(関連文献→) 骨盤位分娩 目次
現在夏休みで北海道旅行中です!
(27日夕方には帰る予定ですが強行軍らしいので死んでると思います)
というわけで、こちらの記事はタイマーで紹介しています。(一日2回更新予定)
今日は骨盤位分娩というテーマでお送りします!
米国における骨盤位の管理
八ワイ大学医学部産婦人科 矢沢珪二郎
(産科と婦人科 Vol.72 No.4 2005-4 p431-435)
要旨
米国においては単体満期産児の骨盤位に関しては,証拠に基づいて,すでに結論が出てしまったようにみえる.すなわち,単胎満期骨盤位に関しては,原則として「計画的な帝切による」というルールである.これを無視して経膣分娩を行おうとするときは,「大いなる注意をもって」なされなければならない.骨盤位でも分娩がすでに進行して,今すぐにも生まれそうなとき,また,二番目の双胎児が骨盤位であるときは,この帝切原則は当てはまらない.
はじめに
通常,骨盤位の管理を問題とするとき,その検討対象は単胎,満期の場合に限られ,未熟児や多胎の場合における骨盤位の間題は一般化できない.したがって,本文でもその検討対象は単胎満期(term singleton)の骨盤位である.
経膣分娩のためのクライテリア
単胎で満期妊娠の骨盤位の場合に,経膣分娩をするための前提条件を列挙すると,臨床的に十分な大きさの骨盤腔をもつこと(この判断は,臨床的な検診により,X線骨盤計測は不要というのが米国では一般的である),児頭がよく屈曲した位置にあること(児頭の過進展は経膣分娩の禁忌である),推定胎児体重が3,500g以上ではないこと(巨大児の排除),経膣分娩をおこなう術者が経験豊冨であること,子宮口開大や先進部の下降などの分娩進行が一定の速度で起こり,(足位ではなく)胎児殿部が子宮口によく密着していること(これは膳帯脱落の可能性を考慮して),先進部の骨盤内への下降が十分に起きていること,正常な分娩第Ⅱ期を経過していること,また,麻酔科のカバーがあること,などである.
ACOGの見解
米国最大の産婦人科医の団体である米国産婦人科医会(American College of Obstetricians and Gynecologists; ACOG)は2001年12月のCommittee Opinion (全2頁)でその見解を明確にしているので,まず,それをご紹介したい.
このCommittee Opinionは米国産婦人科医会のいわば公式な見解を示すものである.この文書の要点は以下のとおりである.
・最近の米国では(単胎,満期)骨盤位の経膣分娩が減少した.1999年には,その84.5%が帝切によるものであった.このような状況では,その数的減少のために,骨盤位の経膣分娩をレジデントに教えることもかなわず,骨盤位経膣分娩に関して蓄積されたさまざまな医術(the art of medicine)は継承されることが不可能である.
・大規模RCTの結果
2000年に大規模な国際的多施設によるランダム・コントロール試験(randomized clinical trial; R㎝)の結果が発表された2〕.これは26力国,121施設において,単胎,満期,単殿位または完全骨盤位のもの2,088例を対象とした調査で,これほどの大規模な骨盤位に関するRCTは将来もあまり望めないのではないか,と述べられている.妊婦はまったくランダムに帝切予定と経膣分娩予定とに分けられた.母児は分娩後6週間までフォローした.1,041名の計画帝切群のうち,941(90.4%)は予定どうりに帝切となった.1,042名の予定経膣分娩群では,実際に経膣分娩がなされたものは,そのうちの591名で,56.7%であった.予定経膣分娩例の半数近くが分娩中に帝切に変更され,それ以外の,いわばより安全とみなされた例が実際に経膣分娩となったわけである.それにもかかわらず,(児の)周産期死亡率,新生児死亡率,および(児の)重篤な罹患率は,計画帝切の場合には,つねに予定経膣分娩よりも,低率であった.計画された帝切群では,これらを総合した発生は1.6%(17/1,039)であるのに対し,予定経膣分娩群で,そそまま実際に経膣分娩をした群では5.0%(52/1,039)であった.母体の罹患率と死亡率に関しては両群間に有意差はなかった
(3.9%対3.2%).
この結果を受けて,ACOGは次のような推奨をおこなった.
1.骨盤位の管理には外回転術の施行が重要である.外回転術の施行により,帝切率の低下が可能だからである.この外回転術(external cephalic version)に関しては後述.
2.単胎満期の骨盤位を計画的経膣分娩とすることはもはや適切ではない.
3.単胎満期骨盤位例は,原則として,計画的帝切をおこなうべきである.
4.それでも,あえて,経膣分娩をおこなう場合には,特別の注意を払い,インフォームド・コンセントが必要である.
5.分娩がすでにかなり進行し娩出がせまっている場合,また,第二番目の双胎児が骨盤位である場合には,この計画帝切に関する推奨はあてはまらない.
このように骨盤位に関して明確な見解を打ち出した.その骨子は,
1)単胎満期骨盤位は原則として計画帝切が適切である
2)しかし,骨盤位そのものを減少させる可能性のある外回転術はなるべくおこなうべきである
という2点からなる.
外回転術(僻地の産科医注:参考に助産所助産師の過失が認定された事例)
骨盤位に対しておこなわれる外回転術(external cephalic version)の成功率は35-86%,平均して58%程度とされている3〕4〕.外回転術の究極の目的は合併症のない経膣分娩をおこなうことである.以下,ACOG PRACTICE BULLETINより,外回転術に関するいくつかの要点をみると,Q1-Q6のとおりである.
Q1:外回転術は妊娠のどの時期におこなうか?
外回転術は妊娠36週以後におこなう.これは,
1)骨盤位から頭位への自然転換が起きるとすれば,36週頃までにおきる可能性が高いこと,また,
2)外回転術施行後に自然に骨盤位に戻ることは妊娠満期でより少ないことによる.
さらに
3)外回転術後に発生することがありうる緊急帝切の事態でも,36週以後ならば児の成熟が期待できるからである.
Q2:外回転術の成功率に影響を与える要因はなにか?
外回転術の成功率は35-86%と報告されている.その平均は58%.そのほか,成功率に影響を与えるものとして,
1)経産か初産か
2)横位や斜位(成功率がより高い)
3)羊水量
4)胎盤の位置 5)母体の肥満 6)母体体重 などがある.
Q3:子宮弛緩剤の使用は有効か?
子宮弛緩剤の使用は有効との報告は多い.とくに初産婦に対して有効との報告がある.
Q4:外回転術の成功は実際に帝切率を低下させるか?
この答えはイエスである.その事実は多くの文献により証明されている.
Q5:硬膜外麻酔の効用は?
硬膜外麻酔が外回転術の成功率を高めるという報告は多い.
Q6:外回転術に関する標準的なプロトコールを図表にすると,図1のとおりとなる.
次に,いくつかの興昧深い問題点を文献からご紹介したい.
1.満期骨盤位にたいする任意帝切は母体の合併症を増加させるか?
この問題に関しては,デンマークでの15,441例の単胎骨盤位における任意帝切のデータがある.それによれば,緊急帝切時に比較して,計画任意帝切では相対リスク(relative risk; RR)は,産褥熱および産後の骨盤内感染症ではRR0.81 (CI1.07-0.92),出血および貧血はRRO.91, (CIO.84-0.97),創感染ではRR0.69, (CIO.57~0.83)であった.
任意計画帝切の母体合併症は(分娩開始後に急遽施行される)緊急帝切に比較して,母体合併症の発生が優位に低い6).
2.病院のタイプと人種別に見た骨盤位経膣分娩の割合の変化
1)全体としてみると
ロスアンジェルスの著者らは,1988~1991年にいたる期間に生まれた10,400例の骨盤位を調べた.そのうち8,988例(86.4%)は満期産(term)児,1,412例(13.6%)は未熟(preterm)児であった.全体としてみると,このなかの1,252例(12%)が経膣分娩となったが,経膣分娩の割合は,満期児では10.1%,未熟児では24.5%であった.
2)満期骨盤位の経膣分娩率を病院の種類によりみると
(教育用施設で貧困者の多い)公共病院では満期骨盤位の28.4%が経膣分娩であるのに対し,(より高所得患者の多い,必ずしも教育用ではない)私立病院では同5.4%であった.(貧困層の多い)黒人人口では,経膣分娩率は,白人私立病院患者と比較すると,2.4~11.3倍く,ヒスパニック人口では同1.3~6.3倍多かった.
しかし,未熟骨盤位の場合に経膣分娩となる割合は,病院別による変化がなく,平均24.5%であった.この調査では病院の相違(公立か私立か)と人種による差異は有意差が見られた.経膣分娩の割合はほかの人種(白人,ヒスパニック)よりも,黒人に有意に多かった.筆者らは,骨盤位における経膣分娩の割合は病院のタイプ(公立か私立か)と人種(白人か黒人か)により差異がみられる,と結論している7〕.
3.大規模後方視研究による骨盤位のアウトカム
カリフォルニア大学の著者らは1991-1999年までに生まれた3,271,092例の分娩を後方視的に調べた8〕.すると,そのうちの100,730例(3%)が骨盤位であった.この骨盤位分娩の様式をみると,4,952例(4.9%)は経膣分娩によるもので,全体の4.9%を占めた.さらに,60,418例が陣痛開始以前に帝切となり,また,35,297例が陣痛開始後に帝切となった。
これらのアウトカムを比較すると,陣痛開始以前に計画的になされた帝切分娩に比較して,初産婦の骨盤位経膣分娩では,初産婦の計画帝切の場合に比較して,新生児死亡率の増加(0R9.2, 95%CI3.3, 25.6)が見られた.新生児罹患率の増加の内訳は,asphyxiaがOR5.7, (95%CI4.5,7.3),腕神経叢傷害が0R33.9, (95%CI15.2,76.1),分娩外傷がOR5.8, (95%CI4.7,7.1)であった.
経膣分娩の既往のある場合には,計画帝切群と経膣分娩群とでは新生児死亡率には変化がなかったが,新生児罹患率は依然として経膣分娩群で大きかった.その内訳は,asphyxiaの0R3.9, (95%CI3.O, 5.1),腕神経叢傷害では0R22.4, (95%CI9.9, 50.5),分娩外傷OR4.2, (95%CI3.4, 5.3)であった.満期骨盤位では経膣分娩の場合には,帝切群に比較して,初産婦同士を比較した場合に,新生児死亡率が増大していた.また,骨盤位全体でも,経膣分娩群で新生児罹患率は増大していた.このことは,骨盤位における帝切分娩のアウトカムがより優れたものであることを示すものだと,この報告は述べている.
おわりに
米国では骨盤位の場合,いくつかの大規模RCTがおこなわれ,その結果,経膣分娩よりも帝切の方が合併症が少なく,より望ましい,とする結論がすでに出ているのだ,といえよう.
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