(投稿:by 僻地の産科医)
大野事件の判決の要旨から、判決の法的解釈ですo(^-^)o ..。*♡
弁護士兼医師のダブルライセンス!素敵です!!!
大野事件判決 - 医師にとっての臨床上の教訓
「一般的医学書記載」「臨床現場で実践」行為は
原則として注意義務違反に当たらず
水澤亜紀子(弁護士・医師)
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080828_1.html
1.業務上過失致死罪に関して
業務上過失致死傷罪では、「患者の死亡」といった「結果」の予見可能性や回避可能性を前提として、不注意により、その認識を欠き、結果を回避しなかったこと(注意義務違反)が犯罪行為とされる。
本件では、裁判所は次の通り、患者死亡の予見可能性と回避可能性をともに認めた。
予見可能性・・・被告人は、手術直前には前回帝王切開創への癒着胎盤の
可能性は低いとの認識を持っていたものの、手術中に胎盤と子宮
の間に指が入らず用手剥離が困難になった時点で癒着の認識を
持った。この時点で、胎盤剥離を継続すれば、剥離面から大量出血
し、生命に危機が及ぶ恐れがあったことについて予見可能性はあった。
回避可能性・・・被告人が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点では、
患者の全身状態は悪くなく、意識もあり、子宮摘出同意の再確認も
容易な状態にあった。手術開始時から子宮摘出手術も念頭においた
態勢が取られていたこと等に鑑みれば、同時点において直ちに胎盤
剥離を中止して子宮摘出手術に移行することは可能であった。
胎盤剥離を中止して、子宮摘出術等に移行した場合に予想される出
血量は、胎盤剥離を継続した場合である本件出血量が著しく大量と
なっていることと比較すれば、相当に少ないだろうということは可能
であり、死亡の結果回避可能性もあった。
しかし、本件判決の重要な点は、予見可能性や回避可能性を認めながら、なお注意義務違反は認められないとした点と、その注意義務の認定方法である。
判決では、本件結果は予見も回避もできたが、なお医師には検察官が主張するような、「癒着胎盤であると認識したら、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行する義務」はないとされた。
この判断には、「診療に際しては、結果の予見・回避可能性がある場合でも、単純かつ直ちにその回避処置を取る義務はない」ことが大前提となっている。臨床の現場では具体的状況により、取り得る処置が一義的に明確ではなく、医療行為自体にも患者の生命・身体に対する危険性があり、悪い結果の予見可能性は常に存する。
そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難であり、具体的場合に取るべき方法についても様々な見解があり得る。任意の一つの方法を取らなかったことが容易に法的義務違反(犯罪)とされたのでは、医療は大混乱に陥るのである。本件判決は、これらの医療の性質(本質)や現状を良く理解したものであると、高く評価されよう。そして、裁判所は、医療において法的義務の基準とするためには、「当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の一般性あるいは通有性を具備した医学的準則」でなければならないと判断した。
ある医学書には記載されているが他の医学書には記載されていない知見や、現場では利用されていないような知見では、刑事裁判上の「注意義務に当たる」と判断するには不十分なのである。これも、上記の医療の性質からして全く妥当である。
この考え方によれば、臨床に携わる医師としては、一般的に使われている医学書で記載があり、かつ実際の臨床の現場でも行われている診療方法を取れば、その方法について議論があり、異なる見解があるとしても、その方法を採用したことは、刑事裁判のレベルでは注意義務違反とはされないことになる(ただし、手技の良し悪しなどの問題は別論として残る)。この判断は、治療法選択の場面において、臨床の現場の医師が安心して混乱なく診療を続けられる支えとなろう。
2.医師法違反について
医師法21条違反に関しては、今回の事案が「被告人が癒着胎盤に対する診療行為として過失のない措置をもってしても避けられなかった死亡」であるので、同条にいう「異状がある場合」に該当しないと判断された。同判断から医師法21条の届出義務の一般論まで敷衍(ふえん)するのは困難であるが、最低限、診療行為として過失のない措置を講じたが死亡した場合には「異状」に当たらないことは確認された。ただし、この過失評価が裁判官ではなく、その現場にいた臨床医などの主観的判断で足りるか否かなどの法的議論の余地をなお残すものである。
水澤 亜紀子(みずさわ あきこ)氏
1989年東北大学医学部卒。8年間内科医として臨床に従事した後、1999年から弁護士になる。現在、医療従事者が安心して診療を提供できる社会を目指し、医療訴訟の医療機関側代理人、その他の執務に従事中。
若かりし頃、「教科書に書いてあることが正しいとは限らない」って習いました。
術者がその時、その時の状況で判断していかないといけない。孤独です。
・・・という事を知ってほしいんですけど。
投稿情報: げ〜げ〜 | 2008年8 月31日 (日) 00:35