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(投稿:by 僻地の産科医)
外科医は術中死亡をどう家族に伝えるのか
術前からきめ細やかな対応を
Medical Tribune 2008年8月7日(VOL.41 NO.32) p.38
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41320381&year=2008
〔ニューヨーク〕「手術中に患者が思いがけなく死亡したことを家族に伝えるのは,外科医にとって最も重荷となる。患者の死亡は,悲しみ,自尊心の低下,自信や評価の低下,訴訟の可能性など,外科医にとって個人的にも職業上でも大きな不安やストレスとなる」。これは,サウスアラバマ大学(アラバマ州モービル)のDan Taylor博士らが,患者が死亡したことを家族にどう伝えるかに関する特別論文の冒頭文でArchives of Surgery(2008; 143: 87-92)に寄稿したもの。同博士らは,こうした事態に備えるために外科医が取るべき対応について,術前から始まる2つの相に分けてきめ細かな提言をしている。
CAREとSHAREで対応
外科医の多くは,悪いニュースを患者の家族にうまく伝えることができないと感じている。このため,家族はプライマリケア医に説明を求める傾向がある。
Taylor博士らは,このような場合に事前対応(CARE)と事後対応(SHARE)という相互に影響する2つの局面として捉えることを提案している。CAREでは治療早期から患者との良好な関係を築き,SHAREでは思いやりと敬意を持って患者の死亡という重大局面に対応する。
CAREは術前から始まる。インフォームド・コンセントの過程では,外科医は患者と家族に手術の適応,術式,リスク,効果など考えられる治療選択肢について説明する必要がある。さらに,医学知識,治療,コミュニケーション能力,人間関係,臨床経験,システムに基づく診療における自身の能力を生かして,患者と医師の良好な関係を築く。
CAREとは,信頼(credibility)を築き医師として受託者責任を負うこと,手術の目的や計画を明確にする(articulate)こと,患者の身体,心理,精神面すべてに関与する(relate)こと,患者と家族に共感する(empathize)ことの頭文字を取ったものである。
術前に築く信頼関係が重要
Credibility,articulate,relate,empathizeの具体的な内容は以下の通りである。
(1)Credibility:書籍,雑誌,インターネット,テレビ,ラジオなどによる医学的知識の普及で,患者と家族は臨床症状についてある程度の知識を持つようになった。外科医のとまどいや不明確な態度は理解力の欠如とみなされるため,患者の協力や信頼が得られなくなる可能性がある。
(2)Articulate:医学知識を持つことと,患者がわかるようにその知識を伝えることでは,全く異なるスキルが要求される。視覚的資料を用いること,患者が質問できるようにゆっくりと間を置きながら話すこと,専門用語を使わないこと,患者の目を見ながら話すことを心がけて,術中に行うこととその内容を注意深く説明することが外科医に求められる。
外科医が話したことを患者自身の言葉で復唱してもらう方法(reflective listening)は,患者の理解度を評価するのに有効である。
起こりうる手術関連の合併症やその合併症が起こったとき,どのように処置するかを説明する「予測的ガイダンス」には,重度合併症の説明と回復への望みのバランスが保たれるという利点がある。
外科医は患者や家族が質問しやすい雰囲気をつくるべきである。外科医に尋ねたいことを忘れないでおく方法として,質問を思い付いたら事前に書き留めておくよう患者に勧める。
(3)Relate:時間を割いて患者や家族と話をすることで,外科医が患者を気にかけていると示すことができる。疾患だけでなく患者自身に焦点を当てて診療を行う医師は,より正確で詳細な患者情報を入手し,患者のコンプライアンスや満足感を高め,より良好な患者と医師の関係の基盤をつくることができるとする研究もある(Platt FW, et al. Annals of Internal Medicine 2001; 134: 1079-1085)。
また,患者の信仰やスピリチュアリティについて質問し,治療を行う際にそれらの面で患者を尊重するにはどうしたらよいか患者自身に尋ねることも推奨される。
(4)Empathize:患者はどのような人か,医師に何を期待しているのか,この疾患にどのように対処し,この疾患をどのように考えているのかを医師は自身に問いかけるべきだ。患者の不安,恐怖感,疎外感,寂しさ,疑い,怒り,悲しみ,迷い,抑うつ感,もろさなどに配慮すべきである。
患者を心配していると伝え,患者の体験に理解を示す。明確で完全なコミュニケーションを行い,正直に話をし,尊重の念を示して,患者や家族とのパートナーシップを築く。
非常なストレスとなるSHARE
患者が予期せずに死亡した場合,SHAREに移る。SHAREは,周術期に提供されたケアを振り返って精査する(scrutinize),ミスを正直かつ謙虚に認める(honesty),患者が死亡した状況を明確にする(articulate),患者の家族を元気付け慰める(reassure),医師自身のセルフケアを確実に行う(ensure),の頭文字を取ったものである。
SHAREでの対話は感情的,不合理,質的,主観的であるかもしれないが,不明確さやあいまいさを取り除き,定量的で客観的な情報を相手に伝えることで状況は改善する。
SHAREは,患者の家族だけでなく外科医自身にとっても非常にストレスとなる過程である。外科医は未知で不明確かつあいまいなことに対する恐怖,自分の能力・自尊心・評価に関する自信の喪失,特に米国では訴訟になる可能性などに脅かされる。
家族へはチームで対応
Scrutinize,honesty,articulate,reassure,ensureの具体的な内容は以下の通りである。
(1)Scrutinize:死亡した患者に提供されたケアについての調査や報告には,病院や手術室の全スタッフがかかわらなければならない。
(2)Honesty:家族に状況を説明する前に,すべての客観的データを集めておく。ミスを認めなければならないと思うと,外科医は恐怖心を抱く。先行研究によると,中等度〜重度のミスで患者が死亡した場合,そのミスが正しく説明されないと訴訟となる可能性が有意に高くなる。
(3)Reassure:家族と話をする環境をつくり,使う言葉を吟味して準備し,家族の悲しみに対応できるようにしておく。家族への対応は,外科医,麻酔科医,手術室の看護師,牧師,ソーシャルワーカーなどで構成されたチームで行う。話をするのはチームのなかの1人に決めておく。
何を話すかは事前によく考えておく。重大な問題について話があると伝えることで,家族に心の準備をしてもらえるだろう。
話し合いを始める際,その場にいる全員を紹介する。話をする者は心からの哀悼の意とともに患者が死亡したことを家族に告げ,悲しむ家族に対し,悪いニュースを受け入れるための時間を与える。話をする者は,患者が死亡した状況を正直かつ率直に説明し,手術チームは患者の蘇生に手を尽くしたことを伝える。
死因が完全に解明されていない場合,詳しく調査し,その結果を迅速に報告することを家族に伝える。調査内容が明らかな場合は,そのことを家族に話してもよい。家族からの質問にはすべて思いやりを持って明確に答える,しかし不明確なことについては明言を避ける。不正確な情報を提供することは賢明ではない。
家族の悲しみに対応できるようにしておく。外科医や病院スタッフは,その悲しみに対する理解と同情を伝える場面ではできる限り家族を支え親切な対応をすべきである。
セルフケアを確実に
(4)Ensure:患者の健康や身体的完全性を回復させたいという希望を持って医師を志すため,外科医は患者の苦しみを緩和し疾患完治させたいと考える。このため,健康な患者が予期せず死亡したときのストレスは計りしれない。
セルフケアは医学教育のなかで教えられることはあまりなく,外科医が習得すべき項目としての優先順位も低い。過酷な医学部での学生生活や卒後研修では,虚勢を張ることや仕事に対する超人的なコミットメントが要求され,個人的なニーズは抑制されることが多い。
外科医は常に完ぺきを求め,自分の欲求を抑え,患者に対する責任をすべて負わなければならないと考えており,利他的に自分自身を駆り立て,コントロールするきわめて真面目な人が多い。「プライベートな生活では,バランスを取るように努力しなければならない」とTaylor博士らは述べ,外科医に次のようにアドバイスしている。
優先順位を決め,自分自身を尊重することを学ぶ。
自分自身のニーズを理解し,「わからない」,「できない」と言えるようになる。
休暇を取る。
楽観的になり,友人関係を大切にする。
自分の人生において特別な人々に注意を向ける。
退職後の計画を立てる。
自分自身という「古道具」の手入れをする。
ユーモアのセンスを保つ。好きなことをする。
自己主張することに慣れる。
自分が変われると信じる。必要に応じて助けを求める。
医師が自分自身を大切にするための行為は,常に行う必要がある。自分を大切にすることで,患者が予期せず死亡するというまれな事態に身体的,感情的,精神的に備えることができるだろう。
スレ違いかもしれませんが、私が時々読んでいるところに、産婦人科医の話が出ていたので、はっておきます。
http://episode.kingendaikeizu.net/45.htm
投稿情報: 麻酔科医 | 2008年8 月11日 (月) 00:20