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(投稿:by 僻地の産科医)
結構、この医事紛争シリーズ好きです。
早剥は予測が困難な上、あっというまに進んでしまって、
母児ともに救命が非常に困難なのですけれど、
高度の脳性麻痺の割りに慰謝料のみとかなり
低い金額の判決だったのではないかと思います。
ただ、こういうの読んでいると、患者さんがかわいそうでも、
NSTはつけっぱなしの方がやっぱりこわくないな~。。。。
本人のためでもあるし。。という気がしてしまいます。
ではどうぞo(^-^)o ..。*♡
常位胎盤早期剥離により
慰謝料のみが認容された事例
〈K地裁H18・10・13〉
(日本産婦人科医報 平成20年2月1日 No.695 p13)
常位胎盤早期剥離は発症機序がいまだ解明しておらず、その発症を予知・予防することは不可能である。母児共に対し重篤な障害をもたらす危険が高い代表的産科救急疾患で、発症頻度は0.3~0.9%程度といわれている。
〔事例経過〕
原告B(初産)27歳は妊娠40週6日の午前3時に陣痛が発来、午前9時10分に入院した。血圧150/100、尿蛋白(++)、手に浮腫があり、妊娠中毒症であった。体重は妊娠前よりも約16.4kg増加し、子宮口は3cm開大していた。
分娩監視装置の所見は、心拍数基線は正常、一過性頻脈はみられず、基線細変動は6bpm を超えない場合が多い状態であった。9時30分より10時の間に陣痛は少なくとも3回生じ、2回目の陣痛に伴い130bpm の一過性徐脈がみられた。午前10時頃、医師の指示により分娩監視装置がはずされ、陣痛室に入室した。
午前11時頃、陣痛間欠約2分、子宮口5cm、140bpm。
午後1時頃、陣痛間欠3分~4分、子宮口6cm、130bpm。
1時45分頃、助産師が胎児ドップラで測定したところ104~108bpm であった。直ちに分娩監視装置を装着して、心拍数基線が100~110bpm まで低下していることが判明した。酸素吸入を開始したが、2時10分頃、胎児心拍数は70~80bpm となり、羊水混濁が認められた。
帝王切開術が行われ、午後2時52分頃原告Aを娩出した。アプガースコアは、1分後も5分後も0点であった。胎盤は約2分の1が剥離していた。午後4時頃プレショック状態、性器出血が増加し、止血を試みるも功を奏さなかったため、子宮腟上部切断術が6時頃から実施された。術後経過は順調で18日目に退院した。原告Aは現在自宅で生活しているが、重度の脳性麻痺である。
〔争点〕
・医師に、早剥発見義務に違反する過失があったか?
午前10時において早剥が発症していたと認めることはできず、そのことを前提とする原告らの早剥発見義務違反の主張は採用できない。
・医師に、午前10時頃以降、原告Bの経過観察を続ける義務に違反する過失があったか?
原告Bは妊娠中毒症であり、一般の妊婦よりも早剥発生の危険が高いことを念頭に置き、分娩監視装置を連続的あるいは断続的に実施することを指示すべき注意義務があった。
医師に上記注意義務違反がなかった場合、どの程度早く原告Aを娩出することができたかを認めることができないから、原告Aおよび原告Bの後遺症を避けることができたと認めるのは困難である。すなわち、医師の注意義務違反と原告Aの脳性麻痺、原告Bの子宮腟上部切断との間の因果関係を認めることはできない。
しかし、医師の注意義務違反がなかった場合、原告Aに脳性麻痺、また原告Bに子宮腟上部喪失という重大な後遺症が残存しなかった可能性は認められる。そして、医師の注意義務違反と患者に生じた重大な後遺症との間の因果関係が証明されなくとも、医師の注意義務違反がなければ後遺症が生じなかった可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者がその可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき責任を負うものとされる(最高裁平成15年11月11日)。
この可能性の侵害に対する損害賠償として、財産的損害を肯認するのは困難であり、精神的損害のみを認めるべきである。金額は、原告Aについては1,000万円を認め、原告Bには慰謝料として200万円、原告Aの父には慰謝料として100万円を認める。
〔解説〕
常位胎盤早期剥離は予測不可能な疾患であるが、軽微な異常にも注意して初期症状を見逃さないことが重要とされる。本例では医師の経過観察義務違反を認めたが、この違反と損害の因果関係は認めず、妊婦とその夫、出生した子の慰謝料のみが認容された。
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