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(投稿:by 僻地の産科医)
産婦人科治療 2008年7月号からですo(^-^)o..。*♡
特集はこれからのリプロ・ヘルス
しかし、日本は唯一予防可能な胎児奇形である神経管閉鎖症が、
群を抜いて先進国の中で多いのだという事実には少々びっくりしました。
よく見かけますが。。。。(;;)。
もっとお話すべきなのでしょうが、外来ではそんな余裕はないんですよね!
葉酸と神経管閉鎖障害
妊婦の認知率とサプリメント内服率(2007年)
近藤 厚生 成田 収 倉内 修 山田 満尚
林 嘉彦 山本 真一 可世木成明 下須賀洋一
柴田 金光 紀平 正道
(産婦人科治療 vol.97 no.1-2008/7 p74-79)
はじめに
神軽管閉鎖障害(neural tube defects, NTD)は二分脊椎症と無脳症の総称であり,後者は出生直後に死亡する.すでに1960年代には,低い血清葉酸濃度が神経管閉鎖障害の原因の一つであると報告されている.1991年には,神経管閉鎖障害児を分娩/妊娠した経産婦(ハイリスク群)を対象とする葉酸サプリメントの無作為比較試験が実施された.妊娠4週前から妊娠12週まで葉酸サプリメント1日4mgを内服した群では,神経骨閉鎖障害の再発防止効果が72%であった.この画期的論文に引き続き,米国の公衆衛生当局は妊娠可能期の女性は葉酸サプリメントを1日400μg/日内服するよう勧告した.
さらに1998には米国で穀物への葉酸添加(140μg/100g)が義務付られ,その結果神経管閉鎖障害の発生頻度は減少した.本邦では2000年に厚生労働省が,葉酸が神経骨閉鎖障害の発生予防に有効であり,妊娠を計画する女性は1日400μgの葉酸サプリメント摂取の重要性を国民へ伝達した.神経管閉鎖障害は妊娠6週頃(受精後28日に発生するので,この時期を逸さないよう,妊娠前4週から葉酸サプリメントの内服が必要である.この葉酸情報がどれほどの妊婦へ伝えられているか,2007に実施したアンケート調査と食事記録票を解析して報告する.
対象と方法
本研究には本州に位置する29病院の産婦人科医が参加した.過半数の病院は東海地方に位置した.2007年9月~12月にかけて産婦人科外来でアンケート調査票(図1)を妊婦へ手渡し,着払い封筒で回収した.返信数は1,227通で,返信率は35%であった.回答者の特徴は、低年齢群(10 ・ 20歳代)が34%(417名),高年齢群(30 ・ 40歳代)が66%(806名),低学歴群(中学・高校卒)が27%(332名),高学歴群(短大・専門学校・大学卒)が54%(665名),学歴未記載が19%(226名)であった.
食事記録票は外来で手渡し,食事内容を3日間にわたり半定量的に記載させ,着払い封筒で回収した.105名の妊婦が食事記録類を返信した(返信率30%).彼らの平均年齢は31.2±4.0歳(標準偏差),BMIは21.6±3.6,妊娠週は妊娠前期が40%(42名),妊娠中期が34%(36名),妊娠後期が26%(27名)であった.食事記録票は管理栄養士が五訂日本食品標準成分表に準拠して分析し,そのデータは妊婦と主治医ヘフィードバックした.妊婦の生活活動強度は1.5とした.アンケート調査票の記載と食事記録票の記入は,任意の調査である旨記載した.
血清葉酸濃度を小牧市民病院と名古屋市立城北病院で測定した(化学発光酵素免疫測定法).病院の倫理委員会の承認を得たあと,65名の妊婦が承諾書に署名し,採血に応じた.統計解析はご検定法とMann-WhitneyのU検定法を使用した(Statview-J5.0).
調査結果
葉酸が神経管閉鎖障害の発生防止効果をもつことを承知していたのは39%(483名)で,主要な情報源(複数回答)はマスメディアが最多の37%(201名),続いて医療職29%(158名),インターネット17%(75名),母子健康手帳9%(49名),その他12%(63名)であった.計画妊娠したのが69%(842名)と過半数を占め,このため妊婦の70%(854名)は6週までに妊娠を確認していた.サプリメント内服者は43%(529名)であり、ただちに内服すると回答したのは10%(123名)、次の妊娠時に内服する6%(68名),内服しない5%(58名),分からない33%(409名),未記入3%(40名)であった.分からない・決めていないと回答した409名にその理由を尋ねたところ,薬害に遭遇するのが恐ろしい18%(72名),人工栄養剤を使用したくない30%(121名),食事で一分18%(74名)、そのほか(未記入を含む)が35名(142名)であった.
なお7名が,貧困のためにサプリメントを購入できないとコメントした.栄養バランスに留意している妊婦,禁煙中の妊婦,禁酒中の妊婦、情報の伝達が必要と表明した妊婦の割合は,おのおの61%(746名),95%(1,166名),99%(1,210名)、98%(1,198名)であった.葉酸の役割を認知していた妊婦を層別解析すると,年齢との間には相関がないが(p>0.05),高学歴の妊婦ほど葉酸認知率は高率(pく0.01)であった(表1).
105通の食事記録票を分析した.葉酸サプリメントを内服していたのは,49%(51名)であった.食事からの葉酸摂取量を図2(上)に示した.全体の平均値摂取量は96±139μg/日(平均±標準偏差)で,厚生労働省が妊婦,妊娠を計画している女性,または妊娠可能期の女性に推奨する400μg/日には約100μg/日不足している.妊娠時期によって層別解析すると,葉酸が最も必要とされる妊娠前期が最も低値の236±92μg/日であり,厚生労働省の推奨値には160μg/日も不足している.妊娠前期の値は中期(349±120μg/日)に比較して有意に(p<0.01),後期(326±171μg/日)と比較しても有意に(p<0.05)低値であった.105名中の18%(19名)は400μg/日以上を摂取しており,39%(41名)は葉酸摂取量が400μg/日以下であるが葉酸サプリメントを内服していた.残る43%(45名)は400μg/日以下でなおかつ葉酸サプリメントを内服していなかった.
採血に応じた妊婦65名の平均濃度は6.6士3.8ng/mlであり,葉酸サブリメント内服者は18名,非内服者は47名であった.前者の血清濃度は11.5±4.1ng/mlで,後者のそれは4.7±1.1ng/mlであった.両者間には有意の差を認めた(Pく0.0001).
考 察
1.アンケート調査
2007年のデータを2002年のそれと比較すると、葉酸認知率と葉酸サプリメント内服率はともに有意に上昇しており(p<0.001),喜ばしいことである.具体的には,認知率は15%から39%へ2.6倍となり,葉酸サブリメント内服率は9%から43%へ4.8倍上昇した.山中らは2002~2004年にかけて,横浜市立大学病院とその関連病院産婦人科を受診した妊娠512名に記述式の調査をした.葉酸に関する厚生省の勧告を「よく知っていた」が25%,「少し知っていた]が46%であったと言う.
妊婦の情報人手源は,一般マスメディアが最大であるゆえ,テレビ、ラジオ,新聞,雑誌などを通して葉酸の役割を継続的かつ繰り返して提供しなければならない.母子健康手帳は妊娠10週位に妊婦の手元へ届くので,神経管閉鎖障害の発生予防には遅すぎる.しかしこの情報を次回の妊娠時に活用したり,友人へ伝達すれば,この媒体を介した情報推供も有効であろう.
喫煙、飲酒している妊婦は、それぞれ4%と1%であり望ましい数値である.米国Alabama州など8州の診察健康行動調査データによれば,妊娠中の喫煙率と飲酒率は調査した州によって相違するものの,前者は9.0~17.4%,後者は3.4~9.9%である.本邦妊婦のライフスタイルは,米国妊婦のそれに比べて秀逸である.
2.食事記録票
厚生労働省は妊婦,妊娠を計画している女性、または妊娠可能間の女性に1日400μgの葉酸摂取を推奨し,妊娠を計画する女性は1日400μg/日の葉酸サプリメント内服が必要と公表している.今回の調査では食事から葉酸を400μg/日以上摂取していた妊婦はわずかに18%のみであり,食事から必要量を十分に摂取することは極めて困難なことを示唆しわれわれのデータは葉酸サプリメントの必要性を支持するものである.妊婦の61%は栄養バランスに留意した食事を摂っていると回答したが,長年にわたる食事習慣・内容を大きく変更することがいかに困難であるかを物語る数値であろう.
図2が示すように葉酸がとくに必要とされる妊娠前期の摂取量が236μg/日であり,推奨量から160μg/日も不足している点は衝撃的ですらある.この時期はつわりが発症するため,これに影響された摂食障害が関与している可能性を否定できない.Takimotoらは2001~2003年にかけて,東京の2病院で妊婦の調査をした.妊娠前間の妊婦51人が定量的に記載した食事記録票を解析したところ,葉酸摂取量は276±168μg/日であった.Mitoらも同様の調査を2002~2003年に行い報告した1大妊娠前期の妊婦70名は食事から289±151μg/日の葉酸を摂取していた.われわれのデータ(236±92μg/日)は,上記データよりもさらに低値であった.これら3つのデータに基づけば妊娠前期の日本女性が食事から摂取できる葉酸量は250μg/日前後であり,厚生労働省の推奨値を満たすことは非常に困難であることが明白である.栄養バランスの取れた食事や栄養指導をして葉酸を十分に摂取する作戦は,12年前にアイルランドの前向き無作為比較試験で無効なことが実証されている.
このようないくつかのデータを総合的に判定すると,厚生労働省は栄養バランスの取れた食事の推奨よりは,葉酸サプリメントの内服(400μg/日)を優先して推奨するよう方向転換するべきであろう.
3.血清葉酸濃度
2003年にわれわれは女性コントロール9名に,葉酸サプリメント400μg/日または800μg/日を16週間にわたり内服させた.血清濃度は8.7ng/mlからそれぞれ17ng/mlと21ng/mlへ有意に上昇した14).Takimotoらは妊娠前期の妊婦51名の血清濃度を測定したところ,10.2±4.3ng/mlであった.Mitoらの調査では,妊婦70名(内6名が葉酸サプリメントを内服中)の血清濃度は10.3±5.0ng/ml(分布範囲=5.5-33.0)であった.われわれが今回測定した妊婦65名では,葉酸サプリメントを内服者の血清濃度は11.5ng/ml,非内服者は4.7±1.1ng/mlであり,65名全休の数値は6.6±3.8ng/mlであった.内服者の濃度は非内服者の2.4倍に相当した.妊婦における葉酸濃度の基準値は規定されていないが上記の数値を考慮にいれると10ng/mlを基準値と定めるのが適当であろう.
4.今後の対策
先天性奇形を調査研究する国際クリアリングハウスの年次報告蝶によれば,本邦の二分脊椎症の発生率は出生数1,000件当たり0.614とされ(2003年),これは主要国首脳会議(G8)を構成する8カ国(カナダ,英国,フランス、ドイツ,イタリア,日本,ロシア,アメリカ合衆国)の内で最悪の数値である.数ある先天性奇形のうち,その発生予防が可能な奇形は,唯一神経管閉鎖障害のみである.さらに妊婦の80%は食事から葉酸を400μg/目摂取できていない.
これら事実に基づき,産婦人科医,助産帥,看護師,栄養士などは,妊娠を計画する女性には積極的に葉酸サプリメントを内服するよう奨励することが望まれる.アンケート調査に答えた妊婦1,227名中の7名(0.6%)は経済的理由で葉酸サプリメントを購入できないとコメントした.国民間の経済格差が拡大している現在,葉酸サプリメントを希望する女性には産婦人科外来で無償配布することも考慮するべきであろう.
結 語
葉酸が神経管閉鎖障害の発生予防に果たす役割を認知していた妊婦は39%,葉酸サプリメントの内服率は43%であり,いずれも5年前に比べて有意に上昇した.妊婦の80%は食事から400μg/日の葉酸を摂取できていないので,葉酸サプリメントで補充することが大切である.
共同執筆者
小口秀紀,多田克彦,市占 哲,竹村昌彦,井上裕美,鈴木正利,渡辺孝紀,渡辺潤一郎,二宮敬宇,脇田勝次,根津克治,石原 理,大浦訓章,藤島淑子,真野紀雄,山田新尚、竹田明宏,古山将康,太田俊治,伊藤邦彦,岡井いくよ,早川ちさ
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