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(投稿:by 僻地の産科医)
なぜ医療崩壊がおきたのか
日時:平成19年9月15日 午後3時
場所:中日ビル5階 中日パレス クラウンホール
プログラム
・開会挨拶 愛知県医師会長 妹尾淑郎
・講演 司会 愛知県医師会理事 川原弘久
テーマ 「なぜ医療崩壊はおきたのか」
講師 埼玉県済生会栗橋病院副院長 本田宏
というわけで、とりあえず二時間近くもの講演をまとめるのはとても難しいのですけれど、できるところで上げさせていただきますo(^-^)o
まず、先生は20年近く市中病院の外科で働かれています。
今回も勤務医としての夏休みを利用して、講演を続けていらっしゃるということでした。今日はこれで3つめの講演。
疲れてパワーが落ちていなければいいけれど~とおっしゃっていました。
医療崩壊については医師数の減少ばかりを指摘しても意味がありません。
全体像をみなければ意味がわからない、そのためにデータを集めてきました。
一枚のスライドを作るにも、こうやってあげてしまえば簡単ですが
何年もの歳月がかかっています。
みなさまにはこのスライドはどんどん使用していただいて構わないので
「一般の方々」にまず正しい情報を伝えていくこと、
家に帰ったら三人の人に今日聞いたことを伝えてほしいこと、
よい記事をみつけたら、褒めてほしいことo(^-^)o!!
間違った記事にはこまめにレスポンスを!
報道の方々も、省庁の記者クラブで聴いたことを記事にしているだけで、
正しい情報が伝わっていないこと、聴いたことをそのまま書くのではなく、
きちんと情報は調べ直すのが大事です。
生・老・病・死は昔も今もかわらず人生における重大問題です。
医療の問題は社会のあり方の氷山の一角であり、
国民みんなに社会的責任があります。
説明責任を、私たちはメディアに果たさねばなりません。
最近、産科の問題が取りざたされていますが、産科施設はこの3年で半減しました。医師不足の解決なしで救急体制の改善はありえません。栗原病院の周囲でも小児科施設が減ったために、小児科施設の輪番性がとれなくなりましたが、「無理にやれ~っ!」と言ったって、それで解決できるものではありません。
さて、ここにOECDのデータがあります。
こちらを見ていただくと、左側が平均余命、日本人はとても長いですよね。右が国民一人当たりの医療費です。イギリス、イタリア、カナダ、アメリカ等先進各国の中で一番低いのがわかります。
いわば日本は「一番安い医療費で、一番長生きできる国」なのです。それを支えてきたのが日本の医療です。
しかし、このような日本の医療ですが、日本滞在の外国人に言わせると、「あんなところに入院したくない」とおっしゃいます。
なんで?安くって、いいじゃん!
とおもうでしょうが、日本の医療は基本的に大部屋だったり、3時間待ちで3分医療だったりするので、外国人からみると、とても貧しく見えるんですね。
米国の医療などは大変に高いことはご存知だとおもうのですが、そのかわり医療を受けられる人には、質の高い医療が受けられるわけです。日本の医療の質は安かろう悪かろうで50年前のサービスだと思われているわけです。ただお金をかけず、いつでも、安く、高品質=安全にというのは日本の常識かもしれませんが、お金をかけずに高品質を受けられるわけもなく、その考え方は世界の非常識なのです。
日本には標準医師数というものがあります。昭和23年に規定されたものですが、この昭和23年に決められた医師数でさえ、北海道・東北は51.3%、近畿でも87.0%とまったく満たしていないのが日本の現状です。
また、医療崩壊の実例は、麻酔科医がいなくなったの、手術ができなくなったのと日々新聞で実例報告されているではありませんか。マンパワーが圧倒的に不足しているのです。
厚労省は医師は偏在しているだけだ、といいます。
図は各県の人口当たりの医師数です。日本の平均が黄色い矢印、これだけみれば偏在といえるかもしれませんが、上の白い矢印がOECD加盟国の、いいですか、平均(日本より貧しい国がいくらもある中での)医師数です。越えている県はひとつもないのです。
日本の医師数は26万人です。
厚労省は毎年4000人も医師が増えているという。でもOECD標準にも12万人足りません。26万人いて、12万人足りないんです。どれだけ“貧しい”医療体制であるかわかります。
それでも、やっと医学部定員を増やし始めました。
去年が全国で100人、今年は250人増やすといいますが、焼け石に水です。
このままではいつまでも国民は「たらいまわし」です。
こちらは日米病院職員数の比較です。
日本は圧倒的に医師が足りない上に、アメリカには患者さん搬送用の職員や秘書までいるのです。日本の医師は一人何役もこなさなければならない。日本の医師はタイピングコンクールにだしたら世界一ですよ!だって米国でそんなことする必要がないんです。日本はこなさなければ、何も回らない。その分患者さんが待つ羽目になるわけです。下手したら医師がベッドを押している場合まであります。マンパワーが圧倒的に貧弱だといわれるゆえんです。
医療は雇用促進もはかる事ができます。チーム医療は人がいるからできるんです。でも日本にはチーム医療を行おうにも、チームを組む相手がいません。一人ではチームが組めません。
アメリカで外来抗癌剤治療がすすむのは、入院すると50万などの費用がかかるから切なる訴えになるわけですが、日本ではマンパワーが足りませんから安全に行えるかどうか怪しいものです。下手すると医師がアンプル切っている。アメリカでは忙しい医師に医療事故防止の観点から処方箋を書かせないくらいなのに。
日本では勤務医は一人何役もこなさねばなりません。
忙しいのに、さまざまな要素が求められます。
1知識 2技術 3心(あかひげ) 4説明 5精神性 6ユーモア 7リーダー的要素 8そして後進の指導 9気力体力(呼びつけたらいつでも来い) 10収入の清廉さ 11定年なし
勤務医は転々と病院を替わったり、一人前になるのが遅いのもあって、最近、週刊東洋経済やプレジデントに特集されていましたが、大企業より生涯賃金が低いのに、理不尽です。
精も根も尽き果てるような働き方をせずとも、安全な医療を提供できるように職場の体制を作っていかねばなりません。
日本外科学会は「この状態が続けば外科学会への新規入会者は2018年にゼロになる」と警鐘を鳴らしています。
必要なのは「普通のドクター」です。このままでは盲腸でも日本で人が死ぬようになります。「スーパードクター」の必要な病気になる前に、人が死んでしまうようになるのです。
とりあえず、なんか疲れてきたので、つづきは明日以降になるかもo(^-^)o ..。*♡
(つづく)
本田先生に関して他人の評価しか知らなかったのですが、なかなか素晴らしい内容ですね。
もちろんその講演を的確にまとめてブログで提示できる僻地の産科医様も大したものです。すごい!
投稿情報: 元行政 | 2007年9 月16日 (日) 09:01
いつも勉強させて頂いています。
今日の内容も、印刷してじっくり読み込みたいとおもいます。
3人の人にまずは伝える>読み込んで、実践します。
続きを待っています。
私のブログから、またリンクを張らせてください。
投稿情報: 琴子の母 | 2007年9 月16日 (日) 11:03
あのマシンガントークについていってメモするなんてすごい!私は最初からメモをあきらめていました。
おうちに帰って夫のPCに勝手にスライドをダウンロードしました。CDに焼いて医局で配ろうかな。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2007年9 月16日 (日) 11:10
帰国前に日本の医療の現状を復習するいい機会となりました。みんなが本田先生を慕う訳が分かりました。
投稿情報: Taichan | 2007年9 月22日 (土) 13:18