(関連目次)→医療政策 目次 産前・産後にまつわる社会的問題
(投稿:by 僻地の産科医)
江原先生の論文ですo(^-^)o ..。*♡
健康保険の自己負担分を窓口で支払う
0~4 歳児の割合について
江原 朗
(日医雑誌第137巻・第7号/平成20年10月 p1492-1495)
http://pediatrics.news.coocan.jp/my_paper/nichii2008_101.pdf
はじめに
乳幼児が医療機関にかかった場合,乳幼児医療費助成制度により,多くの自治体で,保険診療にかかわる自己負担額の一部等について補助を受けることができる.したがって,窓口で保護者が料金を支払わなくてもすむ場合も多い.一方,時間外受診者の著しい増加で救急医療業務に支障を来したため,埼玉県,静岡県および徳島県内の医療機関では,軽症の時間外受診者に対して特別料金を徴収する所も現れている.窓口負担のない受診者が,時間外の受診で数千円の負担を強いられるとすれば,夜間や休日の受診行動に影響を与える可能性もある.
平成17 年,内閣府は「地方自治体の独自子育て支援施策の実施状況調査」を実施し,全国の地方自治体の子育て支援の状況を調査した1).さらに,『平成17 年版少子化社会白書』において乳幼児医療費助成の内容を都道府県ごとに示している2).しかし,都道府県に加えて市町村も助成を行っているために,各都道府県の住民がどのような医療費助成を受けているかを十分に把握することができない.
そこで,内閣府の調査1)において回収した市町村ごとの調査票を入手し,0~4 歳児人口のうち,窓口で自己負担分(3 歳未満2 割,3 歳以上3 割)を支払う必要がある人口の割合を都道府県ごとに解析することにした.
I.方 法
各市町村の乳幼児医療費助成事業に関する調査票は,内閣府より提供を受けた.調査票には,住民基本台帳から得られた平成16 年10 月1日現在の0~4 歳児人口,乳幼児医療費助成事業の有無,助成対象年齢(1 歳未満,3 歳未満,6 歳未満もしくは小学校就学まで,中学生以上も対象,その他),所得制限の有無,助成割合,助成方法(現物給付,償還払い,または併用)が記載されている.このうち,通院分に関する医療費助成事業の項目を解析対象とした.ただし,空欄があったもの,対象年齢が不明であるもの(対象年齢が「その他」と記載されたもの),不適切な数値を含むもの(全人口に比べて0~4歳児人口が多いもの)は除外した.各市町村の0~4 歳児人口は,調査票のものを用いた.
なお,各年齢人口の記載がないため,0 歳児人口は0~4 歳児人口の20%,0~2 歳児人口は0~4 歳児人口の60% とみなして解析を行った.所得制限に関しては比率が把できないため,対象者数から除外していない.また,現物給付と償還払いの併用型では,一般に居住地における受診の場合には現物給付,隣接した市町村や都道府県での受診の場合には償還払いとなる事例が多い.このため,併用の場合には現物給付と見なして解析を行った.
解析の指標は以下のとおり求めた.窓口で自己負担分全額を支払う必要がある人の比率=(回収された調査票の0~4 歳児人口の合計-通院の医療費助成が現物給付である0~4 歳児人口)―(回収された調査票の0~4 歳児人口の合計).
II.結 果
表1 に自己負担分(3 歳未満2 割,3 歳以上3割)を窓口で支払う必要のある0~4 歳児人口の割合を示す.全国平均では21.7% であった.都道府県別にみると,秋田県,富山県,鳥取県では窓口負担全額を支払う必要のある人が0%であるのに対して,岩手県,栃木県,石川県,三重県,沖縄県では全員が窓口負担(3 歳未満2 割,3 歳以上3 割)を行う必要があった.
III.考察
今回の検討で,全国では0~4 歳児人口の93.2%(419 万4,215450 万952)が乳幼児医療費助成の対象者であった.しかし,現物給付を除いた償還払いの乳幼児医療費助成対象者や助成なしの人口を合計して算出すると,全国で0~4 歳児人口の21.7% が窓口負担(3 歳未満2 割,3 歳以上3 割)を行う必要があることになる.
平成20 年度の診療報酬改定で,3 歳未満の小児科外来診療料(処方箋交付以外の場合)は,初診時670 点,再診時490 点となる.償還払いの乳幼児医療費助成対象者や助成なしの場合,3 歳未満の乳幼児が小児科外来診療料を徴収する医療機関を受診すると,初診1,340 円,再診980 円の窓口負担が生じることになる.もし,時間外受診における特別料金(選定療養による)が数千円徴収された場合には,窓口負担額は数倍になる.したがって,保護者の受診行動は抑制される可能性がある.さらに,助成対象者のうち約8 割を占める現物給付対象者の場合には,これまで実質無料であった受診における費用が数千円に跳ね上がることになる.したがって,軽症における受診はより抑制されるに違いない.
各都道府県の0~4 歳児の人口(平成16 年10 月1 日現在推計人口3))を分母とし,各都道府県における市町村の調査票に記載された0~4 歳児人口を分子として回収率を推計すると,全国平均で80% となる(表2).もちろん,最低の35%(京都府)から最高の98%(千葉県)までばらつきはあるが,検討した資料の値が現実の値から大きく外れているとはいえないと思われる.
窓口で健康保険の自己負担分(2 割ないし3割)を支払っている0~4 歳児人口は,平成16年10 月現在,同じ年齢層の約2 割にすぎない.その後,助成対象者が増えた可能性はあるが,いずれにせよ,時間外の特別料金を徴収すれば,軽症者の受診行動は強く抑制されると思われる.
時間外・休日の救急医療制度が軽症者の受診で崩壊の危機に瀕している.だからといって選定療養(時間外受診)の制度4,5)は,重症者の受診を妨げるものであってはならない.しかし,時間外の救急システムを破壊しないためには,不要不急の受診は控えてもらうことも必要である.謝辞資料を提供いただきました内閣府の皆様およびご助言いただきました埼玉県職員の多田道之氏に深謝いたします.
文 献
1)内閣府政策統括官(共生社会政策担当):
地方自治体の独自子育て支援施策の実施状況調査,平成17年3月.
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa16/jichitai/index_pdf.html
2)内閣府政策統括官(共生社会政策担当):平成17 年版少子化社会白書
[第3 節地方自治体における独自事業の展開
2 地方自治体における独自事業の具体的内容,(6)医療].
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2005/17WebHonpen/html/h1330260.html
3)総務省統計局:平成16 年10 月1 日現在推計人口.
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2004np/index.htm
4)厚生労働省.厚生労働大臣の定める評価療養及び選定療養を定める件,平成十八年九月十二日,厚生労働省告示第四百九十五号.
5)厚生労働省保険局医療課医療係:先進医療の概要について.
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/index.html
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