(関連目次)→産婦人科医の勤労状況 なぜ産科医は減っているのか
(投稿:by 僻地の産科医)
千葉大のホームページより、
すばらしい論文をもってきましたo(^-^)o!!!
直接見ていただければいいかと思うんですけれど、
文章と一部の図を抜粋(>▽<)!!!!
すっごいよくできているな~と思うんです!!!
もっと知りたい方はぜひホームページに飛んでくださいませ!
では、どうぞ ..。*♡
あとこちらもぜひ宜しければ!!!!
平成19年度 周産期救急体制の実態に関する緊急調査
調査結果報告書(全都道府県からの回答の集計)
http://mficu.umin.jp/problems/report-2007_10.pdf
では、どうぞ~っo(^-^)o!!!!!
産科医療の現状と問題点 -大学病院の立場から-
千葉大学周産期母性科 生水真紀夫
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/gyne/nyukyoku/message.html
はじめに
昨年あたりから、産科・周産期医療関連のニュースがマスメディアに頻繁に取り上げられている。昨年2月に福島県立大野病院産婦人科医師の逮捕が、8月には神奈川県堀病院の看護師内診問題と奈良県大淀病院妊婦転送死亡事件が次々と報道された。
これら一連の報道を通じて、産科医療の問題点が次第に明らかになってきた。すなわち、産科医療問題は単なる医師不足ではなく、産科疾患の特殊性に加え、医療保険制度や法律などの社会制度と深く関わっていることが明らかになった。
福島県立大野病院事件では、当初産婦人科医師の初歩的な医療ミスとの見方がおおかたの報道であったかと思うが、次第に医師個人の問題ではなく産科医療に内在する不確実性や医療体制の構造的問題であるとする論調に変わった。奈良県妊婦転送事件でも、治療担当医の診断ミスや病院の受け入れ姿勢を問題視する見方が当初強かったが、次第に周産期センターを設置でききないほど医療資源が枯渇している現状が認識されるようになってきた。
産科医療は、すでに医師の自己犠牲的献身的努力では、解決できないところに近づいている。現在の周産期医療レベルを維持するには、国家・社会のサポートが必要な状況にあることが、クライアントである妊婦やその家族にも理解されつつある。
平成19年3月の「女性の健康週間」に、千葉県産婦人科学会と産婦人科医会が「いま、千葉県のお産を考える」市民公開講座を主催した。一般市民に向けて、千葉県の周産期医療の現状を伝え、周産期医療への社会的サポートの必要性を訴えるという企画であった。
筆者は、この公開講座において「産科医療の現状と問題点-大学病院の立場から-」と題して基調講演を行った。その講演要旨の一部を、本稿で紹介したい。
(略)
産科医療の問題点
1) マンパワーの不足
医師数は毎年順調に増加しているが、産婦人科医師に限るとすでに20年前から漸減傾向が続いている(図2)。これには、出生率低下に伴う産婦人科の沈滞ムードや医療訴訟の増加などが関与している。また、年々女性医師の比率が高まり、新規入局者の7~8割が女性となっている。その結果、分娩・育児や離職への対応が重要な問題となってきた(図3)。ここに、臨床研修制度の変更に伴う2年間のブランク(入局者なし)が加わり、マンパワー不足は一気に顕性化した。
このような状況下で、先にのべた一連の産婦人科医療関連の問題が報道され、産婦人科を選択する若手医師の減少に拍車をかけた。2003年に卒業したもののうち産婦人科学会入会者は336名であったが、翌2004年卒業者では285名と30%減となった。とりわけ、男性医師の減少が顕著であった。 2) 労働環境 この負のスパイラルは、産科以外にも通用するスキームである。しかし、先に指摘したように、医療訴訟や看護師内診問題など多くの社会的要因や産科疾患の特殊性などが加わって、回転速度が速くなっている。以下に社会的要因のいくつかについて触れておく。 (後略)
平成16年の統計によると、産婦人科学会員は10163名で、毎年300人のペースで減少している。このうち分娩を扱っているのは7937人にすぎず、ひとり当たりの分娩取り扱い数は139件/年である。これは、適正とされる数(120件/年)より20%過剰である。取り扱い分娩数を適正な値にするためには、産科医を1500名増やす必要がある。高齢化による自然減を考慮すると、この人数の産科医を増やすことは容易ではない。
厚労省の予測では、現在医師が不足している3臨床科(小児科、麻酔科、産科)のうち、唯一産科志望者のみが今後も減少し続けるとの予測を発表している。
週平均勤務時間の集計によると、産科医の勤務時間は69.3時間で、きわめて過酷な労働とされる宅配業よりさらに長い。ちなみに、小児科は68.4時間、外科が66.1時間で、医師平均では63.3時間である。(これらはいずれも法廷労働時間の40時間を遙かに超えており、過労死認定の目安とされる60-65時間をも超えている。)
余談ながら、労働時間が長いために時給でみたときの勤務医の収入は、看護師のそれより低いという統計がある(週間東洋経済)。この割安感も勤務医の意欲を低下させる一因となっている。
3) 負のスパイラル
マンパワーの不足・過重労働・医療ミス・医療訴訟は、それぞれが原因となり結果となって益々状況を悪化させる(「産科医療の負のスパイラル」、図4)。
4) 脳性小児麻痺
脳性小児麻痺のうち分娩時の異常に起因するものはたかだか2割で、そのうち分娩管理に問題があるとされるのは半分程度と推定される。ところが、脳性小児麻痺の原因は稚拙な分娩管理にあるとの誤った理解が広まっている。
さらに、困ったことに脳性小児麻痺に対する直接的な社会保障制度がない。このため、弱者救済的な観点から医師に保障を求める判決が出されることがある。
こどものすべてが100%健康で生まれてくる訳ではない。最高水準の産科医療を実践していても、一定の率で何らかの障害を持った子供達が生まれてくる。このような子供達を、親のみで支えていくのには無理がある。「次世代を担う社会の宝」である子供を増やすための施策をとろうとする国が、一定の率で生まれてくる障害児への対策を親にのみ負担させている現状はあまりに身勝手な施策といえよう。
5) 看護師内診問題
看護師の内診問題も問題を複雑にしている。これは、看護師の内診は認められないとする厚生省看護課長通知によって発生した問題である。
わが国の分娩のうち、半分の50万件あまりが病院で取り扱われている。病院では、4,000人の医師と15,000人の助産師とが診療に当たっている。一方、残り50万件の分娩が、診療所で取り扱われている。この診療所では、3,000人の医師が、助産師3,000人とともに分娩管理に当たっている。したがって、診療所で働く助産師は少なく、全国で10,000人の助産師が不足している。
そこで、各地の産婦人科医会などでは、医師による診療の補助を担当してもらうための専門看護師養成コースを設置して準備してきた。助産師不足の現実にあって、より安全な分娩管理を実践するための現実的な対応策であった。このような看護師による診療補助は、アメリカで実施されていると聞く。看護師が医師をサポートすることが、患者の命を危うくすることにつながるとは考えにくいと思うがいかがであろうか。
看護師の内診が認められないとすると、医師がすべての診療行為を自ら行わねばならず、その負担は飛躍的に増加する。医師の仕事量は増加して、ますます負のスパイラルに入り込むことになる。実際、負担増から、分娩取り扱いを断念した産科医師も出てきている。
6) 周産期医療システムの欠陥
妊娠中には、常位胎盤早期剥離を始めとしてさまざまな異常が突発し、急速に進行する。対応が遅れれば母子ともに致命的となり、逆に速やかに対応できれば救命が可能である。したがって、妊婦の近くに医療施設が存在している必要がある。これまで、各地の地方自治体はおのおの分娩施設を整備し、各地で発生する救急疾患に対応してきた。この結果、地方ではいわゆる一人医長の産科医が勤務する小病院が点在することになった。
平成16年の福島県立大野病院事件では、前置胎盤のため帝王切開を受けた妊婦が死亡した。その後、平成18年2月になって、手術担当医が業務上過失致死と医師法21条違反の疑いで逮捕・刑事訴追された。前置胎盤に合併した「癒着胎盤」を無理に剥離したため、大量出血をきたして死亡させたとして、刑事責任が問われている。
この事件では、地域医療の最前線の小規模病院での一人医長制度は、医師にとっても患者にとってもリスクが高いことが示された。この事件は、地方の小規模病院から医師を引き上げる大学医局を増加させ、地域医療の崩壊」の危惧を予想より早く現実のものとする契機となった。
このような状況を打開するため、国の指導のもとで都道府県単位での医療資源の集約化(医師を一箇所に集める)が図られることになった。(しかし、いくら道路が良くなっても、車で1時間以上をかけて漸く産科診療施設にたどり着くという状況は好ましくない。このような産科の特殊性から、集約化による対応に異論をとなえるむきもある。)
7) 医療連携システムの欠如
平成18年には、奈良大淀病院で分娩中に意識不明となった妊婦の転送が難航するというケースがあった。奈良県内には周産期母子医療センターがなく約20の病院に転送を断られた後最終的に大阪市内の病院に収容されたが、妊婦は脳出血で死亡した。当初は、担当医の診断ミス(分娩子癇と診断)として非難するむきが強かったが、そもそも周産期医療施設が少ないうえに病院間の救急搬送システムが欠如しているなど、社会的な問題が背景にあることが次第に明らかになった。千葉県では、総合周産期母子医療センター は2箇所しかなく、人口100万当たり1施設という国の基準にはまったく達していない。奈良県とよく似た状況が、千葉においても発生する可能性があり、事実過去には類似したケースが報告されている。
救急搬送システムの整備はきわめて大切である。妊娠高血圧症から子癇発作をきたした妊婦を抱えた一人医長が、病状の急変に対応しつつ搬送先を探すのは、事実上無理である。
おわりに
産科医療の抱えている問題は、①マンパワー不足と、②医療システムの欠如の2つに集約される。①には、労働環境・法制度・患者の意識など社会的な問題が関わっており、結局①も②も社会との関わりの中で解決していく必要がある。
産科医療は、reproductionという神秘的で魅惑的な生命のいとなみを対象としており、この分野に興味をもつ学生は多い。しかし、学年が進むにつれて、産科への志望を断ち切る学生が増えてくる。
本稿であげたような産科が抱える社会的な問題にしっかり取り組み、労働環境を改善していくことで産科を躊躇せずに選ぶ研修医が増えてくるものと思う。千葉大学では、先に紹介した教育担当者を中心に教育面での充実も同時に図っている。
おわりに、このような産科側の取り組みに対して、千葉県医師会や千葉市医師会などからも、あたたかい支援をいただいていることに感謝したい。また、周産期施設を有する県内の病院のトップの多くが周産期医療問題を真摯に考えてくださっていることにも、深甚の謝意を表したい。周産期を直接担当していない先生方の産科医療への問題意識・ご意見は、これから周産期医療を選択しようと考えている研修医・学生にとって、最もインパクトのある発言といえる。このような側面でのご支援に深く感謝申し上げる。
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