(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
個人用のパブコメ中間発表の整理を始めてみました。
OCRですので、誤字脱字はお許しください。
あとざっと独断と偏見でまとめを。
↓ 今までの分です
なにげなく普段の続きだったのですけれど、
あら!とっても参考になるパブコメ(>▽<)!!!!
ということで、今日は一つだけ紹介させていただきますね。
どうぞ ..。*♡
【208】 50代 p386
愛知県弁護士会あっせん仲裁センター運営特別委員会委員
日本弁護士連合会ADRセンター委員(副委員長)
渡邊一平弁護士
私は、愛知県弁護士会あっせん仲裁センターに平成9年の設立時からかかわり、現在も運営委員及びあっせん仲裁人としてセンターの運営や個別の事件の解決にあたっています。
当センターは、全国の弁護士会ADRのなかでも非常に件数が多く、1年に約200ないし300件の民事紛争の申立がありますが、その中で医療事故紛争は20ないし30件で、建築事件と並んで大きなウエイトを占めています。
医療事故訴訟は、内容の高度の専門性や、被害の深刻さ、患者と医療機関の不信感が強いケースが多いことから非常に長期化し、患者側、医療側の負担は極めて大きく、裁判所泣かせ、弁護士泣かせの難事件といわれています。
当センターは話し合いを中心とする和解あっせん手続により、迅速、公正・妥当な解決をめざしており、早期解決などでかなりの成果を上げています。その一方、ADRは裁判と異なり、有責か無量かなどの対立が激しく厳格な証拠調や判断を行う必要があるケースには向いておらず、当事者の対立が解消できない場合には打ち切らざるを得ないなど短所もあります。
今回の試案は、国が設置する医療安全調査委員会が、一定の医療死亡事故について死因や診療経過を調査し、調査報告書を作成・交付するものですが、こうした制度はADRによる紛争解決にも大変有益と考えます。試案に賛成する立場から、意見を述べます。
他の弁護士会ADRで医療事故紛争解決に携わっている□□弁護士(仙台弁護士会紛争解決支援センター)、△△弁護士(札幌弁護士会紛争解決センター)も同意見であり、本意見は、3名の代表として述べるものです。
1 弁護士会ADRにおける医療事故紛争解決の実状
① 日本の弁護士会では、平成2年の第二東京弁護士会仲裁センター設置を最初として、現在24の弁護士会で、民事紛争全般を対象とするADRが設置されています。名称は、「仲裁センター」、「あっせん仲裁センター」、「紛争解決センター」など様々で、「弁護士会ADR」とか、「弁護士会仲裁センター」と総称しています.いずれも話し合いを中心とする示談あっせんや仲裁により、紛争を迅速・公正・簡単に解決しようという点で共通しています。
② 利用状況
i 全弁護士会ADR
申立件数は、全事件で962件、そのうち医療事故事件が54件です。解決事件は全事件で379件、うち医療事故事件は23件です(平成18年度)。解決に要する審理回数、期間は、全事件平均が2.9回、期間は73.1日です。医療事故事件だけの審理回数・期間は統計が取られていません。
ii 愛知県弁護士会あっせん仲裁センター(名古屋及び西三河)申立件数は、全事件で225件、そのうち医療事故事件が24件です。解決事件は全事件で92件、うち医療事故事件は8件です(平成18年度)。
解決に要する審理回数、期間は、全事件平均が4.2回(名古屋)、2.8回(西三河)、期間は54.2日(名古屋)、96日(西三河)です。医療事故事件だけの審理回数・期間は、4回、153日(いずれも名古屋)です.
iii 医療事故訴訟
医療事故訴訟の件数は、912件(全国)、29件(名古屋地裁)で、解決に要する期間は、25.1月(全国)です(平成18年度)。医療事故訴訟の審理期間は、かっては36.3月(平成9年)と極めて長かったわけですが、裁判所や関係者の努力で、審理の改革と迅速化が図られた結果約2年に短縮されました。しかし、通常事件の審理期間7.8月に比べると、現在でもなお長期間かかる難事件であるといわざるを得ません。
また審理期間だけでなく、患者側・医療側とも訴訟遂行のための人的・物的な負担、苦労は極めて大きいのが現状です。専門知識も組織もなく、事故そのものにより被害を受けている患者側の負担が大きいのはいうまでもありませんが、医療側も紛争に対応するための負担だけでなく、本来信頼関係により結ばれているべき患者側と訴訟の場で対立することそのものも大きな精神的負担でしょう。
2 医療事故紛争におけるADRの長所と短所
①長所
i 早期解決
何といっても審理期間が短くて済み、早期の解決がはかれます。訴訟の場合の審理期間25.1月に対し、当センターの場合で150日、約5ケ月であり、早期の解決がはかれています。早期解決は訴訟と比べたADRの大きなメリットです。
ii 人的・物的な負担の軽減
話し合いを中心とする手続ということで、訴訟に比べてかなりの負担が軽減されます。
ADRといっても、医療事故紛争は、法的紛争の側面があり、重任があるかどうかの判断や適切な解決策の検討、妥当な賠償額の算定が重要ですので、単に話し合えば解決するというのでなく、ある程度の事実関係や評価などの主張や立証は必要ですが、訴訟に比べるとずっと簡単なものです。たとえば、訴訟の場合、診療経過一覧表の作成が求められますがこれが大変です。争点に関する経過だけでなく診療経過全般について詳細な事実関係の確定と主張・立証が求められ、大きな負担となっています。ADRの場合は主張立証も紛争解決に
必要な範囲だけに絞れば良く、負担は軽くなっています。
また訴訟に比べると、対立の度合いが少なく、当事者の精神的な負担も軽減されます。
iii 説明そのものによる紛争解決、関係改善の図りやすさ
医療事故紛争では説明が極めて重要です。事故後の医療機関から説明が不十分であったり、また説明がされても患者側の誤解や理解不足により紛争になってしまう場合もかなりあります。こうしたケースでは、ADRの場で、医療機関から誠実で丁寧な説明をされることにより、事件が「取下」とか「和解不成立」として終了する場合がかなりあります。事件終了事由としては「取下」あるいは「和解不成立」に分類され、解決件数に計上されませんが、紛争解決という点からはこれも立派な解決です。
有責であるかないかは別にして、誠実な説明がされることは、医療側の治療内容や誠実に治療にあたったことを理解していただくことにつながります。関係改善の点でもADRの場での説明は有効です。
iv 軽微事案や特殊事案の解決に適切
事故ではあっても被害はごく軽微な紛争の場合(たとえば歯科の治療の際器具を食道内に落としてしまったとか、手術の際の器具の置き忘れとか)でもこじれると深刻な紛争になってしまいます。しかし、こうした紛争解決のため、訴訟を提起することは時間的にも長くかかり、負担も大きすぎ向いていません。
また美容整形の紛争は説明義務が問題になることが多く本来の医療事故訴訟とは違い消費者紛争的な面があります。こうしたケースはADRの解決が適しています。
② 短所
i 強制力がないこと
ADRには強制力はなく、相手方が話し合いのテーブルに乗ってくれなければ進められませんし(手続の応諾)、和解案に応じなければ和解は成立しません(和解の同意)。
このうち、手続の応諾を多くするためには、ADR側の体制整備とともにADRのメリットをPRして、当事者(患者側・医療側)に理解してもらうことが重要です。なお、当センターの場合、医療事故紛争の手続応諾率が95.83%と全事件の手続応諾率83.11%よりはるかに高くなっています。当センターの医療事故事件ではほとんどの件で医療機関が選任した弁護士が出頭しており審理に参加しています。医療事故事件の手続応諾率が通常事件より高い理由は、愛知では、弁護士会ADRでの医療事故解決の実績が沢山あり、適切な紛争解決方法であることが、患者側だけでなく医療側からも認知され信頼されてきたためではないかと思います。
また、和解の強制力がないことはADRの長所と裏腹です。強制力がないからこそ双方身構えず率直に話し合いができるわけですし、説明も本音も言えるわけです。また判断に強制力を持たせようとすれば手続保障が重要となり、証拠調べや判断は厳格なものになってしまい(手続が重くなる)、迅速で簡単な解決というADRの最大の長所を壊してしまいます。
ii 対立が激しく、厳格な証拠調べや判断を要する事件には向いていないこと
これまで述べたようにADRは厳格な証拠調べや判断が必要な事件には向いていません。特に医療事故事件の場合、診療経過の事実関係や事故につき医療側が有責かどうかの対立が大きく解消できない場合はADRの解決は難しく、訴訟による解決を選択せざるを得ません。有責か無責か争いのある事件の解決に向いていない点はADRの最大の短所と言えます。そこで、ADRをよく知っている弁護士が代理人として申し立ててくる事件は、有責の判定が出ているが因果関係や損害について争いがある件(たとえばガンを見落とした場合と延命の可能性の問題)が中心でした。
解決できる医療事故紛争の範囲を拡大しADRを利用しやすくするためには、この点が大きな課題でした。
iii ADRの体制整備、強化の不足
ADR機関は全国的な整備がされておらず、申し立てられる医療事故紛争の件数も少なく、医療事故を扱う体制の整備ができていません。医療事故紛争は、中央だけに起きるのでなく日本全国で起きる紛争です。これに対応してADRができているかといえばまだ未整備といわざるを得ません。
医療事故紛争を扱うADRとして、現在あるのは、民事調停と弁護士会ADRぐらいです。医師会.歯科医師会の設置している紛争解決制度もありますが、申立資格は医師側だけであったりして不十分なものです。
民事調停は日本全国にありますが、弁護士会ADRはまだ24弁護士会しかなく、未設置会も多く、全国に設置することが必要です。
医療事故事件という専門性が高い難事件を扱うためには、適切な手続実施者(あっせん仲裁人、調停委員)の確保や研修、専門性に対処するため専門家(医師や医療分野に明るい弁護士)に参加して貰うなど制度面の工夫が必要ですが、これらも足りません。
3 試案について
① 試案は、次のような趣旨を述べています。
i 一定の範囲の医療死亡事故には、大臣への届け出義務を課し(16- 18)、国が設置する医療安全調査委員会(地方委員会)が(6- 9)、解剖、診療録等、事情聞き取りなどの調査を行い、死因、診療経過、診療行為の内容や背景要因、再発防止策などを評価・検討し調査報告書をとりまとめ(10- 12,27①-③)、患者側・医療機関側に交付する。(27④)。
調査報告書は、遺族-の説明や示談の際の資料として活用され、早期の紛争解決、遺族の救済につながることが期待される。
(43)民事調停、ADRで医療事故紛争を解決するためには、事実関係の明確化と正確な原因究明が不可欠であり、地方委員会の調査報告書は、早期の紛争解決、遺族の早期救済に役立つものと考えられる。(44)
試案には多くの論点がありますが、ここでは、ADR関係者として関連部分について意見を述べます。
ii いずれも妥当で的確な提案であり、医療安全調査委員会の設置、組織、権限、構成を含めて賛成します。永らく医療事故の原因確定、調査は、不十分な形でしか行われていませんでした。調査にあたる然るべき機関がないために、医師や医療機関に対する民事責任(又は刑事責任)が追求される際にその前提として判断されるのみでした。
(3)
ましてや、医療事故の民事責任について交渉段階で、中立公正な立場で事実関係や原因を調査確定する機関や制度もありませんでした。刑事責任の追求は、捜査機関による捜査という手続で行われますが、捜査に時間がかかるうえに現実に立件されるケースは極めて稀です。自動車事故においては多くのケースにおいて刑事責任が追及され、当該事故の刑事事件記録が民事責任の資料として活用される実態と比べると大きな違いです。
患者側は、医療側から、任意に医療情報を得られないために、正確な事実関係や事故の原因を知ることが非常に困難で、不信感が募る大きな原因になっていました。結局、患者側は、非常に困難な民事訴訟を提起するか、刑事司法の責任追及や世論、マスコミに過度に期待するなどの方向に向かわざるを得ませんでした。
また医療側の一部に、指弾されるような体質(学閥、身びいき、悪い情報の隠匿)があったことも事実だと思います。医療が専門分野であるが故に、十分な開示と説明が必要だと思います。試案が提案する、一定の医療死亡事故死についての大臣への届け出義務化、これに基づく医療安全調査委員会の調査、医師法21条の届け出義務との関係の整理は、いずれも適切な改革と考えます。また、前述のように、ADRでは、診療経過や死因の調査は難しい場合が多く、この点を調査権限がある国の委員会が調査して調査報告書としてまとめ、調査報告書を遺族と医療機関に交付し紛争解決に利用できることは、ADRによる紛争解決に大いに有益です。
これにより早期の適切な紛争解決が図られ、当事者の負担も軽減され、患者・医療機関双方に取り大きなメリットがありますし、ひいては患者と医療機関との信頬回復にも資するものと考えます。またADRでの紛争解決が促進されることは、訴訟との適切な役割分担が図れることになり、訴訟が本来の役割を果たすことにも間接的に資するものです。
② 医療事故紛争についての関係者の協議会の提案(45)
i 試案は、ADR制度の活用の推進を図るため、医療界、法曹界、医療安全支援センター、ADR機関等からなる協議会を設置し、情報や意見の交換等を促進する場を設けることを提案しています。この提案は有益なものであり賛成です。
ADRでの医療事故紛争解決の促進は、患者、医療側双方に取りメリットがあるものですが、実際のADRでの医療事故紛争解決は、一部のADRで断片的に行われているだけで、法曹界でもまだまだ全国的な動きにはなっていません。また、医療事故紛争は専門事件として、医療界、医療安全支援センターの協力が必要ですし、関係省庁のとの情報交換も有益です。
たとえばADRに医療専門家(医師)にどうやって参加して貰うかなど(ADR期間と医療界の協力体制)個別に検討すべき課題は沢山ありますし、ADRの運営費用をどう賄うかといった財政面の問題もあります。
しかし、まず関係者が一同に会することにより連絡・情報交換の場を持つことは大きな一歩です。試案の提案には賛成します。医療事故紛争は前記の通り、全国各地で起きるものですし、各地の実状は様々です。こうした協議会は、中央だけでなく、地方でも設置されることが必要と考えます。
ii 弁護士会ADRの連絡や情報交換の場としては、日弁連ADRセンター主催の全国弁護士会仲裁センター連絡協議会があります。昨年愛知で開催した第11回連絡協議会のテーマは医療事故紛争でした。このときは、公立病院院長、裁判官、医療側・患者側弁護士、あっせん仲裁人が参加したシンポジウムのほか、名古屋、東京、千葉、仙台などの医療ADR関係者からも会場発言がされ、各地の実状や改革の動きが報告され非常に有益でした。
我々は、今後も、所属するADRにおいて、申し立てられた個々の医療事故紛争を迅速、適切に解決するとともに、様々な関係者との協力や情報交換を通じて、より良い医療事故紛争解決制度をつくっていくため努力していく所存です。
以上
次は【209】 p393ですo(^-^)o ..。*♡
コメント