(関連目次)→産科医療の現実 目次 産婦人科医の勤労状況
(投稿:by 僻地の産科医)
労働基準法の神様、小児科の江原先生が、
墨東病院に関して徹底的に洗い出してくださいましたo(^-^)o ..。*♡
当直許可なんて、麻酔科関連の4名のみ許可。
そもそも産婦人科当直自体が許可されていない施設だったんですね。
そのうえ、どう考えても時間外労働としてとっているとしても
不可能そうな許可書の数々。
労働基準監督署は、踏み込んでもいいと思うのですけれど~
どうぞ ..。*♡
都立墨東病院における事例検討から
労働基準法に抵触しない
総合周産期母子医療センターの運営を
江原朗
(小児科医、勉強会「コアラメディカルリサーチ」主宰)
日経メディカルオンライン 2008. 12. 18
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/mric/200812/508922.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/mric/200812/508922_2.html
東京都内で妊婦が8病院に受け入れを断られた後に都立墨東病院で死亡した問題を受け、妊婦の受け入れに関する医療体制の構築が模索されています。はじめに、亡くなった妊婦の冥福をお祈りしたいと思います。
1)総合周産期母子医療センター産科の勤務体制
さて、総合周産期母子医療センターの勤務体制とはいかなるものでしょうか。周産期医療対策整備事業の実施について(平成8年月10日、児発第488号、各都道府県知事あて厚生省児童家庭局長通知)、によれば、母体・胎児集中治療管理室では、「24時間体制で産科を担当する複数の医師が勤務していること」とされています。
2)都立墨東病院の事例検討
1.常勤産科・産婦人科医師数
では、墨東病院の産科には、何人の産科医が勤務しているのでしょうか。東京都周産期医療協議会資料(平成20年11月5日開催)によれば、平成20年10月27日現在、都立墨東病院には、産科・産婦人科の常勤医師数は6人いるとされています。
2.時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)
また、都立墨東病院の時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)では、特例として年720時間まで時間外勤務を延長できるとしています。
当直を時間外勤務と考えた場合、上限が年720時間とし、当直時間を16時間(24時間-法定の1日8時間=16時間)とすると1人あたり年間45回(720÷16=45)の当直しかできないことになります。
3.断続的な宿直又は日直に関する許可
都立墨東病院の産科当直は宿日直扱いでは行えません。宿日直に関しては、「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(基発第 0319007 号、平成14年3月19日、厚生労働省労働基準局長通知)」によれば、宿日直勤務を「医療機関における原則として診療行為を行わない休日及び夜間勤務については、病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など、軽度又は短時間の業務のみが行われている場合には、宿日直勤務として取り扱われてきたところである。」としています。
そして、墨東病院が向島労働基準監督署に提出した「断続的な宿直又は日直許可申請書」では、対象を麻酔業務に限定しています。したがって、24時間体制で行われる産科の当直は、宿日直勤務としては認められません。
4.労務管理上の問題点
総合周産期母子医療センターの基準を満たし、24時間体制を敷こうとすれば、36協定や宿日直許可証の内容と実態が異なり、労働基準法に抵触する可能性があります。
常勤の産科・産婦人科医師が6人いる場合、2人が当直を行えば、年間135日(6人÷2人×45日=135日)しか合法的には当直を行えません。さらに、常勤の産科・産婦人科医師1人で当直を行ったとしても、270日(6人×45日=270日)と1年間の当直がまかないきれないのです。
5.是正勧告の可能性
墨東病院に労働基準監督署が立ち入り、労働基準法違反を指摘する可能性もあります。
1984年8月からの朝日新聞、1986年9月からの読売新聞を検索すると、2008年8月23日までに国立大学病院7施設、都道府県立病院7施設、市町村立病院3施設が是正勧告を受けています(江原朗 小児科医の過重労働とその対策の現状、平成20年11月13日、日本医師会「第2回勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」)
さらに、平成12年3月10日、都立府中病院が「宿日直勤務を行っている者に、通常の勤務時間帯と同様の労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間の賃金の2割5分増以上の割増賃金を支払っていないこと」として労働基準法37条違反を指摘され、立川労働基準監督署から是正勧告を受けています。
3)労務問題の解決に向けて
では、労働法規の遵守と都民の健康の確保をどのように両立したらよいのでしょうか。簡単には産科医は増えません。しかし、当直を夜勤や休日勤務として、シフト制などを組めば、宿日直許可に関する法的問題はクリアすることができます。
さらに、延長できる時間外労働時間の上限を720時間よりもアップすれば、労働時間の問題もクリアできます。「労働基準法関係解釈例規の追加について(基発第169号、平成11年3月31日、労働省労働基準局長通知)」によれば、360時間の限度時間を超えた時間外労働に関する36協定も無効ではないとしています。
そして、時間外・休日・深夜勤務に対して割増賃金(平日時間外2.5割増以上、平日深夜5割増以上、休日時間外3.5割以上、休日深夜6割以上)が支払えば良いのです。
もちろん、月80時間以上の時間外勤務を行った場合には、過労死の認定基準を満たすことになります(「脳・心臓疾患の認定基準の改正について 平成13年12月12日 基発第1063号、厚生労働省労働基準局長通知」)。
したがって、増員をはかり、労働時間を早急に短縮し、過労死認定基準未満にする必要はあります。
4)おわりに
先進国である日本の首都東京で合併症を有する妊婦の受け入れが十分にできないことは、由々しきことです。しかし、こうした問題の解決には、労働行政・労働衛生の観点からも対策が必要です。さらに、長時間勤務では、医療事故の危険性が高くなることも報告されています(Ehara A. Are long physician working hours harmful to patient safety? Pediatr Int 2008;50:175-178)。
合併症のある妊婦の受け入れを整備すること、そして、産科に限らず周産期医療にかかわる医師の勤務環境を整備すること、東京都に課された課題は大きいといえます。しかし、労務問題の多くは経済的な解決が可能であり、労働法規を遵守するためには十分な財政措置が重要であるといえます。
えはら あきら氏
。
1987年北大医学部卒業。91年北大大学院医学研究科博士課程修了。
勉強会「コアラメディカルリサーチ」を主宰。ホームページ「小児科医と労働基準」を開設している。
コメント