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(投稿:by 僻地の産科医)
今月の日医雑誌から!
特集は睡眠障害です。
でもコラムが面白かったのでつい(>▽<)!!!
昨日の第二弾ですo(^-^)o ..。*♡
寝酒の功罪
千葉 茂
(日医雑誌第137巻・第7号/平成20(2008)年10月号 p1465)
寝酒(nightcap)とは,寝るときに飲む酒,または寝付きを良くするために飲む酒のことである.晩酌は夕食のときに酒を飲むこと(またはその酒)であり,寝酒と晩酌の意味は本来異なる.しかし,睡眠直前に食事とアルコールを摂取する場合には,睡眠直前の飲酒という点で両者は同様の意味をもつことになる.わが国では,不眠に対して寝酒で対応する人は一般人口の3割に上り,諸外国よりも高率である。
就寝前の少量の飲酒が睡眠へと誘う楽しみとして用いられる限り,寝酒はその人にとって良いものであろう.しかし,寝酒が睡眠に及ぼす好ましくない影響については意外に知られていない.したがって,プライマリケア医は寝酒の功罪について十分に啓発すべきである.
アルコールには中枢神経抑制作用がある.少量の寝酒を機会的に用いる場合には,容易に寝付くことができ,その後の夜間睡眠(ノンレム睡眠とレム睡眠)にも明らかな影響を与えない.しかし,アルコール摂取が連用され,用量も増加すると,たとえすみやかに寝付いたとしても,夜間睡眠の後半では深いノンレム睡眠が減少する。さらに,アルコールの利尿作用も発現するため,中途覚醒や早朝覚醒が起こる.すなわち,寝付きを良くするための寝酒が,夜間睡眠の量と質の低下を招くことが少なくない.
一方,アルコール摂取後に閉塞型睡眠時無呼吸が生じやすくなること,この傾向は女性よりも男性において,しかも若年者よりも高齢者において顕著にみられることが報告されている.
わが国のアルコール依存症候群(1977年,WHOにより提唱)の患者数は,その予備軍も含めると約240万人と推定されている.したがって.プライマリケア医がこうした患者に遭遇することは決してまれではない.本症候群では,精神依存(飲酒行動の変化,飲酒中心の精神的変化など),身体依存(アルコール離脱症状の出現),および耐性(肝臓における代謝耐性,脳のアルコールに対する反応性低下など)が生ずる.
入眠効果を期待して1か月以上飲酒を継続した後,急に断酒すると直ちに不眠が出現することがある.これは,アルコール離脱症状の1つとして不眠(反跳性不眠)が生じたと考えられる.一方,数か月~数年という長期にわたって断酒している患者において,自覚的睡眠障害(入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒など)および客観的睡眠障害(全睡眠時間の短縮,入眠潜時の延長,深いノンレム睡眠の減少など)が高率に認められることが知られている。これらの長期断酒者ではこうした睡眠障害を治すために再び飲酒行動に走る場合があるため,断酒肴の睡眠障害を睡眠薬によって適切に治療する必要がある。
プライマリケア医としては,少なからぬ量のアルコールを運用している患者に対しては,まずアルコール連用を中止させるとともに,中間作用型~長時間作用型などの作用時間が長い睡眠薬で睡眠障害を治療するとよい.アルコール依存症候群が疑われる患者に対しては,プライマリケア医と精神科専門医とが連携しながら睡眠障害の治療にあたる必要がある.
なお,アルコールと睡眠薬の併用は,互いに両者の作用を強め合い,記憶障害や奇異反応,ふらつき,めまい,脱力,日中の眠気など,睡眠薬の副作用が増強されるので禁忌である.
……………………………文献……………………………
1)Soldatos CH,et al: Sleep Med 2005 ; 6 : 5-13.
2)Roehrs T, et al: Alcohol Res Health 2001;25:101-109.
3)新ケ江正他:精神医学1989 ; 31 : 371-377.
4)武井 明他:精神医学1990;32:727-733.
*ちば・しげる:旭川医科大学医学部教授(精神医学).
昭和59年旭川医科大学大学院修了.
主研究領域/睡眠障害,てんかん,老年精神医学,臨床精神薬理学.
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