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(投稿:by 僻地の産科医)
多くの人がそうだと思うのですが、
大野事件から「司法とは」「医療とは」ということを考え続けています。
裁判は争いの場であって、何の解決もしません。
ADRも裁定なんですよね。裁判の小型版みたいなものだったりする。
何がいいのか。考え続けています。
唐突ですが、こちらがおススメです(>▽<)!!!
↓
☆医療問題を注視しる!その3 大野病院事件☆
http://www.geocities.jp/vin_suzu/iryou3.htm
では小松先生からです。どうぞ ..。*♡
医療紛争を司法の論理で解決するなら 患者との摩擦で現場は疲弊する 小松秀樹 (虎の門病院泌尿器科部長) (1)http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/08/065/r08065BNC1.html 医療サービスの劣化は危険水域に入った すべての人に分け隔てなく適切な医療を提供することは、健全な社会の必要条件である。ところが日本では医療費削減と安全要求の高まりの中、産科や救急医療など患者との軋轢の大きい分野、制度上、住民の攻撃を受けやすい自治体病院などから医師が立ち去り、医療の提供体制にほころびが目立つようになってきた。まだ、イギリスやアメリカに比べて医療サービスの提供は良好に保たれているが、危険水域に入りつつある。 医師が現場を離れていくこれだけの要因 ・医療費抑制……一九八〇年代半ば以後、日本では世界に類をみない医療費抑制政策が実施されてきた。にもかかわらず、アクセスは制限されず、逆にさらなる質の向上が求められた。このため、勤務医の労働環境は苛酷になった。 ・社会思想……日本人がしばしば死を受け入れられなくなった。不安が医療への攻撃行動を促し、かつ正当化している。また、個人の権利が尊重されるあまり、一部で共生のための行動の制御が失われ、これが医療現場を疲弊させた。 ・マスメディア……情動を主たる関心事とする。個人の理性による制御がなされていない。このため、情動に働きかける記事の機械的大量反復現象が生じる。大衆メディア道徳とでもいうべき現実無視の規範が、責任者なしに一人歩きして、暴力的な影響を及ぼすことがある。 ・厚労省……メディア・政治の激しい攻撃を受け続けてきた。攻撃をかわすこと、すなわち、自己責任の回避が行動原理の一つとならざるをえない状況がある。結果として、現場に無理な要求を押し付けることになる。 ・司法……メディアの感情論の影響を大きく受ける。理念からの演繹で、医療の一部を取り出し、罰を科し、賠償を命ずる。この理念が適切かどうか、医療全体からの帰納で検証する方法と習慣を持たない。 ・医事紛争の公平な処理システムの欠如……無謬を前提としてきたため、科学的な事故調査制度、公平な補償制度、合理的な処分制度がなかった。 ・医療の質向上の努力不足……病院全体の総論的安全対策は大きく改善したが、個々の診療ごとの質改善の努力がまだ不足している。また、医師の質を保証するための制度が不十分である。 司法と医療ではシステムの合理性に齟齬がある 医療現場を疲弊させる問題の根底には、社会システム間の合理性の衝突がある。司法、経済、医療などの社会システムはそれぞれ、内向きのシステムとして発展している。 医療崩壊を招く新たなリスクとは ・医療事故調査委員会……医師の一部は、業務上過失致死傷罪を嫌うあまり、医療事故調の設立を機に、医療への適用を止めるよう主張している。この主張は、結果として、医療制度に司法の論理をそのまま引き込むことになりかねない。科学的認識が不得手にもかかわらず、無理やり白黒をつけようとする司法の論理によって、広汎な事例で、過去(生じた事故)の責任追及がなされる可能性がある。 ・ADR(裁判外紛争解決)……医師は、医事紛争における過去の司法判断のリセットが必要だ、と考えている。ADRは、進め方によっては、過去の医療裁判の大量コピーを生産するマシーンになりかねない。 ・無過失補償制度……これを紛争の終点としなければ、大量の民事訴訟の起点となる。 ・安全対策……医療事故を安全対策の直接の入り口にすると、個別性が強くなりすぎて、対策が膨大になり、整合性がとれなくなる。責任を伴わない権限は制度を壊す。病院外からの無秩序な安全対策の指示は、現場を疲弊させるばかりでなく、病院を破産に追い込む可能性がある。事故情報を匿名化して集め、専門家が優先順位を決めて総合的に対策を考える必要がある。 医師の自律的処分制度を信頼回復の礎に 以上のようなリスクが予見されるなか、医療側は何を為すべきか。最も重要な課題は、医療の質を高めるために、医師の自律的処分制度を設けることである。 医療の問題は、ステークホールダー間の利害調整や、合理的判断を越えた権力の行使によって、無理に解決すべきではない。医療は、そのような危うい決定方法に委ねるには重要すぎる。互いに双方の立場を理解しつつ、多段階で時間をかけて解決していくべきである。
(2)http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/08/065/r08065BNC2.html
(3)http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/08/065/r08065BNC3.html
この状況を打開すべく、対策が検討され始めたが、医療についての基本的認識、死生観など、総論部分での議論ができていないので、食い違いが目立つ。たとえば二〇〇七年(平成一九年)四月には、医療に関連した死因究明制度(医療事故調査委員会)の検討会が発足したが、制度の目的について、責任追及、医療の保全、安全向上と大きく意見が分かれている。筆者は、検討会の座長で刑法学者の前田雅英氏と〇七年八月一四日読売新聞紙上で討論した。前田氏の主張には「法的責任追及に活用」、筆者の主張には「紛争解決で『医療』守る」との見出しがつけられた。
システム間の問題を考えるには、ニクラス・ルーマンによる規範的予期類型(法、政治、道徳、メディアなど)と認知的予期類型(経済、学術、テクノロジー、医療など)の分類が有益である。認知的予期類型は、国家横断的な部分世界を形成し、内部で合理性を創り、それを日々更新している。
ルーマンによると、規範的予期は、道徳を掲げて徳目を定め、内的確信・制裁手段・合意によって支えられる。違背に対し、あらかじめ持っている規範にあわせて相手を変えようとする。違背にあって学習しない。
これに対し、認知的予期類型では知識・技術が増大し続ける。違背に対して学習し、自らを変えようとする。ルーマンは、世界社会では規範的予期が後退するのに対して、適応的で学習の用意がある認知的予期が断然優位を占めるとする。たとえば国際政治では、「現実の承認」がいまや道徳的な論拠にまでなっている。
グンター・トイブナーは、世界で、国家間の紛争より、社会システム間の合理性の争いが重要になったとしている。ブラジルにおける特許を無視したエイズ治療薬の製造販売では、経済システムと保健システムの合理性が対立し、最終的に保健の合理性が優先された。トイブナーは、法がシステム間の合理性の衝突を解決できるような規範を提供することは不可能であるとし、解決を相互観察による共存に求めた。
日本では、司法システムそのものと医療、あるいは航空運輸といった別の社会システムとの間に大きな齟齬がある。これは、規範的予期と認知的予期の原理的対立として捉えられる。この対立の歴史は古く、地動説に対する宗教裁判がこれを象徴する。
処分のきっかけは事故そのものではなく、医師の不適切な行動とする。申し立て人の対象範囲は患者・家族、医療従事者、病院など、広くする。大切なのは、紛争解決と医師の処分を完全に切り離すことであり、この自律的処分制度がうまく機能すれば、司法側の業務上過失致死傷の考え方に大きな影響を与えられると想像する。
検事と裁判官の一部を除いて、法律学者、実務法律家(病院側の弁護士も)は、医療現場を自分の眼で観察していない。この状況で医療システムの内部に司法システムを取り込むことは、現在の業務上過失致死傷よりはるかに危険である。
責任追及のあり方を巡る司法と医療の齟齬は、双方の考え方が異なる以上、考え方の変更なしにいっきに解決することは不可能である。認識の変更を確認しつつ、一段ずつステップを重ねていくべきである。業務上過失致死傷は医療だけの問題ではない。多くの分野を巻き込んだ議論が必要である。法律が存在する以上、当面、医療事故調と関係なく、適用されることになるが、個々の事例で認識の違いが生じれば、その都度、社会に見えるところで議論すればよい。
医療側のとるべき対策の一つは、専門職としての医師の自律的処分制度である。業務上過失致死傷とは無関係に、自律的処分制度を立ち上げて、しばらく運営していけば、おのずと社会の考え方も変化するであろう。変化後に、次のステップの制度を考えればよい。
司法の、規範(実体法)と対立(手続法)の中に実状を押し込める習慣は、問題解決のための、普遍的というよりも、一つの特殊的態度のように思える。有益な場合もそうでない場合もある。
取り上げていただき、ありがとうございます!
結構調べながら書いているので(と言う割には粗が多いが・・・)、自分自身も問題を理解しなおすのに役立っています。ぼんやりはわかっていても、しっかりわかっていないって事が多いですから。
完結がいつになるかわかりませんが、まあぼちぼちやっていくので、気になった点等ありましたら是非ご意見くださいませ。
投稿情報: koume | 2008年4 月26日 (土) 01:06