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(投稿:by 僻地の産科医)
本日休刊日のため、(と思うけど。。。)あまりニュースがなくo(^-^)o ..。*♡
「無罪」なお深い溝
中日新聞 2008年9月13日
「裁判官が無罪と言うのを聞いた瞬間、涙が出てきました。本当によかった」。先月二十日、福島地裁。法廷から出てきた女性医師(四九)は、ハンカチを目に当て、泣き笑いを見せた。
二〇〇四年十二月、福島県立大野病院で、帝王切開手術を受けた女性=当時(二九)=が大量出血で死亡。執刀した産婦人科医の加藤克彦医師(四〇)が、一年余り後に業務上過失致死容疑などで逮捕された事件の判決だった。
傍聴した女性医師は一昨年十二月まで、川崎市内の病院で常勤の産科医として働いていたが、加藤医師の逮捕にショックを受け、病院を辞めた。この日はどうしても判決を直接聞きたいと、駆けつけた。
亡くなった女性は赤ちゃんを出産後、自然にはがれる胎盤がはがれず、子宮に癒着していた。事故は一万人に一人といわれる癒着胎盤の処置中に起きた。
「自分かその湯にいても、同じ処置をしたに違いない。それで捕まるということは、やっちゃいけないことなんだと感じた。だから辞めました」。女性医師はそう吐露した。
女性が勤めていた病院は、産婦人科の常勤医が二人だけ。三十六時間連続勤務となる当直が月に六回あった。精神的にも肉体的にも限界を感じていたとき、事件が起きた。
「加藤医師は地域でただ一人の産科医とし、て、年回二百件のお産を診ていた。頑張っていたのに、結果が悪ければお縄になる。とても衝撃だった」
事件後、産科医が常勤を辞めたり、病院がお産から撤退するケースが増えた。福島県内では、十二病院がお産を休止。さらに波紋は産科医療の縮小だけにとどまらなかった。医療界を挙げて各学会や医師団体が捜査当局を激しく批判。現場の医師たちもインターネットを通じて怒りの輪を広げていった。
名古屋市の美容外科クリニックの深谷元継院長(四九)もネットの影響を受けた一人。今年五月から加藤医師の無罪を信じるとの文字を入れたボールペン1万本を全国の医師に無料配布し、裁判支援の活動資金も募集。百五十万円が集まった。
医療界一丸となって勝ち取ったような無罪判決。「医療事故の刑事立件に歯止めがかかり、日本の医療の転換点になる」 (上昌広・東大医科学研究所准教授)との声も上がる。
だが、事件の大きな余波は同時に、医療事故の被害者や遺族らを深く傷つけた。大野病院事件で娘を失った渡辺好男さん(五八)は判決後、コメントを発表した。「娘の死を医療崩壊」と結び付ける議論があるが、間違っているのではないか。娘は何か悪いことをしただろうか」
◇
医療事故をめぐる警察捜査や民事紛争が増え、医療の現場に波紋が広がる。特に産科や外科では医療萎縮の大きな原因とされる。医師と患者の信頼関係を取り戻すにはどうすればよいのか。医療事故の余波を追った。
連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部
「危機のカルテ上取材班 ファクス052(201) 4331、Eメール [email protected]
隠ぺい体質に不信
中日新聞 2008年9月15日
「裁判になったおかげで分かったことが多くあった」。福島県立大野病院で、帝王切開手術を受けた娘=当時(二九)を失った父親の渡辺好男さん(五八)は、執刀医が無罪となった
判決後の記者会見で、捜査側への感謝の気持ちを率直に□にした。
渡辺さんは公判をすべて傍聴。その中で、助産師が手術前、執刀医に患者の転読を助言していたことが初めて明らかになった。この事実は、病院側の説明にも県の事故調査報告書にもなかった。渡辺さんは強い不信感を持ったという。
「どうして態勢の整った病院に娘を移さなかったのか。それが裁判で明らかにならず悔しい」。渡辺さんは無念さを隠さなかった。
医療事故の被害者や家族らに共通するのは
「専門的な医療行為の中で、何かあったのか真実を知りたい」という思いだ。一九九九年、東京都立広尾病院で妻日日当時(五八)を亡くした永井裕之さん(六七)もその一人。看護師が誤って消毒液を点滴し、院長は事故を警察へ届け出ず、死亡報告書も病死と偽っていた。いずれも烈匹が確定した。
永井さんは「医療の良心を守る市民の会」を設立し、多くの被害者や家族らと語り合ううち、「医師が真実を語り、率直にミスを謝ったケースでは、裁判になることはほとんどない」と気付いた。
「医療事故の際、事実と違うことを言う病院や医師もいる。精神的にも経済的にも本当は裁判などしたくないのに、最後の手段としてやっている」
実際、医療事故をめぐる訴訟や警察の捜査は増えている。二〇〇七年度の訴訟は十年前の約一・五倍の九百四十四件。警察から検察庁への送致件数は九十二件で、三件から急増した。永井さんの妻の医療事故で、当時の院長が医師法(異状死の届け出義務)違反でも有罪となったことが、大きな契機となった。
「裏を返せば多くの事故が、普は闇に葬られていたということ」と永井さんはみる。
その一方で、医療界は「捜査機関や司法当局は医療の素人。医療事故を刑事事件にすれば医療の萎縮を招く」との主張を強める。自民党議員の中には、医師らの刑事責任を免除する刑法改正を目指す動きも出てきた。
だが、事故隠しや記録の改ざんは繰り返し起きてきた。そうした医療界の隠ぺい体質がなくならない限り、患者の理解や信頼は得られない。
名古屋市の医療事故情報センターの堀康司弁護士は「過去の裁判で、公正でない鑑定書に被害者側が泣かされたり、自分の著書と違うことを証言する医師もいた。医療側に自序作用はほとんどなかった」と語る。「事故の被害者側が真実を求める立場は、守られなければならない」
「第三者機関」_反発根強く足踏み
中日新聞 2008年9月15日
先月、東京・駿河台の明治大学アカデミーホール。医療事故を調査する専門機関の在り方をテーマにしたシンポジウムに大勢の医師が詰めかけ、壇上のパネリストに代わる代わる論戦を挑んだ。
「日本の医療安全を守るためにも、断固として反対します!」
医師たちがやり玉に挙げたのは、厚生労働省が創設に向け、準備を進めてきた「医療安全調査委員会」だ。銅賞は昨年から具体的な検討を続け、今秋の国会での法案化を目指してきた。だが、ここへ来て医療界の一部の反発に遭い、足踏みの状態が続いている。
「既に医療界は一度、第三者機関の創設を決意している。我々自身がこれを作っていくしかない」
パネリストとして招かれた医師で弁護士でもある古川俊治参院議員(自民)は説得するように訴えた。だが、医師たちの反発がやむことはなかった。
厚労省の構想では、調査委は中央と地方ブロックごとに置き、医師だけでなく、法律家や患者の立場を代表する識者らも加わる。予期せぬ形で患者が死亡した場合、医療側は届けでなければならず、調査委で手術記録や解剖結果の分析、関係者の聴取などを行い、結果を公表する。
医療界からは様々な要望や注文があるが、最大の焦点は警察への「通知」だ。厚労省の昨秋の当初案では「調査委は必要な場合に警察に通報する」とあったため、医療界が猛反発した。
そこで今年4月の試案では、カルテ改ざんや隠蔽などのほか、「故意や重大な過失があった場合」に通知すると限定。さらに6月の大綱では、重大な過失という表現が削除され、「標準から著しく逸脱した医療」と書き換えられた。法律家の間では「通常の医療行為では事実上の刑事免責に等しい内容」という指摘も出るほどだ。
それでもまだ異論がくすぶる。病院勤務医らで作る全国医師連盟はホームページに「医療事故調」と書かれたピストルを突きつけられながら患者を診る医師のイラストを掲載。「医療崩壊を呼び起こす」と調査委の設置自体に反対する。
そうした主張の根底には「刑法の目的は個人責任の追及にあり、システムエラー(構造的欠陥)を原因とする医療事故にはふさわしくない」(清水真・明治大法科大学院教授)という医師への刑事免責論がある。
だが、検察OBの飯田英男弁護士は「医療過誤訴訟が年間約900件なのに対し、検察の起訴は10〜15件程度と捜査は慎重だ。医療行為だけを免責するのは治外法権を認めること。到底、容認されない」と反論する。
厚労省の検討委員会メンバーで、弁護士の加藤良夫・南山大学法科大学院教授は言う。
「患者側にはこれ以上譲れないところまできた。医療界には過去にたくさんの陰の部分もあったが、変わろうとする目もあり、そこを信じたい。今やボールは医師の側にある」(この連載は大村歩が担当しました)
マスコミと医療機関の溝は深いです。相変わらず、医療機関はカルテ改竄、隠蔽体質が続いている、というステレオタイプな病院性悪説を垂れ流しています。
このマスコミの思い込みは、どうにもなりません。マスコミがまず、真実を伝えられる機関かどうか、を問いたい。
投稿情報: 苦渋医師 | 2008年9 月16日 (火) 10:45
>中日新聞 2008年9月15日
>全国医師連盟はホームページに「医療事故調」と書かれたピストルを突きつけられながら患者を診る医師のイラストを掲載。「医療崩壊を呼び起こす」と調査委の設置自体に反対する。
これは悪意ある曲解、捏造に近い報道だと思います。
全医連は厚労省案には反対するが、「調査委員会はこんなのを作って欲しい」という対案を出しており、設置自体に反対していません。
対案骨子は既に全医連HPで公表されています。
◆全国医師連盟試案の骨子平成20年9月1日
http://www.doctor2007.com/jiko3.html
厚労省案との一番の違いは、
> 3-2 「医療に関連した不幸な出来事の刑事訴追の為の特別法」により業務上過失致死罪(刑法211条1項前段)については、医療安全調査委員会からの「刑事手続き相当」通知及び遺族の告訴の両者を起訴要件とする、「親告罪」とする。
> 3-3 医療行為に関連する人の死傷の結果について、捜査機関が犯罪の疑いを抱いたときは、医療安全調査委員会に対し事件を回付して調査を依頼し、委員会の「刑事手続き相当」意見が出るまでは、捜査に着手してはならないこととする。
厚労省案では調査委員会の意見に法的拘束力がなく、そもそも調査委員会にかかっていない案件については、捜査機関が独自に捜査して起訴することも可能です。
現行の刑事関係法規をいじらないというコンセプトですから、そうなります。「告訴があれば、捜査せざるを得ない」
これに対して全医連案は、全ての刑事事件に調査委員会の専門的意見を取り入れることを、法的に保障する仕組みにより、不当な刑事訴追を確実に阻止しようとするものです。
投稿情報: YUNYUN | 2008年9 月16日 (火) 11:41
中日新聞の記事、全く浅いですね。
書いてあることは、医療安全委員会の議論が始まったころ、大野病院事件はまだ公判中のころ、他の大手マスコミが書いてた記事の2番煎じ。
WHOや先進国の医療安全のシステムの紹介や、刑事も民事も医療裁判を行わないスウェーデンやニュージーランドのことは何も言及していない。
どうして故意でない診療関連死を、刑事事件化にしていないのか、民事裁判も抑制しているのか、ひとことも書いてありません。
調べてもいないのでしょう。
大手マスコミに共通した勉強不足が顕著な記事です。
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年9 月16日 (火) 12:30
>「日本の医療安全を守るためにも、断固として反対します!」
発言した張本人ですが、主語が抜けています…
改めて聞き直してみましたが、自分の発言は
『われわれは、日本の医療を守るためにも
厚労省第三次試案の内容による医療安全調査委員会、
大綱案の成立には断固として反対します。』という内容です。
記者の思い込みと誤解に基づく記事ですね…
一応、メールもしておきます。
投稿情報: うろうろドクター | 2008年9 月17日 (水) 14:02