(関連目次)→妊娠したら気をつけること 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
子宮外妊娠の判決で話題になっています。
子宮外妊娠見落とし訴訟
新小児科医のつぶやき 2012-01-31
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20120131
コメントの最後の方に関係者らしい方のコメントが出てきて、
本当かどうかは不明ではあるけれどHCG25000かぁ。。。
なんで裁判にしたのかなぁ。。。
保険会社から過失と認められなかったのでしょうか?
ただ、医療者としては子宮外妊娠のこと、
もっと知ってほしいという気もします。
妊娠反応(+)になって一ヶ月放置して来院って
脳天気な患者さんがちょくちょくいらっしゃるのも確かで、
妊娠反応=妊娠ではないのです。
深谷赤十字病院の妊娠管理の説明文書を参考にしてください。http://www.fukaya.jrc.or.jp/department/sanfujin/setsumei.html
<補足: 異所性妊娠(子宮外妊娠)について>
異所性妊娠とは、子宮の外側や子宮のはじに妊娠してしまう病気です。診断がつけば、多くの場合で緊急手術が必要となります。卵管に妊娠するケースが最も多く、それが破綻すると出血を引き起こし、出血性ショックにつながることもまれではありません。ただし、かならず腹痛などの症状を伴いますので、症状がないまたは軽度であれば経過を見ながら判断していきます。妊娠の初診の時に、子宮内に胎のう(胎児が育ってくる袋)が見えなかった場合には注意してください。
急に腹痛が強まったときや不自然に感じる腹痛を認めた場合には、早めに連絡し相談してください。その際には必ず、異所性妊娠の可能性がある旨を申し出てください。
裁判資料を閲覧に行く予定ではありますので、
そのうち詳細をお伝えすることが出来るとは思います。
2011年7月号は
「腹痛の画像診断」
が特集ですo(^-^)o..。*♡
産婦人科疾患について項目があり、
わかりやすいのでお示しします。
婦人科疾患
谷垣伸治*・前原真理**・但山麗子**・松島実穂**・宮崎典子**.
上原彩子**・橋本玲子**・岩下光利***
杏林大学医学部 産科婦人科 *講師 **産科婦人科 ***同教授
Key Word; 婦人科救急 異所性妊娠 卵巣出血 茎捻転 PID (pelvic inflammatory disease)
Summary
腹痛をきたす婦人科緊急疾患は限られている.当科において外来診察直後に緊急手術を要した疾患は,異所性妊娠,卵巣出血,卵巣腫瘍破裂・茎捻転, PIDのみであった.診断には,妊娠反応後に超音波断層法を行い,子宮内に胎嚢があるか,卵巣腫瘍および腹腔内出血の有無の確認のみで十分である.超音波断層法は,簡便かつ非侵襲であり,経時的な観察が可能である.
はじめに
腹痛(下腹部痛)は,婦人科においてもっとも多い症状の一つである.当院において,下腹部痛を主訴に1 ・ 2次救急外来(かかりつけの妊婦および母体搬送例を除く)に受診した患者の診断を図1に示す.頻度の高い疾患および見逃してはならない疾患を知っておくことが肝要と思われるが,優先すべきは見逃してはならない疾患,すなわち緊急性の高い疾患であろう.当院1・2次救急外来での診察直後に緊急手術を要した疾患は,異所性(子宮外)妊娠,卵巣出血,卵巣腫瘍破裂・茎捻転, PID (pelvic inflammatory disease)のみであった.これは,他の報告における緊急性の高い産婦人科疾患(表1-赤字)と一致していた.緊急手術にならなかった疾患(表1-黒字)は,母体の生命予後が良好な疾患であり,緊急性は低いと思われる.
本稿では,産婦人科診療の特色とこれら緊急性の高い疾患を中心に述べていきたい.
産婦人科診療の特色
1)画像検査の前に
画像診断前に施行しておきたい検査がある.それは,妊娠反応である.妊娠の有無により疾患のスクリーニングをするだけでなく,妊娠に伴う疾患は,大量出血しやすく容易にDIC(播種吐血管内凝固症候群)へ移行しうることを認識しておきたい.性器出血を月経と思い,妊娠に気づかない例もあることから,本人申告のみで判断せず,最終月経から1ヵ月以上経過していれば無論,1ヵ月以内でもためらわずに妊娠反応を行う.
2)ていねいな問診
産婦人科は,デリケ-トな領域である.問診を聴取する側の姿勢や環境,同席者(親やパートナーの同席では真実が語られないことがある)に留意し,問診を行う.
(1)月経周期
子宮内膜は,月経周期に応じエコー像および厚さが変化する(図2).月経困難症や排卵痛は,他疾患の除外診断により確定診断されるが,子宮内膜像は補助診断として有効である.なお,閉経後の子宮内膜肥厚像は,悪性疾患を疑う所見の一つである.卵胞の大きさも変化し,排卵直前は約2cmになる.排卵できなかった未破裂卵胞は,5~6 cm 以上に及ぶ例もあり,卵巣嚢腫との鑑別は困難になる.
(2)投与薬剤
子宮内膜は,投与されている薬剤にも影響を受ける.女性ホルモン剤だけでなく,排卵誘発剤には,子宮内膜像を薄くする薬剤(クェン酸クロミフェンなど)があり,卵巣腫大と胸水・腹水の貯留が排卵誘発による医原性疾患である卵巣過剰刺激症候群(OHSS)であることもある.消化器や精神神経疾患に用いられる薬剤(スルピリドなど)は,月経異常をきたすこともある.
(3)性交渉
性交渉の有無により,検査法が異なる.また,卵巣出血のように性交渉と症状出現時期が診断の端緒となる疾患もある.
検査法の選択
産婦人科領域における画像診断法は,超音波断層法が第一選択であり,経腹走査法,経腔走査法に大別される(図3).超音波は,周波数が高くなると解像力は向上するが,超音波減衰が大きくなり,プローブから遠い組織の解像力は劣化する.
経腔走査法は,膣円蓋部を介し骨盤内臓器を観察するため,プローブが対象組織に近く,高い周波数を用いることができる.すなわち子宮や付属器の観察に最適かつ合理的な方法である.しかし,超音波の減衰のため観察対象の大きさは限定され,およそ10 cm をこえる広範囲の観察には経腹走査法が適している.経腹走査法は,膀胱を充満にするとさらに観察しやすいことから,妊娠反応を含め,検査の順序に一考を要す.経膣操作が困難な症例(性交渉未経験者や閉経後の組織が萎縮した患者)に対しては,経膣プローブを直腸内に挿入する経直腸走査により,経膣走査法とほぼ同等の,画像を得ることができる.
経腔走査法は医師のみが行いうるが,緊急性の高い疾患の診断においては,詳細な観察は必要なく,観察項目も限られていることから,経腹走査法を行う検査技師の方々にも十分参考になると思う.
緊急性の高い疾患
1)異所性(子宮外)妊娠
異所性妊娠は,受精卵が子宮体部内腔以外の場所に着床する疾患である.全妊娠の1%に認められる.卵管炎や腹膜炎の既往,不妊治療歴がリスク因子であり,異所性妊娠の既往は異所性妊娠の確率を上昇させる.
【症状】
古典的三徴候は無月経,腹痛,性器出血である.
【診断】
①子宮体部内腔に胎嚢(GS)が認められないことより,異所性妊娠を疑う.
②妊娠週数を再度確認(月経周期や排卵日,性交日,妊娠反応が陽性となった日などから再計算する)する.正常妊娠ならば,経膣走査法にて妊娠5週前半には胎嚢,妊娠6週末には胎芽が確認できる.
③胎嚢を検索する.着床部位の95~98%は卵管であり,その他に卵巣(3%),腹腔内(腹膜,大網,肝臓表面など1.5%),子宮頚管(0.5%)が知られている.近年,帝王切開術の増加に伴い,子宮の帝王切開創部に着床する帝王切開瘢痕部妊娠(1,800~2,000妊娠に1例)が,対処の困難さもあいまって報告ざれている.
子宮外に着床した異所性妊娠の70%は,超音波断層法で認めることは困難である.
④血清hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の定量を行う,妊娠6週以降であることが確実である場合や,血清hCGが2,000 mlU/m/ 以上あるにもかかわらず,胎嚢が子宮内に認められない場合は,正常妊娠を見逃す確率は1%以下とされる.
⑤血清hCGが測定できない場合や子宮内の妊娠が不確実な場合は,全身状態が許されるかぎり,時間をおいて超音波断層法を再度施行する.胎嚢は,およそ1日で1mm増大する.
日本産婦人科医会では, 3日後の再検を勧めているが,数時間後でも所見を見出せることがある.
【超音波断層法所見】
胎嚢は,高輝度の厚みのある環状や楕円形のエコー像(white ring echo)として認められる(図4). white ring echo 内に卵黄嚢あるいは胎児像を確認できなければ,子宮腔内の液体貯留像である偽胎嚢(pseudo GS)である可能性があり,子宮外での妊娠を否定できない.
卵管流産や異所性の胎嚢の破裂時には,子宮周囲(とくにダグラス窩)に貯留した出血がecho free spaceとして認められることがある(図5).有用な副所見であるが,正常妊娠や子宮内の妊娠の流産においても認められることに注意する.流産(切迫流産を含む)は,救急外来の受診頻度が高い疾患であるが,母体の生命予後が良好な疾患であり,流産を見出すよりも,異所性妊娠を見落とさないことに重点をおいて観察を行う.
子宮外に胎児心拍を認める例は,診断容易であるが少なく,胎嚢あるいは卵黄嚢のみ認める例は,排卵後の卵胞破裂口との鑑別が必要である.パワードプラ法を用いて卵巣と異なる位置での環状エコー像(図6-b)を確認できればよいが,胎嚢への栄養血管像(図6-c)を観察する方が容易ともいわれている.
子宮内に着床した異所性妊娠は,子宮体部に胎嚢がないことより診断される. 頚管妊娠は,子宮頭部が腫大し,子宮はダルマ状を呈する.帝王切開癩痕部妊娠は,襖状の胎嚢像,非薄化した帝王切開創が特徴である(図7).パワードプラ法による血流の観察は,絨毛のviabilityの推測や治療方針の決定に役立つ.
2)卵巣出血
卵巣出血は,卵巣の血管の断裂に伴う腹腔内出血のために,腹膜刺激症状を呈するものである.
排卵前後に卵胞の破綻部近傍の卵巣皮質の小動脈が損傷し出血する卵胞出血(20%)と,予定月経の約1週間前に黄体形成に伴う新生血管が破綻し,黄体内に出血して出血性黄体嚢胞を形成,次いで腹腔内出血する黄体出血(80%)に大別される.自然止血例が多く,原則は保存的治療であるが,大量出血時は外科的処置が必要となる.
【症状】
性交後発症の下腹部痛が多い.
【診断】
①妊娠反応陰性,ていねいな問診により本疾患を疑う.
②腹腔内出血を認めるも,卵巣腫瘍なきことを確認する. ゛
③全身状態の評価を行いながら,時間をおいて再度観察する.
【超音波断層法所見】
卵巣出血特有の超音波像はない.ダグラス窩にecho free space や凝血塊が認められ,異所性妊娠との鑑別がもっとも重要である.出血性黄体嚢胞と卵巣腫瘍,とくに子宮内膜症性嚢胞との鑑別はむずかしく,自覚症状と画像の経時的な観察を要する.
3)卵巣腫瘍破裂・茎捻転
卵巣腫瘍破裂とは,卵巣腫瘍内容液が腹腔内に漏出し,腹膜刺激症状を呈するものである.茎捻転は,卵巣腫瘍が支持靫帯(骨盤漏斗靫帯および卵巣固有靫帯)を軸としてねじれ,靫帯内血流が遮断され,卵巣がうっ血・阻血し,強い痛みをきたす(図8).緊急手術の必要性はかならずしもないが,卵巣腫瘍破裂例は,時間経過とともに炎症が強度となり,困難な手術になりやすい.茎捻転例は,迅速に手術を施行することにより,卵巣が温存できる可能性があるが,その時間は数時間から24時間までさまざまな報告があり,明らかではない.
【症状】
急性発症の強い腹痛を認める.骨盤腹膜の牽引のため,嘔吐などの消化器症状を認めることもある.
【診断】
①妊娠反応陰性,急に発症する強い腹痛から本疾患を疑う.
②卵巣腫瘍を認める.
【超音波断層法所見】
鶏卵大程度の卵巣腫瘍が茎捻転しやすいが,とくに小児は正常大の卵巣でも茎捻転しうる.骨盤内左側はS状結腸があるため,右側卵巣腫瘍に発症しやすいとされる.捻転初期は,動脈血が腫瘍に流入するが,静脈血は流出できないことから腫瘍が増大する例もある.
術式は,付属器切除術あるいは腫瘍切除術が,年齢や挙児希望の有無,手術所見(出血や壊死の程度)により選択される.手術にあたっては,卵巣悪性腫瘍を念頭におかねばならない.悪性腫瘍の場合,二期的に根治術が必要となったり,大きな手術になったりすることがある.
良性卵巣腫瘍を推測する所見(表2)と卵巣腫瘍のエコーパターン分類(表3,図9)を示す.
solid part の存在は悪性腫瘍を疑い,卵巣皮様嚢腫は,腹腔内癒着を形成しにくく茎捻転しやすいが,子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は癒着の形成から茎捻転しにくい破裂を考える.卵巣腫瘍破裂例は,腫瘍内溶液がecho free space として認められることもあるが,その範囲は一定せず,腹腔内の癒着の程度によっては認めないとともある.良悪の確定診断は病理診断であり,術前の画像検査や血液検査のみで診断することは不可能である.救急といえども十分なインフォームドコンセントが求められる.
4)PID(pelvic inflammatory disease)
PIDとは,性感染症の起因菌による子宮頚管から子宮内膜,卵管への上行感染が惹起した付属器炎,骨盤腹膜炎,卵管留膿腫,ダグラス高膿瘍など,女性上部生殖器の炎症性疾患の総称である.治療は,感染に対する薬物療法がまず選択される.膿瘍形成時は,薬物療法の効果が得にくく,ドレナージ・洗浄が求められる.
【症状】
古典的三徴候は,骨盤の自発痛,発熱,子宮頚部可動痛・付属器圧痛である.
下腹部痛のわりに,腹部所見が乏しがったり(腹部が軟らかい),発熱や血液検査所見が重症度と一致しなかったりすることも珍しぐない.
【診断】
CDC (Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインを参考にした診断的治療を示す.
①下腹部痛を認める患者の既往(とくに性感染症)を確認する.
②妊娠反応陰性および他の器質的疾患を否定する.
③内診にて所見(子宮頚部可動痛・子宮の圧痛・付属器の圧痛)を有する場合,治療を開始する.
【超音波断層法所見】
超音波断層法では,膿瘍が形成されると観察可能となる.卵管留膿腫は卵巣近傍の管状構造として認められる.正常卵管は描出されないと考えてよく,卵巣嚢腫や傍卵管嚢腫との鑑別のために,複数の断面から観察する.卵管留膿腫は壁の肥厚像や内腔への突出像が特徴的である(図10).ダグラス高膿瘍は,やや高輝度のecho free space として認められるが,凝血との鑑別が困難であることから,CTやMRIなど他の画像検査の併用やダグラス窩穿刺により直接確認する.超音波所見は,重症度と一致しないことに注意が必要である.
まとめ
最後に,筆者が考える婦人科領域の下腹部痛症例の診断手順を示す(図11).
診断にあたっては,妊娠反応後に超音波断層法を行う.この手順では経膣走査法が医師のみが行いうる手技であることに鑑み,確定診断をつけるのではなく,緊急性が高い症例のみを時期を逸せず,産婦人科医に委ねることを目標にしている.よって詳細な観察は必要なく,観察項目も子宮内の胎嚢,卵巣腫瘍,腹腔内出血について各々有無を確認するのみとした.
最後に,超音波断層法は他の検査に比し,簡便性・非侵襲性という利点を有し,経時的な観察が可能であることを強調し,本稿を終わりとしたい.
文献
1)谷垣伸治,他:総説 産婦人科救急の超音波検査.超音波医学(投稿中).
2)近内勝幸:プライマリ・ケアにおける婦人科疾患のみかたと注意.レジデントノート,8 : 965~970,2006.
3)谷垣伸治:産婦人科領域.レジデント・臨床検査技師のためのはじめての超音波検査(森 秀明,平井都始子編). 195~212,文光堂,2009.
4)青木大輔,他:卵巣がん検診.がん検診の適正化に関する調査研究事業,新たながん検診手法の有効性の評価報告書. 212~246,日本公衆衛生協会,2001.
5)落合和徳, itil:良性卵巣腫瘍の分類.産婦人科研修医ノート(三橋直樹編). 198~201,診断と治療社,2000. `
6)日本超音波医学会:卵巣腫瘍のエコーパターン分類(案). Jpn. J. Med. Ultrasonics,21 : iii~v, 1994.
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