(関連目次)→産婦人科医の勤労状況 産科医療の現実 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
2008年7月 日本産科婦人科学会
産婦人科動向 意識調査
集計結果報告 平成20年7月28日
日本産科婦人科学会
産婦人科医療提供体制検討委員会 委員長 海野信也
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/kento_announce_080902.pdf
1) 質問事項「今の産婦人科の状況について、1年前と比較して、どのように感じていますか」
(ア) 全体として
回答者の47%が「悪くなっている」「少し悪くなっている」と回答し、18%が「よくなっている」「少しよくなっている」と回答した。
悪くなっていると感じる主な理由としては、「産婦人科医不足が改善していない(61)1」、「分娩施設の減少に歯止めがかかっていない(38)」、「周囲の施設減少のため、残っている施設の負担が増加し、勤務条件が悪化している(37)」、「診療の質の低下が認められるようになった(9)」という回答が多数を占めた。これに対して、よくなっていると感じる主な理由としては、「一般の方・マスコミの理解が深まった(33)」、「人員増が実感されるようになった(12)」、「待遇改善傾向が実感されるようになった(12)」、「診療報酬の重点評価が行われた(8)」という回答が多数を占めた。 よくなっている1%少しよくなっている17%変わらない35%少し悪くなっている26%悪くなっている21%
(イ) 貴施設産婦人科として
回答者の38%が「悪くなっている」「少し悪くなっている」と回答し、30%が「よくなっている」「少しよくなっている」と回答した。
悪くなっていると感じる主な理由としては、「産婦人科医不足・減少が持続している(56)」、「諸要因により勤務がより過酷になっている(42)」、「患者の要求水準が高まっている(8)」、「勤務医の待遇が悪化している、あるいは改善傾向が全く見られない(7)」という回答が多数を占めた。これに対して、よくなっていると感じる主な理由としては、「(自施設で)産婦人科の医師数が増加した(49)」、「待遇改善・手当増を達成した(30)、「医学生・研修医に志望者増の動きが感じられる(9)」、「新入局者が増加した(8)」、「産婦人科の実情についての病院側の理解が感じられるようになった(8)」、「勤務条件の緩和を達成した(8)」という回答が多数を占めた。
(括弧内の数字は回答数。)
本調査は、日本産科婦人科学会の卒後研修指導施設の産婦人科責任者を対象としており、わが国のほぼすべての産婦人科基幹病院を網羅している。本調査の結果は現場で産婦人科医療を支えている医師の、現時点での実感を表していると考えられる。
現場の指導者の実感では、わが国の産婦人科医療の最大の問題は、産婦人科医の不足とそれに伴う分娩施設の減少であり、そのために残っている施設の勤務環境が急速に悪化していることが問題となっている。
「よくなっている」「少しよくなっている」という回答は、状況が最悪の時期を過ぎて改善傾向が認められてきた、という認識を反映していると考えられる。その施設や関連の大学医局等で医師数の増加、新入局者の増加が認められた場合、また、分娩手当等のincentive付与が新たに行われた場合は楽観的な感情が芽生えるのは自然であろう。逆に、他施設でそのような達成が認められるのに、自施設の管理者の対応が期待したほどでない場合には、悲観的にならざるをえない。「全体としての産婦人科の状況」についての回答で、悲観的な回答の理由としては、医師不足、分娩施設減少とそれに伴う勤務の過酷化、勤務条件の悪化が上げられているのに対し、楽観的な回答の理由としては、「人員増」「待遇改善」が上げられているのは一見矛盾しているようだが、施設間、地域間の状況の違いが反映されているものと考えれば、理解可能である。(「マスコミ等の理解の深まり」をpositiveにとるかどうかは、その医師の考え方によるものと思われる。)
類似した現象が「全体として」と「自施設産婦人科として」という設問間の回答パターンの違いについても認められる。同一の回答者からのものであるにもかかわらず、全体としては悲観的な回答が多いが、自施設については比較的楽観的な回答が多くなっている。現場の指導者は自施設では若干の改善傾向が認められているにせよ、それが産婦人科全体のものとなるかどうかは現時点では判断しかねているのかもしれない。今回の対象施設は、全国の基幹病院であり、様々な対策が実施されはじめている施設である。最近はじまった様々な対策が、現場の実感として広がりつつあると考えることも可能かもしれない。
2) 「今後、日本産科婦人科学会として優先的に取り組むべき課題」集計
非常に多くの意見が寄せられた。以下に集計結果とすべての回答を示す。
可能な限り原文に従ったが、FAXのため判読しきれなかった部分については集計者の判断で補った。複数の内容を含むご意見は、分類の便宜上、その内容によって分けて集計した。尚、分類は集計者の理解に基づいて恣意的に行っており、意見を述べてくださった先生の意図と食い違う場合もありうることをご理解ください。
集計者 海野信也
全体の集計
勤務医の待遇・労働条件改善 172
勤務医の待遇改善 70
勤務医の労働条件改善 35
女性医師の勤務環境整備 17
病院への働きかけ強化 14
男性医師対策 12
ドクターフィー・分娩手当 9
今いる医師がやめない対策 9
ハイリスク分娩管理加算の産婦人科勤務医への還元推進 4
兼業規制の緩和 2
医学生・研修医対策 91
産婦人科医をふやす努力 59
サマースクールの推進等学会主体の学生への働きかけ 14
臨床研修制度改革 7
臨床教育の充実 4
学会による教育活動 4
待遇改善をアピールする 3
医療体制 47
政府・行政への働きかけ強化 13
分娩施設の集約化 9
医療体制に関する方針の明確化(集約化・分散処理等) 7
地域偏在対策 6
学会による医師派遣・退職者再雇用バンク 5
他の診療科の充実 3
地域拠点病院・分娩取扱施設への人的・経済的支援強化 2
院内助産推進 2
医療紛争・訴訟対策 39
紛争処理システムへの取り組み 15
無過失補償制度の充実 11
訴訟へのサポート 9
大野病院事件支援 3
第3次試案への態度明確化 1
社会啓発活動 37
マスコミ・世間への産婦人科のアピール 21
分娩のリスクの大きさに対する社会啓発活動 15
外国の状況の調査・広報 1
学会のあり方 21
「質の低下」対策 7
学会のスリム化・学会と医会の統合 4
助産師対策 4
専門医制度の見直し(過度の専門分化の見直し) 2
医会との連携強化 1
看護協会・助産師会との関係改善 1
専門医への研究・研修支援活動 1
女性医師登用 1
診療報酬関連 14
診療報酬増 10
分娩料金の引き上げ 3
産科重視 1
その他 6
現在の方針支持 4
絶望感の表明 2
コメント