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(投稿:by 僻地の産科医)
今月の周産期医学は超おススメ(>▽<)!
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周産期医学 第39巻 3号(2009年 3月号)
特集は ハイリスク妊婦への情報提供実例集 !!!
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今回は妊娠糖尿病からo(^-^)o ..。*♡
結構大事で、それなりになんとなく
なぁなぁできている感じのする疾患です。
ここでもう一回見直しをしたいところです。
妊娠糖尿病
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科産科・婦人科学
平松祐司
(周産期医学 vol.39 No.3 2009-3 p333-337)
はじめに
我が国の糖尿病人口は急増しており,厚生労働省発表の「平成18年国民健康・栄養調査の概要」によると,「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人,「糖尿病の可能性が否定できない人」は約1,050人で,合計すると約T[,870万人と報告された。種々の対策が進行中であるが,平成・14年調査と比較しても「糖尿病が強く疑われる人」は約80万人,「糖尿病の可能性が否定できない人」は約170万人増加しており,40歳以上の3人に1人が糖尿病または糖尿病予備群であるという状況になっている。
妊婦においても妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus : GDM)は増加傾向にあり,「妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究」の集計では2.9%である。これに妊娠前から糖尿病の判明している症例を加えると,耐糖能異常妊婦の頻度は4~5%と推測される。
妊娠時に初めて耐糖能スクリーニングを受ける患者も多いが,妊娠中は耐糖能異常を発見しやすい環境になっており,軽度の耐糖能異常まで発見できる絶好の機会と考える。また妊娠中の耐糖能異常の管理は妊娠中の母児合併症の軽減のみだけでなく,その後の母児の糖尿病,メタボリックシンドローム予防の観点からも非常に重要である。
妊娠中に取り扱う耐糖能異常には,妊娠前から糖尿病の診断のついている妊婦とGDM,すなわち「妊娠中に発症もしくは初めて発見された耐糖能低下」がある。 GDMには妊娠後発症した耐糖能異常と見逃されていた糖尿病が含まれる。2008年開催されたGDMの国際会議では,この見逃されていた糖尿病を妊娠後発症した耐糖能異常(以前,妊娠糖尿病といわれていたもの)と区別しようとの動きがあり,2009年3月のイタリアでの会議で検討される予定である。また,同時にHAPO studyの結果を基に世界統一のGDM診断基準を設定する動きにある。
妊娠中の管理
GDM合併妊娠の管理目標は,①母児の周産期合併症予防,②GDMからの糖尿病,メタボリックシンドローム発註予防,③児のメタボリックシンドローム発症予防の三つである。このためには,①妊娠中のGDMスクリーニングの徹底,②妊娠中の厳重血糖管理,③産後の再評価と厳重フォローアップが重要である。患者指導の要点は図に示した。
1.GDMスクリーニング
「妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究」のの報告等を参考にし,産婦人科診療ガイドラインでも以下のスクリーニング法を推奨している。
1)全妊婦を対象としたスクリーニングを妊娠初期と妊娠中期(妊娠24~28週頃)の2回行う。
2)スクリーニング法として妊娠初期は随時血糖法,妊娠中期は50g糖負荷試験(50 gGCT 法)を推奨する。
3)糖尿病家族歴,巨人児(heavy for date : HFD)児出産既往,現妊娠で児が大きい,35歳以上,尿糖陽性,原因不明の羊水過多症などのリスク因子をもつ妊婦では積極的に75gOGTTを行う。
4)GDM妊婦には,分娩後6~12週で75gOGTTを行い再評価する。
2.血糖コントロール目標
糖尿病合併妊婦では,毎食前,食後2時間と眠前の1日7回血糖自己測定(self-monitoring of bood glucose : SMBG)を行い,血糖管理目標を食前100 mg/dL以下,食後2時間120 mg/dL以下とする。また,HbA1cは5.8%以下を目標にする。この管理基準は非妊娠時より厳しいが,周産期合併症予防のためには重要である。
特に妊娠中期以降の血糖レベルと児体重はよく相関することが知られており,2nd,3rd trimesterの食後血糖が120 mg/dL未満の群では巨人児の比率は約20%であるのに比し,160 mg/dL以上になると35%になると報告されている。またLinらは妊娠32週までに良好な血糖コントロールができた群ではHFD児の割合は11%であるのに対し,コントロール不良群では44%であったと報告している。平均血糖値も重要でLangerらは,糖尿病例で平均血糖が105 mg/dLを超えるとHFDの比率が2倍に増加すると報告し,Willmanらは平均血糖が130 mg/dL未満でHFDは27%であるのに対し,T130 mg/dL以上で55%の頻度になると報告している。その結果として肩甲難産,帝王切開率も上昇し,さらに,重篤な合併症であるケトアシドーシスなども増加する。
3,治療法の選択
GDMの治療としては,食事療法,運動療法が中心になるが,それでもコントロール不良の場合にはインスリン治療を行う。まず食事療法として,当科では次のようにしている。
非肥満妊婦(BMI<24):基準体重*×30十200kcal
肥満妊婦(BMI≧24):基準体重*×30 kcal
*基準体重=(身長-100)×0.9
妊娠中の食事は,高血糖を予防し,血糖の変動を少なくするために6分割食にする。すなわち,3回の食事をほぼ半分に分け,毎回各種栄養分が均等に摂取できるようにする。なお、食前血糖が正常化したにもかかわらず,食後血糖が高い場合は,その分割の比率を変更する。食事療法で血糖を目標値に管理できても、ケトン体陽性の場合は過剰な食事制限によるものであり,カロリー増加とインスリン療法が必要となる。
食事療法だけでなく,切迫流早産徴候のない妊婦ではできるだけ動くように運動療法を指導する。食事・運動療法だけで血糖管理が困難な場合は,薬物療法として胎盤通過性のないインスリン治療が選択される。妊娠の進行とともにインスリン抵抗性が増し,インスリン使用量は増加してくるが,分娩後はほとんどの場合中止できるため,不安を抱かないように指導することが大切である。妊娠時のインスリン療法の詳細は誌面の都合で省略するが,インスリンの種類にも考慮が必要で,特効型インスリンのインスリングラルギン(ランタス)についてはその安全性が確認されていない。ほとんどのGDMは,通常のインスリン療法で血糖コントロールできるが,時にGDMの中でも見逃されていた糖尿病の場合は,インスリンの頻回注射療法(multiple insulin injection therapy : MIT)やインスリン皮下持続注入療法(continuous subcutaneous insuhn infusion therapy : CSII)などの強化インスリン療法は必要になることがある。また,食後血糖が高い場合は6分割食+速効型インスリンという従来法に代わり,分割食にせず超速効型インスリンを用い食後高血糖を是正する方法が普及しつつある。超速効型インスリンのインスリンリスプロ,インスリンアスパルトはFDA基準のカテゴリーBであり,比較的安全に使用できる。
分娩時期・分娩法の決定
糖尿病妊婦では妊娠32週頃から突然子宮内胎児死亡を超こすことがあり,36週以降はその頻度が上昇するため,妊娠32週以降は超音波,胎児心拍モニタリングを用いた胎児のwell-beingの評価を毎週行い,問題がある場合は早めの入院管理を行う。分娩時期・分娩法に関する当科での方針について示す。
1)食事療法で良好な血糖コントロールの得られている症例
推定体重,胎位,既往妊娠・分娩歴などから帝王切開する理由のない場合は,経膣分娩の方針とし,自然の陣痛発来を待つ。
2)インスリン治療中で血糖コントロール良好の症例
妊娠38週の時点で,推定体重,胎位,既往妊娠・分娩歴などから帝王切開する理由のない場合は,経膣分娩の方針とする。頸管熟化している場合は,分娩誘発も考慮する。頸管熟化のない場合は胎児評価しながら待機するが,40週になっても陣痛発来しない場合は,double set-UP で分娩誘発も考慮する。
3)血糖コントロール不良,糖尿病合併症悪化,産科合併症発症した症例
これらの場合は分娩時期,分娩法を個別に検討する。児娩出前には胎児の肺成熟の評価をしておくことが望ましい。
分娩後の管理
分娩後は急速にインスリン必要量が減少するので,血糖値をみながら量を調整する。 GDM患者では,産後1~3ヵ月の間に再度75gOGTTを行って再評価し,非妊娠時の糖尿病診断基準により,正常型,境界型,糖尿病型に再分類する。
GDM合併妊婦では10~15%に妊娠高血圧症候群を合併し,肥満,高脂血症もあるため,メタボリックシンドロームあるいはその予備軍と考え管理する必要がある。実際,GDM妊婦で産褥3~18ヵ月におけるメタボリックシンドローム関連因子の有意な上昇が認められたとの報告がある。また,GDMからの糖尿病発症率が高いことが知られており,産後3~6ヵ月の時点で5.4%がすでに糖尿病になり,軽度の耐糖能異常も20%発生しているとの報告がある。その他の報告を集計すると,産後1年以内ではIGT+糖尿病:6.8~57%,糖尿病:2.6~38%,産後5~17年では糖尿病は17~63%の頻度である。このため,産後の厳重フォローアップが重要となり、境界型では3~6ヵ月ごとの検診,正常型でも最低年1回の検診が必要である。そして,正常型を示した人でも少なくとも3年間は産後フォローアップする必要がある。
しかし,フォローアップ率が非常に悪いのが現状であり,内科と協力し厳重フォローアップしていくことが,将来の糖尿病,メタボリックシンドローム発症予防に重要である。
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