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(投稿:by 僻地の産科医)
高度化する救急診療、負担重く
全国主要病院調査から
日経NetPlus 2008-07-06
http://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/news/medical/medical/med080706.html
ニッポンの成長の一端を支えてきた医療。高齢化社会の到来で制度の限界が浮かび上がり、存続のため公平性やコスト面からの大幅な見直しを迫られている。日経新聞朝刊の連載「蘇れ医療」第1部(5月末に掲載)では「ほころびる制度」を探った。今回は全国主要病院調査を実施、医療の最前線の現状・課題を日経ネットPLUS連動でお送りする。
日本経済新聞が実施した全国主要病院調査からは、人材不足や安全対策など病院が抱える様々な問題が浮かび上がった。回答の詳細をグラフを交えて分析する。
【規模】
回答した病院の開設主体は都道府県や市町村による公立病院が3割を占めた。2番目に多いのが民間の医療法人が運営する病院で、日本赤十字社など公的病院も2割弱を占めた。病床数は 200—299床の比較的小規模の病院が3割、300—499床の中規模病院が4割、500床以上の大規模病院が3割程度だった
■医療事故、院長への直接報告制度
【安全対策】
医療の質を高め、医療事故を防ぐための取り組みでは、2003年の同一調査と比較して、大幅に増えていたのが医療安全管理組織への専任者の配置。07年4月施行の医療法改正で、すべての医療機関に「医療安全管理委員会」の設置が義務付けられたほか、診療報酬上の医療安全対策加算を請求するための施設基準で、専従の「医療安全管理者」を決めることが求められていることが影響したとみられる。一方、評価指標の設定や他病院と比較するベンチマーキングの実施などの項目は、大きな伸びはみられなかった。
・質向上や安全確保の取り組みのうち、病院全体で取り組んでいる割合が多かったのが、医療事故を院長らに直接報告する制度で8割を超えた。一方、手術の様子を撮影して患者や家族に提供している病院はほとんど増加しておらず、当直医師の翌日診療の制限も病院全体で行っているのは少数派だった。
・医療ミスを起こした医師や看護師などへの再教育を巡っては、講習や研修を受けさせたり、指導者のもとで医療現場で訓練したりするとの回答が3割を占めた。だが、再教育の仕組みを持たない病院が約4割と最も多く、再教育プログラムを持つ病院は5%に満たなかった。個々の病院での再教育に取り組むことには限界があることをうかがわせた。
■手術数・分娩の制限も3割に
【医師不足】
医療法上の医師配置基準を満たしていない病院は03年調査から半減し、4.6%だった。新しい初期臨床研修制度が始まった04年度から07年度までの4年間に、主に医師の確保難を原因とする診療体制の縮小があった病院は62.4%に達し、その大半が現在も復旧していなかった。
診療体制縮小の内容は外来診療の縮小が最も多く半数を超え、入院診療の縮小を上回った。手術数や分娩(ぶんべん)の制限も3割に達し、救急診療の縮小も25%あるなど、医師確保難が地域医療に大きな影響を与えていることがうかがわれた。
診療体制縮小の原因となった診療科は内科と産婦人科が3割を超え、小児科、麻酔科が続いた。精神科も1割を超えた。その他として耳鼻科や眼科などを挙げる病院も多く、幅広い診療科で医師が確保しにくくなっている。一方で外科は1割に満たなかった。
【救急診療】
約9割の病院が救急診療を実施していた。主に入院の必要がなく、外来で対応できる「初期救急」が1割、入院が必要な重症患者に対応する「2次救急」が6割と最も多く、特に高度な処置が必要な重篤な患者に対応する「3次救急」も2割弱含まれた。3年前と比べて、救急診療の負担が重くなった病院が7割を超え、特に3次救急で顕著で、8割に達した。
救急診療の負担が重くなったと答えた病院に、その理由を尋ねたところ、「救急でも高度な医療水準を求められることがある」との回答が6割を超えた。交通事故で心臓を損傷し救急病院で死亡した事例で、治療した脳神経外科医の救急医療の水準が不足していたとして病院側に損害賠償の支払いを命じた03年の高裁判例も影響したとみられる。そのほか十分な医師が確保できないこと、軽症患者が増加したこと、近隣の病院が救急受け入れを制限したことなども、負担が重くなった原因として多くの病院が指摘した。
■院内保育所で女性医師を支援
【女性医師活用】
現在、女性は新たに医師国家試験に合格する医学生の3割を占める。出産や育児のため、休業したり離職したりすることが多い女性医師が増えたことが、医師不足に拍車をかけたと指摘されている。女性医師の労働環境整備のための取り組みとしては、6割の病院が院内保育所を設けていた。短時間勤務を認めたり、当直や呼び出しを免除したりする病院も4割を超えた。だが代替要員の確保は2割程度で、取り組みのない病院も約1割あった。
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