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(投稿:by 僻地の産科医)
産科救急編です(>▽<)!!!!
忘れた頃にやってくる、あの地雷疾患。
死亡率などについて書いてあったので、ちょっと他科の先生方にもわかりやすいかな、とおもって引いてみました。
児の予後は、やっぱりよくありません(;;)。
週数にも関係するでしょうけれど。
では、どうぞ..。*♡
常位胎盤早期剥離
水主川純 山本直子 箕浦茂樹
(周産期医学 vol.37 N0.8 2007ー8 p937-940)
症例1
28歳の初産婦
近医で妊婦検診を受けていた。初診時より子宮頚管ポリ-プを認め,妊娠20週まで性器出血が持続していた。妊娠28週2日に腹緊を主訴に前医を受診し切迫早産と診断され,当科に救急搬送された。来院時,経腟超音波断層法では内子宮□は閉鎖しておじ),頚管長は26mmであった。Cardiotocogram(CTG)の所見はreassuing fetal statusであり,5~7分間隔の子宮収縮を認めたため(図1),
塩酸リトドリン持続点滴投与(50μg/分)を開始した。搬送到着から3時間後に血性羊水の流出を認めたため,経腹超音波断層法を施行し,後壁に付着する胎盤の辺縁に膨隆像を認めた(図2)。
CTGでは頻発する軽い子宮収縮に伴い遅発一過性徐脈を主体とする一過性徐脈を認めた(図3)。
常位胎盤早期剥離を疑い,直ちに緊急帝王切開を施行し、1,089gの女児,Apgars score7点(1分値)/8点(5分値)を娩出した。手術時,羊水は血性であり,胎盤は約1/3が剥離しており,常位胎盤早期剥離と診断した。
症例2
25歳の初産婦,ITP合併
当科にて妊婦健診を受けており,血小板の減少を除いて経過は順調であった。妊娠38週6日,陣痛発来。CTG所見で,頻回の子宮収縮に伴い変動および遅発一過性徐脈を認めた(図4)。
内診所見は子宮口1指開大,St-3と経腟分娩に至る見通しがなく,CTGから早剥の可能性も考えられたため,緊急帝王切開とし,2,708gの男児,Apgar score 2 点(1分値)/6点(5分値)を娩出した。手術時,胎盤は約1/2剥離しており,常位胎盤早期剥離と診断した。
概念
常位胎盤早期剥離(以下,早剥)とは,正常位置である予宮体部に付着している胎盤が,妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に子宮壁より剥離するものをいう。発症頻度は全妊娠の0.1%程度とされ,早剥を起こした場合の母体死亡率は1~2%,児死亡率は20~50%と報告されている。産科DIC(disseminated Intravascular coagulation:播種性血管内凝固症候群)の約50%を占めるとされ,周産期医療が進歩した現在にあっても管理に難渋する産科救急疾患の一つである。
原因
早剥の原因は不明であるが,その危険因子(表1)からも複数の機序の存在が示唆される。従来から妊娠高血圧症候群に伴う早剥が重要視されてきたが,最近では絨毛羊腸炎症例においてその危険度が増すと報告されている2)。
分類
早剥は,外出血を主徴とする外方出血型と,出血を伴わず切迫早産などの症候を主とする内方出血型に分類される。また,重症度分類としてPageの分類(表2)が用いられている。
臨床症状
性器出血,子宮の圧痛など“板状硬”と称される子宮の硬直,間欠期のない持続的な子宮収縮,胎動の消失,血性羊水の流出などがあげられるが,重症度によりさまざまである。
診断
1.胎児心拍陣痛図(CTG)
早剥症例にみられる子宮収縮白線やFHRパターンは胎盤の剥離面積や剥離速度によりさまざまな所見を呈する。
子宮収縮曲線は定型的な陣痛曲線を示さないことが多く,頻繁に繰り返す軽い子宮収縮や持続時間の長い子宮収縮などの非定型的な曲線を呈する。
胎盤剥離面積の増大に伴い,胎児の低酸素状態およびアシドーシスが悪化するため,早剥の進行度によりFHRパターンも刻々と所見が変化する。早剥の発症初期や軽症の間は,頻脈や前述の非定型的子宮収縮波に伴う変動一過性徐脈を呈する場合が多い。早剥の進行に伴い,FHRパターンも遅発一過性徐脈の出現や基線細変動の減少・消失を経て,遷延一過性徐脈,持続性徐脈に陥り,最終的には子宮内胎児死亡に至る。
2.超音波断層法
早剥における典型的な超音波所見は胎盤後血腫像や胎盤内血腫像、胎盤肥厚像であるが(表3),発症初期や軽症例では確定的な所見が得られない場合も多い。
治療
治療方針は胎児(妊娠週数とwell-beingの程度),および母体(分娩進行状況,ショックならびにDICの重症度)の状態により決定される。
1.胎児の状態
胎児が生存している場合,直ちに嫡出させる方針とする。速やかな経腟分娩が見込めない場合は帝王切開分娩とする。帝王切開は,児が生存し胎児機能不全の状態では児の神経学的予後改善につながるとされ、可及的速やかに娩出することが重要である。
2.母体の状態
母体がショックあるいはDICを併発している場合の治療の原則は,基礎疾患の除去,抗DIC治療,抗ショック療法である。母体の循環動態か安定している場合は速やかな娩出が基礎疾患の除去となるため,経腟的急速遂娩や帝王切開の適応となる。.子宮筋層内血液浸潤が高度で広範な黒色変化を伴い(Couvelaire徴候),子宮が収縮不良な症例では子宮摘出を考慮する。
おわりに
常位胎盤早期剥離は,同産期医療が進歩した現在にあっても管理に難渋する産科救急疾患の一つである。未だ有効な予防法も確立されておらず,早期診断と迅速な治療が周産期予後を左右する。異常が疑われた場合は早期診断に努め,必要な治療を迅速に開始し,母児の救命を目指すことが重要である。
文献
1)Cunningham MD: Placental abruption, Williams' Obstetrics. 21st ed, MCGraw-Hill,pp621-630,2001
2)Ananth CV, Berkowitz GS, Savitz DA,et al: Placental abruption and adverse perinatal outcomes. JAMA 282: 1646-1652, 1999
3)Page EW: Abruptio placentae: Dangers of delay in delivery.0bstet Gynecol 3: 385,1954
4)Jaffe MH, Schoen WC, Silver TM,et al :Sonography of abruptio placentae. AJR 137: 1049-1054, 1981
5)Kayani SI,Walkinshaw SA, Preston C: Pregnancy outcome in severe placental abruption. Br J Obstet Gynnaecol 110: 679, 2003
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