(関連目次)→妊婦さんと感染症
(投稿:by 僻地の産科医)
HIV合併の帝王切開なんですけれど。
一番気をつけているのは、二点です。
・とにかく一滴たりとも、血液をこぼさない覚悟で!
・針刺しを防ぐために、無理な視界の取れない操作はしない。
帝王切開という手術は、とにかく執刀開始から
麻酔や手術による影響等を考えると、
「いかに早く赤ちゃんをとりだすか!?」
ということが術者の命題みたいな手術なんですけれど
(もちろん自分の能力の範囲内でですけれどね!)
HIV合併妊娠となると、職員・医療スタッフへの感染予防という観点が
必要になってきます。
その中で、スピードとの勝負である帝王切開でも、
ちょっと観念の見直しが必要。
・皮膚切開はすこし大きめになっても、
ブラインド操作をする危険性よりマシ
・いつもの帝王切開では、血液や羊水で足元がずぶずぶになることも
よくありますが、とにかく血液・羊水で汚染させない。
・そのためには体の横側に、水分を吸収してくれるシーツを敷き詰める。
・術野にも防腹ガーゼをしきつめるなど、羊水の流出を防ぐ。
・止血は丁寧に。
・時間は早くなくてよい。(ゆっくりを推奨するわけではないけれど)
という具合になってきます。
血液汚染に気をつけるなんて、あったり前ジャン?
と他科のDr方は思われるでしょうが、
これって結構、帝王切開にも分娩にもむずかしいんですよね~。
なぜなら、
・分娩時にはとっても血が出る!
・臍帯を結んで、切る時だって結構、ぷっしゅーといく!(防護要)
・羊水だってどういうわけか飛ぶのよう!!!!
・気がついたら、腰から下が羊水でずぶぬれなんて良くあるのよう!
といった具合なモノですから、本当に細心の注意を払わなければならないんです。
ところで、日本の帝王切開は37~38週に組むのがスタンダードです。
ところが、
HAART(多剤併用療法 HIVの治療です)を導入している患者さんって、
外国資料では(日本のように医療費の関係で帝王切開にしてもらえないから)
経膣分娩の平均週数を調べているのがあって、それをみると
早産傾向、37週くらいなんです。
つまり、帝王切開の予定日前に破水することがよくある、
ということになります。
帝王切開の前には、4時間前からレトロビルの点滴
(これは厚労省に問い合わせして取り寄せです。治験の形式になっています。)
を開始した方がベターです。 ファックスして2-3日で届きます。
手術が緊急の場合であった場合と、予定の場合には、
日本では母児感染率に差があって。
レトロビルだけの差なのかどうかわかりませんが。
↓
母子感染率(産科調査) 緊急帝王切開・・・・・・・・・・・・・・ 5.9% 経膣分娩 ・・・・・・・・・・・・・・・ 20.8%
選択的帝王切開・・・・・・・・・・・・・ 0.5%
(まぁ、この調査の場合には、背景が違うというところがあって
経膣分娩なんて飛込み分娩が多いから、当然HIVの治療は未治療という
ことが多いから、感染率が高いとかもあるんですけれど、
まぁ結果的には緊急と予定のオペには決定的な差があります。 )
ちなみにレトロビルの注射剤は22週以降になった時点で取り寄せます。
ただ当院で産むつもりではなくて、取り寄せていないのに、
早産となった場合に、どうしたらいいのか。
今後の課題 だと思っています。
ところでこんな、術者は3重手袋、ガウンは2重、それでも
子宮内に手を入れて児の進入角度をぐっと持ち上げるときに、
羊水と出血で手首に出血が染みていたのでビックリしました。
もちろん流水で何度も洗浄しました。
そこまで神経質にもかかわらず、
実はHIVの感染力はHCVよりもずっと低いです。
そして針刺しが起きても、HIVの場合は予防的内服が確立しています。
それさえきちんとのめば、ダルイかもしれないけれど)ほぼ大丈夫。
どちらかといえば、
問題になるのは、もっと感染力の高いHCVのような気がしてしまうんですけどね。
今日の記事はまとまっていませんねo(^-^)o!
はじめまして^^
東京の某大学の医学生です。
羊水が飛ぶって言うのは、産婦人科の先生に教えられた事があります。
足下ずぶ濡れ、みたいなことだったら、ざらだという話も伺いました。
HCVの感染は確かに怖いですね。
院内感染対策マニュアルでも、針刺し事故以降は、検査のフローチャートしか乗っていません。
HCVの治療法って、どこまで進んでいるんですかね??
投稿情報: MATCH | 2008年1 月27日 (日) 21:35
HCVは極めて怪しいな~と個人的には思っています。
いきなりインターフェロンする気にはなれないし。。。。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年1 月27日 (日) 22:07
母子感染力って結構高いのですね...。
針刺しのHCVはそれほど感染力強くないです。
HBV(+)の患者さんに針を刺す時はかなりびびりますけど。
投稿情報: physician | 2008年1 月28日 (月) 02:17
これだけHIVのことが話題になるのに、術前検査でHIVを施行する、しないが保険診療を含めて問題になります。針刺し後2時間以内の予防内服が必須であれば、どう考えても早めにHIVを知っておいた方がいいに決まってるんですけど。近隣の病院に問い合わせたら、どこも術前HIVは調べていないそうです。妊婦だけが垂直感染防止で別なのですが、医療者はそうした恩恵には浴せないのですかね。
投稿情報: 風邪ぎみ | 2008年1 月28日 (月) 10:58