(関連目次)→妊婦さんと感染症
(投稿:by 僻地の産科医)
まずは概要です。
平成18年度HIV母子感染全国調査概要 妊婦HIVスクリーニング検査実施率 (病院)・・・・ 95.3% 妊婦HIVスクリーニング検査実施率 (診療所)・・・ 90.9% 集積症例(産科・小児科データべース) ・・・・ 468症例 HIV感染小児症例(小児科調査) ・・・・・・42症例 平成18年度新規HIV妊婦症例(産科調査) ・・・・・・ 47症例 母子感染率(産科調査) 緊急帝王切開・・・・・・・・・・・・・・ 5.9% 経膣分娩 ・・・・・・・・・・・・・・・ 20.8% 妊婦のHIV検査実施率の全国調査と 検査周辺の診療体制の整備に関する研究 研究要旨
選択的帝王切開・・・・・・・・・・・・・ 0.5%
平成18年度は、例年実施している病院施設に加えて3年ぶりに診療所における妊婦HIVスクリーニング検査についても調査を行った。全国の産科または産婦人科を標榜する病院1,616施設および診療所5963施設を調査対象とした。平成18年度の最終有効回答率は、病院72.7%(前年度比・1.2%減)、診療所41.2%(前回調査平成15年度比・0.4%減)であった。妊婦HIVスクリーニング検査実施率は全国平均95.3%で前年度から0.6%上昇し、訓告を開始した平成11年度から22.1%上昇した。都道府県別にみると最も実施率の高いのは山梨県、静岡県の100%で、最も低いのは宮崎県の56.4%であった。調査を開始した平成11年度との比較では、47都道府県で青森県を除く46都道府県の検査率が上昇しており、地域格差の縮小傾向も明らかとなった。また、地方ブロック別の検査実施率の格差も年々減少する傾向が続いている。このように妊婦HIVスクリーニング検査は、一般検査としてその必要性が広く認知されてきたものと考えられる。また、検査によって感染が明らかになった場合、適切な予防対策(多剤併用療法(HAART)、帝王切開術、断乳など)でほとんど母子感染が予防できることが明らかになっており、今後とも調査・啓発活動を継続し、現在の高い検査実施率を維持すると共に100%実施されることが望まれる。
本研究班では、平成13年度よりエイズ予防財団主催による研究成果等普及啓発事業研究成果発表会を毎年全国3都市で行ってきた。研究成果発表会での会場アンケートや、開催地された県における翌年の検査実施率が上昇していることなどから、啓発活動に有効性があると判断された。
HIV感染妊婦の実態調査とその解析および
HIV感染妊婦とその出生児に関するデータベースの構築
研究要旨
HIV感染妊娠に関し、平成17年度までの産科データベース中の379例と小児科データベース中の266例を照合し、468例の産科・小児科統合データベースを作成した。平成18年度の産婦人科病院全国調査では47例の報告があり、426例の産科データベースも作成された。これらのデータベースを用いてHIV感染妊娠の臨床的・ウイルス学的情報を解析した。最近の3年間でHIV感染妊婦の年間報告数は77%増加し、なかでも日本人のHIV感染妊婦の増加が著明で、日本人同士のカップルも増加しつつあり、HIV感染妊娠は日本人独自の問題として定着しつつある。平成17年に続き平成18年の報告数も日本人感染妊婦が50%を占めている。 HIV感染妊婦の地域別発生率は、最近10年間で徐々にではあるが関東甲信越ブロックヘの集中が弱まり約10%減少し、その他の地方での発生率がわずかずつ増加している。平成18年度は産婦人科診療所を対象とした全国調査も行い、過去においてHIV感染妊婦の診療経験が56例あることがわかったが、そのほとんどは高次病院へ紹介され、有用な臨床情報はほとんど得られなかった。しかしHIV感染が未確定のまま診療所で経膣分娩や中絶に至ったものが3例あり、さらに分娩2例のうち1例で母子感染が確認され、妊娠早期でのHIVスクリーニング検査の重要性が再認識された。母子感染率は選択的帝王切開群、緊急帝王切開群、経膣分娩群ではそれぞれ0.5%、5.9%、20.8%であり、抗ウイルス薬の投与はそれぞれの群の80%、53%、14%の例で行われていた,妊娠早期のHIVスクリーニング検査と抗ウイルス薬投与による血中ウイルス量の良好なコントロール、および選択的帝王切開がHIV母子感染予防対策の基本といえる。血中ウイルス量の良好なコントロール下での経膣分娩の選択の余地はあるが、選択的帝王切開に優るものではないことが欧米の報告から示唆される。経膣分娩群におけるHIV感染妊婦とパートナーの国籍別解析から、妊婦が日本人あるいはケニア人である場合や、日本人同士あるいはケニア人同士である場合に、母子感染率は64~10O%と高率であることがわかった。妊婦それぞれの健康レベルや妊娠管理レベルの差の影響は不明であるが、HIVの国籍別感染源あるいはウイルスのサブタイプが母子感染に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆される。以上のことから、今後も全国調査によりHIV感染妊婦の発生動向を継続的に把握することにより、将来的なHIV感染妊娠の増加を予測することが可能となるだけでなく、母子感染の新しいリスクファクターの検討やHIV母子感染予防対策の実施状況の検証と改善を図ることができると考えられた。
HIV感染妊婦より出生した児の実態調査とその解析および
HIV感染妊婦とその出生児に関するデータベースの構築
研究要旨
全国小児科病院施設への郵送アンケートによって、通算8年目になるHIV感染妊婦から出生した児の実態調査を行った。回答率は一次調査が47.3%、二次調査が56%であり、17例の新規報告を得た。過去の報告と合わせ小児科調査による出生児の累計は287例となり、感染42例、非感染199例、未確定・不明46例であった。 HIVの母子感染は平成8年以降の予防対策(母児への抗ウイルス薬療法、選択的帝王切開分娩、断乳)の徹底により、母子感染率は0.6%(1/154)まで低下した。しかし、平成17年度に続き、平成18年度も母子感染予防対策不十分による感染例が1例新たに報告された。また、4歳を超えて観察されている感染児ではHAART導入が進み、予後良好例が増えている。
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