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(投稿:by 僻地の産科医)
このところ一生懸命、子癇と脳出血について文献を読んでいました。
子癇と脳出血の鑑別は難しいです。
脳出血であろうとなかろうと、まず基本は子癇として扱うべき、
というのが産科の考え方です。
でも!
なにかなにか違和感があって、一生懸命文献を探していました。
で、出会ったのがこれ↓(ごめん、ウェブではアップしていません)
周産期に発症した脳出血の2症例
岸田秀夫 平岡仁司 木阪義憲 野村一志 久松和寛 占部武 藤原篤
産婦人科の実際 vol.31. No.8 1982 p1453-1459
表4 子癇と脳出血の鑑別診断
4.診断(p1456)
脳出血の臨床像は血圧上昇・痙攣発作・昏睡など子癇ときわめて類似しているため、両者の鑑別診断は臨床上非常に重要である。子癇と脳出血の鑑別診断は第4表に示す通りで、
子癇では基礎疾患として妊娠中毒症が認められ、血圧は高度に上昇し対光反射は遅延するが瞳孔不同は認められない。痙攣は強直性・間代性でしばしば反復し麻痺は通常認められず髄液は血性とならない。
一方脳出血では血圧の上昇は通常子癇ほど著名ではなく、対光反射は遅延し、もっとも重要な所見として瞳孔不同が認められる。痙攣は初期に全身性またはJackson型痙攣を示すことはあるが反復せず、麻痺は片麻痺で髄液はしばしば血性となる。
ちょっと思いだしてみてください!!! 左片麻痺 ↓ 側頭葉鈎ヘルニアでの動眼神経麻痺 ↓ 瞳孔不同(右散大) ご家族の主張でも痙攣を繰り返したことが書いてありました。 日本母性保護産婦人科医会(現:日本産婦人科医会) [前駆症状] また典型的な子癇の進行としては 注意事項としては急激な母体血圧の下降は、子宮胎盤血流量(要は赤ちゃんへの血流)を減少させるので、必ず胎児心拍数モニタリングを行う。また、ジアゼパムやある種の抗痙攣剤は胎盤を通過するので、急速遂娩後の新生児呼吸状態に十分注意するとあります。 どうしても子癇→脳出血だったように思えて仕方ありません。 ちなみに近年、日本においては子癇発作が減りつつあります。 どうしても気になったので、
5:50国立循環器センター搬送時のCTでは明らかに右側の出血なんです。
ということは、
もしも最初から脳出血だったとしたら、
まず
が考えられます。
これも脳出血だけの症状としては考えにくいと思います。
H13.3月発行の研修ノートNo.64での子癇(P69)には
・頭痛:80%以上に出現
・視覚障害・視野暗転:約40-50%
・右上腹部~心窩部痛:20%
・悪心・嘔吐
・振戦
[検査所見]
・高血圧と循環血漿量の減少
・血液濃縮(Htの上昇)などが書いてあり、
[母体管理]
子癇の根本的な治療は妊娠の終了である。
1)病室内を暗くし、絶対安静とする
2)高血圧が著名な場合には、薬剤を用いて降圧をはかる。
3)子癇発作時に誤嚥による気道閉塞を避けるため、絶飲食とし、静脈路を確保する
4)痙攣発作の時、第一選択薬として、硫酸マグネシウム4gを投与
などと書かれています。
1.誘導期
意識消失、瞳孔拡散、対光反射消失、眼筋痙攣、顔面痙攣を認める
2.強直性痙攣
痙攣が全身に広がる、後弓反張、呼吸停止(10-20秒)
3.間代性痙攣
間欠的痙攣、瞳孔散大、チアノーゼ
4.昏睡期
痙攣発作やチアノーゼは納まる
顔面浮腫、いびきを伴う昏睡状態となる
子癇後の脳出血は、もともと予後の悪い子癇のなかでも
予後のわるい状態として知られています。
子癇の20-30%には脳浮腫や脳出血を伴うことも知られており、
瞳孔が両側とも散大していたことや、
痙攣発作を繰り返したこと、
経過等を考え合わせると
陣痛の場面に内科医が立ち会うこともないせいでしょうか。
私がきいて回った周囲の内科Drはひとりも『子癇発作』をみたことがありませんでした。(脳出血はみんなあるそうです)これは余談です。
お勉強したことをとりあえずエントリーさせていただきましたo(^-^)o..。*♡
>1.誘導期
意識消失、瞳孔拡散、対光反射消失、眼筋痙攣、顔面痙攣を認める
瞳孔も開いて、対光反射もなくなるんですね。
意識障害を発症した妊婦さんを診る可能性を考えると、大変勉強になります。
投稿情報: 大森 義範 | 2007年9 月12日 (水) 18:43
ところで、脳出血の痙攣に硫酸マグネシウムを投与すると、痙攣はおさまるのでしょうか?脳外科の先生、教えてください。
産科だとこのような場合、子癇と考えてとりあえず硫酸マグネシウムを投与すると思いますが。
投稿情報: 一産科医 | 2007年9 月13日 (木) 10:00
ご報告になっている事の意味は、私には正直言って判りません。
でも大森様がお書きになっているように、きっと現場の医師たちにとっては非常に重要なことなのだと思います。
それはきっと大淀のケースの有責無責を問うためだけではなく、困難な症例に出会ったときの対処の方法を、学会ではなく、ネットという普通に現場にいる医師たちが交換し合えると言うことではないかと強く感じました。
大森先生の、「大変勉強になりました」。
僻地の産科医さんの努力が、もしかしたら、大森先生の患者を救うことになるかもしれないと。
投稿情報: ママサン | 2007年9 月13日 (木) 12:29