(関連目次)→産科医療の現実 医療安全と勤労時間・労基法
(投稿:by 僻地の産科医)
医師個人への「分娩手当」は絵に描いた餅?
m3.com 2009年04月02日
橋本佳子編集長
http://mrkun.m3.com/mrq/top.htm?tc=m3-header&mkep=m3-header
新年度がスタート、医療界でも新たな動きが幾つかあります。その一つが「産科医療確保事業」。4月1日付けで、その実施要綱が厚生労働省から都道府県に対して通知されました。
この事業は、医療機関が産婦人科医・助産師に、分娩取り扱い件数に応じて「分娩手当」を支給する場合、国および都道府県・市町村が補助する制度。補助単価は分娩1件当たり1万円が上限で、その3分の1を国が補助します(都道府県・市町村の補助率は3分の1以内。都道府県・市町村が補助しない場合でも国による補助は出ます)。
(1)就業規則等に、「分娩手当」を支給する旨が明記されている、(2)分娩費用として徴収する額が50万円未満である、が条件。補助対象は、病院か診療所か、正常分娩か否か、時間外の分娩か否かなどは問われません。
医師個人への手当に国が補助するのは異例のことだけに、2008年夏の予算概算要求で打ち出されたときは、関係者の間では「これで、少しは報われるか…」との期待もありました。しかしながら、このほど補助要綱の詳細が明らかになり、「現場は期待だけして裏切られ、やる気がどんどんそがれていく。それが医療崩壊を促進している」といった落胆や疑問の声が出ています。
その最大の要因が、「分娩費用が50万円未満」という基準が設けられたこと。この区切りが設けられたのは、「50万円以上分娩費用を徴収している病院は、なぜそれを医師にもっと還元しないのか。こうした施設に国が補助するのはいかがか」(厚労省医政局総務課)という考えに基づきます。
しかし、周産期母子医療センターの指定を受け、地域の基幹施設で、時間外も含め多数の分娩を担当しているような施設で、50万円以上のところは多々あります。例えば、都内では、母体搬送の砦として、この3月25日から、3カ所が“スーパー周産期”となりましたが、その一つ、日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)に先日取材したところ、分娩費用は約60万円(正常分娩の場合)とのことです(同センターの記事は「日赤医療センターは労基署の是正勧告にどう対応したか」です)。当然、分娩費用には地域差もあり、都市部は高い傾向にありますが、根拠なく「50万円」で区切られたことで、疑問視する声が出ているわけです。
そのほか、この補助は、支給対象が産婦人科医・助産師に限られており、麻酔科医や小児科医がかかわっても、補助対象にはならないため、「チーム医療で実施しているのに、特に時間外の分娩時で産科医だけが手当をもらうのはやりにくい」との声も聞かれます。
(1)補助対象は、「時間外」の分娩に限る
(2)産科医に限らず他科の医師も対象とする
などのメリハリを付け、本来「最も必要としている、かつ大変な部分」に必要なお金が行く仕組みにはできなかったのでしょうか。確かに産科医不足の折、「いかに立ち去らずにとどまってもらうか」が重要であり、医師個人へのインセンティブという発想は重要ですが、せっかく制度を作っても有効に機能しないと意味がありません。これは同じく新年度からスタートする「救急勤務医支援事業」(救急医療に従事する医師手当への補助)なども同様です。さらに言えば、補助金による支援は、次年度以降、継続する保障はありません。また医療機関が「分娩手当」の3分の1以上出すことが前提であり、その余裕すらないケースもあります。
これから、2010年度の診療報酬改定議論が本格化します。時間外の分娩など、特に重点的に対策が必要な分野については、本来的には診療報酬で評価すべきでしょう。
勤務医の負担減計画、策定予定だけでは「受理せず」
キャリアブレイン 2009年4月2日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/21374.html
昨年4月の診療報酬改定に関し、厚生労働省は3月30日付で、診療報酬点数の算定方法をQ&A形式でまとめた通知「疑義解釈資料について(その8)」を都道府県や地方厚生(支)局などに送付した。「入院時医学管理加算」や「医師事務作業補助体制加算」、「ハイリスク分娩管理加算」の算定要件に組み込まれている勤務医の負担を軽減するための計画については、「具体的計画を策定し、職員等に周知する等の取り組みを行っている場合」に届け出が可能とし、策定を予定しているだけでは届け出は「受理されない」と回答している。
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2008年度診療報酬改定を告示
また、入院基本料の算定要件に組み込まれている看護職員の月平均夜勤時間で、夜勤を行うパート勤務者などの場合の計算方法も示した。それによると、パート勤務者や、病棟と外来勤務を兼務する看護職員が夜勤に従事する場合には、常勤職員の所定労働時間で病棟勤務時間を割った数を「夜勤時間帯に従事した実員数」にして、月当たりの平均夜勤時間を算出する。
「訪問看護療養費(Ⅱ)」による訪問看護については、精神障害者施設の入所者が対象なので、日中のサービスである生活訓練や就労移行支援、就労継続支援を行う事業所では「行うことができない」と回答。
このほか、2008年度DPC対象病院の要件にされている「適切なコーディングに関する委員会」の設置に関しては、メンバー構成などの要件を満たせば「診療録管理委員会」など他の委員会をコーディングに関する委員会と「みなしてよい」とした。
ただし、委員会の設置規定に「適切なコーディングに関する事項」を明記し、「適切なコーディング」をテーマに、少なくとも年に2回は委員会を開く必要がある。
日赤医療センターは労基署の是正勧告にどう対応したか
3点の勧告に書類上は対応
「1時間の休憩取得」など実態が伴わない面あり
2009年4月2日 m3.com橋本佳子編集長
http://www.m3.com/iryoIshin/article/94681/
「労働基準監督署の指導は受けたが、うちは特別問題があるわけではない」。こう話すのは、日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)産科部長の杉本充弘氏。この3月、都内で総合周産期母子医療センターを持つ病院が、相次いで労働基準監督署による是正勧告を受けた。日赤医療センターと愛育病院だ。昨年秋、都内で母体搬送が問題になり、総合周産期母子医療センターに勤務する医師の厳しい勤務実態がクローズアップされたのがきっかけだ。
「周産期部門を中心に医師や看護師などについて、昨年10月以降の出勤簿や時間外手当の支払い状況などが調べられた。ちょうど3月25日から“スーパー周産期”が開始するところであり、その関連も踏まえた調査だと受け止めた」(日赤医療センター管理局長の竹下修氏)。渋谷労基署の立ち入り調査が行われたのが1月28日、是正勧告を受けたのが3月13日だ。
日赤医療センターの職員は約1300人に上る。愛育病院では全医師の勤務実態などが調査されたが、日赤医療センターでは職員数が多いことから、全数調査ではなかった。周産期部門を中心に複数科の職員について、2008年10月以降の出勤簿や時間外労働に対する手当の支払状況などが調べられた。
労基署の是正勧告の内容は、(1)「36協定」を結んでない、(2)労働時間が8時間を超えた場合に、1時間の休憩時間を与えていない、(3)研修医(1人)の時間外労働に法定割増賃金を支払っていない日が1日あった、の3点。(1)と(2)は愛育病院と同様だが、(3)は異なる(愛育病院の是正勧告内容については、『「法令違反」と言われては現場のモチベーションは維持できず』を参照)。
追加の法定割増賃金の支払いは研修医1人
まず今回の3点の是正勧告の内容とその対応策を見る。
(1)36協定について
竹下氏は、「36協定」(労働基準法36条が規定する時間外・休日労働に関する協定)を締結していなかった理由について、「約1300人の三交代制の職場で、職員の選挙で決めることが難しかった。約1300人のうち実際に投票に来るのは800人程度。職員の過半数の支持を得るには、800人のうち650人の票は取らなければいけないことになる。二人の立候補者が出れば票が割れるなど、代表者の選出が容易ではなかった」ことを上げる。「36協定」は、病院側と、労働組合または全職員の過半数の職員の代表者との間で締結する必要がある。この代表者の選出が困難だったわけだ。 今回は2人の立候補者がいたが、「選挙」では決定しない可能性があることから、まず一人の候補者について「信任投票」を行った。この候補者について、「職員の過半数超」の信任が得られたことから、この人を代表者として決めた。「36協定」を労使間で結び、3月30日に労基署への届け出をし、受理されている。
(2)1時間の休憩時間について
是正勧告内容は、「労働時間が8時間を超えた場合に、少なくても1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えること」。
日赤医療センターの勤務時間は8時30分から17時10分。休憩時間は12時から45分間(1週間の勤務時間は39時間30分)。「17時10分を超えたときには15分間の休憩を取ってから、時間外労働をさせなければならないと指導されたので、これを徹底する」(竹下氏)。なお、この4月から勤務時間をさらに10分短縮して、17時までとしている。
(3)研修医への法定割増賃金の支払いについて
対象となったのは1年目の研修医1人で、2008年11月19日の1日のみ。「当直業務のときに通常業務を行っていた時間があったが、法定割増賃金を支払っていなかった」(竹下氏)。ローテーションしていたのは、周産期医療以外の診療科だ。4月分の給与で支払うという。
なお、日赤医療センターの場合、医師の場合、宿直料は1回2万円、日直料は1回4万円。それに加えて、救急患者への対応などの業務を行った場合には、その時間分の時間外労働に対する法定割増賃金を支払っている。
日赤医療センターの出勤簿は手書きで、時間外労働については勤務時間やその内容を診療部長などの所属長に提出、所属長が「時間外労働」であると認めた部分については法定割増賃金を支払う仕組みになっている。
例えば、産婦人科の場合、常勤医は22人(うち後期研修医は10人)で、総合周産期母子医療センター(MFICU6 床、分娩室6室、一般病床100床)のほか、婦人科診療を担当する。分娩数は年々増えており、年間2500件を超し、都内ではトップクラス。うち帝王切開手術は約20%。35歳以上の妊婦が4割強。母体搬送件数は2007年度の場合、185件。総合周産期母子医療センターの場合、夜間は複数医師体制を組むことが求められる。日赤医療センターの場合は3人体制で、宿直回数は週1回だという。分娩件数も多く、相当の業務量に上るものの、「宿直の翌日は、午前中、もしくは午後は休ませよるようにしている。1カ月の時間外労働は30-40時間程度だ」(杉本氏)。
労務問題は全国の多数の病院に共通の課題
日赤医療センターでは今回、是正勧告を受けた事項そのものについては、書類上は対応を終えた。しかし、休憩を確実に取っているかなど実態はどうか、さらには是正勧告を受けた以外に勤務実態上、労基法上で問題がないかどうかは別問題だ。また今回のような労務問題は、日赤医療センターに限らず、全国の多くの病院に当てはまる問題でもあり、決して他人事ではない。
医師をはじめ、職員が外来診療の途中、手術中などに12時から45分間、休憩が取れるわけはない。また多少遅れた時間からであっても、45分間を昼食に充てることができる病院はどの程度、あるのだろうか。
さらに、宿日直業務の問題もある。病院が職員を宿日直業務に従事させる場合には、「断続的な宿直又は日直許可申請書」を労基署に提出しなければならない。日赤医療センターの場合は未提出だ。「申請書を提出しようとしたが、労基署は宿直等ではなく、通常業務の延長であるとされ、受け取ってもらえなかった」(竹下氏)。この「断続的な宿直又は日直許可申請書」を提出している病院であっても、申請の内容と実態が見合っておらず、「宿直」ではなく、「通常業務」である病院は少なくないだろう。
「宿直という名の時間外労働」は、何も今に始まったことではないが、長年、改善されてこなかった。今回、母体搬送が問題になっている最中、総合周産期母子医療センターを持つ都内2病院への是正勧告だっただけに、関係者の注目が集まると同時に、問題意識も高まり、まさに“パンドラの箱”を開けた格好だ。現場の医師らがいかに問題視し、声を上げるか、一方で病院、行政がどうこの問題に対処していくか、今後の動向が注目される。
仕事がちょっときつくなったからと言って、時間外手当を上げろとか、分娩手当てをよこせとか、全科当直を免除にしろとか、甘え過ぎではないか。
産婦人科医が少なくなって仕事がきつくなることも、オンコールの待機時間が多いことも、夜呼ばれることも、訴訟されることも、すべて承知の上で産婦人科になったはずだ。今さら、産婦人科だけを特別扱いする理由にはならない。
という医師もいると思う。
投稿情報: kame | 2009年4 月 5日 (日) 20:48
なんの冗談かと思いました(>▽<)!!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2009年4 月 5日 (日) 20:55