(関連目次)→法規制が必要かもしれない医療問題 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
毎日新聞で、上・下、二回で連載されていた記事ですo(^-^)o ..。*♡
あんまり私の領域では関係ないのですが。
臓器売買、人身売買、そしてなんというか、代理母問題。
すこしづつ、倫理の点でつながっている重要な問題の一つではないかと
おもっています!ではどうぞ ..。*♡
国際学会、イスタンブール宣言
生体ドナー保護強化
毎日新聞 2008年8月8日
http://mainichi.jp/life/health/news/20080808ddm013100131000c.html
◇途上国での「売買」に警告
「20世紀の医学的奇跡だ」。国際移植学会は今年、全会一致で採択したイスタンブール宣言で、助からなかった命を救う臓器移植の意義をそう表現した。だが、宣言は同時に、途上国を中心に臓器売買が行われたり、健康な人から臓器が提供される生体臓器移植の人道的な課題を重大な問題と警告した。移植を取り巻く世界と日本の現状を今回と15日の2回にわたって報告する。
4月30日から3日間、トルコのイスタンブールで開かれた国際移植学会には、日本を含む78カ国から移植の専門家158人が参加した。総会が始まった5月1日、議長を務めた米ハーバード大のフランシス・デルモニコフ教授は「宣言が採択されるまで、席を立たないでほしい」と呼びかけた。
議論が集中したのは生体からのドナー(臓器提供者)の扱いだ。宣言案には当初、生体ドナーを「hero(英雄)」と見なすべきだ、と記されていた。しかし、会議に参加した小林英司・自治医科大教授は「日本では生体ドナーは、決してヒーローではない。heroic(高潔な)と修正してほしい」と主張した。日本の生体移植では主に家族や兄弟姉妹から提供されているため、「英雄」というにはそぐわないほか、途上国などで行われる臓器売買への批判も込めた。各国は小林教授の提案に賛同し、文言が修正された。
全米臓器配分ネットワークによると、臓器移植の最初の成功例は米国で1954年に実施された腎臓移植とされる。日本では97年の臓器移植法施行後、臓器の移植手術が計1万8196件(6月末現在)行われ、そのうち脳死移植は365件。移植待機患者はどこの国でも多いが、生体移植(腎臓、肝臓)への依存度は、フランスが1割未満、米国が約4割なのに対し、日本は腎臓で8割以上、肝臓では99%を超え、その高さが目立っている。
国際移植学会が生体移植を問題視するのは、健康な人の体にメスを入れるからだ。また、移植を受けるために海外に行く「移植ツーリズム」が後を絶たず、その先には臓器売買もある。移植医の間で、生体ドナーを保護する取り組みを強化しないと、社会から移植への信頼が失われるとの懸念が強まり、迎えたのが今回の国際学会だった。危機感の表れを象徴するように、総会の2日間、議論中に席を立つ人はなく、最終日の2日、全会一致の宣言採択で閉幕した。
宣言では、生体ドナーを保護するため、ドナーの意思を反映した選定方法や休業補償など、総合的な保障制度作りが盛り込まれた。また、生体ドナーを「もう一人の患者」と位置づけ、各国が臓器提供の自給自足へ努力することを原則とした。このほか、フランスが04年の生命倫理法改正で、生体ドナーの術前の検診と術後の後遺症の有無、重症度などを記録する制度を導入したのを受け、生体移植のリスクを明らかにするため、今後、国際的に統一した基準で生体ドナーのデータベース化を協議することを決めた。
小林教授は今回の宣言について、「国によって死や臓器提供に対する認識の違いがあるが、立場が異なる中、誰もが納得するものができあがった。非常に重要な宣言で、日本も必ず守ることが求められている」と語る。〓島(ぬでしま)次郎・東京財団研究員は「健康な人の体にメスを入れる生体移植は、医療倫理の根本に抵触する行為だ。欧米では、生体移植は本来やるべきでないという意識が強い。今回の宣言も死後の提供を臓器移植の本道と位置づけている。日本では、生体ドナーの健康状況の追跡がほとんど行われてこなかった。臓器移植法を改正し、生体移植の続き柄制限や実施後の記録制度を導入する必要がある」と指摘する。
◇中国、フィリピンで禁止の動き
インドやパキスタン、中国などでは、これまで事実上の臓器売買による移植が行われてきた。しかし、中国は昨年、臓器売買を条例で禁ずるとともに外国人への移植を禁止。さらに、日本人など外国人への腎臓売買が横行してきたフィリピンでも今年に入り、政府が外国人への腎臓移植を全面的に禁止した。
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■イスタンブール宣言の骨子
▽臓器移植は、20世紀の医学的奇跡の一つ。しかし、ドナー(臓器提供者)の人身売買や、貧困者から臓器を買うために海外に赴く富裕国の患者の報告が寄せられ、臓器移植の功績が汚されてきた。
▽ドナーとレシピエント(移植を受ける患者)の安全と、非倫理行為に関する基準と禁止を確保する透明性の高い監視システムが必要。
▽死体からの臓器移植を始めたり、拡大する努力は、生体ドナーの負担を最小化するのに不可欠。
▽レシピエントに有効な治療でも、生体ドナーに危害を加えるのは正当化されない。
▽各国は国際組織などと協力し、臓器不足に対する包括事業を実施すべきだ。
▽各国は国際基準(国際移植学会がこれまで出した勧告)に沿って死体や生体からの臓器摘出と移植医療を法制化し、実施すべきだ。
▽臓器は国内で公平に配分されるべきだ。
▽各国は臓器提供の自給自足を達成する努力をすべきだ。
▽臓器取引と移植ツーリズムは、公平、正義、人間の尊厳を踏みにじるため禁止すべきだ。
▽死体からの臓器提供を増やすため、政府は保健医療施設などと協力して適切な行動をとるべきだ。
▽生体ドナーによる提供は高潔で栄誉あるものとみなされるべきだ。
▽生体ドナーへのインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)では、心理的な影響を考慮すべきだ。医療と心理の両面で、短期的、長期的にケアする。
▽臓器提供で生じた実費は、臓器に対する補償ではなく、レシピエントの治療費の一部である。
「生体」依存度高い日本、法規制が急務
毎日新聞 2008年8月15日
http://mainichi.jp/life/health/news/20080815ddm013100076000c.html
◇ドナーに精神的支援を
世界でも生体移植への依存度の高さが際立つ日本。しかし、生体移植はドナー(臓器提供者)の健康な体を損ない、時に再手術や死を伴う危険性もある。このため、専門医が医療機関を対象にドナー保護の実態調査に乗り出したほか、日本移植学会から何らかの法規制を求める声が出ている。
07年秋、月刊誌「法律時報」9月号が「生体移植をめぐる法的諸問題」を特集した。その前年に愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院を舞台にした臓器売買事件と病気腎移植問題が発覚したのを機に、生体移植に注目が集まっていた。編集部は当時、同誌で初めて生体移植問題の特集を組んだ理由について、「臓器移植法が97年10月に施行されて10年。法学者の間でも生体移植の法規制のあり方への問題が強まっていたため」と説明する。
日本で行われる臓器移植に占める生体移植の割合は高い。例えば、06年の腎移植1136件のうち生体からは83%の939件を占める。肝移植では508件のうち生体は実に99%の503件になる。
しかし、臓器移植法自体には「臓器を死体から摘出すること」を「移植医療の適正な実施」と定め、生体移植に関する記述は一切ない。臓器売買事件を受け、厚生労働省は昨年7月、「臓器移植法の運用に関する指針」を改正し、生体移植の項目を新たに追加。臓器売買を禁止するため、本人確認の方法を細かく定めたが、生体移植そのものの規制には触れていない。特集号に寄稿した岡上雅美・筑波大准教授(刑法)は「臓器移植法に生体移植の規定がないため、生体移植ではドナーの選定や実施が移植当事者の判断に任されている」と日本の現状を問題視する。
レシピエント(移植を受ける患者)の苦悩も深い。約20年前にドナーの父親から生体腎移植を受けた東北地方の女性(49)は「健康なのに手術を受けてもらうのは何かあったらと不安でならなかった。手術後に対面し、お互いが元気だと知ったときは本当にうれしかった」と振り返る。
医師らで作る日本肝移植研究会の調査によると、ドナーの3・5%に再手術が必要となるような大量出血などが発生している。03年には京都大病院で肝臓の一部を娘に提供した母親が死亡した。こうした実態を踏まえ、研究会は05年、移植施設に対し、7項目の実施を提言した。
▽レシピエント死亡など、経過が思わしくなかった場合のドナーへの精神的な支援
▽移植施設から離れた地域に転居した場合、診療を受けたりドナー同士が交流を続けられる病院間の「ドナー外来ネットワーク」の構築
▽ドナー全員に「健康手帳」を発行し、その情報を定期的に登録する制度の拡充
--などが盛り込まれている。さらに今年5月には国際移植学会が生体ドナーの保護を各国に求めるイスタンブール宣言を採択した。
国際移植学会に出席した小林英司・自治医科大教授は、国内外の情勢を踏まえ、有志による研究班で、生体肝移植を実施する全国61医療機関を対象にドナー保護の現状について、月内にも実態調査に乗り出すことを決めた。今後、各機関で研究会の提言がどの程度実行されているのかを把握し、改善策を今年度中にまとめる。小林教授は「イスタンブールでの会議では、ドナーもレシピエント同様に『患者』であることを確認した。法律による規制がなくても、ドナー保護のために登録制度を充実させるなど、できることは多い」と話す。一方、日本移植学会は倫理指針を定め、生体移植について「本来望ましくない。ドナーは6親等以内の血族と3親等以内の姻族に限定する」としている。だが指針は法的な強制力を伴わない。学会理事長の寺岡慧・東京女子医科大教授は「生体移植に何らかの法規制が必要と考えている。行政、患者団体と連携してドナーの安全性を高めたい」と話す。
■移植患者らがCD作製
死体腎移植を受けた患者らが生きる素晴らしさを伝えようと、「空のあなたへ」と題した歌のCDを作り、歌詞とともに配布している。
作詞したのは、99年に腎移植を受けた福島県南相馬市の主婦、佐藤恵子さん(49)。タイトルは主治医の九里孝雄さん、曲は妻恵子さんが付けた。詞では「暗く長いトンネルを抜けて 今この身に奇跡が起こる」と始まり、「本当にありがとう」を繰り返す。
佐藤さんは13歳で慢性腎炎と診断され、37歳で人工透析を始めた。99年、日本臓器移植ネットワークに登録し、その4カ月後に血液型などの条件が一致する提供者が現れた。CDは昨春に完成し、福島県から全国の移植実施施設に贈られた。佐藤さんや仲間は「命の尊さと感謝の気持ちを伝えたい。多くの人に生きる喜びもかみしめてもらおう」と、改めて無料配布することにした。希望者は佐藤さん(0244・44・3964)。
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