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(投稿:by 僻地の産科医)
今、わりと激しく論議されています。
勤務医にとっては「病院は当然入ってくれるよね?」と
わりと傍観者的立場な面もあるのですが、
開業医の先生たちにはやはり入るかはいらないかは大問題のようです。
そしてまた説明が必要になってきますし、
救済される子と、されない子が出てくる中で、
「走り出してみないと分からない制度」はやはり不安ではあります。
では、どうぞ(>▽<) ..。*♡
新しく創設される産科医療補償制度の
概要と課題
財団法人日本医療評価機構
後 信 河北博文
(産婦人科の実際 Vol.57 No.6 2008 p1015-1019)
財団法人日本医療機能評価機構は,医療分野における中立的第三者機関として,産科医療補償制度の準備作業を行っており,今年度開始予定である。本制度は,安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として,
①分娩に係る医療事故により障害等が生じた患者に対して救済し,
②紛争の早期解決を図るとともに,
③事故原因の分析を通して産科医療の質の向上を図る仕組みを創設するものである。
本制度の実現は,産科医が長年望んできたものであり,産科医の訴訟リスクや負担の軽減に資するため,一刻も早く講するべき対策の一つである。
はじめに
産科医療の提供体制は大変厳しい現状にあることが繰り返し指摘されている。そのため,関係者の協力により,産科医の訴訟リスクや負担の軽減に資するための対策を,一刻も早く講じなければならない。財団法人日本医療機能評価機構(以下,当機構)は,医療分野における中立的第三者機関として,2006年度より産科医療補償制度運営組織準備室を設け.産科医療補償制度(以下,本制度)の準備を行っている。具体的には,産科医療補償制度運営組織準備委員会(以下,準備委員会)を関催し,2008年1月23日に報告書が取りまとめられた。本稿では,これまでの取り組みの経緯および準備委員会報告書の内容を紹介する。
Ⅰ.産科医療の現状
わが国の周産期分野の医療については,関係者の努力や医療技術の進歩等により世界的にみても低い新生児死亡率や周産期死亡率を達成している。
一方.最近では,産科医不足や産科医療提供体制の問題がわが国における優先度の高い課題になっている。分娩の扱いを取りやめる施設や医師が増えるなどの問題が指摘されている。
また,医師1,000人当たりの訴訟の新規受付件数では,産婦人科が12.4件と最も多いなど,医事紛争の増加やその解決も大きな課題になっている。
Ⅱ.産科医療補償制度に関するこれまでの取り組み
1.「産科医療における無過失補償制度の枠組み」の公表
2006年11月に自民党・医療紛争処理のあり方検討会が「産科医療における無過失補償制度の枠組みについて」(以下,枠組み)を公表した。
2.「産科医療における無過失補償制度の枠組み」の内容
分娩時の医療事故では、過失の有無の判断が困難な場合が多く,裁判で争われる傾向があり,このような紛争が多いことを産科医不足の理由の一つとして取り上げている。このため,安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として,
①分娩に係る医療事故により障害等が生じた患者に対して救済し,
②紛争の早期解決を図るとともに
③事故原因の分析を通して産科医療の質の向上を図る仕組みを創設するとされている。
日本医師会との連携の下,「運営組織」を設置するとされているが,準備委員会では,運営組織は公正で中立的な組織として位置づけられた。
医療機関や助産所が,運営組織を通じて保険会社に保険料を支払う。保険料の負担に伴い分娩費用が上昇した場合は,出産育児一時金での対応を検討するとされている。
補償の対象は,通常の妊娠・分娩にもかかわらず,脳性麻痺となった場合とする。通常の分娩の定義等は事務的に検討するとされている。
運営組織が、給付対象であるかどうかの審査を行うとともに事故原因の分析を実施し,事故原因等については、再発防止の観点から情報公開を行う。また、過失が認められた場合には,医師賠償責任保険に求償するとされている。
この制度は民間保険を活用する仕組みになっているが.国は制度設計や事務に要する費用の支援を検討する。
最後に この制度は,喫緊の課題である産科医療についての補償制度の枠組みであるが,今後,医療事故に係る屈出のあり方,原因究明,紛争処理および補償のあり方についても具体化に向けた検討を進めるとされている。
3.日本医療機能評価機構における取り組み
厚生労働省,日本医師会等から当機構に対して、本制度の創設準備や運営主体となることについて強いご要請をいただいたこと等により,2006年12月の当機構の理事会・評議員会において状況報告を行い、その後,準備室を設置し準備委員会を開催して,本制度の創設に向けた議論を行った。 2008年1月には報告書が取りまとめられたことや,日本医師会,日本助産師会等の関係団体等からの強いご要請を踏まえ,2008年3月に開催された理事会・評議員会では,当機構が本制度の運営組織となることが決定された。4月以降は産科医療補償制度運営部を設置し、引き続き準備作業を進めている。
Ⅲ.準備委員会報告書の概要
1.基本的な考え方
分娩に係る医療事故により脳性麻痺となった児とその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに事故原因の分析を行い,将来の同種事故の防Lに資する情報を提供することなどにより,紛争の防止・早期解決や医療の質の向上を図ることを目的とする(図1)。
なお,医療事故は,過誤を伴う事故と過誤を伴わない事故の両方を含む。
本制度は,産科医療の崩壊を一刻も早く阻止する観点から,民間の損害保険を活用して早急な立ち上げを図る。
また,原則としてすべての分娩機関がこの制度に加入する必要がある。
2.補償の仕組み
本制度は,分娩に係る医療事故により脳性麻痺の児が出生した場合にあらかじめ分娩機関と妊産婦との問で取り交わした補償契約に基づいて,当該分娩機関から当該児に補償金を支払う(図2)。分娩機関は,補償契約に基づく補償金を支払うことによって披る損害を保険契約により担保するために運営組織が契約者となる損害保険に加入し保険料を支払う。分娩機関の保険料負担に伴い分娩費用の引き上げが想定される。従って,本制度の開始により妊産婦に新たな負担が発生することを避けるため,出産育児一時金については,制度発足と同時に保険料相当額の引き|こげが行われる必要がある。そのため、国に対応をお願いしているところである。
国は補償内容について標準約款を公示し,分娩機関はこれに沿って補償約款を定めることになる。
3.補償の対象者
準備委員会で審議するにあたり,本制度の設計の基礎となる医学的資料の作成を目的として,産科学,小児科学,疫学等の医学の専門家により構成する産科医療補償制度調査専門委員会(以下,調査専門委員会)を開催し検討を行った。わが国には全国的な脳性麻痺の児の登録制度がないことから,脳性麻痺の発生率等を把握するため,特定の地域において最近の悉皆的な調査実績のある,沖縄県,姫路市,東京都の3地域の調査費(沖縄小児発達センター 常山潤先生および常山真弓先生,姫路市総合福祉通園センター 小寺澤敬子先生,東京都立東大和療育センター 鈴木文昭先生)のご協力を得て,通常の妊娠・分娩の範囲等について調査報告書を作成し,補償の対象者等について取りまとめた。具体的には,出生体重2,000 g 以上かつ,在胎週数33週以上で脳性麻疹となった場合であり,重症度が身体障害者等級の1級と2級に相当する者を補償の対象とすることとした。
また,その基準を下回る児についても,基準に近い児については個別審査を行い,該当する場合は補償の対象とすることとした。その基準を図3に示す。米国産婦人科学会特別委員会が定めた,脳性麻痺を起こすのに十分なほどの急性の分娩中の肝来事を定義する診断基準を参考にして取りまとめたものである。
さらに.分娩に係る医療事故に起因するとは考え難い,出生前や出生後の要因によって脳性麻痺となった場合は除外基準とすることと整理している(図4)。
4.補償の水準
補償金は,分娩に係る医療事故により脳性麻痺となった児やその家族の看護・介護に係る経済負担を軽減するための一助として位置づけた。支払い方式として望ましいのは,介護のための住宅・車両改造等に充てるためのいわば準備金の他は,毎年定期的に一定額を障害基礎年金を受給できる年齢まで支給し,死亡した場合は,その時点で給付終了とする有期年金方式である。しかし,脳性麻痺児の生存曲線に関するデータがないため,現時点では有期年金方式による商品化は極めて困難である。そこで,看護・介護を行うための基盤整備のための準備一時金として数百万円を対象認定時に支給し,また,分割合は総額2千万円程度をめどとし,これを20年分割にして,定期的に支給することとした。今後本制度が運営されることにより,重症脳性麻痺児に関する生存曲線や重症度の分布等のデータが蓄積され,制度の見直しに資するものと考えられる。
5.審 査
補償対象か否かは運営組織が一元的に審査する。具体的には,脳性麻痺に関する医学的専門知識を有する産科医,小児科医による書類審査の結果を受けて,産科医,小児科医や学識経験者等を中心に構成される「審査委員会」が最終決定を行う。
補償申請者は,制度加入者である分娩機関であり,当該分娩機関において出生した児(代理人を含む)からの申請依頼に基づいて,分娩機関が申請を行う。
申請の開始時期については,原則として脳性麻痺の確実な診断が行われる生後1年以降とする。ただし,極めて重症の場合は,生後6ヵ月で診断が可能となる場合があるため,一定の要件を満たす場合には,生後6ヵ月以降においても申請可能とする。申請の期限は,法令で定める診療録,助産録の保存期限等を踏まえ,児の満5歳の誕生日までとする。
6.補償金と損害賠償金の調整
補償金と損害賠償金が二重給付されることを防止するために,分娩機関に損害賠償責任がある場合は,補償金と損害賠償金の調整を行う。
「原因分析委員会」は医学的観点から原因分析を行い,過失の認定は行わない。賠償責任の成立要件となる過失認定に開しては,基本的に分娩機関と児・家族との問の示談,裁判外による紛争解決(ADR),または裁判所による和解・判決等の結果に従い,これに基づき補償金と損害賠償金の調整を行う。
しかし,医学的観点から原因分析を行った結果,分娩機関に重大な過失が明らかであると思料されるケースについては,運営組織は,医療訴訟に精通した弁護上等を委員とする専門委員会に諮って,法律的な観点から検討し,その結果を得て,当該分娩機関との間で負担の調整を行うものとする。
7.原因分析・再発予防
紛争の防止・早期解決のために,産科医が医学的観点から事例の分析を行い,その結果を産科医,助産師や学識経験者等を中心に構成される「原因分析委員会」において最終確認の上,分娩機関と児・家族にフィードバックする。
原因分析を適切に行うためには,分娩に係る診療内容等の記録の正確性が重要であるため,分娩機関から運営組織への書類やデータの提出を制度化すべきである。また,提出書類の種類,標準的に必要となる記載事項,提出要領等は,本制度が開始される前に各分娩機関に十分周知徹底しなければならない。
また,産科医,小児科医,助産師,患者の立場の有識者,学識経験者,関係団体等を中心に構成される「再発防止委員会」を設置し,個々の事例情報を整理・蓄積し,広く社会に公開することにより,将来の同種の医療事故の再発防止等,産科医療の質の向上を図る。
8.運営組織
運営組織は,業務を円滑に全国的に行う能力を有して,また,営利を目的としない公正で中立的な組織であることが必要である。
9.制度創設時期および見直し
本制度は,2008年度内の創設を目指す。また,遅くとも5年後をめどに,本制度の内容について検証し,補償対象者の範囲,補償水準,保険料の変更、組織体制等について適宜必要な見直しを行う。
さらに将来的には,本制度における経験や実絨等を生かし,産科の枠を超え,医療全体を視野に入れた公的な補償制度の設立を目指していくことが望ましい。
10.国の支援および連携
国が本制度に対し,出産育児一時金の適宜引き上げ,標準約款の公示,原因分析・再発予防等にかかる費用の支援等の様々な支援を行うことが不可欠である。
Ⅳ.本制度の課題
本制度は公的な性質を有する新しい補償制度である。 2008年度の運営開始を予定しているが,今後の主な課題としては,すべての分娩機関に参加していただくこと,支払い方法として望ましいが制度開始時には実現できない有期年金方式の検討,社会から信頼される原因分析の確立,本制度の趣旨である,患者救済,紛争の早期解決および産科医療の質の向上の実現,等が挙げられる。また,本制度を好機として,わが国の分娩の実態に関する情報収集を行い,その情報を整理し活用することによって,産科医療の質を一層向|こさせていくことに資することも重要な課題であると考えている。
おわりに
無過失補償の考え方を取り入れた補償制度は,米国やスウェーデン,ニュージーランド等,すでに海外に存在する。わが国においても,産科医療の崩壊を一刻も早く阻止する方策の一つとして,本制度の早期実現は大変重要であると考えている。本制度の創設と円滑な運用を実現するとともに,医療関係者や患者・家族,そして社会から必要なシステムとして受け入れられる制度となるよう準備作業を進めているところである。
文 献
1)(財)日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
運営事業のページ
(http://jcqhc.or.jp/html/obstetric.htm#obstetric)
2)緊急医師確保対策平成19年5月1日,政府・与党
(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kinkyu/dl/01a.pdf)
3)厚生労働省「第1回 診療行為に関連した死亡
に係る死因究明等の在り方に関する検討会」資料3
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/dl/s0420-11c.pdf)
4)産科医療の無過失補償制度の枠組みについて(自
由民主党,政務調査会,社会保障制度調査会,医
療紛争処理のあり方検討会
(http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2006/seisaku-027.html)
師長から「保険金払いませんから、その分分娩費下げてくれ」と言われたらどうしましょうと聞かれました。
その場合、何かあっても補償は出ないことを納得の上なら、それもありでは?と言っておいたけど、本当はどうなのかしら。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2008年7 月23日 (水) 15:57
え~、。。。
だってそれって。
互助団体だもんね、要するに。
そういう感覚のない人たちって多そうだけど。
私なら何かあったらイヤだからお断りする。
分娩自体を。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年7 月23日 (水) 18:35
当院では生保または助産使用の方が保母4割です。しかし厚生労働省もしくは自治体は三万円を本人から頂くこともNG,ましてや生保、助産に関する日よの増額は認めないといっています。今のままでしたら経営が傾くおそれもありますがいかが思われますか?
投稿情報: のらりひょん | 2008年10 月14日 (火) 18:59
ん~。。。。。
そりゃあ、そうでしょうねぇ。。(;;)。
何でこんな制度になってしまったのでしょうか!?言っても仕方ないけれど。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年10 月14日 (火) 19:16
産科医療補償制度運営事業の10月10日付け 加入状況の数値につきご質問いたします。私は 茨城県で産婦人科診療所を開設しております。
本日、産科医療補償制度運営事業への加入状況を確認したとこと、茨城県は100%加入となっております。明らかに、誤りがあると思われます。また9月より逐次発表された数字の母数についても意図的に総分娩機関数を減少させている、と思わせる点が見られます。
少なくとも当院は加入しておりません。
同じような経験ありませんか?
投稿情報: 産婦人科医 | 2008年10 月14日 (火) 23:08
大阪では多くの病院が加入しておりません。医師への説明会も夏休み中を狙ってされてしまい、再度9月に医師会で説明会がありました。そこでも個人病院の先生方も本音は加入をしたくないのだけれど産婦人科医会の先導があるので大きな声ではなかなか声にだせないといわれていました。
先日夕方6時15分からの毎日放送(関東ではTBS)のVOICEというニュース番組で取り上げられました。反響も大きく紺とはTBSで土曜に特番をされる予定と連絡がありました。
大きな機関では放送にもでていましたが愛染橋病院や近畿大学系の方々の加入が少ないと伺っております。
私も情報の操作を感じます。
でないと。「うちも本当は抜けたい」と思うところが多くなりこの保険自体が成立しなくなるからだと思います。
投稿情報: のらりひょん | 2008年10 月20日 (月) 19:25
噂では、母子健康手帳交付時に市町村窓口で制度の説明と、加入機関で分娩せずに、万一脳性麻痺となった場合、補償が受けられない との説明がなされるそうです。また加入機関では、保険料相当分の分娩費のアップがあり、出産育児一時金が3万円あがりますが、制度に加入していない分娩機関で分娩された場合には35万円になることもあるそうです。そんな不公平を許せますか?
投稿情報: 産婦人科医 | 2008年10 月21日 (火) 07:23
産婦人科医会として不参加施設に制裁めいたペナルティの検討を始めているようですが、本当でしょうか?
投稿情報: 産婦人科医 | 2008年10 月21日 (火) 09:54
厚生労働省では未加入の医療機関には診療報酬の引き下げもしくは行政から受けていたら補助金のカットを検討しているそうです。一応外郭団体なのにおかしいですよね。そこまでして天下り先の確保と経済の活性化のため保険業界を大切にしたいのでしょうかねえ。ちなみに国会では答弁なしの審議無しで通っているものです。やはり官僚さんがしたいことは早いですね。
投稿情報: のらりひょん | 2008年10 月26日 (日) 19:32
保険料の3万円は高くないですか?
1年の新生児が100万人として計算すると保険料は年間300億円、脳性麻痺になる患者が年間1000人と仮定して20年支払いなので月額150万、合計15億円
必要経費を考えても高すぎないでしょうか?
投稿情報: ちひろ | 2008年11 月 1日 (土) 19:03
ちひろ様、まさにそこが問題で紛糾しております。ただしちょっと計算がおかしいと思いますよ。全額年金型というわけじゃなく、半分くらい前払いです。(脳性麻痺児に対応する家庭環境を整えるために)
それでも予想される支払額が年額150億円、しかも民間保険会社がそれを扱うと言うことで。医者も妊婦も得をしているわけじゃない、では得をしているのは?
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2008年11 月 1日 (土) 20:36