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(投稿:by 僻地の産科医)
表題の「外科医に未来はあるのか」ですけれど、
なんだかとっても共感してしまいます。
「産婦人科医に未来はあるのか」
もう産婦人科ではそろそろ答えが出そうなあたりが悲しいです(;;)。
辞めるかどうか、いつも五里霧中。
でも「未来があってほしい」
「娘の出産時にせめてお産を取ってあげたい」
と思うのは、たぶんきっとオバカサンなんですね(笑)。
では、どうぞ ..。*♡
外科医に未来はあるのか
本田宏先生
日経メディカルオンライン 2008. 6. 26
(1) http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/honda/200806/507072.html
(2) http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/honda/200806/507072_2.html
(3) http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/honda/200806/507072_3.html
(4) http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/honda/200806/507072_4.html
先日、政府内で医師増員の方向性が決定した、という報道をご紹介しましたが、私のブログにも現場から賛成・反対両方の立場からのご意見をいただきました。確かに、少し前まで「医師の絶対数不足は偏在が問題」とされていたように、それぞれの施設や地域によって、医師不足をそれほど深刻に感じないことがあるのも、また日本の実態だと思います。しかし、今年になって全国からの講演依頼がむしろ増加し、各地域で医師不足を根本原因とする医療崩壊の実態を見ている私は、「日本の医師不足の原因は偏在ではなく、絶対数不足だ」と断固主張します。せっかく決まった医師増員路線ですが、早くも増員は最小限に抑えよう、という動きが水面下に出ていることも仄聞しています。これからも医療崩壊を食い止めるために、実効性ある医師増員を粘り強く訴えていきたいと思っています。
さて今回は、千葉県浦安市の東京ベイホテル東急で6月12日に開催された第33回日本外科系連合学会の共通シンポジウム2「外科医不足の原因と対策」に参加してきたことをご報告します。今回の学会長は、埼玉医科大学国際医療センター消化器外科の小山勇教授で、学会の主題は「将来を支える外科医の育成」です。そして同シンポは、厚生労働省医政局指導課長の佐藤敏信氏、そして私が基調講演を、その後に各方面から6人の演者が発表するというものでした。
以下に私が印象に残った発言をご紹介します。(敬称略)
佐藤敏信 (厚生労働省医政局指導課長)
私は昭和58年3月に山口大学医学部卒業した。今、厚労省はかなり厳しい立場に置かれているが、今日の話を一言で言うと「水に落ちた犬の遠吠え」と表現できるかもしれない。現在の日本の医療に問題が山積していることは承知しているが、現場でできることを考えないで、グローバルスタンダードと比較しているだけでは、思考停止になってしまう。
私は、現在の多くの医療問題は、医療に対するニーズが変化したことが大きな原因だと考えている。コンビニ受診に代表されるように、救急車出動数がこの10年間で51%増加しているが、その増加は成人の軽症と高齢者の軽症、中等症の患者だ。医療事故報道の影響も大きい。昔なら許容されたようなものまで医療事故と見なされるようになった。
このように量と質の大きな変化が発生した上に、医師のやりがいの低下(給与、謝礼、バイト禁止など)、女性医師の増加、新医師臨床研修制度の導入、団塊世代の医師の定年、名義貸し問題、大学院重点化など研究重視、といった様々な要因がある。この結果、医師数は確実に増えているにもかかわらず、産科、外科は減少している、という事態が生じている。
さらに病院側の責任もある。年功序列給与体系を見直さず、魅力ある職場・研修の場作りに努力してきたのか。以前は、病院の院長は医師リクルート(大学への窓口)、事務長は赤字補填(予算獲得)が大きな仕事だったが、自治体の財政赤字もあり、それもままならなくなった。
さあ、これからどうするか。今後は、病院の収益を個々の医師に還元する仕組み作りが必要だろう。また医師の労働の評価をどうするか。結果平等、年功序列型はやめた方がいいだろう。こういった努力は、総医療費抑制策とは直接関係ないので、国に頼らなくても各医療機関でできるはずだ。
医師の偏在に関しては、診療科別、地域別の適正医師数などを厚労省が提言する必要があるかも知れないが、舛添大臣の考えでそれは難しいだろう。
本田宏(私)
今まで日本では情報操作がまかり通ってきた。グローバルスタンダード(世界)は医療の高度化や高齢化に合わせて医師を増員させてきたが、日本はそれを無視して、医師は確実に増加しているとし、無駄が多いとされてきた。世界一の高齢化社会なのに、国民1人当たり医療費はG7中最低という低医療費にも関わらず…。今こそ、財源の問題も含めて、医療崩壊を救うことが日本の医師の社会的責任だ。
「食道外科医育成の諸問題」 大杉治司(大阪市立大学消化器外科)
最近の若い人は専門医の資格を取りたいという志向が強いが、実際には専門医資格を持っているからといって、給与が上がるなどのメリットはほとんどない。
食道外科医は、高い専門性と胸部外科の知識が必要だ。実際に食道外科領域では、手術件数と成績(低い死亡率)が相関しており、その意味で施設集約が必要な分野だ。ただし食道手術は、実際にかかるコストよりも診療報酬点数が低い(コスト134万に対し、手術点数8万8000点)などの問題もあり、現場では手術をすればするほど赤字になるのが実情だ。
食道外科医を育成する(消滅させない)ためには、その特殊性を考慮して、充実した教育体制(短期養成プログラム、効率の良い教育)、専門医に対するフィードバック、医療事故に対する配慮が必要だ。
「外科医不足と分析的コミュニケーション」保田尚邦(伊勢崎市民病院外科)
外科が、なぜ“3K”(きたない、きつい、きけん)職場といわれるのか。私たちの先輩も含めて、指導医が大いに反省すべきではないだろうか。外科系も魅力があることを伝えなければ、外科医増加は難しい。研修医は、残業がなく楽しい職場を望んでいる。私たちは、てきぱきと仕事をして、早く勤務を終えられるようにすることが重要だ。
この保田氏の発表に対し、フロアの有名病院外科指導者から、「当院では、早く帰りたい、というような若手はいない。手術がきちんとできるように指導することが重要ではないか」と質問の手が挙がりました。この意見に対して私は、「日本全国を回っていて、医師が集まり選抜できる“勝ち組”の病院と、頭を下げても研修医が集まらない“負け組”の病院が、明確に分かれるようになったと感じている。お二人のおっしゃるところはその立場の違いで、私はまさに日本の縮図だと思う」と意見を述べました。
「厚生労働省医師調査にみる外科医不足の現況」中山壽之(日大消化器外科)
医師の統計を調べると、世の中で話題になっている産科や小児科よりも、外科医の減少の割合が大きかった。また、最近の20歳代の医師を対象にした統計では、女性医師の増加は明らかだ。女性医師が外科医として働けるような環境整備の努力が必要である。
「Stop the 『外科医不足』:外科医の総幸福度アップを目指して」保谷芳行(東京慈恵医大外科)
外科医不足を食い止めるためには、健全な組織を作ることが大前提だ。コメディカル充実、女性医師勤務環境整備、当直明け勤務改善、行き過ぎた医療訴訟の抑制など、私は日本勤務医会などの設立が必要だと感じている。
欧米の医療現場では既に常識になっている、医療事務職、医療行為の分業化など日本でも参考にすべきことは多い。また医師総数が少ないことは問題だが、その中で医師の偏在(科や地域)の是正も必要であろう。ただ、これを厚労省主導で行うのではなく、医療界が提言して進めていくことが重要である。
国民総生産(GDP)当たりの医療費増に関しても、技術料アップを求めるのならば、どこからその医療費を工面してくるのかというような財源の視点を持つことも、我々に求められている。
「外科医不足:魅力ある外科を目指す―市中病院での重症急性膵炎集学的治療経験から―」古屋智規(市立秋田総合病院外科)
私たちは、ときに訴訟にもなりかねない重篤な疾患(重症急性膵炎)を数多く経験しているが、地方で重篤な疾患を診る外科医不足は深刻である。重傷者が入院すると、1週間に1度自宅に帰宅できればよい、という状態も珍しくない。
医療崩壊の厳しい現場で働いていて、例えば医師不足は簡単に解決できないが、医療現場の窮状を社会に理解してもらうことはできると思い、今日も発表している。また、他職種との協調も可能だ。私たち自身も変わる必要がある。
輝く救急医養成プログラム 川嶋隆久(神戸大学 救命救急科)
救急医の不足の背景には、救急医の立場や院内での認知度が高くなかったこと、さらに教育カリキュラムの不足などが挙げられる。
私たちは救急医不足の問題を解決するために、「輝く救急医養成プログラム」として卒前教育から卒後まで一貫した教育体制を敷いている。また他施設実習にも学生を参加させるなど、全国的なレベルで救急医を養成するシステムを実施している。また蘇生の研修コースをクリアしたら修了証を発行するなど、達成感が味わえるようにしている。さらに、指導者コースも工夫して、良き指導者育成にも努めている。このプログラムで心の情熱と実力を持つ救急医が増えると信じている。
これらの発表に対し、日本外科学会の兼松隆之会長よりコメントがありました。
実は、世界的に外科医は不足している。米国では、外科医不足のため教育制度改革とともに労働時間の短縮などを図っている。フランスでも外科医不足で労働時間短縮を実施した。
日本は病院機能の統合・分化が未整備だ。しかし、この整備は医療空白地帯増大を避ける意味でも、時間をかけて行っていくことが重要。即効性がある対策は、コメディカルを増やすと同時に医事行為規制を緩和し、医師が医師の本来業務に専念できるようにすることだ。
外科医も、仕事の上でオン・オフがはっきりした生活をできるようにする努力が必要だ。また患者さんにも、医師だからいつでも何でもしてくれる、手術は成功して当たり前、というような認識を改めてもらうための努力が必要である。
私も外科学会長として、可能な限りメディア取材に対応し、外科学会開催後は新聞紙上(日経新聞)でも一面を用いて外科医不足の現状を訴えてきた。さらに外科医のイメージアップを図るために、子供向けに「キッズ外科体験セミナー」を実施した。山は険しいが、一歩一歩登っていくしかない。
最後に、厚労省の佐藤さんから、「自分たち官僚も、現実には人手不足による深夜勤務などの過重労働、さらに2年程度で部署を代わる関係もあって専門職の評価がきちんとされず、相対的には総合職の評価が高いという構図がある」といった、忌憚のないご意見を伺えました。私は最後に、「この医療崩壊の世にたまたま外科医になった、私たちの社会的な責任を自覚すべきだ」と結ばさせていただきました。
今回のシンポジウムは、ただ現場が苦しい、というだけの話に終わらず、冷静に現実を分析しつつも、各演者から現場でできる具体策が出された有意義なものだったと思います。
車窓のディズニーシー
右の写真は、シンポジウムが終わってディズニーリゾートライン(モノレール)の車窓から撮影したディズニーシーです。東京ディズニーランドは、今年、誕生25周年を迎えたようです。
私にとっては、ここのところ訪れる機会もほとんどなかった場所ですが、思い起こせば、10年以上前には家族で何度もディズニーランドに来ていました。しかし、その当時の記憶には、楽しかった思い出がほとんどないのです。いつ担当する患者さんのことで呼び出されるか分からない状況、日ごろの業務で疲れきった心身…。余裕がない状態での家族サービスは、“つらいばかりのデューティ”のようなものだったからに違いありません。
兼松会長が指摘された「オン・オフがはっきりとした勤務体系」を、せめてこれからの若手外科医にはプレゼントしたい、と車窓を眺めながら考えました。
以下の言葉に何度も泣けました。
先生、ありがとう、頑張ってください。
私にとっては、ここのところ訪れる機会もほとんどなかった場所ですが、思い起こせば、10年以上前には家族で何度もディズニーランドに来ていました。しかし、その当時の記憶には、楽しかった思い出がほとんどないのです。いつ担当する患者さんのことで呼び出されるか分からない状況、日ごろの業務で疲れきった心身…。余裕がない状態での家族サービスは、“つらいばかりのデューティ”のようなものだったからに違いありません。
兼松会長が指摘された「オン・オフがはっきりとした勤務体系」を、せめてこれからの若手外科医にはプレゼントしたい、と車窓を眺めながら考えました。
投稿情報: 医学生 | 2008年6 月30日 (月) 18:30
本田先生は本当に優しい方ですよね。
いつもお会いしてよく思います。
私の妹にまで「お姉さまには本当にお世話になっております」ってお世話になっているのはこちらです(;;)。
本当に外科系医師にとってはこの言葉は身に染みる言葉で、同窓会やっても「ごめん!患者がドレーン引っこ抜いたって!」と中座するヤツ、「キンキューオペです~」と帰るヤツ。
はたまた「あまりにうちに帰れず離婚された」まで様々です。遠出は禁止。プールも入れません。(携帯がなるのに気がつかないから)。映画にも家族と行きたいけれど、途中で呼ばれるとイヤだからお留守番。(ハリーポッター見にいきたかった。。。)でも無理に見にいっても楽しめないんですよね。。。
ディズニーシーでは(出口まで、そして車あるいは電車乗り場までが遠いので)さぞかしお厭であったろうとお察しします。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年6 月30日 (月) 21:29