文化すれば、自ずと医療事故での医師法21条における届け出義務はなくなります。
(20)
図表におけるアルゴリズムは非常に暖味です。しかも現実の症例はほとんどが① (結果が重大な医療事故)か(ほとんどの院内死亡)に分類されるため全く振り分けになっていません。(17)で述べたような擾昧さを排除し、振り分けの目的を明確にしたアルゴリズムの方が望ましいものと思います。
別紙にフローチャートを添付しました.
(21)
報告義務が医療機関の長であることはいいとして、医療機関で死体を検案したということは医療事故による死亡であることが明らかな場合であり、必要に応じて速やかな解剖が必要なことがあります。院内で検討するよりも先に調査チームでの検討が必要な事例と考えます。
(22)
医療事故については紛争になるものとならないものがあります。医療過誤による死亡が明らかな場合は賠償の問題だけであり、むしろ紛争にならないものと思われます。ではどういう場合が問題となりうるかといえば、医療過誤は間違いなくあるが、病状の悪化があり事故がなくても死亡したであろうことが医学的合理性を持って説明できる場合などで、事故と死亡の関連が不明確な場合が特に問題となります。家族が病状の悪化や合併症として納得すれば紛争になりませんし、納得しなければ紛争になります。この様な場合、義務として委員会に報告することが紛争を誘発する危険がありますので、医療機関が遺族に届け出の是非を打診し、拒否された場合はヒヤリリヽツトの事故として取り扱い、死亡診断書を発行できる方法も残されるべきではないでしょうか。もちろん後日家族が届け出を求めるようなことがあったらその時点で届け出義務を負うこととします。
(24)
届け出の手順や調査の手順については届け出元が地方委員会であれば解決します。
(26)
国が制度を国民に広く周知するのはよいとして、そこに無駄に費用をつぎ込むべきではありません。安価で有効な手段であるべきです。
(27)
解剖が行える事例を前提としているようですが、離島へき地を想定しているのでしょうか?そのようなところでは解剖できる施設はありません。解剖を前提にすれば遺体の搬送に相当な費用負担が生じるものと思われます。
なお現在死亡時画像診断の費用は遺族負担です。これをAi導入で考えると費用負担が莫大となり、遺族が非協力的になると思われます。制度が円滑に運営できなくなる可能性があります。
④地方委員会は調査チームの調査報告書案を審議とありますが、何を審議するのでしょうか?調査自体が相当な労力と期間を要するものであり、調査チームは情報収集に特化させ、地方委員会は報告書作成に特化させた方が合理的であると考えます。地方委員会で情報不足が指摘されれば、調査チームに指示しさらに情報収集させればよいのではないでしょうか。
地方委員会の役割として公表が挙げられていますが、再発防止策、全国からの情報収集、命令系統を考えて公表は中央委員会がすべきことと考えます。医療機関や遺族への調査報告書交付は地方委員会の業務でよいと思います。
⑤の調査権限は絶対に必要ですが、問題はその後の文章です。別紙3問4の答1で捜査機関が調査報告書を使用できさらに答2では裁判所の令状があれば資料を提出するとあります。警察は資料が欲しければ令状を請求することでしょう。
とすれば誰が正直にしゃべるでしょうか?
ここで振り返って(7)についてのコメントをご覧下さい。この第三次試案の最大の問題点がはっきりします。
本来真相究明、再発防止のためには本人を罰しない代わりに真実を語らせ、問題点を明らかにすることが最も大切です。原因がわからなければ適切な対策など立てられるわけがありません。これはリスクマネージメントを少しでもかじったものであれば常論です。
世界的にも先進国ではこの考え方に基づき、刑事処罰より真相究明・再発防止を優先しています。ところがこの試案では処罰することを優先して、真実を語らせることを捨てたのです。すなわち再発防止を目的としないことは明らかです。法務省・警察・検察との交渉で、一見妥協を引き出したように見せかけていますが、よく見ると権限には一切手を触れていません。法を根拠に動く人を、法を変えずに動かすことなどできません。にもかかわらず厚生労働省は最も大切な再発防止という根幹部分を捨てて、形だけ仕事をしたかのように第三次試案を作ったというのが真相ではないでしょうか?
しかも警察や検察の裁量だけでなく、検察審査会法改正でさらに危険な制度になることが予想されています。
医療を守るべき厚生労働省による極めて校滑な医療に対する背信行為に思えます。
⑥はまず最初にすべきことではないでしょうか?接遇の基本と考えます。さらに最後に意見聴取をすることは賛成です。
(29)
疾病自体の経過としての死亡であることが明らかになり、調査を継続しないというのであれば、結論は出ていてそれ以上の調査もないのですから、そのことについての遺族への説明は感情的対立を防ぐためにも当事者である医療機関に任せるのではなく、第三者にあたる地方委員会が行なうべきと考えます。
(32) (35)
院内事故調査については、現場の医療を基準に行なわれるものと思います。今やほとんどの医療機関は事故防止に努めており、情報を家族に伝えるようになっています。事故が起これば院内で反省点を洗い出し、再発防止策まで立てられることでしょう。しかし委員会報告と結論が異なることもあります。報告書交付より先に院内調査に基づく遺族への報告は非常に困難です。地方委員会の報告後にさらに院内調査を進め、家族への医療機関からの最終報告は調査報告書の交付後になると思います。
Lたがって(35)特に②は委員会設置後には実現困難です。
(39)(40)
ここまでにも所々で述べてきましたが、おそらく前回パブリックコメントで意見の最も集中したこの部分についてはほとんど改善がみられておりません。この試案があくまでも警察と検察の謙抑性頼みに曖昧さを残したことで、運用によっては医療を決定的に破壊するものであるだろう事が予想されます。最近検察審査会について法改正がありました。これによれば検察審査会が二度不起訴不当と議決すれば検察あるいは弁護士が検察官として起訴が行なわれることになります。検察審査会は医療問題を知らない一般国民であり、極めて世論に迎合Lやすいものと思われます。そこで世論を事実上リードする報道が公正であれば問題ありませんが、商業誌である以上、その傾向として報道機関がやはり一般市民よりになることは避けられず、また医療問題は裁判の場ですら鑑定人となる専門家が全く逆の鑑定をするなど判断が難しい極めて専門的な分野ですから、報道機関に正しい判断を期待するのも無理があります。医療事故が起これば医療機関に落ち度がある、あるいは落ち度があるかのように感じさせる報道がなされるでしょう。検察審査会委員にいろいろな手段による圧力が加わることを防ぐ制度もありません。この様な環境下においてはいくらこの試案で刑事処分を減らすと罷っても、これは希望的観測にすぎず、実際には刑事処分が≠頻発してしまうということになりかねません。刑事事件として取り上げないようにするというのがこの試案の趣旨であれば、なぜ最初から刑事免責としないのか極めて疑問です。従って絶対に賛同できません。
(40)の(Dは医療事故そのものとは別次元の問題で改ざんは公文書あるいは私文書偽造という犯罪です。隠蔽は証拠隠滅罪です。これは過失による医療事故ではなく、故意罪ですから刑事処分相当です。これを根拠に試案に反対する医療従事者は皆無と思います。
(40)のは行政処分で処罰が可能で、医療現場から排除することも可能です。しかし医療事故を繰り返すという犯罪はありません。事故調査委員会が成立した後を考えて、さらに刑事処分を考える必要性があるでしょうか?行政処分で医療現場への従事を禁じるなど事故が起こせないような勤務をさせれば医師免許所持者という人的資源として活用できるのに、刑事処分の適用で免許剥奪されれば被害者救済すらできなくなることになります。いろいろな考え方はあるでしょうからこれについては再考を求めます。
最悪なのは(40)の③ を挙げたことで、あまりにひどい暴挙であると思います。
自民の大村秀幸議員は関連する自民党の検討会の議長ですが、その議長が腎臓の取違えは重大な過失と言ってのけています。医療従事者にとってみれば左右取り違えはミスが重なれば容易に起きうるものであることを認識しており、医療従事者にとってはシステムエラーによって起こる事故と認識はされています。大野病院事件では医師のほとんどが医療ミスすらない事例と判断しているにもかかわらず、つい最近の、医療への業務上過失致死は謙抑的に運用しているはずの検察の論告求刑では悪質で、重大な過失とされました。これが法を曖昧にしたために起きた悲劇でなくて何でしょう?検察官の裁量で起訴不起訴が決まるような制度ではいけません。
法改正を真剣に考えるべきと思います。
刑法の存在意義は犯罪の抑制です。原則として処罰を与えるものでなく、刑罰はあくまでも更正を期待するものですoLかしこれが機能するのは犯罪が故意に行なわれるものだけであり、過失はいくら刑罰を与えてもなくなるものではありません。医療事故と同列に語れるものではありませんが一例として交通事故を挙げれば、ドライバーは事故を起こさない様気をつけていながら事故を起こしているのです。業務上過失致死でこれまで相当のドライバーが交通刑務所に送られましたが、交通事故はなかなか減少しませんでした。安全運転義務違反という真相究明を無視した何のために存在するのか不明な違反名によって、業務上過失致死という過失罪をかぶせ、事故を詳細分析することをせず、安易に事故の責任を個人に追及し続けてきた結果がこれです。
事故の再発防止のために交通ルールや標識の設置の適切さなど、システムエラーが検討されてきたでしょうか?一方で飲酒運転厳罰化後は事故が減少しました。これは飲酒運転が故意に行なわれていたからです。つまり事故対策と結果が関連していたからに他なりません。特に福岡の飲酒運転事故の報道と厳罰化が飲酒運転という故意犯罪を抑制したものです。
医療も同様で、過失事故に刑法を適用すること自体に大問題があります。業務上過失致死の適用によっていくら医師を刑務所に送り込んだところで事故防止につながることはありません。それよりも再発防止のために詳細に原因究明を行なうことこそ次の医療事故を防ぐことにつながります。そのためには刑法の適用は阻害要因とはなっても有効な再発防止策を産み出すことにはつながりません。
法律の改正が大変であることは理解できますが、すでに萎縮医療は行なわれており、もう待ったなしの緊急事態に医療は追い込まれています。悠長に機が熟すのを待つ段階ではありません。早急に対応することが必要です。医療に刑事罰を適用しないことを明文化して頂きたく思います。
重大な過失の判断は医学的な判断で、法的評価を行なうものではないとしていることも問題です。すなわち遺族の訴えで警察が介入すれば、委員会で重大な過失ではないとされても法的に重大な過失として処理される可能性があることを示します。医学的判断が尊重されると曖昧な表現がされていますが、これは検察で納得できなかったら刑事責任を追及されうるということです。
別紙3の間1においても答2で「行なわれることになれば」と仮定の話になっており、保証されたものではありません。特に警察は証拠保全を考えますので、早期に介入してくることも考えられます。間2の答2でも「委員会の専門的な判断を尊重し」とありますが、告訴がなされている場面で、証拠保全を警察が考えた時、時間のかかる委員会報告を警察は待てるでしょうか?
以上のように私は過失事故に対する刑事免責の明文化を求めます。
≪勝手なまとめ≫
・刑法と医療の齟齬
・合併症の取り扱いについての危惧
・離島・僻地での実際的な運用について
・国の医療政策にも医療事故への責任はある
・刑事事件への資料提出には反対
・謙抑的が不明瞭
・厚労省から独立した機関とすべき
・ブロック毎では裁ききれないだろうと予想されるため、都道府県ごととすべき
・調査委員には臨床医を。その臨床医に対し代替医師の派遣を。
・委員会の権限を明記すること
・国家公務員が通常業務としてあたるべき(天下りではなく)
・捜査自体は認容しますが、故意の存在の検証が警察の役割であり、それが否定された時点で警察には捜査を終了とする。
・委員会は24時間体制で
・医療における異常死の定義を故意の介在する死亡を否定できない死亡と明文化すれば、自ずと医療事故での医師法21条における届け出義務はなくなる
・無駄な費用をつぎ込むべきではない
・刑事機関の対応は現状どおりである
・カルテ改ざん等は医療事故とは関係のない次元の犯罪であるので、試案には関係ない
・現状の検察官の裁量で起訴不起訴が決まるような制度ではダメ
・リピーター医師の定義は意味なし
・刑法の改正を
・刑罰は事故を減らさない(故意を除く)
・過失事故に対する刑事免責の明文化
【24】 50代 医師 小松秀樹先生
「第三次試案」に対する意見(前半) by 小松先生
「第三次試案」に対する意見(後半) by 小松先生
≪勝手なまとめ≫
そんな。。。わたしなどに。。。(;;)。
【25】 40代 医師 P92
基本的に事故調を設置するのは賛成です(あまりに文句が多いので、誤解されないよう、最初に申し上げておきます。)。ただし、賛成するのは、きちんと機能する、将来のためになるものである場合だけです。今の試案のままでは日本の医療にとって良い作用をおよぼすものができるとはとうてい思えません。
はじめにの(1)について
人間を含め、生物はいずれ死ぬものだ、という当たり前の前提に立っていません。診療行為は「場合によっては」不幸な転機につながるのではなく、診療行為の如何に関わらずかなりの確率で不幸な転機につながる人の命を「場合によっては」救うことができるのが医療行為です。従って、医療に一般の方が思っている「安全」を求めるのは間違いです(有ってはならない事故も有って当然、と言っているわけではない。)。
(13)について
法律家やその他の有識者(医療を受ける立場を代表する者等)の参画と有りますが、医療事故の原因を究明する機関で医療に関して素人の方がどのような役割を果たせるというのでしょうか?医療は経験していないものがその事故原因を究明できるほど単純なものではありません(最後に理由を書きました)。素人の方がチームに入る理由がわかりません。医療の現場をわかっているものだけでは透明性が担保できない、というのかも知れませんが、それが透明か透明でないのかさえ素人の方に判断するのは難しいのではないかと考えます。
(20)について
届け出範囲の2番が暖昧すぎます。実際の医療は解らないことだらけであり、解明できないことの方が多いような今の医学の状況で、2番のような暖味な基準だと大変な数の届け出が出ることが予想されます。実際にそれを捌ききれるのかが疑問です。また、まず患者の病気があって、それに関与する形で医療は行われるのに、行った医療が関係ない、ということがあり得るのですか?また、それはどのように判断されるのですか?現場にいる人間として、クリアカットに分けられるとはとうてい考えられません。
(21)について
事故調は解剖が前提と聞いています。そのため、届けの有無の判断は速やかに行われなければいけないと思われますが、主治医以外の人間が届け出るか出ないか判断するとのこと、現在の人手が足りなくて崩壊寸前の医療機関で、死亡は夜中に出ることが多いのに、誰がこの役割をするのですか?また、解剖症例が大幅に増加すると思われますが、現在でも人手が足りず解剖していただくのが難しい状況なのに、実際に実行可能なのですか(調査チームの解剖医は誰がやるのですか?)?
捜査機関への通知について(特に別紙3)
医療者側から見れば、とんでもない、言いがかりのような訴訟が増加しています。ただでさえ、そのような事例が増えている中、大野事件のようなことが起これば、まじめに医療に取り組んでいる人間も嫌気がさしてしまいます。事故調の役割は、原因究明を行い、今後同様な事故を防ぐ、というのが第一義ということは解っていますが、一方で「はじめに」に書いてありましたが、萎縮医療を防ぐ役割を担って欲しいと思っています。そのためには、そのような言いがかり的な訴訟の抑止力になって欲しいと考えます。
しかし、この試案のままでは、全くそのような役割は担えないことは明らかです。医療の縛り、仕事を増やして、さらに崩壊を助長するように見えます。というのは、全く法的な強制力がないからです。なるだろう、こととなる、ばかりでは、事故調ができたとしても、そうはならないと思います。何の法的根拠もないからです。遺族が望めば、たとえ言いがかり的な訴訟であってもフリーパスです。医療に関しては、訴訟を起こす、起訴する前に必ず事故調を通す、事故調が医学的に正当としたものは訴訟に持ち込めない、という形にしなければ、医療者が望んでいるような、安心して患者の治療に全力を傾ける世界、というのは二度と戻ってこないことでしょう。
医療は常に死と隣り合わせです。「人間はいずれ必ず死ぬ」という概念が欠返した現代の一部の遺族の方には全力を尽くしていても、言葉を尽くしても、死という事実により、悲しみが医療者に対する恨みに変わることが多々あります。このような状況から医療者が守られなければ、医療、特にリスクの高い、高度な医療(外科等)・救急医療・産科医療・小児科医療に全力を尽くす人はいずれ居なくなると思います。今の医療は、酷い労働条件にも関わらず、多くの医療者の高い倫理観と善意によって何とか持っているからです。疲れ切った医療者は、今回の試案で守られないと知れば、さらに容易に第一線の医療から離れて行くでしょう。これ以上医療者が第一線から退けば、医療の崩壊は取り返しの付かないところまで行ってしまいます(もうすでに遅いかも知れませんが)。しっかりとした法的な整備を同時に行うことを望みます。
上記調査機関との関係に対する意見および全体として医療の現場に長く関わっていると、他の医師等医療者が行った医療行為について、後から良い、悪いを判断するのは、たとえ医療者であっても大変難しいと言うことを実感します。
診療行為は、特に生死に関わるような時(概してそのような時は判断に時間的な余裕はありませんが)、生命に影響する事柄を扱うその重圧に耐えながら、刻々と変わりゆく患者の変化、データの変化から現在起こっていることを推測し、今後起こりうるケースを良いことから悪いことまで予想し、ベストと思われる次の一手を考え、迅速に対処する、ということを行うのです。これを、′通常は休みがあまり取れず、疲れ切った、判断能力の落ちた状態で行わざる負えなくなっています(昔から酷い労働条件で働かされていますので。今はもっと酷くなりつつありますが。)。事故調はこういった診療過程を調査することが多くなると思います。調査する際、どのくらいまでが妥当な範囲なのか、あるいは無理なのか、ということを経過とデータなどを後から見せられてretrospectiveに想像するのは、たとえ臨床経験豊富な医師であっても難しいものです.なぜなら、現場はretrospectiveに動いているものではなく、prospectiveに、またその時に現場の周りの状況にも左右されながら動いているものだからです。そのため、医療を医療の素人である司法が裁く、ましてや素人が是非を考える、ということは不可能だと考えます。私は、医療行為の是非は、医療者にしか判断できないと考えます(それでも間違いは起こると思います。)。これを前提にせずに医療に司法や門外漢の方が関わることを進めていけば、今後の日本の真っ当な医療は消滅すると思います。
いったん消滅した医療はそう容易には元には戻りません。医療は科学の一つである一方、伝統芸能や職人のように、語り継ぐ、後輩に教え込む、といった非科学的要素が非常に強い分野だからです。今いる熟練した医師が第一線から一斉に退いてしまえば、その後医師を急いで養成しても、元の医療レベルに戻るのは数十年単位の時間が必要になると思われます。教える人がいなくなるからです。その間は多くの人(医療を受ける必要のない人はごく少数です。そのため、全国民といっても良いかも知れません。)が低いレベルの医療に耐えてゆかなければならなくなります(おそらく、事故も今のレベルとは全く次元の違う、大変問題なものが増えてしまうと思います。)。
そうならないよう、今後の医療の未来を左右する、この事故調を、十分な論議を尽くして、本当に世の中のためになるものを作って頂きたいと思います。
≪勝手なまとめ≫
・事故調設置には賛成だが第三次試案には反対
・素人の方が委員会に入るのには不賛成。
透明化をはかる為としているが、透明であるかどうかさえ理解できないのでは?
・届出基準があいまい
・現在でさえ解剖していただくのが大変なのに、誰がこれをできるのか?
・刑事介入より事故調を先に通すための法文化を。
・司法と医療の齟齬について
・十分な議論をつくすべき
【26】 50代 医師 本田宏先生 P96
現在日本各地で医療崩壊が加速しています。その原因は長らく続いた医療費抑制と医師をはじめとする医療スタッフのマンパワー不足です。現在年金が主な問題になっていますが、医療崩廉阻止も厚労省の最優先課題のはず。いち早く手を打たないと年金の次に医療崩壊が大きな問題となることは明らかです。
さてそこで今回の第三次試案ですが、現場の窮状(過重労働と決定的マンパワー不足)を放置してこのような事故調を拙速に導入すれば、どうにか歯を食いしばって働いている(特に急性期)医療スタッフの心の糸を切る結果となることは、現場感覚からすれば角を矯めて牛を殺す愚となるのは火を見るより明らかです。
医療体制がいったん崩壊してしまえば、復旧するのには長い年月がかかります。医療崩壊の先輩英国が医療費を上げて(GDI'比10%まで)、医師の大幅増員(50%)」を行った先例をぜひ参考にしてください。現在でも世界一の高齢化社会の日本、これから団塊の世代の高齢化を迎えます。今手当をしなければ大量の医療難民が出現することは間違いないのでス.今こそ医療や福祉を雇用創出の場と考える発想の転換が必要です。国民の命の安全と現場の医療関係者を守るのは厚労省の最重重要課題のはず、お願いします。
≪勝手なまとめ≫
本田先生です(>▽<) ..。*♡
【27】 40代 医師 P98
■刑事処分について
・現状において、「軽度な過失」でも処罰されている。「重大な過失」か「軽度な過失」かという
判断は、運用によってどのようにでも解釈し得る。
・悪質か否かも、運用によってどのようにでも解釈し得る。例えば、証拠隠しをしたものに限らず、営利目的、実験的、名声追求の利己目的、説明不足でも、どのようなものでも悪質というレッテルを張られかねない。つまり、運用に歯止めがない。
・現状において、薬剤や患者の取り違いといった、単純ミスは「重大な過失」とされている。死亡という結果の重大性に着目して「重大な過失」とされ、業務上過失致死罪が適用されている。
・現状において、刑事司法は結果の重大性に着目しているが、その取り扱いを変更することについて、何の権限もない厚労省の一検討会の意見に過ぎず、警察・検察の公式見解は書かれていない。
・第3次試案に書かれている通り「責任追及を目的としたものではない」ならば、行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない。責任追及を目的としていないことの制度上の担保がなければ、現場の医療者は安心して診療に当たることはできない。
■ 医療死亡事故の届出義務化について
届出範囲を限定するとあるが、法令上の条文を個別ケースに適用するか否かは、法的判断をする者が個別に判断することであり、限定することを約束したことにはならない。委員会の結論が警察、検察に対して拘束力を持たない以上、その結論を尊重するといっても、具体的事件においては無視される可能性が高い.
現に、厚労省は、犯罪等に適用されていた医師法21条を、医療にも拡大して適用した。厚労省が医師法21条の適用範囲を元に戻さない限り、法令の適用を「限定する」と言っても、信用できない。
第3次試案の21条改正案では、医療機関が委員会へ届出なかった場合は、医師法21条に基づく警察への届出義務があるため、死亡事例すべて届出とならざるを得ない。上記の届け出範囲を「限定する」制度上の担保は存在しない。
「制度化」は「義務化」を意味することは、酉島英利議員の発言からも明らかである。透明性の向上とは何か。医療者が患者・家族に十分説明し、当事者間で話し合うことではないのか。第三者が介入する前に、当事者間の対話を促進するため、院内医療メディエーターを置くといった措置が必要である。当事者間で十分対話を行い、それでも患者.家族の納得が得られない場合に、第三者の介入が必要となる。
■医療安全調査委員会(仮称)について
・そもそも真相に最も近く、原BEl究明を行うべき主体は、当事者である医療者であり、当事者の前に第三者が介入することは、むしろ原因究明を阻害する。まず当事者である医療者が医学的・科学的な真相究明を行い、患者・家族に十分説明し、当事者間の対話を十分に行ったうえで、それでも患者・家族の納得が得られない場合に、第三者の介入が必要となる。
・ひとつの組織が2つの目的を持ち、いずれも達成されない可能性が高い。
r全国唯一の組織が「正しさ」を判断することは、医療の統制につながる.医療における判断・
選択は、患者ひとりひとり、家族ひとりひとりt医療者ひとりひとりによって多種多様であり、「正しさ」の答えはひとつではないからである。全国唯一の組織が決める「正しさ」に、すべての国民が従わざるを得なくなり、患者・家族の自由な選択は阻害される。国の委員会に一元化することは危険である。
・医学的・科学的な真相究明を目的とし、複数の多様な委員会が、多様な医療専門家による多様な「正しさ」の判断を示せる制度とすべきである。多様な専門家による多様な選択が存在することを、患者・家族が知ることも、納得を得るために重要なプロセスである。
・責任追及を目的としないと明記したことは評価できるが、制度上の担保は何も示されていない。委員会は、責任追及の機能をもつ。
・「法律関係者」「法律家」を入れるのはなぜか。法的判断つまり責任追及をするためであろ
う。「医療を受ける立場を代表する者」を入れるのはなぜか。患者・家族の判断・選択は多種多様であり、それを第三者が代表することはできない。ひとりひとりの多様な選択を尊重するためには、当事者である患者・家族本人が、その希望によって参加するか否か選択できるようにするべきである。
・当事者を調査から排除するならば、ますます真実から遠ざかり、医学的.科学的な真相究明は不可能となる。この委員会が原因究明を目的としているとは考え難い。
≪勝手なまとめ≫
・「過失」「悪質」の定義があいまい
・厚労省の見解のみで警察庁等の見解が示されていない
・調査結果は公開すべきではない
・届出の程度があいまいな上、医師法21条の改正について厚労省を信用できない
・ひとつの組織が2つの目的を持ち、いずれも達成されない可能性が高い
・委員会は責任追及の機能をもつ
・この委員会が原因究明を目的としているとは考え難い
【28】 40代 医師 P100
・現状において、「軽度な過失」でも処罰されている」「重大な過失」か「軽度な過失」かという判断は、運用によってどのようにでも解釈し得る。
・悪質か否かも、運用によってどのようにでも解釈し得る。例えば、証拠隠しをしたものに限らず、営利目的、実験的、名声追求の利己目的、説明不足でも、どのようなものでも悪質というレッテルを張られかねない。つまり、運用に歯止めがない。
・現状において、薬剤や患者の取り違いといった、単純ミスは「重大な過失」とされている。死亡という結果の重大性に着目して「重大な過失」とされ、業務上過失致死罪が適用されている。
その判断は現場の感情論に漉されており,科学的根拠に乏しいものである.感情論で裁判,訴訟が行われるものであれば正義云々を語ることはできない我々医師はつねに真理の徒であろうとしている.
・現状において、刑事司法は結果の重大性に着目しているが、その取り扱いを変更することについて、何の権限もない厚労省の一検討会の意見に過ぎず、警察・検察の公式見解は書かれていない。
事実, 今回の検討委員会の検討事項の如何に関わらず,患者,ないし遺族から訴えが捜査するとのべており,また捜査権に対する侵害であるとの見解も見られる.
第3次試案に書かれている通り「責任追及を目的としたものではない」ならば、行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない。責任追及を目的としていないことの制度上の担保がなければ、現場の医療者は安心して診療に当たることはできない。
≪勝手なまとめ≫
・過失・悪質の定義があいまい
・警察・検察の公式見解は書かれていない
・責任追及のための組織でないならば、行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない
【29】 40代 医師 P101
今の日本には悪い医師を完全に排除するシステムがない。こうしたシステムを作ることは国
民・医療者にとってまさに重要であることは論を待たない。
しかし、今回、厚労省が作ろうとしている医療事故調査委員会では悪い医師を排除できない。その理由は、
1 医療事故を死亡症例に限定している。
2 憲法その他多くの法律との矛盾が存在する。
3 死亡例を詳細に調査するインフラ(病理医・法医学医や設備、予算)が不十分。
4 他の捜査・司法機関との連携が不十分。
5 医師不足が叫ばれる中で、悪い医師を排除する過程で良い医師に犠牲者が出るのを容認できない。
6 死亡例の事故調への報告は患者プライバシーの侵害になる?
7 再発防止のための死因究明と責任追及のための死因究明は両立しない。
本来、医師一患者関係は神聖不可侵なもので、両者の合意の上で信短に基づいて医療が行われるべきである。その医師一患者関係に政府などの公権力が介入することは絶対に容認できない。
≪勝手なまとめ≫
必要ないでしょう。
【30】 60代 医療機関管理者 P102
刑事処分について
第3次試案に書かれている通り「責任追及を目的としたものではない」ならば、行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない。責任追及を目的としていないことの制度上の担保がなければ、現場の医療者は安心して診療に当たることはできない。
行政処分について
厚労省は、保険医取り消しの行政処分と、医業停止の行政処分を二重に行っている。医療機関や管理者に対する行政処分権限を創設すれば、医師(主治医等)に対する行政処分がなくなるわけではない。従って、「個人に対する行政処分については抑制する」保証はない。
≪勝手なまとめ≫
・行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない
・行政処分が強くなりすぎる
【31】 30代 医師 P103
現状において、「軽度な過失」でも処罰されている。「重大な過失」か「軽度な過失」かという判断は、運用によってどのようにでも解釈し得る。刑事司法は結果の重大性に着目しているが、その取り扱いを変更することについては、何の権限もない厚労省の一検討会の意見に過ぎず、警察・検察の公式見解は書かれていない。
届出範囲を限定するとあるが、法令上の条文を個別ケースに適用するか否かは、法的判断をする者が個別に判断することであり、限定することを約束したことにはならない。委員会の結論が警察、検察に対して拘束力を持たない以上、その結論を尊重するといっても、具体的事件においては無視される可能性が高い。
そもそも真相に最も近く、原因究明を行うべき主体は、当事者である医療者であり、当事者の前に第三者が介入することは、むしろ原因究明を阻害する。まず当事者である医療者が医学的・科学的な真相究明を行い、患者・家族に十分説明し、当事者間の対話を十分に行ったうえで、それでも患者・家族の納得が得られない場合に、第三者の介入が必要となる。
≪勝手なまとめ≫
・過失の定義があいまい
・刑事・警察の謙抑性は信用できない
・まず現場での解決を目指すべき
【32】 30代 一般(公務員、医療事故被害者遺族) P104
1 意見主張に登る経緯について
(1)医療事故の概要
私は,3年前に医療事故によって妻子を亡くした遺族です。当時妊娠8ケ月であった妻は.切迫早産(繊毛膜羊膜炎)-常位胎盤早期剥離(早剥)-大量出血・胎児仮死- D IC-多臓器不全または重度出血性ショックの転機
を辿り死亡し,息子も生後2日で新生児仮死を原因として落命しました。病態が悪化する各過程において,当該医療者らは行うべき検査・診断を著しく備怠または遅延したため,極めて不十分な治療しか行いえず,その結果妻子が死亡したとして,現在私は原告として民事係争中です。
事故当日,腹痛発症後に赴いた掛り付け医院の開業医は,診察すら行わず看護師任せにして相当時間放置(外出中で酒宴継続)したため胎児は手遅れとなり母体も重態に陥りました。また,胎児仮死後に搬送された病院の当直医は,緊急帝王切開手術の4時間後に「母体はもう大丈夫」と家族に説明しましたが.その約10分後に妻は心肺停止に陥り,そのまま死亡しました。両者とも,病態の把握と病態に応じた迅速的確な治療を,著しく怠っていたのです。
本件の過失類型は,終始「注意義務違反による不作為行為」であり,その背景には当該医療者らの医療水準の低さがあったものと捉えています。剖検は未実施ですが,心肺停止の数十分後に採取された55項目に及ぶ採血値が残されており,Hb:4.8g/dl,LDH:1027U/ml,FIB:22mg/dl,PT:71秒,APTT:240秒,FDP:44.44JLg/ml、STN:16.8U/ml等,広汎かつ重大な異常が認められ死因推定の根拠となっています。また,妻死亡後における医療者側の姿勢は,採血実施の事実を遺族に秘匿しつつ,「胎盤は胎児仮死に至った際に剥離したものであり,母体の死因は肺塞栓か羊水塞栓によるものであるため,医療者側には一切の過失は無かった」等と繰り返すばかりで,いわゆる「隠す、逃げる、ごまかす」の3拍子揃った対応でした。
この姿勢は係争後に一層悪質なものになり.胎児心拍陣痛図の約半分や超音波検査画像などの最重要証拠は「紛失した。保存していない。」等主張して提出してこず.カルテ上に書かれた記事についても自らに都合の悪い内容については「記録上は00とされているが,これは誤記で△△であった」等とその事実を否認し,医療水準に関しても「(多くの)医学書ではロロすべきと書かれてはいるが,それは臨床の現場では浸透していないため医療水準とは言えない(根拠は未提出)」等主張するなど,あらゆる詭弁や詐術を弄して自らの保身を図っている状況です。
このような読弁や詐術が入り込む余地が生じるのは,患者死亡時の病態把握が不十分であることに起因した証拠不足に大きな要因があろうと私は考えていたため,この死亡原因究明・再発防止制度(以下,死因究明制度)には強い関心と期待を持って見守っていたところです。
しかし,今回示された『第三次試案』を読んでみて,「最も大事な部分,すなわち真実の究明に係る内容が,遺族の願いとはかけ離れた制度案」との印象を持たざるをえませんでした。そのため,今回自らの意見を投稿することにより,改善を求めさせていただきます。
(2)第三次試案の制度的不備
私が第三次試案を読んで最も残念に思うことは,『届出対象を絞りすぎており,対象から漏れた事例に対しては一切措置を講じようとしていない』ことです。特に.例示として挙げられた「内視鏡検査で消化管に穴を開けてしまう」や「手術で癒着した組織をはがす際に大出血を起こす」などのケースが,なぜ『やむを得ず発生した合併症』として届出対象から外されるのか理解に苦しみます(警察への通報対象から外すというのなら理解できるのですが)。上記の事例を対象から外すのであれば,医療者が行うべき検査・診断.治療・術後管理を怠った『不作為型医療ミス』は全て届出対象から外されることになるでしょう。
一方,日本で年間どれだけの医療事故死亡(予期せぬ医療関連死亡の全てを指す)が起こっているのかの客観的な数値は示されていませんが,幾つかの推計報告から.概ね2万-3万人程度と見て良いと思われます。この数値は,一般人の感覚からすれば驚くべき高値ですが,おそらく実態にかなり近い数値のはずです。この内,医療過誤によるものの件数を推計することは更に困難ですが,仮に半数としても1万-1万5千件となります(ただしこの数値は,過失と死亡との因果関係の立証水準をどの程度に設定するかによって,全く異なってきますが)。
これに対し,今回示された数字は,『過失(作為型を対象とする?)と因果関係がほぼ明確な事案のみを届出対象とし,年間2000-3000件程度を想定』したものに過ぎず,医療事故死亡全体の1割程度に過ぎません。すなわち,残り9割の死亡事故例に対しては何らの措置も講じないということであり,ここに本試案における最大の制度的欠陥が認められます。
また,試案(25)では「遺族からの調査依頼があれば未届出件でも調査を行う」としていますが,死亡直後の情報が消滅した時点での調査は,証拠が十分確保された場合に比べて遥かに時間と手間を要するものであり.遺族からの調査依頼が殺到すれば,たちまち制度は行き語ることになるでしょう。
とは言え,日本には法医・検案医が僅か200名しか存在せず(参考資料集p76年間の司法解剖数は僅かに5000件(不審死全体の約4%)に過ぎないという現状下において.これを2000-3000件増やすということは,相当の努力とも言えるでしょう。また,約2000名の病理科認定医(基本的には外科系医師)をこの制度に組み込むことは,解剖所見の公平性や質の面等から問題が残り,現実的ではありません。委員会による調査・審議についても同様で,制度当初から年間2万-3万件を対象とすることは,普通に考えれば不可能なことです。
よって,届出対象から漏れる9割の医療事故死に対して,剖検によらないサブシステムを合わせて構築する必要性が生じます。次章では.この補完的措置について,私の考えを述べます。
2 届出対象から漏れた事案に対する措置について
(1)CT検査・血液検査の活用
上記制度不備を補う方法として私が提案する方法は,届出対象としない死亡事故事案における,速やかなCT検査と血液検査の実施です。このことについては,本検討会においても,「参考資料集p23」,「第二次試案への意見60,77」。「第三次試案(27)」などで多少触れられてはいますが,本題として議論の対象とはされていません。
しかし,不審死体に対するCT検査の実施が死因解明のために極めて有効であることは,千葉大学法医学教室の取組み(未剖検死体に対するCT実施により,死因を解明した多数の事例を有している)等により,既に明らかとなっています。また,血液検査についても.今日では広汎な検査が僅かな時間(基本的な50-100項目であれば30分- 1時間)で結果取得可能であり,疾病の種類や病態の程度判
定に有効な検査が死因解明にも有用であろうことは容易に想像できます。
加えて,司法解剖には20万円程度の経費がかかりますが,CT検査(全身を1cm刻みでスキャニングした場合):2万円,血液検査(基本検査約50項目):1万5千円程度と相対的に安価であり,施行時間もcT:約30分,採血:1-2分と短時間で可能なことも大きな利点と言えます(司法解剖には数時間を要し,更に遺体搬送の時間も加わります)。
更に重要なことは,遺体の侵襲を伴わないため遺族の同意がほぼ確実に得られることです。遺族にとって,最も身近な人間の思いもよらぬ急死それ自体が身を切られる思いですが,その遺体を解剖(頭蓋を割り,肋骨を切除し,内臓を全て取り出す行為)に付することなど,およそ耐え得るものではありません。現に,不審死体の剖検率は4%程度に留まり,医療事故死の剖検率も同等であろうと思料されることから,大半の遺族が剖検を拒絶していることが伺われます(ただし,多くの場合に医療機関から勧められるのは,同院における病理解剖であり,公平性・客観性に疑義が生じることも拒絶の一因と考えられます)。このような状況下で.承諾解剖を制度の基幹に据えること自体に無理があると言わざるをえません。次項では,CT検査と血液検査を活用した具体的な制度案を提案します。
(2)患者.遺族の想いを尊重した死因究明制度
第三次試案p4で提示された「届出対象の絞込みチャート」では.3種類の選択項目が用意され,この内の2問ないし3問を回答することにより届出の要否を判定する内容になっています。
しかし,この3問
①誤った医療を行ったことが明らかか
②行った医療に起因して患者が死亡したか(疑いを含む)
③医療を行った後に死亡することを予期していたか
の回答は,いずれも担当医療者らによる主観的解釈を判断基準とし,客観性に欠けるものです。
① については,「誤った医療を行った可能性はあるが,明らかとまでは言えなかった」との言い訳が可能です。また(②については,不作為型過誤(行うべき医療を行わなかった過失)を除外する大義名分になる言い回しですし,③については「一定のリスクは予期していた」と後付けが容易です。しかも,届出義務違反に対して何らの罰則も設けないというのでは,本来は届出対象とすべきケースであっても,届出不要との慈意的な解釈が幾らでも可能になってしまい,制度そのものが形骸化する危幌を抱かざるをえません。結局この判定基準では,幾らでも
届出対象から除外すことが可能であり,おそらく届出件数は年間1000件に届かないことになると思われます。
これを補正するため,私としては,代替案としてチャ- トを提示させていただきます。すなわち.質問内容を次の3つに変更する方法です。
Ql 医療を行った後に死亡する可能性が一定程度以上あると予期し,かつ事前に患者および家族に対しインフォームドコンセントを得ていたか。ここでいう一定程度とは,最低でも5ないし10%程度を想定。
Q2 患者死亡後の医療者側の説明に対して,遺族は概ね納得しているか。
Q3 誤った医療行為(過失)を行った可能性,または,行った医療と患者の死亡との間に相関関係(因果関係)が,認められるか(疑いを含む)。
この選抜方法を取ったとしても,やはり届出を怠る医療機関は確実に出てくるはずです。しかし,届出基準が原案よりも客観的であるため届出義務違反が比較的明瞭に指摘できますし,届出対象から外れた事案についても速やかにCTと採血を実施することにより,医療者・遺族の双方にとって死因究明への道が残されることになります。加えて,遺族へのインフォームドコンセントの有無を選択肢に加えることにより,医師の主観による届出願意を抑制するとともに,遺族にとっても納得のし易い方式であると考えます。
本来であれば,届出対象を別紙1のDタイプのみに絞るのではなく,BCEの各タイプにおいても届出対象とした上で剖検の是非は遺族の判断に委ね,未剖検でも各種医療記録とCT・採血結果を以って審査対象とする案にしたかったところですが,こうすると届出対象件は裕に2万件前後に及ぶと推定されるため,あえて外しました。それを補完するためのCTと採血です。
無論,CTと採血の結果は遺族へ開示すべきことは当然です。医療者としては,事故発生直後の説明ではrCTと採血の結果を勘案した上で病態悪化の経過と死因を推定し,後El改めて説明の機会を持つ」旨を遺族に約し,概ね1-2週間以内に.CTと採血結果を開示した上で遺族への十分な説明を行うべきです。
また,届出対象とする場合においても,届出要否の決定や剖検実施までに数時間を要する見込みの場合には,遺体の死後変化が進み適正な解剖所見を得られない可能性も生じます。そのため.このようなケースにおいても死亡直後にCTと採血を行うことを義務化するべきでしょう。
端的に言えば,届出対象件数を1000件減らしてでもCTと採血を20000件前後行うべきであろうというのが,私の意見です(予算額30億円.届出件の処理に100万円/件,cTt採血の実施に4万円/件かかるものとして試算)。
(3) CT検査・血液検査の信頼度の検証偉業
CT検査と血液検査を合わせて行うことが死因究明に極めて有効であろうことは既述のとおりです。仮に,死亡に至る病態変化の真相を100とし,司法解剖により得られる情報を60と仮定した場合,患者死亡後速やかに実施されたCTと採血を検証することにより,30ないし40程度の情報は得られるものと,私は予測しています。これでも現状の0ないし20(生存中の各種医療記録より得られる情報)よりは遥かにマシであろうと思われます。
しかし,実際に制度導入するためには,さらにCT・採血から得られる情報の客観性や精度を検証する必要性が認められます。そのための取り組みとして,以下の3点の施策を実施することを提案します。
①採血項目毎の死後変化の検証
②CT・採血検査による死因究明に関する精度の検証
③CT・採血検査により解明しうる病態・疾病の範囲の検証
上記①については.血液が死後にどのような変化を来すのかの研究が.日本では殆ど行われていないため,死後採取血液の採血値毎の変化率を,臨床で数十例程度検証し,採血項目毎の時間変化率を確認する必要性が考えられます。血液成分の死後変化要因としては,赤血球の沈下d固着,臓器の死後変化による酵素や電解質の漏出.凝固因子の反応などが想定されますが,いずれも死後数時間までの影響は少ないと考えられます。献血パックが6時間まで常温下で保管されることや.死後2-3時間内の剖検であれば上記変化は顕微鏡的にも殆ど認められないこと等がその理由です。なお,死後にはBUN・CREは長時間安定し,Na ・C l
は急速に低下するとの英国法医による報告があります(1980年,死亡事例の法医学的検査,犯罪捜査への病理学応用ガイドライン)。いずれにせよ,心肺停止時とその後1時間毎に3時間分程度採血を行い,採血項目毎の時間変化率を測定する検体検査を数十例行えば,多くの変化率は狭い範囲での正規分布をとると考えられます(変化率のばらつきが大きい項目は無効として除外する)。この検査項目毎の時間変化率を係数として一般化することが出来れば,各事例において得られた採血値に項目毎の係数を割り返すことにより,心肺停止に至った際の患者についての正確な血液状態が推定可能となります。
上記②については.両検査がどの程度の信頼度を有するのかを客観的に検証するために.司法解剖の実施に先立ってCTと採血を行い,それぞれの結果から推定される死因を相対比較するものです。客観性を確保するために,複数の法医と臨床医がチームを組んで執り行うことが望ましいでしょう。その結果が合致する割合が高ければ,CTと採血の有効性は証明される訳です。私見ですが,例えば,死後5時間後の剖検では得られない情報が死後1時間後のCTと採血では得られる可能性も十分考えられ,むしろ両者は補完し合う関係にあると,思料しています。
上記③については.②の延長にある検証法ですが.診療科別・疾患別に想定される死因ごとに,CTと採血により死因特定が可能か否を.具体的に評価検討するものです。各診療科・各疾患ごとに,(A)CTと採血から死因判定ができる可能性の高い疾患,(B)CTでは不十分だがMRlなら判定可能となる疾患,(C)基本採血項目(別紙2に例示)では不十分だが,特定の疾患に特化した検査(分子マーカーや腫癌マーカー等)を行うことで死因究明が見込める疾患,(D)剖検によってのみ特定可能な疾患,等に分類する,という検証が必要であると考えます。例えば,胸部や腹腔の内出血や心・肺・脳等の動脈血栓などは,解剖検査によらずともcTと採血により十分に判定可能であり,逆にこれらを行わなければ原因不明の死亡として片付けられてしまう可能性が大きい死因です。
以上3つの検証を,死因究明制度が施行されるまでの2年間に一定程度行うことが出来れば,CTと採血を制度として組み入れることに,不足や問題は解消できるはずです。また.本制度が本格運用された後も,事例データの蓄積に合わせて継続的に検証作業を続けていけばCTと採血による死因解明の精度は順次高まり,司法解剖に比べても遜色のない検査法として確立していくはずです。
3 その他の提案について
(1)医療システムが抱える様々な問題点
現在の医療システムは様々な問題を内包していること.多くのメディアで取り上げられています。最近よく取り上げられる重大な問題として,医療ミス・医療紛争の多発,産科、小児科・救急の医師不足,医療・福祉財政の破綻予測などが挙げられます。その他にも問題は山積していますが,一朝での解決が困難だからと言って何もしないで許される時代ではありません。取り組むべき課題に優先順位をつけ,一歩ずつでも(しかし出来るだけ早急な)改善策を講じていかなければ,医療不信は更に増大し医療システムは崩壊に近づくことになるでしょう。その意味で,この死因究明制度の果たす役割は非常に大きいと思われます。
しかし,仮にこの制度が概ね適正に施行されたとしても,関連する他の制度や組織が現状のままでは,本制度の適正な運用を阻害することになるでしょう。その最たるものが医事保険制度であり,本制度施行に当たっての周辺環境整備として.第一に取り組むべき課題であると思料します。
(2)医事保険制度の改善
医事保険制度は,医師・医療機関より掛け金を募り.加入者が医療ミスを犯し患者や遺族に賠償金を支払う必要が生じた場合に,基本的に1億円を上限としてこれを負担する保険制度です(免責負担は100万円)。しかし,近年の医療紛争の増加等の要因から運用は完全な赤字に陥っているとのことです。一方,加入者が係る医療紛争件については一応の審査が行われるようですが.完全な密室審査であり1件あたりの審議も極めて短時間で行われ,透明性・公平性に著しく問題がある制度とされています(それでも産科に係る審議件の過半に「医師の過失あり」との判断が下されたとのことです)。また,保険会社としては出来るだけ保
険金を支払いたくない訳ですから,例え民事裁判で医療者側が敗訴した場合でも,控訴を強要するケースも多いとのことで,制度自体が医療過誤被害者の救済を目的としたものでないことは明らかです。
毎年の医療訴訟の新規受任は1000件前後ですが.この数字は,死亡や重度後遺症などの重大医療事故全体の4- 5%に過ぎないと考えられています。示談やADR等による紛争外解決が成立
するケースがそう多いとは考えられないため,9割方の被害者や遺族が泣き寝入りしているのが実態でしょう。すなわち,本来補償を行うべき金額は.少なくとも医事保険制度が現在支払っている金額の10倍以上に上るということです。
よって,死因究明制度が適正に運用されることによって泣き寝入りする遺族の割合が減少した場合には.当然ながら医事保険制度は完全に破綻します。逆に,制度運用後も医事保険の総支払額が大きく増加しないようなら,それは制度が適正に運用されていないことを意味します。このため,死因究明制度の施行に合わせ,医事保険制度を抜本的に見直す必要があるといえます。
以下に,幾つかの私案を列記しますので,前向きなご検討を期待します。
①死因究明制度の審査対象件との重複回避(医事保険としての独自審査は行わず,死因究明制度の裁定に従うこと)
②加入者の所得(または納税額)に応じた.掛け金の累進制度(例:控除後の年収に対し,一律1%の掛け金)。
③保険制度利用者に対する掛け金の増額(例:保険金拠出額の1%を年額加算)。
④保険制度を2回以上利用した医療者に対する,調査・指導・再教育。
⑤患者を対象とした医賠責保険制度の創設(例:産科小児科等の訴訟リスクの高い診療科で先行導入。医療費の患者・事業者負担額の10-30%を目処に受診時負担を求め,国・医師会にも相応の負担を課す。低所得者に対しては国や自治体・が補填。医療事故被害者(遺族)に対し,過失認定の有無に係らず無条件で民訴上の慰謝料に相当する金額を補償。重度後遺症に対しても一時金支給。
この制度による既払額は医事保険・民訴請求額より控除。医事保険の役割を,自動車保険でいうところの任意保険に相当するものと位置づける)
(3)医療に携わる方へ一言
私は3年前に妻子を医療過誤事故で亡くして以降,当該医療者らによるあまりに杜撰な医療内容,あまりに不誠実な事後対応により,彼らに強い怒りと不信感を抱いています。しかし一方で,多くの医療者が患者の命と健康に正面から取り組み日々尽力されていることも承知しています。
医療に誠実に取り組まれている方々にとっては.今日の医療界に対する風当たりの強さを,不当なことのように受け止められるかもしれません。しかし現実には,医療者として最低限有するべき能力と倫理観に遥かに届かずに,医療ミスを幾度も繰り返す悪質な医療者が相当数存在するという事実を,先ずは受け止めていただきたいと思います。そして,誤った医療行為によって健康や命を損なった患者や遺族が,真相を知ることも出来ず.謝罪や補償を受けることも叶わず,泣き寝入りするか更に多くの犠牲を払ってでも立ち向かうかの厳しい選択を強いられている現実にも,目を向けていただきたいと思います。
医療事故の被害者や遺族が何より望むのは被害の原状回復ですが,それは死亡事故では望むべくもないことです.そして,次に強く望むのは,論ずるまでもなく「真相究明」であり,これ無くして「反省謝罪」や「再発防止」はありえず「損害補償」もままならないでしょう。
医療に携わる全ての方々には,真実に対し真筆に向き合う勇気を持っていただくことを,切に希望する次第です。
≪勝手なまとめ≫
・合併症の届出はすべき。通知からははずしてもいいと考える。
・事故調の件数が甘すぎるのではないか。
・CT、血液検査など客観的な証拠を残すべき
・医療事故保険が破綻するので、患者も何らかの負担を負い、医療保険をささえる(?)
【33】 瀬尾憲正先生 自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座 p115
「私は厚労省第三次案に対してこのままでは同意することは出来ません.」
その理由を以下に挙げます.
● 第三次案においても,届出範囲が遺族側に受け入れられない可能性があり,委員会の届出件数が多くなり,委員会の処理能力を超え,患者遺族の望む究明につながらない恐れがあります.事政発生初期の真聾で迅速な対応が患者遺族の望む原因究明の第一歩です.さらに外部委員を入れた院内事故調査委員会などによる原因究明などにより委員会の届出を絞り込む必要があります.
● 第三次案においても,委員会は定義が暖味な「重大な過失」に対して警察に通知することとなっており,刑事罰につながる判断と調査権限の両方(司直と裁判所)を持つことになります.調査と処分につながる判断の権限は別々の組織に委ねるのが民主的な法治国家の本来のあり方です.
● 第三次案においても,医療事故に対する警察の介入は避けられず,したがって萎縮医療は解決できないと考えます
次に,具体的に上記理由を説明します.
1.原因究明と再発防止
1)事故発生初期の真筆な対応
信頼される医療は患者側にとっても、医療者側にとっても共通の目標であります。その目標達成には患者側・医療者側が共同して相互の信頼関係を築くことが必須と考えます。そのためには、事故発生初期の一段階で患者遺族側に対して実勢な対応をすることが、相互理解を深め、紛争拡大を予防しうる最も重要なステップと考えます。まず医療者側が正直に事実を告げ、納得するまで説明し、謝罪すべき時には謝罪するといった真摯でかつ迅速な対応をすることが、第一歩と考えます。このような対応をすることで,遺族が納得し,遺族の処罰感情が軽減すれば,遺族からの委員会の届出や刑事告発が少なくなると考えます.
2)データバンク設立
厚生労働省は今回の調査委員会の第一の目的は原因究明、再発防止にあると言っています。原因究明には医学的な究明と患者遺族が望む究明があります.
医学的な原因究明、再発防止のためには、届出の範囲を拡大し、匿名化した形で、できれば死亡例のみならず死亡に至りかけたような重大な事故を含めて届出がなされ、現行の日本医療機能評価機構を拡大した組織であるデータバンクに情報が蓄積されることが望ましいと考えます。
3)届出事例の絞込み
患者遺族が望む原因究明のためには、事故発生初期の現場での対応,次いで病院全体としての外部委員を入れた院内事故調査委員会による原因究明など段階を踏んで届出を絞り込まないと調査委員会での未処理件数が増大し、その結果,報告に時間がかかり,調査も杜撰になる恐れがありますここれでは、患者遺族が望む究明とは程遠いものとなる恐れがあります.つまり、医学的な究明と患者遺族が望む究明とは別なルートを設けるべきです。
4)真実究明と自己負罪拒否特権
いずれの真実究明においても,自己に不利な供述を強要されないことを保障した憲法38条1項、刑事訴訟法146条、198条2項等を如何に担保するかが重要であると考えます.厚生労働省第三次案でも聞き取り調査が強制ではなく任意であるとしています.しかし,任意の聞き取り調査でも「重大な過失」と判断された場合,警察に通知することになっており,調査の途中で真実を話さなくなることも考えられ,真美究明が困難になる恐れがあります.
2,医師法21条について
1)異状死について
元来、医師法21条の立法主旨は、死体が異状な状態である場合、犯罪に関連することも少なくないため、犯罪の発見を容易にする目的で届出義務を定めたものとされています。しかし,現在、医師法21条は、拡大解釈がなされた上で運用されているのが実情です。つまり,医師法21条を一般的な犯罪ではない医療関連死に適応しているため、現在抱えている医療現場の混乱を招いたものと考えます。拡大解釈の契機となったのが法医学会ガイドライン1994年、厚生省国立病院部政策医療課局長通達「リスクマネージメント作成指針」です.
その指針の中で「医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合又はそお疑いがある場合には,施設長は,速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載し,医師法21条の解釈を変更しました.
2)罪刑法定主義
法律学者の中には,医師法21条も刑罰法規であることから、罪刑法定主義が徹底されるべきであると考える方々が少なくありません.罪刑法定主義とは,犯罪は国民の権利・行動の自由を守るために前もって成文法により明示されなければならない(事後法の禁止の原則).つまり,国家権力によって法律が出来たあとでその解釈を変えてはならないという考え方です_
いかなる行為が犯罪であるかは国民自身がその代表を通じて決定しなければならない(法律主義の原則)のであって,これは立法府,つまり国会の役割です.それを行政府である厚労省の通達等で変更してはならないという考え方ですーつまり,それらの方々は上記ガイドライン,局長通達をまず撤回し,元来の立法主旨に戻すべきと主張しています。
四病院団体協議会「医療安全対策委員会中間報告」平成13年3月はそのような罪刑法定主義に基づいていると考えます.その中では「医師法21条に関して,趣旨は遵守すべきであるが,医療事故・異状死の対応は別な視点で規定すべきである.」,「医師法21条のような罰則規定のある条項の「異状死」を拡大解釈して,「ふつうの死」以外全てに適応することは臨床的に適さない」と述べています.私は,この「四病院団体協議会『医療安全対策委員会中間報告』を支持します.医師法21条を元来の主旨に戻すことにより,現在抱えている医療現場の混乱をある程度緩和することが出来ると考えます.
第三次案が公表された翌日の2008年4月4日の衆院厚生労働委員会で富岡勉議員の「局長通達を以前のように緩和することは考えられないか」という質問に対して,舛添大臣は「新しい制度,法案ができるまで,医療者側の萎縮がおこらないよう,例えば通達を変えるという形で対応できるか,関連省庁と緊密に協議をする」と答弁しています.
3)医師法21条改正について
厚生労働省は4月3日の記者会見で、医師法21条を廃止する可能性について言及しています・しかし,法律の制定、改正、廃止などは本来法務省ならびに立法府である国会の業務であり、厚生労働省の方針のとおりになるかどうかは、現時点で予測困難で、医療者を含めた国民が納得できるだけの情報は示されていないと思います。
新たに医師法21条を改正するとなると,国会の議決を要することから,改正には時間がかかります.新しい法律を作成するときにその内容を吟味することが重要と考えます。今後の医療現場の混乱を回避する一つの方策として、患者遺族からの告訴は当然の権利であることから,たとえば「病院からの警察への届出は死因が不明なものに限る」など、現在の医療関連死を病院が一律に警察-届け出るの避けることを明記することを提案します.
3.医療事故と刑事罰について
1)「調査委員会による警察-の通知」の不当性
国民の権利として裁判を受ける権利(裁判に訴える権利)が個人の権利として憲法32条で保障されています。医療事故に対して刑事免責をすべきと主張する方々がいますが、現行法では憲法32条で示している国民の権利(裁判に訴える権利)が優先することから、医療事故においても刑事免責はないと考えるのが一般的です。加えて、医療者側から刑事免責を主張することは、医療者側の保身とみられやすく、より良い患者・医療者関係の構築に支障をきたすと考えます。
重大な問題は、医療安全調査委員会という個人ではない団体が、委員会での調査結果をもとに判断し、その内容を警察に通知できるという権限が与えられようとしていることです。ここに疑問が生じます。つまり、調査とその結果に基づく処分につながる判断権限が同一の組織に与えられることが正当であるかという疑問です.
私は,調査委員会は調査結果を正しく公表し、調査委員会とは別のメンバーで構成された別組織の委員会が厳格な基準にもとづいて判断し,警察に通知するシステムが望ましいと考えますO調査と処分につながる判断権限とはそれぞれ別の組織に委ねるというのが民主的な法治国家の本来あり方と考えます。
2)「重過失」と「重大な過失」の敵暦
刑法での「重過失」と第三次案で挙げている「重大な過失」とは根本的に意味が異なるということを理解する必要があります.刑法での「重過失」とは「僅かな注意を払えば防ぐことができたもの」であり,第三次案での「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると,地方委員会が認めるもの」であり,両者には大きな敵廉があります
3)医療安全システムの独立性,中立性,透明性
このシステムは-省庁を超えた独立性、中立性、透明性のあるものとするべきで、第三次案でも提案されているように行政内に設けるとすれば各省リ芋から独立した内閣府の下に設置するほうがよいと考えます。
3)三次案でも警察の介入は避けることは出来ない
第三次案が公表された翌日の2008年4月4日の衆院厚生労働委員会で岡本充功議員の質問に対し,警察庁の米田壮刑事局長は「現在検討されている委員会の枠組みのなかでは,刑法上の業務上過失はそのままで,警察は警察捜査をする義務がある.患者あるいは遺族からの訴えがあれば捜査せざるを得ない」と答弁しています.したがって第三次案のもとでも,医師法21条に基づく患者遺族の刑事告訴による警察の介入は避けることはできないと考えます。
以上です.
よろしく御願いします.
≪勝手なまとめ≫
・届出数が膨大になり処理しきれないのではないか
・調査と処分につながる判断の権限は別々の組織で
・死亡のみならず重篤なものに関しては匿名化でのデータ蓄積を
・患者ルートは別にし、届出件数は病院内では絞るべき
・真実究明と自己負罪拒否特権の齟齬
・医師法21条の立法主旨の拡大解釈を立法時のものに戻すべき
・調査委員会による警察への通知は不当
・刑法での「重過失」と第三次案で挙げている「重大な過失」とは根本的に意味が異なる
・三次案でも警察の介入は避けることは出来ない
今日はここまでです~。お休みなさいませ(>▽<)!!!!明日はp120から!
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