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(投稿:by 僻地の産科医)
日本医師会雑誌の「生殖医療の現状と問題」からo(^-^)o
女性の加齢に伴う生殖の異常
斉藤英和 中川浩次 高橋祐司
(日医雑誌第137巻・第1号/平成20(2008)年4月 p35- )
はじめに
生殖医療においては,女性の年齢は妊娠を左右する大きな要因である.1980年以降,ライフスタイルの変化に伴い,高齢の不妊女性が増加しており,生殖医療においても加齢を原因とする不妊に対する検査法の確立や治療法の開発の必要性がある.また,高齢になる以前に子どもをもつことができる社会環境を整備することが社会的な緊急課題としてクローズアップされている.
本橋では,生殖医療における女性の加齢について考察する.
I.ライフスタイルの変化
1980年以降,ライフスタイルの変貌により,高齢になって結婚し,挙児を希望する女性が増加している.性生活(sexuality)と子どもをもつこと(reproduction)とが分離して,さらに,高学歴志向やいろいろな職業に就くことにより,結婚年齢が遅くなっている.図1は1950年からの年次別の全初婚妻に占める35歳以上の妻の割合であるが,1950年では1.2%しかなかったものが徐々に増加し,2000年には4.5%となり,2006年には8.3%とさらに急速に増加している.
子どもをもたない一生を選択したり,子どもを生むことを先に延ばしたり,家族に占める子どもの数が減少している.結婚している夫婦でも,子どもをもつことに対して悩む夫婦が増加しているが,これはさらに高度な教育や知的専門職に就くことを望むことと子どもをもつことを両立させることの困難さや,子どもをもつことで個人の自由が失われるのではないかという恐れに起因している.このような理由で,若いときには子どもをもたないと決めたが,高齢になってから気が変わり,子どもをもとうとする人も少なくない.また,その夫婦が子どもをもつに相応しいと決めた高齢の時期まで,計画的に子どもをもつことを延期している夫婦もいる.
このような影響を各年次の全分娩数に占める35~39歳の年齢群と40歳以上の年齢群を検討してみると,1950~80年にかけては両群とも減少傾向であり,1980年にそれぞれ,最低値3.8%,0.4%を記録した.その後上昇に転じ,2000年には10.6%,1.3%となり,2006年には15、6%,2.0%と,挙児に関するライフスタイルが急速に変化していることが分かる(図2).
Ⅱ.生殖補助医療における症例の年齢分布と妊娠率
ライフスタイルの変化が,本邦における生殖補助医療においても影響を及ぼしている.新鮮胚を用いた生殖補助医療を行った症例における,最近の年齢分布の変化を日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会の統計でみると,2003年治療分は1997,2000年に比較し,34歳以下の群で減少し,40歳以上の群で増加する傾向がある(図3)
また,2007年治療分より,本邦ではインターネットを用いて生殖補助医療を行った症例の治療成績を報告するシステムを開始した.9月上旬までの報告は,新鮮胚の治療で3万件を超えている.生殖補助医療を行った症例の年齢分布を検討すると,中央値は37歳で,35歳以上は64.5%,40歳以上は26.1%と高齢の症例が多いことが分かる.
米国の2004年の新鮮胚,non-donor胚での治療と比べると,米国の中央値は35歳で,本邦(2007年1~9月)のほうが2年高齢であることが分かり,さらに本邦では,高齢者の割合が多いことが分かる(図4).この理由として,米国では,高齢者は若い人の卵子提供による治療を選択することが急増していることによると考えられる(図5).よって,本邦においては,卵子の加齢による妊孕性の低下について,より精力的に治療法の開発に取り組まなければならない.
また,生殖補助医療における年齢の影響を,新鮮胚を用いたnon-donor胚で検討すると,米国(2004年),日本(2007年1~9月)とも,年齢が高くなるにつれて胚移植当たりの妊娠率が低下しており,本邦では32歳ぐらいから,なだらかな低下傾向となっており,46歳以上では妊娠率が0%となっている(図6).
Ⅲ.生殖補助医療における年齢別の流産率
本邦においては,生殖補助医療の症例ごとの登録が2007年から開始された.この結果が解析できると,本邦における年齢別の流産率も掲載することができるが,まだ集計途中であるので米国の新鮮胚治療による成績で検討すると,やはり,流産率は若年では約10%であるが,39歳で20%を超え,年齢が高くなるにつれて急速に高くなる傾向が分かる(図7).
Ⅳ,妊娠・分娩時や胎児の異常
残念なことに,生殖補助医療の症例において,母体の年齢と妊娠中や分娩時の異常,胎児の異常との関連を調査した大規模で正確な統計はない.
しかし,自然に妊娠した症例においても,母体の加齢は,分娩時異常出血,前置胎盤,常位胎盤早期剥離,予定・緊急帝工切開の頻度の上昇をもたらすことが報告されており(表1),生殖補助医療の症例においても同様であると推察できる.不妊因子がさらに発現頻度に影響を及ぼす可能性も推測でき,今後,生殖補助医療症例においても,これらに関した詳細な調査が早急に行われるべきである.
おわりに
現在、社会の変化により,晩婚化か進み,挙児を希望する年齢も高齢化している.この母体の高齢化は,妊娠率の低下や,流産・奇形児出産率の増加など,妊孕力に影響を及ぼすことが懸念されている.卵・卵巣・子宮に関する老化現象を正確に評価し,さらに加齢に伴う妊孕力の低下に対する治療開発が行われるとともに,若い時期に子どもをもつことができる社会環境の整備がなされなければならない.
……………………………文献……………………………
1)日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会報告一平成10
年度生殖医学登録報告(第10報)[平成9年(1997年)
分の臨床実施成績一国際統計報告書].日産婦会誌
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2)日本産科婦人学学会生殖・内分泌委員会報告一平成13
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年)分の臨床実施成績一国際統計報告書].日産婦会誌
2003 ; 55 : 551-568、
3)日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会報告~平成16
年度生殖医学登録報告(第16報)[平成15年(2003
年ト分の臨床実施成績一国際統計報告書].日産婦会誌
2006 ; 58 : 1013-1037.
4)佐藤 章他:加齢に伴う妊娠合併症に関する研究.厚生
省心身障害研究「ハイリスク妊娠に関する研究」(主任研
究者:武田作彦)平成4年度研究報告書.1993.
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