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(投稿:by 僻地の産科医)
ピル飲んでると、子宮頸癌が増えるってホント?
というお問い合わせに答える気になりましたので、
チョット探してみましたo(^-^)o..。*♡
仕事では死んでます。ご留意ください。
子宮頸癌についてはDr北村も
論文3や8により増えないとの結論をお持ちのようです。
(どうも検討中っぽい)
全体的には癌を増やすことはないのではないかという
結果に収まっております。
では、どうぞ。
眠くってグチャグチャなのでごめんなさい。
でも明日も仕事なのでw。
知っておきたい婦人科がんのリスク
経口避妊薬と婦人科がんのリスク
北村邦夫
(社)日本家族計画協会家族計画研究センター所長
(産科と婦人科・2010年1月号 p49-54)
わが国では低容量経口避妊薬(OC)の服用者だけではなく専門家の間にもOCの服用が癌発生率を高めるような誤解がある.しかし,最新の知見によれば,OCは乳癌リスクにはならないこと,子宮頸癌については現段階ではOCとの直接的な因果関係はなくHPV感染が大きな要因であること,OCの服用により卵巣癌,子宮体癌など代表的な婦人科がんの生涯リスクを減少させることになっている.
経口避妊薬は,英語圏ではthe pillあるいはthe Pill(ピル)とよばれ,論文などではOC(oral contraceptive)と記載されているが,日常的にはピルという言葉が使われることが多い.
米国でエストロゲンとプロゲストーゲンの配合剤が避妊薬,すなわちOCとして承認されたのは1960年であり,初期のOCの開発に多大な貢献をした動物学者であるGregory Pincusらは,当事,長期に服用した場合において,潜在的なリスクとしての癌の増加について一抹の不安を抱いていたとされる.というのは,すでに長年にわたって乳がんと卵巣の関係が疑われていたからである1).
そのような開発者の不安をよそに米国では1962年には120万人が,1963年には230万人が,そして1965年には650万人がOCを服用するようになっていた.当事,米国では中絶は違法であり,望まない妊娠をした場合には闇中絶を受ける以外になく,確実に避妊ができるというだけで,その意義は女性にとって大きかった.今日,OC以外にも効果の高い避妊法,例えば注射法,貼付剤,IUD等が利用できるようになっているが,性ホルモンを利用する場合が多く,副作用に対する関心も高くなり,エビデンスが求められるようになっている.特にわが国ではOCが普及する前にEBMの時代に突入したこともあり,米国以上にOCのリスクや副作用に神経質になっている様子が窺える.本稿では,OCと婦人科がんについて最新の知見を交えながら考察した.
OCと乳がん
乳房は有史以来様々に語られ続け,ヤーロムは政治的,医学的,文学的な乳房について話題
にするが1),男性にとっても,女性にとっても関心の的となっている乳房であるだけに,OCと乳がんの関係を論じる研究は極めて多い.
2005年におけるわが国の乳がん患者数は15万4千人で,乳がん死亡率は10万人当たり11.4人であった.国立癌センター調べによれば,1975年から2001年までの問,乳がんは年々増加し,2001年では10万人当たり51人程度で,5年間で51人から230人まで増加している.
米国でのGraham A Colditzらの看護師研究(NHS)によれば2),家族歴があるほど乳がん発症率の高いことが示唆される.本研究は1976年に登録された30~55歳の看護師121,700人を2年ごとに追跡調査するもので,いわゆる無作為比較試験ではないが,大規模調査としての評価は高い.これによれば,OC服用は家族歴なしで相対危険度(RR)1.56(1.01-2.41),家族歴あり2.47(0.88-6.94)であり,OCを現在服用していることが有意なリスク因子となっていた.
日本産科婦人科学会誌として1999年に発刊された「低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン」では,25力国で実施された54の疫学研究の成果を紹介している3).それによれば,現在服用中である場合,乳がんのRRは1.24,服用中止後5~9年で1.07であるが,中止後10年以上経過すると1.01と報告されている(表1).わが国ではこの1.24が一人歩きをし,OCを飲むと乳がんになると漠然と信じられてきた.
しかし,最近,1968年に開始したRoyal College of General Practitioner’s Oral Contraception 研究により蓄積されたデータを用い,OCと様々な癌との関連性を分析した大規模試験の結果が注目を集めている4)(表2).これによれば,乳がんに関してRRは0。98であり,服用期間に関して,48カ月未満1.00,49~96カ月0.95および97カ月以上1.22で,いずれも有意差はなく,明らかなリスクのないことが示唆される.
乳がんの発症要因についてはOCに限らず種々議論されている.例えば,WHI研究は長期のNSAID使用は乳がんリスクを下げること5),乳製品と乳がんリスクとの関係も,関連業界からの批判があるものの指摘がある6).報告によれば,単純な相関図であるが,乳製品の消費量の多い国ほど乳がんが高いという結果が得られている.ちなみに,牛乳には17βエストラジオール(E2)1.4±0.2 pg/mしが含まれており不安を煽っている.いずれにしても,われわれの日常生活は様々な影響因子に囲まれており,まだまだ乳がんリスクに関係のある因子が潜在的に存在するかもしれない.それにもかかわらずOCだけが注目され,あたかも有力なリスク因子であるかのような印象を世間に与えている.この背景には女性のエストロゲンは乳がんのリスク因子であるとする癌研究の成果などが影響していると思われる.
なお,OCではないが,レボノルゲストレル子宮内放出システム(LNG-IUS:ミレーナR)に関して付言すれば,フィンランドで行われた市販後調査の結果では,乳がん発症との関連性は否定されている7).ホルモン剤を用いた避妊法は,しばしば副作用との関係で論じられるが,避妊以外のメリットも存在することも伝えられるべきである.
OCと子宮頸がん
子宮頸がんは,わが国における20~29歳の女性に発症する癌のなかではトップを占めている.近年,その要因としてヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)による感染が指摘されている.わが国でも2009年10月にHPVワクチンが承認されたが,筆者もその治験に参加してきた.今後は,HPVワクチンと子宮頸がん検診の併用により子宮頸がん死亡を劇的に減少させられることが期待される.
その一方で,子宮頸がんについては喫煙,性交開始年齢,パートナーの数,コンドーム使用の有無など環境因子との関係が取り上げられることが少なくない.なかでも,ひときわ注目されているのがOCの服用が子宮頸がんリスクとなるかという点である.というのは,HPVが性行為によって感染するとなれば,コンドームなどバリア法なしに避妊できるOCが標的になるのは当然といえるのかも知れない.
イギリスの患者データベースを用いたPhilip C.Hannafordらは,子宮頸がんに関して, RRは1.33で,OC服用者の場合,10万人当たり5.1人増える計算になると述べている4)(表2).
International Agency for Research on Cancer(IARC)はOCをヒトの 子宮頸がんのリスク因子に分類しており,彼らの研究によればOC服用者の浸潤性子宮頸がんリスクは,5年以上の服用で1.90(1.69-2.13)であった8).しかし,この研究ではOC服用中止後10年以上経過すると非服用者レベルにまで低下するとしている.
このようにOCと子宮頸がんとの関係を論じた報告のほとんどが両者の関連性を示唆しているが,これらの研究は関連性の有無を論じるのみで,OCがリスクにどのようなメカニズムを介して関係しているのかが論じられていない.
1992年,WHOは性的活動パターンと子宮頸がんリスクとの間には深い関係があると指摘している9).OC服用者,非服用者および避妊しない者とで,性的活動に違いのあることは明らかであり,疫学研究の多くはこうした違いを考慮していないことが少なくない.つまり,OC服用者は,服用しない女性に比べて性行動にも違いがあり,コンドームを併用しないセックスを介して,性的に不活発な女性よりも感染リスクが高いことが考えられる.つまり,OCを服用していることが問題ではなく,性交自体がリスク因子である可能性が高い.OCが何らかの生化学的メカニズムにより感染を促す可能性,あるいは感染後の癌化メカニズムに関わっている可能性があるが,現段階では十分な証拠があるとは言い難い.一連の疫学研究も根本的な部分に関する情報を欠いていることから,さらなる検討が必要である.OCと子宮頸がんとの間にいかなる関連性もない可能性も依然として存在する.
OCと子宮体がん
卵巣がんと同様OCの服用によりリスクが低下する婦人科がんの一つで,OCの潜在的副効用の一つとして考えられている.1983年に米国疾病管理センター(CDC)が行った症例対照研究(Case-Control Study:CCS)で,未産婦がOCを服用した場合の効果が最も顕著で,非服用者に比べてオッズ比(OR)は0.4(0.2-0.9)であり,米国のOC服用者は毎年2,000人が子宮体がんを免れていると結論づけている1。).なお,1982年の米国の統計では毎年新規に39,000人が子宮体がんと診断され3,000人が亡くなっている.MP Vesseyらは従来の多くの研究がCCSであったことを指摘し,Oxford Family Planning Association Contraceptive StUdyの結果を報告している1’).本研究は1968年から1974年にかけて25~39歳の17,032人がリクルートされ,45歳になるまで15,292人について観察された結果をまとめたものである.非服用者と比較して子宮体がんのRRは0.1(0.O-O.7)で,卵巣がんのRRは0.4(0.2-O.8)であった.そして48カ月までの服用によるRRは1.0(0.4一2.5)で,97カ月間以上の服用によるRRは0.3(0.1-0、7)であった.なお,本研究はOCの卵巣がんに対する利点を前向きコホート研究で検討した代表的報告でもある.このような疫学研究はOCでは多くないことを改めて強調しておきたい.相対リスクのみならず,絶対リスクも示すことができるのは投与群と非投与群とに分けて前向きに観察する研究だけであり,CCSだけではリスクあるいは有益性の大きさを十分に示すことはできない.CCSでリスク因子か否かを調べ,リスクごとに前向きコホート研究でリスクの大きさを調べるのが適切なプロセスであるが体系的な研究は少ない.
レボノルゲストレル子宮内放出システム(ミレーナRは,局所に大量のプロゲストーゲンを放出することから,子宮内膜症,子宮腺筋症あるいは初期子宮体がんの治療に対する効果が期待されているが,リスク低減を証明する疫学研究は行われていない.
OCと卵巣がん
卵巣がんと乳がんとの間には一定の関連性が存在する.乳がんを発症した者は卵巣がんを発症するかもしれないし,逆もしかりである.しかし,OCとの関係では卵巣がんのリスクは下がるが,乳がんに関しては少なくともリスクを下げるということはない.
1977年頃から様々な研究者がOCによる卵巣保護の可能性を示唆しているが,CDCは米国のデータベースを用いて両者の関係を分析し,上皮性卵巣がんのリスクを下げる可能性があると報告しているユ2).少なくとも3~6カ月服用することでRRが0.6(0.4-0.9)となり,10年以上では0.2(0.1-0.4)と低下する(表3).しかも少なくとも3カ月服用すれば,中止後15年効果が持続する可能性を示唆していることは朗報といえる.また,米国で流通している中用量・低用量を層別解析し,いずれのブランドでもリスク低減効果の可能性が示唆されるとの報告もある.卵巣がんとOCとの関係でも,中高用量の効果が強いのではないかといわれていたが,CDCの報告同様に,別のグループもCCSではあるが,low-estrogen/low・progestin群のオッズ比はO.5 (0。3-0.6),high-estrogen/high-pro9-estin群のオッズ比は0.5(0.3-0.7)であり,OCの種類に関係なく同等の効果を発揮することを再確認している13).
乳がん同様にBRCA1およびBRCA2突然変異は卵巣がんの発症に影響するが,この突然変異とOCとの関係が一時期注目された.対照群での突然変異を有する比率は751人中13人で1.7%,症例群では840日中244人で29%であった.この突然変異はユダヤ人では特別に多いといわれているが,本研究もユダヤ人のコホート研究でのCCSである14).未産婦を対照とした場合,産婦の卵巣がんのオッズ比は0.47~0.56で有意差を以ってリスクを下げていることが示唆される.他方,OCの場合,0.1~1.9年では非服用者との間で有意差はなかったが,オッズ比は1.15で,5年以上の服用で初めて有意にリスク低下を示した.一方,V. Beralらが中心になって行われた卵巣がん患者23,257人,対照87,303人を含むメタアナリシスの分析結果によれば,OC服用の5年ごとに29項目スクが低下し,服用を止めても30年以上にリスク低減効果があり,高所得国においては,10年間のOC服用は75歳以前の発症を100人当たり1.2人から0.8人に減らし,死亡率を100人当たり0.7人から0.5人に減らす.75歳以前で,5,000人の女性のうち1年間で2人が卵巣がんから守られ,1人が卵巣がんによる死を免れたとしている15}.多くはCCSによるものであるが,コホート研究によっても,RRは0.54となっている4).
子宮内膜症があると卵巣がんのリスクが上昇することが知られている(OR 132:1.06-1.65).人口ベースのCCSであるが, OCにより子宮内膜症の疹痛管理を行っている場合で,10年以上の服用が,子宮内膜症の存在下でも卵巣がんの発症リスクを抑制すると報告されている(0.21:0.08-0.58)16).これによれば,子宮内膜症が存在する場合にOCが卵巣がんのリスクを下げるかどうかはわかっていなかったのであるから朗報といえるだろう.
OCの普及している国では国家レベルで卵巣がんのリスクが下がるか否かであるが,最近の20年間に関して若い女性における卵巣がんの発症率および死亡率の低下は,OCの普及している国ほどはっきりしている.ヨーロッパでは,OC普及の結果として,1年当たり3,000~5,000人が卵巣がんを免れているという報告がある17}.
おわりに
関連する重要な論文すべてに目を通せたわけではないが,臨床上,乳がんに関してOCは明らかなリスク因子とはいえない.子宮頸がんに関しては,現段階では直接の因果関係はなく,HPV感染が大きな要因であり,ワクチンの開発はウィルスを退治し子宮頸がんを減らすかもしれないが,その感染は性交に伴うので,性交という生殖に必要な行為が最大のリスク因子であることは明らかであり,現実的でないことを承知で極論すれば性交しないことが最大の予防策だということになる.子宮体がんおよび卵巣がんは,OC服用により生涯リスクが減少することは明らかである.この点に関しては疑いようがない.メカニズムは不明であるが,OCの服用者は大腸直腸がん,肺がん,腎がんを免れるかもしれない.肝がんに関しては,因果関係は明らかではない.
再度,強調するが,OCと癌の関係は,世間で騒がれているほどには大きくなく,望まない妊娠をすることについて,真剣に考えた場合,そのことによって抱える問題のほうが大きいのではないだろうか.これは本人の考え方の問題でもあるが,OCの安全性に関しては,更新されない古い情報に惑わされていることも多く,われわれ専門家が,日進月歩の研究成果の入手に努め,それをメディアや一般の女性に積極的に提供することが重要ではないだろうか.
文 献
1)マリリン・ヤーロム:乳房論,筑摩書房,2005;p340.
2) Graham A Colditz, et al:Risk Factors for Breast Cancer According to Family History of Breast Cancer. Joumal of the National Cancer lnstitute 1996;88:365-371.
3) Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer: Breast cancer and hormonal contraceptives:collaborative reanalysis of individual data 53,297 women with breast cancer and 100,239 women without breast cancer from 54 epidemiological studies. Lancet 1996;347:1713-1727.
4) Philip C Hannaford, et al:Cancer risk among users of
oral contraceptives:cohort data from the Royal College of General Practitioner’s oral contraception study. BMJ online 2007;11.
5) Randall E. Harris, et al:Breast Cancer and Nonsteroidal Anti-lnflammatory Drugs:Prospective Results from the Women’s Health initiative. Cancer Research 2003 ; 63: 6096-6101.
6) Davaasambuu Ganma, Akio Sato:The possible role of female sex horrnones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Medical Hypotheses 2005;65:1028-1037.
7) Tiina Backinan, et al:Use of the LevonorgestrelReleasing Intrauterine System and Breast Cancer. Obstet Gynecol 2005;106:813-817.
8) lnternational Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer:Cervical cancer and hormonal contraceptives :collaborative reanalysis of individual data for 16573 women with cervical cancer and 35509 women without cervical cancer from 24 epidemiological studies. Lancet 1996;347:1713-1727.
9) WHO Scientific Group:Oral Contraceptives and neoplasia.
WHO Technical Report Series 1992 ; (817) : i-vi, 1-46.
10) The Centers for Diseases Control Cancer and Steroid Hormone Study:Oral Contraceptive Use and the Risk of Endometrial Cancer. JAMA 1983;249 : 1600-1604.
11) MP Vessey, et al:Endometrial and ovarian cancer and oral contraceptives-findings in a large cohort study. British Journal of Cancer 1995;71:1340-1342.
12) The Cancer and Steroid Hormone Study of the Centers for Disease Control and the National lnstitute of Child Health and Human Development:The Reduction in Risk of Ovarian Cancer associated with Oral-Contraceptives Use. N Engl J Med 1987;316:650-655.
13. ) Roberta B Ness, et al:Risk of Ovarian Cancer in Relation to Estrogen and Progestin Dose and Use Characteristics of Oral Contraceptives. Am J Epidemiol 2000; 152:233-241.
14) Baruch Modan, et al:Parity, Oral Contraceptives, and the Risk of Ovarian Cancer among Carriers and Noncarriers of a BRCAI or BRCA2 Mutation. N Engl J Med 2001;345:235-240.
15) V. Beral, et al:Ovarian cancer and oral contraceptives:collaborative reanalysis of data from 45 epidemiological studies including 23 257 women with ovarian cancer and 87303 controls. Lancet 2008;371:303-314.
16) Francesmary Modugno, et al :Oral contraceptive use, reproductive history, and risk of epithelial ovarian cancer in women with and without endometriosis. American Obstetrics Gynecology 2004; 191 :733-740.
17) Carlo La Veccia:Oral contraceptives and ovarian cancer: an update, 1998-2004. European Journal of Cancer Prevention 2006;15:117-124.
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