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(投稿:by 僻地の産科医)
今月の産科医会報(8月)から続く話題です!
YUNYUN先生!お待たせしましたo(^-^)o ..。*♡
っていうか、これ読んでも全然わからないと思いますけれど。
えっと要するに、まず基本中の基本は、羊水が血中に入ることって
基本的にありえないのです。でもなぜか入ってしまうことがあります。
入ったときにアレルギー反応がでることがあります。
羊水自体が、母体に強烈なショックを引き起こすのです。
そして「基本的に母体血中に羊水・胎児成分がはいることはない」ために胎児由来成分であるZn-CPI・STNなどが観察される場合は、羊水塞栓がかなり疑わしいという傍証になるわけです。
というわけで、たぶんまったく疑問にお答えしていませんが、
産科関係の皆様のために羊水塞栓への対応!どうぞ!!!
木村聡 杉村基 金山尚裕 羊水塞栓症とは 羊水塞栓症(amniotic fluid embolism:以下,AFE)は周産期領域において妊産婦死亡を起こす主要な疾患である.現在の妊産婦死亡率は1万分娩に1例以下と減少しているが,そのなかで第1位は産科的塞栓症である.産科的塞栓症には肺血栓塞栓症(PTE)とAFEがあるが,PTEに対しては血栓症予防ガイドラインがあり,予防策が講じられていることもあってPTEによる死亡例は現在減少傾向にあるといわれる.しかし,AFEに対しては原因がいまだによくわかっていない部分も多いため,定まった診断法や治療法が確立していない.そして、ひとたび発症すると死亡率は60~80%と高率であり,その原因の究明と対策はわれわれの大きな課題である. 病態生理 AFEは羊水成分が母体血中に流入することによって引き起こされる「肺毛細血管の閉塞を原因とする肺高血圧症とそれによる呼吸障害」が原因といわれている.分娩中または分娩直後に,何らかの原因によって羊水中の胎児成分(胎便・毳毛・胎脂など)と液性成分(胎便中のプロテアーゼ・組織トロンボブラスチンなど)が母体血中に流入することによって発症する.流入した羊水成分が肺内の小血管に機械的閉塞を起こすのと同時に,ケミカルメディエーターが, 臨床経過・症状・検査 分娩中・分娩後の患者が突然「息苦しい」などの呼吸困難や気分不快などの不穏状態に陥った場合は,AFEを疑う必要がある.重篤なものは引き続き痙撃・呼吸停止・心停止に至る.呼吸障害は軽度のものから重篤なものまでみられ,その重症度は呼吸症状に引き続く心拍出量の低下,ショック,DIC,多臓器不全などの程度によって決まる。AFEに引き続いて起こるDICによる子宮出血が初発症状の場合もあるため,分娩後の出血が多い場合,軽症AFE,またはAFEのニアミス症例とみなして早期の治療が必要である3). 表1 臨床的AFE診断基準(浜松医科大学羊水塞栓症班案) 表2 羊水塞栓症の治療(ABC&D) 治療・対応 AFEは救急疾患であるため治療の基本はABCである.発症が疑われたらまず呼吸と心拍の確認を行う.ともになければ,A(airway)気道確保,B(breathing)呼吸の確立,C(circu1ation)循環の確立が必要である.分娩時には通常すでにルート確保されていることが多いと思われるが,18ゲージ以上の太い針でルート確保し,細胞外液(ラクテック・ヴィーンFなど)を急速投与する. おわりに
【母体救急一対応の実際5】
羊水塞栓症への対応
(臨産婦・61巻5号・p730-733)
(1)肺血管の撃縮
(2)血小板・白血球・補体の活性化
(3)血管内皮障害
(4)血管内凝固などを起こす.
この(1)~(4)の機序によって肺高血圧症,急性肺性心,左心不全,ショック,播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器不全などを起こし,多くは死に至る(早期,急性期反応と呼ばれAFEの半数以上がここまでに死亡するといわれる).
急性期に救命できた場合でも,好中球からエラスターゼ,活性酸素,ロイコトリエンなどの産生・放出が起こると急性呼吸窮迫症侯群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)を発症し予後不良である(亜急性期反応).急性期反応における死亡原因は肺胞循環不全による突然死と考えられており,米国のBenson1〕はAFEがI型アレルギーによるアナフィラキシーショックである可能性を示唆している.一方,亜急性反応後死亡例では肺胞構築は破壊されており好中球の浸潤は強度で,死亡原因は高サイトカイン血症に続発するARDSや多臓器不全症侯群(multiple organ dysfunctional syndrome:MODS)を起こしたためと考えられる2).
臨床的にAFEを疑わせる症状としては呼吸不全・原因不明の大量出血,血圧低下などがある.しかし弛緩出血や深部頸管裂傷,子宮破裂など鑑別を要する疾患も多い.われわれは臨床的AFEの診断項目を定め,点数化したAFEスコアを提唱している(表1).
1.妊娠中または分娩後12時間以内に発症した場合
2.下記に示した症状・疾患(1つまたはそれ以上でも可)に対して
集中的な医学的治療が行われた瘍合
(1)心停止
(2)分娩後2時間以内の原因不明の大量出血(1,500m1以上)
(3)播種性血管内凝固症候群
(4)呼吸不全
3.観察された所見や症状がほかの疾患で説明できない場合
(Benson MD: Arch Fam Med:1993より改変)
《AFEscore》
以上1,2〔(1)~(4)〕.3の6項目のうち3項目以上当てはまるものを陽性とする.
AFEの確定診断は死後の剖検によるしかない.剖検により肺組織に羊水や胎児成分(胎児扁平上皮・胎脂・毳毛など)を証明する.血清学的診断項目はいまだ確立されたものはないが,浜松医科大学産婦人科学教室ではZn-CPI(亜鉛コプロポルフィリンⅠ)とSTNを測定して,補助的診断法としている(表2)4).Zn-CPI・STNともに胎便・羊水中に多く含まれる物質であり,今後有用な診断方法になることが期待されている5-6).
A&B:呼吸困難時,マスクによる酸素投与(5~6L/分)
重篤な場合は気管内挿管のうえ,高濃度酸素による陽圧換気をする.
C :できる限り太いゲージの留置針にて血管確保(18ゲージ以上)
もしくは中心静脈カテーテルを留置する.
細胞外液(ラクテック,ヴィーンFなど)を急速補液
D :(薬剤投与)
(1)発症が疑われたらただちにヘパリン5,000~10,O00単位静注
(2)抗ショック療法
a)副腎皮質ステロイド大量投与
ソルコーテフ。ソルメドロール500~1,500mg静脈投与
b)低血圧・急性循環不全1
塩酸ドパミン(イノバン,カタボンHi1~5μg!kg!分)
塩酸ドブタミン(ドブトレックス)
⇒イノバン1体重50kgの場合,10m1(200mg)を200m1に希釈
6.3m1/h=2μg/kg/分となる.
ウリナスタチン(ミラクリッド10~30万単位ノ日点滴静注)
(3)抗D1C療法
a)新鮮凍結血症(FFP)検査データに応じて投与
b)AT-Ⅲ製剤(ノイアート,アンスロビンP)1,500~3,000単位/日
c)メシル酸ナプァモスタット(フサン)0.06~OI2mg/kg/時
d)メシル酸ガベキサート(FOY)20~39mglkg/日
e)メシル酸ナファモスタット(フサン)O.06~O.2mg/kg/時
e)低分子ヘパリン(フラグミン)75単位/kg/日点滴静注
(4)その他
血液製剤(MAP・濃厚血小板)や蛋自製剤(アルブミナー)などは
検査データをみながら適宜投与する.
呼吸困難に対しては気道確保のうえ,ただちにマスクによる酸素投与(5~6L/分)を行う.呼吸困難が強く,重症の場合は騰踏せず気管内挿管を行う.
本症が疑われた場合,ただちにヘパリン5,000~10,000単位を静脈注入する.ショックに対しては副腎皮質ホルモン(ソルコーテフなど)500~1,500mgを投与する.急性循環不全・高サイトカイン血症に対しては,ウリナスタチン10万~30万単位を投与する.血圧低下に対しては塩酸ドパミン,塩酸ドブタミンを1~5γ(μg/kg/分)から投与を開始する.続発するDICに対してはATⅢ製剤1,500~3,000単位,メシル酸ガベキサート20~39mg/kg/日,メシル酸ナファモスタット0.06~O.2mg/kg/時で投与する.DICを発症した場合,フィブリノーゲンの減少が高頻度で起こり,これを補充しなくては出血傾向の改善は望めないため可及的にFFPを投与する.そのほかDATAに応じてMAP,濃厚血小板血液製剤などを投与する.急性期に救命しえた症例の場合,その後の高サイトカイン血症やARDSに対し,人工透析や好中球エラスターゼ阻害薬であるシベレスタットナトリウム水和物(エラスポール)の投与も有効であると考えられる.分娩前に発症した場合,母体の救命処置をしつつ急速遂娩が必要で,子宮口全開前なら帝王切開,全開後であれば鉗子・吸引分娩を考慮する.応援医師(産婦人科・小児科・麻酔科)や高次医療機関へ連絡とともに家族への連絡をただちに行う.
2003年8月より浜松医科大学産婦人科教室では,日本産婦人科医会の事業として羊水塞栓症血清検査事業を行っており,全国より症例を集め臨床症状のデータを解析しZn-CPI・STNなどを測定している.表1のような症状を呈し,羊水塞栓症を疑う症例が出た場合,できる限り発症早期に患者から採血し,遠心分離した後アルミ箔にて遮光し-20度に冷凍保存する.登録用紙・同意書(浜松医科大学より送付または浜松医科大学産婦人科ホームページよりダウンロード可能)とともに,浜松医科大学産婦人科羊水塞栓症班宛に送付する.
AFEはひとたび発症すると進行が急速で妊産婦死亡率も非常に高率である.分娩時や分娩後の呼吸困難,原因不明の出血に遭遇した場合,まずAFEを疑うことが重要で,AFEを念頭に置いた検査・診断法と適切な処置法を知っておく必要がある.またAFEのように母体死亡を起こす疾患は医事紛争に発展する例も多く,当科にも鑑定の依頼や問い合わせが数多く寄せられている.そのためにも,AFEが疑われる症例に遭遇したら当教室まで連絡をお願いしたい.AFEの原因の究明と診断法の確立は妊産婦死亡を減少させ,不必要な医療訴訟をなくすことにつながる可能性があるため,今後の研究が急がれている.
僻地の産科医先生、資料提供ありがとうございました。
医学的なことは分かりませんが、
(なんで、羊水が母体の血管に入ることがあんのー?)
肺の微細な血管が詰まって酸素交換ができず窒息するという大変苦しい病気であることは理解しました。
血液中に異物がどっと入ったら、そら危険やがな。
ここが問題ですが、
> 定まった診断法や治療法が確立していない
> Zn-CPI(亜鉛コプロポルフィリンⅠ)とSTNを測定して,補助的診断法としている
羊水塞栓症である → Zn-CPI・STNが血液中に存在する
は論理的に正しい、では逆はどうか。羊水塞栓症以外には、Zn-CPI・STNが検出されることはないと言い切れるのか?
現段階ではそのことはまだ医学的に実証されていない(通説となっていない)ために、例の事件では認められなかったものと思われます。
> AFEの確定診断は死後の剖検によるしかない
そうすると、現段階では、
羊水塞栓症が「疑われる」患者については病理解剖を行って、証拠を保全しておかなければ、後日訴訟された場合に死因を立証できないおそれがあります。
家族が感情的に解剖を嫌がり説得に応じないケースでは、一筆とっておくしかないか?(私たち遺族は、解剖によらなければ本件の死因の確定診断は不可能である事実を理解した上で、解剖を望まないため、「推定死因○○」との診断結果を受け容れて、今後一切争いません。)
この点については、
およそ人が死んだら、どんな場合でも監察医が検査・解剖して死因を調査せよ
という過激な意見もありますが・・・
生きている人を診る医師さえ不足気味なのに、死体の面倒まで見きれるか、というのが日本の実情であります。
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もう一つの問題は、
> 死亡率は60~80%と高率
一般的に非常に予後の悪い病気であることは理解できますが、
当該患者を助けられなかったのは不可抗力と言えるか?
治療法としては結局、対処療法的に呼吸を回復させるしかないようですが、
ならば、呼吸不全に陥った段階で、原因診断が付かずとも高次医療機関に転送していれば、救命できたのではないか?
この疑問にどう答えるかです。
投稿情報: YUNYUN | 2007年8 月19日 (日) 22:29
>羊水塞栓症以外、Zn-CPI・STNが検出されることはないと言い切れるか?
ざっと論文に目を通しましたが、言いきれるように思います。かなり精度が高そうです。ただ本当にここ何年かのものですので、なかなか信頼が得られないというところの可能性もありますが、私たちの中ではかなり固まってきています。
> 生きている人を診る医師さえ不足気味なのに、
> 死体の面倒まで見きれるか、
> というのが日本の実情であります。
ご指摘の通りです(笑)。
> 呼吸不全に陥った段階で、原因診断が付かずとも
> 高次医療機関に転送していれば、救命できたのではないか?
その点なんですけれど、かなり急性に来るので、高度施設の施設内発症でも助けられないことがほとんどです。その時点で助けたとおもっても、長引いて最終的には亡くなることの方が多いですし。。。。(しかも予測できず。。。)
治療法がない・死亡率が高いというのは、「どこ行ってもダメ」と読み替えていただけばいいとおもいます。そして最終的に助けられるかどうかは、羊水塞栓そのものの病状がひどいかどうかで、発症の時点ですでに予後はきまっていると思っています。(大方の産科医の意見でもあります)
YUNYUN先生、弁護の方で専門外ですのに、
かなり本質を理解されていますね。
びっくりしました!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年8 月20日 (月) 10:18