(投稿:by 僻地の産科医)
今日は二つの記事を同時にo(^-^)o ..。*♡
医療維新 2008年04月23日
新生児の「一人飲み」が象徴する人員不足
妊婦の搬送問題解決のためにも
新生児の受入体制整備が不可欠
新生児集中治療管理部門 網塚貴介
青森県立中央病院総合周産期母子医療センター
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080423_1.html
新生児の「一人飲み」とは、看護師などの人手が足りず、抱っこして授乳することができず、文字通り一人で飲ませざるを得ない状況を指す(写真)。医療の現場では皆、問題と思いながらも、実施せざるを得ないケースがある。現在、ハイリスク妊婦の搬送困難事例の報道が相次いでいるが、それはNICU(新生児集中治療室)の人員不足に起因するところが大きく、その象徴的な現象が「一人飲み」である。
「一人飲み」で「トラブル経験あり」が4割
「一人飲み」は、施設によっては「ラッパ飲み」「くわえ乳」「枕哺乳」などとも呼ばれる。
2005年に、NICUを持つ病院などで組織する「新生児医療連絡会」が調査を行ったところ、184施設のうち92施設から回答が得られた。その結果、「一人飲み」について、「度々行う」24施設(26.1%)、「時に行う」26施設(28.3%)、「行わない」42施設(45.7%)という結果だった。NICUは、その回復期病床と一体的に運営される。回復期病床における夜勤看護師一人当たりの担当病床数と「一人飲み」の有無には関係があり、「一人当たり9床以上」の場合、ほぼすべての施設で「一人飲み」を行っていた。「一人飲み」のためにトラブルを経験したのは、「あり」が20施設(41.7%)、「なし」が28施設(58.3%)。内訳を見ると、「度々行う」施設では「あり」が52.0%、「時に行う」施設では30.4%で、頻度が多い施設ほどトラブルを経験している。トラブルの内容は、チアノーゼ、嘔吐、誤嚥などだった。
保育所より低い看護師配置基準
回復期病床でも、人工呼吸器を装着しているなど手がかかる新生児を数多く受け入れている。しかし、回復期病床はあくまで一般病床であるため、NICUと比べて人員配置基準は低い。NICUでは新生児一人につき常時3人の看護師の配置が求められるが、一般病床では患者と看護師の配置基準は7対1が最高だ。施設による格差があるものの、夜勤では一人の看護師が平均9~10人の新生児を見ているのが実態だ。これに対して、保育所については児童福祉法上で、「保育士の数は、乳児おおむね3人つき1人以上」と規定されている。回復期病床では、健常児を預かる保育所よりも手薄な看護体制なのであり、これでは安全な授乳すらままならない状況になっている。
なお、2003年には東京地裁で、うつぶせ寝のまま放置し窒息死させたとして業務上過失致死罪で看護師が罰金40万円を言い渡された判決がある。判決理由の中で、「男児をよく監視するか、仰向けに寝かせれば事故は防げた」と個人の責任が追及され、「15人前後の新生児を被告1人で看護していた体制」は「事故の遠因」としか認識されなかった。
出生数減少にもかかわらず、低出生体重児は増加
現在のNICUの配置数は、1991年のデータを基にされており、出生1000人当たり2床となっている。しかし、2年前の推計数は1.64床であり、いまだ達していない。しかし、出生数自体は年々減少しているが、2500g未満の低出生体重児数は実数として増加している。ハイリスク妊婦は低出生体重児を出産する危険性が高い。NICUの整備が実態に追いつかない上に、その回復期病床の体制整備も進まず、結果としてハイリスク妊婦の受け入れが困難になっている。ハイリスク妊婦の搬送問題解決向け、さらには新生児に安全な医療を提供するためにも、NICUの整備とともに、回復期病床における看護基準などの整備が必要である。せめて同じ乳幼児を預かる保育所レベルの基準を望みたい。
網塚 貴介(あみづか たかすけ)氏
1988年札幌医科大学卒。埼玉医科大学総合医療センター、北海道立小児総合保健センターを経て、2000年から青森県立中央病院。2004年から同院総合周産期母子医療センター新生児集中治療管理部部長。新生児医療連絡会幹事。
知らなかった!
新生児「一人飲み」の現実
日経メディカルオンライン 本田宏先生 2008. 4. 22
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/honda/200804/506221.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/honda/200804/506221_2.html
「抱っこして飲ませて…赤ちゃん達の“声なき声”です」―4月12日土曜日に日比谷公会堂で行われた「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」(会長:尾辻秀久氏)の第1回シンポジウムで、心に響いた言葉です。シンポジウム会場は、開演前から熱気に包まれていました。まずは尾辻会長の挨拶、舛添厚生労働大臣のメッセージの代読に引き続き、トップバッターとして青森県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児集中治療管理部部長の網塚貴介氏が講演しました。
網塚氏は、「私の勤務する青森県立中央病院でも医師不足は深刻で、4人で24時間365日の診療に当たっている。私自身も年100回近い当直をこなしている。しかし今日は、NICUにおける看護体制の問題点について話をしたい」と前置きした上で、スライドで赤ちゃんの横に哺乳瓶を置いた写真を示したのです(写真1)。
この状態は「一人飲み」と呼ばれているそうです。新生児医療の現場では今、未熟児を抱っこして授乳させられないほど多忙を極めており、全国の過半数のNICUでは「一人飲み」を行わざるを得ない状況だというのです。網塚氏は、「これは、1人の夜勤看護師が大勢の新生児を担当することを許している体制が原因だ」と指摘しました。網塚氏はその理由として、新生児を扱う病棟に看護師の配置基準がなく、狭義のNICUは3対1看護体制であったとしても、回復期病棟は成人の配置基準と同じになっていることを挙げました。
現場を知らない人からすれば、回復期なんだから大丈夫なのではないか、と思うかもしれませんが、そもそもNICUが慢性的にベッド不足のため、本来ならまだNICUで看なければならない人工呼吸器管理下の新生児も、どんどん回復期病棟に押し出されているのです。その結果、夜勤看護師1人が担当する新生児が1晩で9~10人ということが常態化し、病院によっては看護師1人が15人を受け持つような状況になっているようです。
このような状態では、安全に看護できないのは明白です。実際に十数人の新生児を受け持った看護師が、新生児をうつぶせ寝にさせていて突然死に遭遇し、その後の裁判で有罪になった事案もあって、現場では大問題になっているようです。網塚氏は最後に、「全国の赤ちゃんたちの“声なき声”を代弁して―。『せめて抱っこして授乳できるような体制にしてほしい』」と語ると、会場からは大きな拍手がわき起こりました。さらに網塚氏は、「NICU(新生児集中治療室)の実態」の図を示しました(図1)。その解説にはこう書かれています。
「同じ乳児を預かる保育所と比較すると、保育所では児童福祉法施設最低基準により保育士1人当たりの受け持ち乳児数は3人までと法律によりケアの質が保証されており、回復期病床とは極めて対照的です。このような手薄な状況下では、NICUへの新規入院を断らざるを得ないだけではなく、更にその歪みが『一人飲み』に象徴される入院中の赤ちゃんたちへのケアの劣化、リスクの上昇として現れます。(中略)このような事態を引き起こした元凶は、児童福祉法に相当する法律が病院に入院している新生児に対して存在しないことにあります。(後略)」
私は、正直なところ、NICUの現場がここまで切迫していたことを全く知りませんでした。一所懸命、医療現場の窮状を訴えてきたつもりの私でも、まだまだ現実を把握しきれていません。いつも申し上げていますが、医療崩壊を阻止するためには、現場からの情報発信が必要最低条件です。それぞれの分野の医療関係者が、網塚氏のように勇気ある問題提起をしていくことが、医療崩壊を食い止めるためには不可欠です。網塚先生、これからも日本の赤ちゃんたちの“声なき声”を伝え続けてください。ありがとうございました。
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