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(投稿:by 僻地の産科医)
なぜ医療崩壊がおきたのか
日時:平成19年9月15日 午後3時
場所:中日ビル5階 中日パレス クラウンホール
プログラム
・開会挨拶 愛知県医師会長 妹尾淑郎
・講演 司会 愛知県医師会理事 川原弘久
テーマ 「なぜ医療崩壊はおきたのか」
講師 埼玉県済生会栗橋病院副院長 本田宏
というわけで、とりあえず二時間近くもの講演をまとめるのはとても難しいのですけれど、できるところで上げさせていただきますo(^-^)o
<前回までのお話>
さてこれを読んでいただく前に、こちらを読んでいただくと参考になるかもo(^-^)o!イタリアの救急についてです。
救急外来のあるべき姿 /イタリア
産経新聞 2007年9月16日
http://megalodon.jp/?url=http://www.sankei.co.jp/seikatsu/kenko/070916/knk070916000.htm&date=20070916211848
さて、ここからは社会保障の話になります。
社会全体がお金を使う場合に、何にお金をかけているかということについてみていきましょう。
図はアメリカと日本の社会保障額についてです。
アメリカ、軍事費多いですね。でも見てください。半分以上が社会保障の金額になっているんですね。これに対して日本です。たった23%しか社会保障には使われていないんです。
社会保障というのは文字通り「社会を保障する」最低限の費用になっていきますし、幸せな人生をみんなで送れるかどうかというところでとても大事なところなのですけれど、これに対して当時の財務相だった谷垣さんはこうおっしゃっているんですよね。
「社会保障規模を国民の経済の身の丈にあったものにしていくためには、孫悟空のように鉄のたがをはめてギリギリと絞める必要がある」
ギリギリと締めあげられているのは国民の社会生活の基盤となる「保障部分」なのに、これが省庁の考え方なんです。
ここで国民がどんなことにお金を使っているのかみていきましょう。
いちばん上が医療費ですね。携帯電話やパソコン、それからパチンコとほぼ同じ金額。なのに「高い」と皆さんはおっしゃいます。
自分の体のことなのに、みなさん「たのしい」ことのお金をかけるのは平気なんですよね。でも「自分の健康を守る」ことのほうが大事なのに、そんなことはみんな考えないんです。
「医療を守る」ことは「健康を守る」ことと同じです。
で、面白いことに葬儀代金みてみると、もちろんこれは一生に一回のことなんですけれど、医療の半分くらいのお金をつかっていらっしゃいます。
これは人それぞれの考え方ですが、生きていることにはあまりおカネを使わないで、死んでから使うんですね。日本人ってこういう考え方なんです。ここのところ、もうちょっと考えた方がいいのじゃないかとおもいます。
健康を守るのは大事なことじゃないのでしょうか?
無駄な支出が公共事業でもかなり多いんですよ。たとえば高速道路などに設置されている緊急電話ですが、あれって1km毎に設置されていますが、250万円かかるんですって。あれ考えた方がいいですよね。たとえばもう携帯電話の時代だし、あれなくして社会保障にお金をかけた方がよっぽどいいと思うんです。
体の一大事にかけるお金よりも、こういうところで政府はお金をかけているんです。どう思われますか?
こういう話をすると、こういうことを仰る人が必ず出てくるんですね。でも、医師を増やさずにどうしますか?どう解決できますか?
医師が増えればいい話じゃない。たしかに増やせば解決する問題じゃない。でも今の医療は危険です。質も悪いんです。アメリカ人に未開国だと思われるような「質」の医療しか提供できない。
医師を、医療費を増やさずに、どう解決するんですか?
さまざまな国には色々な性格があります。
社会保障もいろいろあります。日本は昔からすべてを家族に追わせる文化があって、それと同じように社会保障も「家族依存型」です。つまり家族内でなんとかしてくれよ、負担は家族で、ということですね。
アメリカは「市場依存型」。ビジネスが介在すればなんでもありという考え方です。スウェーデンなんかは「政府依存型」です。
日本はなんの擦り合わせも覚悟もないままに「アメリカ型」を目指しています。これはなかなか弊害も多いのだけれど、ただ業界などのいうままに、それがいいと思って目指しています。これは幸せなことでしょうか。本当はスウェーデン型を目指すべきだと思うんです。国がみんなの医療などは担ってあげる。そのためにみんなは税金を納める。これは僕だけが考えることじゃなくって、みんなが決めていくことです。
知っていますか?
日本国憲法ってこういうこと保障しているんです。私はこれをみた時にビックリしました(笑)。いや~今まで見てきていただいてわかると思いますけれど、国の考え方、まったく憲法違反ですよね。みんなの健康も幸せより経済を大事にしています。
これは一般の人もしっかり考え方をチェックしていかなければならない問題です。
たとえば他業種でのニュースですけれど、国のこういう考え方の問題点はすでに指摘されているんですよ。これと同じなんです。医療はインフラです。安全を考える上で大事な大事な業種です。
よく考えていただかねばならない問題なんです。
で、こういうの、頑張って指摘するでしょう?
でもね、日本って国は本当に賢いんですね。ここまで調べるだけでも相当大変だったのですが、そもそも資料やデータを出さないんです。データも都合のいいところを切貼りして恣意的に切貼りされたりされています。一橋大学の教授がこのようにおっしゃっているんです。
こういった少ない情報の中で、報道には少ない情報、しかも国にとって都合のいい情報ばかりを与えたりしています。この姿勢、みなさんにはピンとこられるでしょうが、太平洋戦争中の「大本営発表」とまったく構造が一緒なんです。知らされないこと、考える材料が与えられないことはとても不幸なんです!
また医療っていうのはみんなで支え合うものなんです。
幸せになりたい。それはわかります。だけど、自分だけが幸せになることってできますか?お金を持っていればそれでいざというときになんとかなりますか?それは自分の子供や孫の世代になって、お金がなくなっても大丈夫な制度ですか?
自分だけは大丈夫って言えますか?
私は医療関係者だから、我田引水で話をしているのではありません。医療関係者だって患者の家族になるんです。そして患者になります。その時のためにも訴えたいのです。
患者さんを守るのは、医療関係者としての社会的責任です。格差社会の阻止は国民として大事なことなんです。みんなでしっかりと今こそ考えていくべきなんです。
人間の「四苦」は生・老・病・死。
このすべてに医療は関わります。
医療を考えることは未来を考えることです。そして団塊の世代が爆発的に医療を必要とする時期まで、まだ20年あるんです。まだ間に合います。がんばっていこうじゃありませんか。
それから最後になりますが、NPOで医療制度研究会というのを立ち上げています。最近本を書いたのですが、この印税、全部研究会に入っております。もし気が向いた場合は、ぜひとも読んでみてください。お願いします。
ということでしたo(^-^)o..。*♡
ここまで真面目に打った私も偉いけど、読んでくれた方々ありがとうございます。ふ~しんどかった(笑)。
質疑応答の中から、いくつか秀逸なものを。
Q:医師が自らのストライキを起こすとしたら、どう考えられますか。
A:ドイツなどはストライキを行ったと聞いていますが、日本ではまず、医師がどのような状況に置かれているかが一般には知られていません。
ストライキなどの手段に訴える前に、きちんと今の状況を国民の皆様に知らせていく義務があると考えています。
Q:栗橋病院では、労働基準にのっとった勤務が行われていますか?
A:現実問題としては理想的な環境ではなく、みなさんと同じような状況です。ただ当直明けにはなるべく、せめて半日だけでも帰っていただけるように努力はしています。それから医療秘書さんを置いています。
Q:医師もロビイスト活動が大事なのではないでしょうか。
A:現実的には効き目があるのかもしれませんが(笑)。
ただ医療・福祉・教育問題は、政党がどうとかではなく超党派ですべき問題で、どの政党が政権をとったからと言って、簡単に「こっちの党ではやりません」とか「こっちの党ではやります」とかいう問題ではないんです。どの党にも考えていただけるように、政策をチェックし、声を上げていくしかないと思っています。
また報道に関してですが、報道記事を書いている人も人間ですから、褒められればうれしいし、間違ってたら教えてほしいと思います。
こういった指摘は数がモノをいうところもありますから、よかったら誉めてあげて、間違ったら指摘してあげてください。
(一般の方から)
Q:医療機器が各開業医さんなんかにあるのをみると、無駄遣いだな~とおもう。検査機関を地域でどんと一個たてて、みんながそこにオーダーを出すようにすれば、すこしは医療費も減るんじゃないかとおもう。
A:現実問題として、もともと診療報酬が少ないから、奪い合う構造が背景にはある。今の医療が抱える問題も少なからずある。そういった問題もオープンに語りあっていくべき。ご意見はどんどん出していただいて、すこしでも現状が良くなっていくようにはなしあっていくのが理想の世界です。
まとめ、ありがとうございます。
m(_ _)m
今日、東京出張日帰りだったので、東京で本田先生の本を買って、帰りの電車の中で読んできました。話も聞いてみたいけど、この本はなかなかの出来だと思いました。一般の人にもなるべくたくさん読んでもらいたいです。
投稿情報: hirakata | 2007年9 月17日 (月) 04:29
ありがとうございます。
あまり皺のない脳みそなんですが、一生懸命に読みました。
本田先生の本も、早速購入します。
トラックバックを頂く上に、リンクも張らせて頂きました。
投稿情報: 琴子の母 | 2007年9 月17日 (月) 21:15
いつもありがとうございますo(^-^)o ..。*♡
なかなかまとめるの大変でしたので、お褒めの言葉嬉しいです!!!!
これからもよろしくお願いいたします。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年9 月17日 (月) 21:40
マンガ週間少年ジャンプの「ブリーチ」に髪も爪も自分の一部なら手入れをして飾り立てるのに、切り落とされた瞬間から不気味に見えてしまう、それは髪や爪が自分の死んだ姿そのものだからという詩がのっていました。
老・病・死はさっさとゴミ箱に捨てて、見えなくしてしまいたい、そんな国民性を私たちは持っているのかもしれないですね。そして医療者の方は見たくない側で働いていらっしゃる。
非医療者・元「障害児の親」です。地元FM局に出演依頼してきちゃいました(^^;)。自分をネタに、医療崩壊についてとか、出産前教育とか、竹まつさんの話やら、奈良の妊婦さんの話などをからめてお話できたらいいな~と思っております。変な事いわないように気をつけます。まず、採用されるかどうかもわかりませんが。
しかし、スウェーデン、どうやって出生前診断および選択的中絶を周知させてるんでしょう。ぼちぼち調べたいと思います。
投稿情報: 忍冬 | 2007年9 月20日 (木) 10:42