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(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ 2008年9月号から!
院内暴力にどう立ち向かうか
マニュアル整備は必須、警察との協力関係も
社団法人日本看護協会常任理事 小川忍
学校法人慈恵会医科大学総務部渉外室長 横内昭光
北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教 和田耕治
(MMJ September 2008 vol.4 N0.9 p726-727)
医療従事者に対する患者(家族)の暴言・暴力が深刻な問題になっている。全日本病院会のアンケート調査でも回答病院の半数以上が院内暴力事例を経験しているが、警察に届け出たのは約6%に過ぎないという。病院の安全への不安が募るなか、さきごろ病院関係者を対象にしたセミナー「院内暴力にどう対処すべきか」(新社会システム総合研究所主催)が開かれた。講師には、日本看護協会常任理事の小川忍氏、慈恵会医科大学総務部渉外室長の横内昭光氏、北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教の和田耕治氏が出席。院内暴力の対策として、組織的な取り組みによって職員の安全を最優先させるための意思統一やマニュアル整備の必要性が指摘された。
医療機能評価項目として位置づけを(小川氏)
日本看護協会が、所属医療機関(病院、老人保健施設、訪問看護ステーション、診療所)19,435施設を対象に施設内の暴力行為に関するアンケート調査を行ったところ、2,334施設から回答があった。
それによると、全体の51.8%が暴力対策に取り組んでいると回答した。医療機関別にみると、病院の65,8%が暴力対策に取り組んでおり、医療機関の中では最も多く、診療所は23,3%で最も少なかった。保安体制の整備として行っている対策として、病院の71.4%が「出入り口の制限」を実施していた。これは、4医療機関で最も多く、次いで「警備担当者の配置」(54.4%)、「監視カメラの設置」(50,4%)が多かった。
暴力のリスクを把握するために行っている対策として、4医療機関の50%以上が「報告システム」を挙げている。特に病院は77.6%と最も多かった。また、暴力のリスクマネジメントを扱う委員会を設置している病院(52,8%)は設置していない病院(43.8%)を上回ったが、他の3医療機関では委員会を設置していない施設が多かった。
さらに、病院の29,7%が「警察に通報する基準・手順を明文化している」と回答した。病院の3分の1にとどまったものの、4医療機関の中では最も多かった。しかし、「作成中」「共通理解はある」を含めると、病院の98%以上が「警察通報」についてなんらかの取り組みかあることが分かった。
こうした調査結果などから、小川氏は「医療法等に暴力の禁止と対策の実施を規定するとともに、医療機能の評価項目として位置づけ、さらに診療報酬のうえでも評価すべき」と提案した。
身の安全確保を優先し、110番通報(横内氏)
慈恵会医科大学の総務部渉外室(通称「院内交番」)には横内氏ら元警察官邸配置され、院内暴力や盗難など24時間体制で危機管理を行っている。
同大学病院では2005年度に患者相談窓口などに304件のクレームが持ち込まれた。その内容を分析すると、インフォ-ムド・コンセント、職員の態度・言動、処置・手技、病院システムの不備、診察費に関するものが多かった。クレームの半分は病院側の対応によって30分以内に解決している。しかし、解決までに3時間を要したクレームが58件あり、さらに21件が解決するのに5~8時間かかった。そして、クレーム全体の3%は長期化しているという。また、304件のうち言いがかりが43件で、12件が暴力・暴言に発展した。
横内氏は、クレーム対応のポイントとして、
①組織で対応する
②迅速に相手に会う
③相手より多い人員であたる
④応接室に案内する
⑤相手の言い分を必ず確認する
⑥担当窓口を一本化する
⑦チャート化してすみやかに院長に報告する
などをあげている。また、クレームの事実を確認し、病院側に過失も不手際もない場合は、病院側に責任がないことを説明すべきとした。病院側に不手際が少しでも認められた場合は、病院の方針にしたがって誠実に対応し理解を求める。また、悪質なクレームに対しては警察に相談したうえで対応することも必要とアドバイスしている。
暴力事件が発生した場合の初期対応について、横内氏は、「ます職員の安全を最優先し、被害を最小限に食い止める。身の安全を確保したうえで110番通報する」と説明。さらに「クレームに対しては、毅然とした態度で臨むことが重要。病院経営者や医師はふだんから院内暴力について問題意識をもち、職員を守る姿勢を示しながら危機管理を講じるべき」と強調した。
ロールプレイによる職員教育が効果的(和田民)
院内暴力の対策に詳しい和田氏は、「各医療機関で暴言・暴力対策は進められているが、包括的ではない」と指摘する。その理由を「経営陣の方針の欠如や、医療従事者の安全と健康を守るうという意識が薄い。対策を行うにあたってコンセンサスが得られにくく、良好な対策が共有できない。暴言・暴力が起こるのは恥であり、被害に遭うのは被害者本人に落ち度があると考えている――」と分析している。
こうした点を踏まえ、暴言・暴力に対するリスクマネジメントとして、
①医療機関としていかなる暴言・暴力も許さないという姿勢を明確にし、ポスターなどで掲示する。入院誓約書や入院案内にもその旨をもりこむ
②医療機関での暴言・暴力に関する対応マニュアルを作成し、周知する
③患者の相談窓□と担当者を決め、周知する。教育を徹底する
④最寄りの警察署や弁護士との連携関係を築く
などの予防策を示した。
さらに、暴言・暴力が起こりやすい場所を特定し、職員の逃げ道の確保なども必要になる。外来の待合室を快適にし、待合室に監視カメラを設置したうえで、人目につく場所に「防犯カメラ設置」の張り紙を張るのも効果的だという。また、ゆとりのあるコミュニケーションを図るためには人員の確保も必要であり、職員教育に実戦的なロールプレーを取り入れることを勧める。
和田氏は、「まず、管理者が医療機関内の暴言・暴大の問題について正しい認識をもつことが大切。また、予防策とあわせて、被害が発生した時の組織的対応、また被害に遭った職員のケアなどについても検討するべき」と述べた。
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