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(投稿:by 僻地の産科医)
Medical ASAHIが
甲状腺特集でしたo(^-^)o ..。*♡
最近のMedical ASAHI、
海外医療事情とか始まって、割とおもしろいです!
(↑でもあんまり一般向けじゃなくって難しい感じ)
性感染症とたたかう!はそのうち特集します。
内分泌っていうだけで実はしり込みしちゃうんですけれど。
読んでるとはらひれはらほれっと眠くなります。
甲状腺疾患と妊娠・出産
百渓尚子
東京都予防医学協会 内分泌科部長
(Medical ASAHI 2008 May p33-35)
妊娠・出産に支障を生じる可能性のある甲状腺疾患は、バセドウ病と甲状腺機能低下症(低下症)である。バセドウ病は子どもをつくる年代に好発する疾患で、妊婦に見られる頻度は200~500人に1人であり、低下症はこれより少ないが、どちらも適切な管理が行われれば健常者と変わらず安全に出産できるので、見逃さないよう注意が必要だ。バセドウ病は、胎児にとって妊婦に対する至適な治療が、必ずしも最適ではない場合があり、子どもに影響を残さないよう対処するには進んだ専門的知識が必要となる。一方、低下症は合併症も少なく、母児の利害が一致しているため、管理は難しくない。
甲状腺機能異常の判定と診断
甲状腺ホルモンの過不足による症状は特異ではなく、ことに妊娠初期は悪阻による影響もあって気付かれにくい。そこでたとえ小さくてもびまん性甲状腺腫が見られたら甲状腺機能を調べる必要がある。まず甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度を測定する。正常であれば問題ない。高値であれば低下症と判断する。低値の場合は遊離サイロキシン(FT4)、遊離トリヨードサイロニン(FT3)を測定する。
TSH濃度とFT4、FT3濃度は鏡像関係にあり、これらが高ければTSHは低値で、先進症が存在する(図)。TSHはFT4、FT3のわずかな濃度変化にも反応し、FT4、FT3濃度に多少でも異常があると基準値を逸脱する。またFT4、FT3が基準値内でも個人の正常値でない場合はTSHが基準値を外れる。 FT4、FT3が基準値でTSHが低値である場合を潜在性先進症、高値である場合を潜在性低下症と言い、ごく軽い甲状腺機能異常があることを意味する。なおTSH濃度の変化が遅れるためにFT4、FT3の値に見合わない時期がある。
FT4、FT3濃度は妊娠16週前後から生理的に低くなる。これらとTSHとの関係は妊娠中も係たれているので、FT4、FT3が通常の基準値を下回っていてもTSHが基準値であれば正常と判断する。また通常の基準値内でもTSHが低値なら軽い機能先進が存在すると判断する。
妊娠初期はバセドウ病と紛らわしい先進症がある。これは胎盤性のゴナドトロピン(hCG ; ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)濃度の高い8~13週に最も多く見られる一過性のもので、hCGに弱い甲状腺刺激作用があるために起こる。妊娠一過性先進症(gestational transient hyperthyroidism)などいくつか呼び名がある。妊娠悪阻の強い場合や多胎に多いが、健常な妊婦にも起こり、妊娠初期はバセドウ病より頻度が高い。本症は、甲状腺機能先進がよほど強くなければ治療の必要はない。両者の鑑別の決め手はTSH受容体抗体(TRAb)である。
低下症の原因疾患は橋本病が多い。しかし原因疾患が何であっても治療は同じなので鑑別の必要はない。
バセドウ病妊婦に起こる問題
バセドウ病と関連して流早産や妊娠高血圧症候群が起こることがある。これらの頻度は甲状腺機能が是正されていれば健常者と変わらない。なお極めて管理が悪く、循環器などの合併症を伴うと、出産を契機に甲状腺クリーゼを発症し重篤な状態に陥る。しかし著しい先進症が出産まで見逃されるようなことがめったになくなった今日、ほとんど見られなくなった。
胎児・新生児に懸念される問題を表1にまとめた。妊娠初期は奇形、中期以降は甲状腺機能異常である。妊娠初期の母体の甲状腺ホルモンの過剰が奇形発生に関与するとの見解は現在支持されていない。問題は、2種類ある抗甲状腺薬のうちチアマゾール(メルカゾールMMI)の催奇性が否定できなくなったことである。
先進症に対する効果の確実性と副作用の観点からすると、MMTのほうがもう一方のプロピルチオウラシル(チウラジールR、プロパジールR:PTU)より優れており、バセドウ病の第一選択薬になっている。 MMIは一般的な奇形の発生率に影響しないとされ、また胎盤通通性もPTUと差がないことも判明しているため、妊娠中も第一に選択したい薬剤である。しかし、服用者の児に後鼻孔閉鎖症、気管食道瘻、食道閉鎖症、臍腸管瘻などのまれな奇形が単独あるいは合併して見られたとの症例がこれまでに20例以上あり、これらの発生に関与する可能性があるとして、日本甲状腺学会のガイドラインでは妊娠8過までの服用を避けることを勧めている。ただPTUにも弱点はあるので、個々の患者で選択が異なってしかるべきで、ここは専門家が介入すべき場面であろう。 MMIの催奇性については今年から前向き研究が開始された。
妊娠中期以降になると、胎盤を通過してくるTRAbで胎児の甲状腺が刺激され、TRAb濃度が高いと先進症を発症する。しかし抗甲状腺薬にも胎盤通過性があるために自然に治療され、影響を免れる。問題は、最適な抗甲状腺薬の量が母児で一致しないことである。母体の機能を正常機能にすると、胎児の機能が低下することが少なくない。
TRAb濃度は妊娠が進むにつれて下がることが多いが、高いまま出産を迎えると新生児に先進症が発症し、TRAbの影響がとれるまで続く。胎児・新生児の臓器、ことに循環器は甲状腺ホルモン過剰の影響を受けやすいので、治療が必要であり、出産前の小児科/新生児科への情報伝達が不可欠である。なお、手術や放射性ヨード(131I)治療後に寛解している患者の中に、まれではあるが高い濃度のTRAbを保有している者がある。知らずに胎児が先進症に罹患していることがあるので、TRAbが高値であった場合は専門家の関与が必要である。
新生児に見られる甲状腺機能異常にはTRAbによるもののほかに母体の機能が妊娠中期になっても先進している場合に見られる中枢性の低下症がある。TSH濃度が低いために生後の重要な時期に甲状腺ホルモンの産生か不足し、知能の発達に影響する可能性がある。
妊娠中のバセドウ病の管理を表2に示す。妊娠初期、ことに8週まではできるだけPTUを選択する。それ以降は、軽度の先進以外は効果の確実なMMIが好ましい。妊娠20過まではFT4を正常に維持するよう十分な量を投与する。この時期を越えたら胎児甲状腺機能を抑制しすぎないように、FT4値をやや高めに保つ。前述のように妊婦のFT4濃度は生理的にやや低めになるので、一般の基準値の上限付近にすればよい。
低下症妊婦に起こる問題
甲状腺ホルモン不足は流産や妊娠高血圧症候群に関与するとされる。しかし日本では、欧米で報告があるようなリスクの高い問題はほとんど起こっていない。低下症は非妊時と同様にTSHを指標に治療を行えば問題はなく、そうすることは困難ではない。
表1に低下症妊婦の胎児・新生児に生じる可能性のある異常を示す。甲状腺ホルモンは脳の発達に不可欠であり、ことに胎児の甲状腺が機能する前の妊娠初期に母体が甲状腺ホルモン不足状態にある場合は、児の精神神経学的発達に遅れを残すとの見解がある。しかし、妊娠初期に母体への治療を開始した場合には正常な発達を遂げる。
通常は母体の低下症と関連して児の機能が低下することはない。例外は血中にTRAbが検出される、まれな低下症である。このTRAbにはバセドウ病と遂に甲状腺機能を抑制する作用がある。この濃度が極めて高い場合に胎児が低下症となることがあり、新生児の一過性低下症の原因の一つとして知られている。ただし、頻度は新生児全体で10万~18万に1例である。
この場合の母親は橋本病の一種である特発性粘液水腫に罹患している。本症は甲状腺腫を欠くかごく小さく、機能低下の程度が著しい。むくんだ顔が特徴的である。妊娠中に十分な甲状腺ホルモンの服用を行い、生後にTRAbの影響が消失するまで治療すれば問題ない。
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