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(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ 2008年9月号から!
今月は大野事件関係が2件、新臨床研修制度について1件。
わぁ~いo(^-^)o ..。*♡
いつもの井上清成先生です!
趣味はクレーマー退治だそうですo(^-^)o
大野病院事件無罪判決の教訓
医療事故調査制度の整備こそが必要
井上清成
弁護士、医療法務弁護士グループ代表
(MMJ September 2008 vol.4 N0.9 p796-797)
2008年8月20日、医療者の皆が注視していた福島県立大野病院事件で、無罪判決がなされ、その後に判決が確定した。「純粋な医療に刑罰は野蛮」との印象を抱いた人も多かったと思う。さらにいえば、民事であっても医療に司法はなじまないし、行政処分も医療に有益でない。本来、医療への責任追及は、往々にして有害無益なのである。
この事件には教訓が多い。院内事故調査の公表が内部刑事告発と同様の機能を営んでしまったこと、警察・検察を支える医学鑑定の体制が貧弱だったこと、刑事司法が暴走し逮捕の必要性を欠く医師逮捕が行われたこと、刑事司法が決して患者遺族を納得させるものでなかったこと、など数々ある。
複合的な事故調の目的
刑事司法が医療に不似合いであることが明らかになった。やはり医療事故調査制度の整備こそが必要であろう。しかし、厚生労働省が提示した医療安全調査委員合構想(第三次試案や設置法大綱案)は、あまりにも決定的な欠陥を抱えているし、多くの評言が予期される。その原因は、いくつもの複合的な目的を1つの委員会で実現しようとしていることに帰着すると思う。この機会に根本に立ち戻り、検討し直すしかない。
目的を患者遺族側と医癩者側に分けてみよう。患者遺族側の目的には、経済的側面と精神的側面がある。経済面では、医療被害の補償であり、精神面では、患者遺族の納得といってよいであろう。また、医療者側の目的には、将来を指向する側面と過去を清算する側面がある。将来の側面では、医療安全の向上・再発防止であり、過去の側面では、当該医癩者の処分・非難といってよい。よく「責任追及」というのは、最後の「当該医療者の処分・非難」を指す。
このように医療事故調査制度の複合的な目的は、分析すると、4つに分けることができよう。
4つの目的の分析
これら4つの目的は互いに必すしも相性がよいわけではない。むしろ相性が悪く、敵対関係にあるとも評しえよう。今までの事故調論議の欠陥は、相性の悪い4つの目的を1つの制度で同時に合わせて実現しようとしたことにある。厚労省の医療安全調査委員会構想は、その典型であった。
大野病院事件無罪判決後は、その教訓から学び、冷静に分析して、医療事故調査制度を構想すべきである。つまり、相性の悪い4つの目的をリンケージさせてはならない。それぞれを分断して構想すべきであろう。
端的に結論を述べれば、1つの目的に対応して1つの医療事故調査制度を考えればよい。合計4つの別々の医療事故調査制度を創設すればよいのである。そして、4つの制度を互いにリンクさせてはならない。
4つの医療事故調査制度
それぞれの目的を実現するためには、それぞれの目的に即した事故調査、つまり原因究明が必要である。 患者遺族の経済的補償をするためには、「避けられえた死亡」であったかどうかの原因究明が必要だし、かつ、それで足りるであろう。
他方、患者遺族の精神的な納得を得るためには、その患者遺族の納得の得られていないレベル(段階)に応じた原因究明が考えられねばならない。事後の一応の説明で満足が得られればそれで終わるが、満足が得られずに要求が出ればカルテ開示やいっそうの医学的説明をし、もう一歩の検査の要求があればAiをし、解剖の要求が出れば病理解剖をし、不信感がある場合の解剖では法医による解剖をし、さらなる究明を求められれば第三者の中立的専門機間による原因究明をする。つまり、重要な着眼点は、あくまでも患者遺族の納得が得られることが大切なので、それそれの患者遺族の要求レベルによって段階が変化し、全例が一律ではない。患者遺族の原因究明の要求度合いは別々なので、すべてが解剖ではなく、すべてがADRでもなく、もちろん、すべてが事故調でもないのである。
医療側の再発防止・医療安全向上も同様であり、症例の性質に応じて、Aiや解剖などが使い分けられねばならない。学問的意味合いや、再発のリスク・重大性に応じて別々なのである。再発防止のための原因究明も、やはり全例すべて同じではない。
重要なこととして、医療者側は、同じ医療人として、同僚・同業の者に対して厳しい目を向けなければならないであろう。自立的懲戒制度とか自律的処分制度とかいわれるもので、医療者自らで自らを律するのがベストである。しかし、これは医療者側の医療行為に対してだけ着眼して行われるべきことであり、患者遺族側からの責任追及の形をとって行われるのは芳しくないであろう。つまり、経済的な金銭補償や精神的な患者遺族の納得とリンクさせて行われるべきことではない。それらとは分断させ、あくまでも医療者自身の過去の清算としてなされるべきことであろう。
公立と知恵
以上のように、1つの医療事故調査制度によってではなく、4つの別々の医療事故調査制度によって、互いにUンクすることなく、4つの別々の目的をそれぞれ別々に実現すべきものと考える。なかには、これでは非効率と考える人もいるかもしれない。しかし、全例解剖して調査報告書を作るわけでなく、必要に応じて行うにすぎないので、逆にかえって効率的である。また、1つの事故調査結束をすべての側面に流用しようというのは、机上の理論にすぎない。大切なのは事柄の性質に応じて個別に対処するという、紛争解決の知恵であると思う。
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