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(投稿:by 僻地の産科医)
もうひとつ持ってきましたo(^-^)o ..。*♡
周産期(お産関係)が専門ということもあり、わりとあちこち
こういう文献はたくさんあります。
特に早剥はわりと起こる上に、
死亡率が高い超救急疾患なので、かなり
やはり産科医には鬼門なのでしょう。
【参考おススメブログ・記事】
常位胎盤早期剥離の自験例
[phenomenon] 2008-05-07
http://d.hatena.ne.jp/Hirn/20080507/p1
母児共に亡くなってしまいました
毒舌ドクターBermudaの三角形な気持ち 2008-05-10
http://ameblo.jp/sanfujinka/entry-10095572157.html
医療事故安全調査委員会ーーー真実はわかるのか?
今日手に入れたもの 2008-05-11
http://kyouteniiretamono.blog.so-net.ne.jp/2008-05-11
書けなかった“誠実さ
琉球新報 2008年5月11日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-131960-storytopic-14.html
では、どうぞ!
常位胎盤早期剥離
岡田俊則 斎藤 滋
(産婦人科の実際 vol.56 NO.2 2007 p159-163)
常位胎盤早期剥離とは,正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が,妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に,子宮壁より剥離するものをいう。その発症頻度は全妊娠の0.1%程度といわれ,早剥を起こした場合の母体死亡率は1~2%・児死亡率は20~50%と報告されている1)。また産科DICの原因の約50%を占めるとされ,早剥は現在にあっても周産期管理に難渋する予後不良な疾患の一つである。いまだ有用な発症予知法は見出されず,早期診断と迅速な治療が母児の周産期予後を左右する。早剥の危険因子とその診断および治療について概説を加える。
はじめに
常位胎盤早期剥離(premature separation of normally implanted placenta, abruptio placentae,以下,早剥)とは,正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が,妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に子宮壁より剥離するものをいう。早剥は基底脱落膜の出血に始まり,形成された胎盤後血腫がこれに接する胎盤をさらに剥離・圧迫し,その剥離面積の増大に伴って母児双方に重篤な障害をもたらしていく。
その発症頻度は全妊娠の0.1%程度といわれ,早剥を起こした場合の母体死亡率は1~2%・児死亡率は20~50%と報告されている1)。また産科DIC(disseminated intravascular coagulation : 播種性血管内凝固症候群)の原因の約50%を占めるとされ,早剥は現在にあっても母児の周産期管理に難渋する予後不良な疾患の一つである。
Ⅰ.早剥の危険因子と予知
早剥発症の代表的な危険因子として表1のようなものが知られている。
従来より妊娠高血圧腎症に伴う血管攣縮が早剥の原因として重要視されてきた。確かに早剥症例の30~40%に妊娠高血圧腎症が合併するといわれており,妊娠高血圧腎症は早剥の危険因子として依然厳重な管理と注意が必要な疾患である。
しかしながら,自験例も含め妊娠高血庄腎症を合併していない妊婦における早剥が増加しており,特に切迫早産やpreterm PROM症例においてその危険度が増すといわれている2)3)。Darbyらは,早産例の早訓辞において41%に組織学的絨毛膜羊膜炎が認められ,早産例のコントロール群の4%に比べ有意に高率であったと報告している4)。斎藤らは,早剥胎盤病変部のトロホブラストにおいてアポトーシスが起こっていることぺ さらに早剥胎盤のトロホブラストにアポトーシスを誘導する受容体であるFasが強く発現していること印を報告した。彼らはアポトーシスが早剥の病因である可能性を示唆し,ともに早剥の危険因子である妊娠高血圧腎症や絨毛膜羊膜炎に共通性が認められることを指摘している。
これらの新たな知見が集積されてきてはいるが,早剥の予知・早期診断はいまだ困難であることは否めない。表1に示すような危険因子を有する症例を特定し,早剥発症を念頭におきながら管理した上で,次項に示す臨床症状や所見を見逃さないことが予後改善につながることとなる。
Ⅱ.早剥の診断
1.臨床症状
早剥の症状として一般的に知られているものとしては,
①暗赤色で非凝固性の性器出血
②間欠期のない持続的な子宮収縮
③子宮の圧痛と“板状硬”と称される子宮の硬直
④子宮底の上昇
⑤(破水症例の場合)血性羊水の流出
⑥胎動の消失 等々が挙げられる。
しかしながら,早剥の臨床症状はその重症度により様々で,症状の進行速度も各症例により異なってくる。発症初期には各症状が軽微で診断自体が困難である場合も少なくないが,急速に進行する重篤な症例において診断は比較的容易であるものの,短時間の内に子宮内胎児死亡や母体のショック状態に陥る場合もあり,正確な診断と迅速な対応が必要となる。
早剥の重症度分類として1954年に発表されたPageの分類7)(表2)が古典的な分類ではあるが,現在でも用いられている。母児の予後を左右するのはいかに早剥の早期診断に至るかということにつき,Page分類の1度から2度のうちに診断することが望ましい。表1に挙げたような危険因子を有する妊婦に腹痛や性器出血,胎児心拍数モニタリング異常等を認めた場合は,まず早剥を念頭において急ぎ精査を加えるべきである。
2.CTG(胎児心拍数陣痛図)所見
臨床症状同様に,早剥のCTGにおけるFHRパターンや子宮収縮曲線も胎盤の剥離面積や剥離速度により様々な所見を呈する。
子宮収縮曲線は定型的な陣痛曲線を示さないことが多く.頻繁に繰り返す軽い子宮収縮(いわゆる“さざ波様収縮波”)や過強陣痛・持続時間の長い子宮収縮等の非定型的な曲線を呈する。
胎盤の剥離面積の増大に伴って,胎児の低酸素状態およびアシドーシスは進行性に悪化していく。そのため,早剥の進行度によってFHRパターンも刻々とその所見を変化させていく。早剥の発症初期や軽症の問は,頻脈(baseline tachycardia)や前述の非定型的子宮収細波に伴った変動一過性徐脈(variable deceleration)の出現に留まることが多い。しかし早剥の進行に伴い,FHRパターンも遅発一過性徐脈(late deceleration)の出現や基線細変動の減少・消失(decreased/loss of variability)を経て,遷延一過性徐脈(prolonged deceleration)・持続性徐脈(prolonged bradycardia)に陥り,最終的には子宮内胎児死亡に至る。
3,超音波検査所見
臨床症状およびCTG所見でわずかにでも早剥を疑う所見を認めた場合は直ちに超音波検査を実施するべきである。早剥における典型的な超音波検査所見は脱落膜~子宮筋層間の出血像や胎盤後血腫であるが,早剥の発症初期や軽症の場合超音波検査をもって診断確定できるほどの所見が得られないことも多い。早剥の疑いが否定されない間は経時的に複数回にわたって子宮内を走査し、所見の変化に注意することが大切である。
早剥の超音波検査所見については,表3に示したJaffeの分類9がよく知られている。同分類の胎盤後血腫および胎盤内血腫を観察する上で注意すべきことは,これらの血腫像は発生後時間経過とともにその内部エコー像が変化していくということである。発症直後の血腫は胎盤実質をほぼ同程度のエコー輝度を有しており,超音波画像上は胎盤の肥厚として描出される。そして時間経過とともに血腫に対する線溶か進むと,内部エコー輝度が低下し“anechoicity”として捉えられるようになる。
発症当初から胎盤剥離面積が広く血腫形成の勢いの強い場合は、初期よりechogenicな部分とanechoicな部分が混在する血腫像を呈することもある。また,外出血優位なタイプの早剥においては定型的な超音波所見に乏しい場合も多い。
4.血液検査所見
DICは早剥の約10~50%に発症するとされ,早剥にDICを併発するかどうかは母体の予後に大きく関与する。
緊剥に起因するDICの特徴は消費性凝固障害が著しいことであり,一旦発症し対応が遅れると急激で重篤な経過を辿る。迅速に診断し治療を開始することが肝要であり,その診断に当って真木らの提唱した産科DICスコア9)が頻用されている(表4)。このスコアは基礎疾患と臨床症状に重きを置いているので.ベッドサイドで初期診療しながらのスコアリングが可能である。スコアが8点以上の場合はDICと診断して直ちに治療を開始すべきである。
危険因子としての妊娠高血庄腎症を有している場合やすでに外出血や子宮内血腫形成として大量失血しているような場合は,DICを併発することによって容易にショック状態や多臓器不全の状態に陥ってしまう。血液凝同系のみならず,肝機能や腎機能等にも注意を払う必要がある。
Ⅲ.早剥の治療
胎児生存の有無・母体ショック症状の有無・母体DIC併発の有無等により若干の差異はあるかもしれないが,本症の治療は急速遂娩による子宮内容除去であり,DICの原因を除き,子宮内を減圧させることにつきる。
母体にショックあるいはDICを併発している場合は,胎児の状態に関わらず母体治療を優先・先行させる。母体の全身状態を可及的早期にstabilizationさせた上で分娩に望むべきである。
1.分娩方法
分娩方法は母体のショック状態の有無やDICの程度,子宮類管の成熟度および胎児健常性によって総合的に判断する。
子宮口全開大直前や分娩第2期での早剥は少なからず経験されるが,そのような場合は適応と要約に則って経膣的に急速遂娩することも可能である。
しかしながら,管理に難渋する多くの場合は分娩開始以前に発症した早剥であり,実際には子宮頸管の未熟性や児の健常性が悪化する可能性を考慮して帝王切開分娩が選択されることが多いように思われる。
帝王切開術施行に当って重要なことは,MAP ・ FFP, 状況によってはPC等十分量の血液製剤の確保をし,さらに必要に応じて術前および術中より母体に対する抗DIC治療・抗ショック治療を積極的に行うことである。
2.子宮温存の可否
本症においては胎盤剥離面よりの出血が子宮筋層へ浸潤し,子宮漿膜面や子宮広間膜内へ及ぶこともある(Couvelaire兆候)。このような場合子宮筋組織による生物学的結紮能が弱まり,子宮収縮不全や弛緩出血に陥ることがある。これら胎盤剥離面.子宮由来の出血は母体DICをさらに悪化させることとなるため,術中・術後は子宮収縮剤等を投与し分娩後の子宮収縮を良好に保つことが子宮を温存する上で必要不可欠となる。
現在のところ,早剥の分娩後における子宮温存,子宮摘出術施行の判断基準を示したエビデンスは示されていない。判断の目安の一つとして,
①(子宮収縮剤投与の有無は問わず)良好な子宮収縮が確保されていること
②予測は困難であるかもしれないが,分娩時および分娩後のDICのコントロールが可能であること,
これらが早剥症例における子宮温存にとって最低でも必要な条件であると思われる。
おわりに
常位胎盤早期剥離は現在でも母児双方にとって予後不良な周産期救急疾患である。いまだ有用な発症予知法は見出されず,今もなお早期診断と迅速な治療がなされるか否かが周産期予後を左右しているのが実情である。ハイリスクな症例を正確にもれなくピックアップし厳重に観察し続けること,何か臨床症状が出現した際には適切な検査を施し早期診断に努めること,そして早剥の診断に至ったならば必要な治療を迅速に開始し母児の救命を目指すこと,以上が常位胎盤早期剥離の管理に当って肝要なことである。
文 献
1)Cunningham MD : Placental abruption. WiHiams’
Obstetrics,21st ed pp621-630, MCGraw-Hill,2001.
2)Ananth CV Berkowitz GS, Savitz DA, et al :
Placental abruption and adverse perinatal outcomes.
JAMA,282 : 1646-1651, 1999.
3)塩崎有宏,酒井正利,斎藤 滋:絨毛膜羊膜炎.臨
婦産,59 : 172-175, 2005.
4)Darby MJ, Caritis SN, Shen-Sehwarz S : Placental
abruption in the preterm gestation : An association
with chorioamnionitis. 0bstet Gyneco1, 74 : 88-92,
1989.
5)斎藤 滋,梅影秀史,原田直哉,他:常位胎盤早期
剥離におけるapoptosis誘導機序にっいての検
討.日産婦誌,49:S269,1997.
6)斎藤 滋:常位胎盤早期剥離とアポトーシス.臨
床免疫,29 : 1414-1421, 1997.
7)Page EW : Abruptio placentae : Dangers of delay in
delivery. 0bstet Gynecol, 3:385,1954.
8)Jaffe MH, Schoen WC, Silver TM, et a1 : Sono-
graphy of abruption placentae. AJR, 137 : 1049-
1054,1981.
9)真水正博,寺尾俊彦,池ノ上克:産科DICスコア.
産婦治療,41:119-124,1985.
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