(関連目次)→医療政策 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
なぜ医療崩壊がおきたのか
日時:平成19年9月15日 午後3時
場所:中日ビル5階 中日パレス クラウンホール
プログラム
・開会挨拶 愛知県医師会長 妹尾淑郎
・講演 司会 愛知県医師会理事 川原弘久
テーマ 「なぜ医療崩壊はおきたのか」
講師 埼玉県済生会栗橋病院副院長 本田宏
というわけで、とりあえず二時間近くもの講演をまとめるのはとても難しいのですけれど、できるところで上げさせていただきますo(^-^)o
<前回までのお話>
さて、先ほどみてきたように日本の医師数はどんどんOECDと乖離していってしまっています。日本の医療がどうして現在のように貧弱になってしまったのか。それを見ていきたいと思います。
1973年には一県一医大構想というのがありました。日本のお医者さんは少ないから増やそう。1970年に決めた最低限必要な医師数を人口10万人当り150人と目標を設定したんですね。
ところが1983年には突然「医療費亡国論」が発生し、1986年には医学部入学人数を減らし、OECDとの乖離がますますひどくなっていきました。
厚労省は年間4000人医師数が増えていていると主張しますが、この状態で行けば30-40年の月日をかけてやっと現在のOECD平均レベルに届くという状態です。
ついに現在では、日本はOECD加盟国中医師数は63位、これは労働基準法無視の過重労働に直結しています。韓国やメキシコより少し上、しかし日本は韓国に言わせると「日本から見習うところは何もない」とまで言われるような状態です。
また右側の医師年齢を各国で調べたものをみてください。
日本のところにだけ60歳、70歳、80歳以上の欄があるんです。
これ、世界各国にはありません。はっきりいって、日本の医師数は「医師免許をとって死ななければ」数えてもらえるというありがたいシステムです。寝たきりでもみなさん医師一人頭ですよ~。
米国の場合はフルタイム勤務の医師数だけなんです。(Full-Time-Equivalent) それでもこんなにいるんです!
このままでは2020年には10万人あたりの医師数はOECD加盟国で最下位になります。(近藤克則 日本福祉大学社会疫学試算)
これ厚労省が出した年齢分布の図なんですけれども、これからみると65歳以上の4万人が数えられているんです。はっきりいって全然足りないのに。26万人っていってもまじめに働いているのは22万人くらいだとおもってください。まったく足りないんです。
日本になぜこれだけ医者がいないか。医療費が少ないか。
それはずっと医療費を抑制していたからで1983年以降は特に顕著です。高齢化、社会が豊かになるにつれて、医療というのは人間の幸せの根幹に直結していますから、右肩上がりになるのが普通です。
しかし日本では抑制しているせいでほとんどあがっていないのです。またイギリスはついにここへ来て政策転換し、医療費を二倍にする政策を採りはじめました。
さらにあれほど医者のいる国でも、英国医師数50%増、米国は将来の高齢化による医療受容増大を見越して医学校と医学部定員の増加を実施しています。なぜなら医者は育てなければならないからで、「将来の需要を満たせなくなるから」という理由なのです。第二次大戦中、将兵にも休みがあったというアメリカはさすがにたいした国です。
しかし、日本は財政赤字だから、と官僚の方々はいいます。日本は赤字なのでしょうか?ここに国際比較したグラフがあります。
日本は確かに赤字が多い。だから医療をあきらめなければならない?福祉を削らねばならない?私たちは人間らしい生き方をあきらめなければならないのでしょうか。
そこでこの予算がどのように使われているのか。公共事業(左)と社会福祉(右)の面でグラフをみてみましょう。
公共事業はバブル経済期にちょっと落ち込み、そのあとずんずん膨れ上がって、しかし財政難だからでしょうか。ちょっと下がってきている。しかし結構使っているんですね。昔から使っているんです。
一方、社会福祉は先ほども言ったとおり、徐々に上がってきている。これは高齢化・社会の高度化などありますから仕方のないことです。
で、財務省の方々に講演をこの前していただいたんですけれど、そうしたら96年以降のところだけ切取って説明しているわけですよ。みてください。公共事業96年から先をみればちょっと減っていますね。減っています、たしかに。で、社会保障費だけみると、上がっているんですね。「だから、社会保障費を削らなきゃいけない」ってあんた、まるめこまないでくださいよって私は申し上げたんですよ。
グラフ一部だけ切取ってプレゼンテーションしていたらまったく嘘ですよ。日本でどれくらい公共事業費を使っているか。国際比較があります。これをみてください。
これは土地代を除いた工事費のみをドル換算したグラフです。日本は日本を除いたG7主要7カ国のすべてのお金をたしたよりも多いんですよ。これでは「社会保障国」ではなくって「社会舗装国」ですよ。
またこちらは社会保障費と公共事業費の額を比べたグラフです。
日本だけですよ、公共事業費のほうが多いような国は!人々の安全や健康、幸せな生活なんかよりも、工事が大事なんですよ。
一般的に公共事業は「雇用が見出せる」「社会に貢献する」ってみんないいますけれど、先ほど申しましたとおり、医療だって人手不足で、明日からでも手伝ってほしいくらいに人的必要性、雇用だって見出せる。医療費を個人個人の自己負担じゃなくって、いま公共事業に行われているように医療につぎこんでいただければ、
医療だって「雇用が見出せる」「みんなが幸せになる」んですよ。
どうですか、みなさま、そう思いませんか?
これは盲腸の場合にかかる医療費と、自己負担の図です。
まずは医療費でみてみましょう。日本30数万円、アメリカだと243.9万、ロンドン114万、フランクフルト42.5万、パリ47.7万、バンクーバー54.6万、日本格段に安いでしょう?
でもね、ヨーロッパの自己負担見てください。ただなんです。つまり自己負担がひくい。アメリカなんかはまぁどうしようもないかもしれないけれど、日本は自己負担は高いんです。
一番安いお金で、医療器械やお薬はもう他の国では考えられないほどいい機械を使っていますし、それにあれこれ規制が厳しすぎて日本は高いものを売りつけられているわけです。
物価も高い、人件費も他の都市よりも高い、でも一番安い医療費で、材料にはお金を払っている。病院が赤字になるのは当然ですよね?
でもまだまだ先があるんです。
今、じゃあ、さらに自己負担を高くして、自由に患者さんがいい薬や治療を選べるようにしようという動きがあるんです。これは製薬会社などがどんどんいい薬や機械をさらに患者さんに売りつけたいと考えているから。
でもこれは理不尽なんです。世界ではもっと患者さんのために政府が、政治がお金を負担してくれている。日本はそれをケチってケチって、さらに自己負担させて、そのうえ払われた医療費のほとんどが病院の建物代や機械代、薬代に消えていってしまっている。正しい情報は誰も知らないから、国民も報道も「日本の医療費は高い」と信じ込まされている。気をつけなければなりません。
こんな中で、病院は次々と破産に追込まれ、最初に見たとおりの医療破壊が起きていっているというわけです。
とりあえず、もうちょっと続きますo(^-^)o ..。*♡ (つづく)
"日本は日本を除いたG7主要7カ国のすべてのお金をたしたよりも多いんですよ。これでは「社会保障国」ではなくって「社会舗装国」ですよ。"に関してですが、私も一人の納税者として関心があります。
日本中がコンクリートだらけで魅力がないのは日本に訪れる旅行者の少なさでも証明できます。年間何千万人も旅行者が訪れる日本より(人口・面積などが)小さな国もあるのに、日本に純粋に旅行に来る外国人は実際100万人未満といわれています。いい加減コンクリートと電柱だらけの国でなくなってほしいです。もちろん医者の数を増やしてもっと実質的診療時間を増やしてほしいです。
投稿情報: MEMZ | 2007年9 月16日 (日) 11:43
データは判りますが、現実には、困っているのは
1.勤務医の書類作業の煩雑さ
2.医師数の少なさ
3.医療費が安い等々
これに対して、政策は、逆行。
例えば、端的にいえば、医師数を倍にして、医療費(負担)を倍にすれば、問題が解決するか?結論は、しないでしょう。
儲けすぎの医師とか病院経営者もいる。
美容整形と保険外診療は、、、Kr省の建て増し医療行政は限界に来ていると感じます。
本田先生のお話は、筋論で、正しいと思いますが、現実論で、Dr.Takechan先生の提唱していた10課題に対して、どのように、具体的に対応するかが説明されていません。
それでは医師数をどのように増やすかなどの対応が、いまひとつです。入学定員をふやせば良いというものではないでしょう。例えば、年間4000人の医師が増加する、、、同時に医師免許定年制も論じなければ、、、65歳定年とか、、、現実的でしょう。医師会(医師)はよいとこどりばかしていては、世間を敵に廻すでしょう。マスコミの書いていることはひどすぎますが、、、
投稿情報: とまと | 2007年9 月16日 (日) 14:58
わかりやすい記事をありがとうございます。
一県一医大ですが、
Uターンを考えると
一県0.5医大ぐらいでしょうか?
入退院を繰り返している、
老年期痴呆になった医師の方までが
病院の医師数にカウントされています。
どんなもんでしょうか?
笑ってしまいますね。
医療費を上げるには
ただ、医療費の財源論も必要です。
窓口負担にするのか税金にするのか?
土木公共事業関連からはただでさえ失業者が溢れかえっています。それをスムーズに医療福祉分野にまわせるようなシステム論が必要です。
結局は国民がいくら医療費にお金をかけられるのか?という問題。
その投資は、雇用を喚起して好循環を形成することには多いに役立ちます。そして現状の過重労働軽減にもなります。
広く国民的議論が必要です。
ただ現状をきちんと認識しないと、現在の与党のように、ただ医療費削減・効率化という知恵しか生まれません。
不景気の最大の原因と考えられる少子高齢化という背景もある中でどうしていったらいいのか課題は山積しています。
もうひとつの日本を目指して頑張りましょう。
投稿情報: 大森 義範 | 2007年9 月16日 (日) 18:20
コメントありがとうございますo(^-^)o ..。*♡
まず一つ申し上げたいのは、本田先生は私たちと同じ一勤務医だということです。独自の勉強と情報収集にてここまでの資料を集めたということが本当に驚異的です。
日々情報収集をおこなっていますと、本当にスライド一枚にどれだけの労力がかかっているかわかる気がいたします。
そのうえで、彼には実行力があるわけではありません。一勤務医に過ぎないからです。
おかしいことをおかしいと声をまずあげること。それだけでも感嘆に値するようにおもわれます。
政策を考えることが私たちの仕事ではありません。そして「現場を離れてしまったら、現場の声がわからなくなってしまうから」というお気持ちも、私はとてもわかります。
自分のできるところからひとつひとつ声を上げているということが、今回の講演でとてもわかったことなんですo(^-^)o ..。*♡
というわけで、ここでは「現状のおかしさ」について述べている、という理解でお願いします。
また私自身は、医師を増やしてほしいとおもっています。こと産科に関しては時間交代制にしてほしい。本当に大変なんです。わかっていただけないでしょうけれど。
医師を増やしてどうするんだ、とおもう方はそれでいいのでしょうが、緊急の多い外科系の医師には切実です。
次は国民のお金の使い方などについても言及します。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年9 月16日 (日) 20:29
産科医を増やす。コレって、基本的には賛成です。医師数を増加させることと出産費用を上げることも必要でしょう。奈良の事件や福島の事件を考えると、妊婦の出産前受診率が課題と感じます。普通ならば、事前検診しますね。あのようなケースがマスコミに取り上げられることのほうが問題でマスコミはもっと、事前検診が大切だと書いて欲しいですね。
福島のケースは、事前検診ではわからなかった。リスクはあっても紀子さんケースは、広尾の病院で対応している。
正常分娩ならば、助産師さんで対応可能でしょう。
健康診断が当たり前になりつつあるといっても現実には健康診断を受けない人が多いし、検査も、、、マーカー検査などだって、事前に完璧な制度にはしにくい。
医療に関する、知識の適正な周知が変わるような気がします。
投稿情報: とまと | 2007年9 月17日 (月) 10:41
わかりやすい記事をありがとうございます。
ただ、1つお伺いしたいのですが、
この画像は先生の許可をもらって掲載してますか?
>本当にスライド一枚にどれだけの労力がかかっているかわかる気がいたします。
と、ありますように
スライド一枚にしても著作権があります。
投稿情報: とっとこハム | 2009年3 月17日 (火) 13:44
この記事は、本田宏先生の添削を受けていますo(^-^)o!!
聴取りで、数箇所間違いがありましたので、
お忙しい最中ご指摘をしていただきまして直させていただきました。
参加された方ならお分かりとは存じますが、
「僕のスライドはどこで使っていただいてもかまわない」
と自らコピーして持ち歩きされていますし、
欲しければ問い合わせにて下さると思います。
(情報は共有するものだという尊いご意思をお持ちです)
この日使わなかった分のスライドまで大量に頂いてしまいました(^^;)。
その後本田先生とは親しくさせていただいています。
メールのやり取りもあります。
あと本当に人の顔を覚えていらっしゃる方で、
忙しいのに、超人的でびっくりします~..。*♡
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年3 月17日 (火) 13:55