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(投稿:by 僻地の産科医)
勤務医が病院からどんどん逃げていく
30時間連続勤務、休みは月一回
週刊文春 2008年3月6日号
http://www.bunshun.co.jp/mag/shukanbunshun/
>今週号の週刊文春です(>▽<)!!!! あのお忙しい本田先生が、きっと 先生のお顔まで浮かぶようです。 ではどうぞ!!!!! 勤務医が病院からどんどん逃げていく 週刊文春 2008年3月6日号p44-47 「私たちはみな疲弊していて、限界ギリギリ、崩壊寸前の状態なんです」 「月に十一回当直したことも」 研修医の待遇改善も一因 医師の増加に反対する厚労省 道路か医療費か国民が選ぶべき
「私の話を聴きにきてくださって嬉しい!」
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でも厚労省の予算のくだりは明らかに間違っていますから!
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30時間連続勤務、休みは月一回
こう話すのは、『誰が日本の医療を殺すのか』の著書がある本田宏医師(済生会栗橋病院副院長)だ。本田医師は病院で外科の責任者を務めているが、七人の外科医で年間八百件の手術をこなしているという。
「現在のような医療崩壊寸前の状態がこの先も続いたら、本当に病院から勤務医がいなくなってしまうかもしれません」(同前)
この数年、産科や小児科を中心にした「医師不足」の深刻度が増している。その背景には、開業医と比べ、病院に勤める勤務医の過酷な労働実態がある。二月十三日には、中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)が来年度の診療報酬改定案を答申し、勤務医対策に約一千五百億円を振り向けることを決定した。
「この額でも勤務医対策には不十分です。本来は開業医の再診料を引き下げることで、もっと増額するはずだったのですが、開業医が多く加盟する日本医師会が猛反発した。抜本的な対策は先送りされた感を拭えず、今後も医師不足の深刻さは増すばかりでしょう」(厚労省担当記者)
厚労省の調査によると、開業医の平均年収は約二千五百万円で、勤務医は約一千四百万円。しかも、当直の多い勤務医は労働条件もはるかに過酷だという。こうした現状を踏まえ、勤務医から労働環境の改善を求める声も上がり始めた。
今年一月、全国の四百名以上の勤務医を中心にした医師が「全国医師連盟設立準備委員会」を立ち上げたのだ。今年の五~七月ごろをめどに千人規模での設立を目指すという。勤務医である黒川衛代表世話人はこう語っている。
「医師は疲弊し、病気の人を助けたいというモチベーションが低下している。医療を再生するため、医師が現場から声を上げていかなければならない」
実際、勤務医の日常を追いかけてみると、その過酷な労働環境は筆舌に尽くしがたいものがある。
東京都内にある病院の事例を紹介しよう。この病院はベッド数二百床で、勤務する医師は十六名。この病院に勤務する医師七年目の内科医、A医師の一週間の勤務内容を追った。彼の勤務の主なものは「外来診療」と「病棟患者の世話」それに「夜間の救急当直」だ。
月曜日。勤務開始は八時四十五分と早いが、これは毎日のことだ。午前中は、病棟患者の回診。常時十五名以上の患者を担当している。回診の合間に、研修医の教育をすることも中堅のA医師の大事な仕事だ。午後は、外来患者を診察。六時間ほとんど休みなしだった。そして、夕方から翌朝までは救急での当直業務。この日は救急車四台を含む十二人の救急患者を診察。この時点ですでに二十四時間の連続勤務になるが、仕事はまだ終わらない。
「救急の患者さんが少ない場合は仮眠をとれることもありますが、完全徹夜で翌日の業務に入ることも少なくないです」(A医師)
結局、一睡もせずに翌日の仕事が始まった。
火曜日。午前中は病棟業務で、十一時から十五時までは会議。その後はまた病棟業務と研修医の指導。結局帰宅したのは十八時。前日から、なんと三十三時間以上の連続勤務だった。これだけ長時間働いたにもかかわらず、翌日の出勤時間は変わらない。
水曜日。八時四十五分勤務開始。朝から夕方まで外来と病棟の患者を診察し、夜は病棟患者の急変により、帰りは午後十時に。勤務時間は十三時間以上だ。
「十五人いる自分の担当の患者さんの具合が悪くなった場合は、帰りが深夜に及ぶこともあります」
木曜日。八時四十五分から十七時まで、外来・病棟で患者の診察をした後に、十七時より翌朝まで当直。救急の患者数は月曜日より一人多い十三人だった。そして二十四時間連続勤務後に、翌日の業務に突入。
金曜日。八時四十五分から十五時まで外来患者を診て、それ以降は病棟業務。前日は完全徹夜にもかかわらず、この日も帰宅できたのは十八時で、やはり連続三十三時間の勤務だった。
月曜日から金曜日までの五日間の労働時間がなんと七十九時間。だが、業務はこれで終わりではない。土日も働いているのだ。
「十五人も病棟の患者さんを受け持っていると、なかなか休めませんよね」
結局、一週間の労働時間を計算すると、なんと九十五時間になってしまった。一ヵ月に8回当直に入るというA医師にとって、こうした一週間が日常なのだ。
「完全な休日は月に一、二回しかありません」
この病院では、このような過酷な労働は内科医に限ったことではない。外科医でもあるB院長が言う。
「私自身は院長になってからは、院長業務が増えて当直は月四回と少なくなりましたが、以前は多いときは月に十一回当直をしたこともあります。当直明けで二十四時間以上勤務している間に手術をすることも日常茶飯事です。もちろん、どんなに疲れているときでも、手術となると不思議と集中できるもので、患者さんが心配するには及びません。
でも、そうは言ってもやはり私たち医者も人間です。三十時間も連続して働いていると、手術の後の外来診療や入院患者の世話をしているときに、急に疲れが出て緊張が途切れてしまうことがあります。そんなときは自分自身でも本当に恐くなる。手術だけでなく、外来診療や病棟業務だって、神経を集中させていないとできない仕事ですから」
なぜ、このような過酷な労働環境になるのか。
「私もこんな過酷な条件で働かせたくはないですよ。できれば週一回は完全に休ませたいし、当直も週一回にさせてあげたい。でも、そうするには医師の絶対数が足りない。理想的な勤務体系にするには、現在の十六人にあと五人は必要です。でも、ずっと以前から募集しているんですが、いっこうに集まらないのです。それはどこにも余っている医師がいないからです」
こうした現状は、この病院に限ったことではない。日本医療労働組合連合会の調査では、七割以上の勤務医が連続三十二時間の勤務を月三回以上行い、三割の勤務医が月に一日も休みがとれない状況にあるという。つい先日も、大阪府の公立病院が、三千五百万円の年間報酬を条件に麻酔科医を募集しているというニュースが話題になったが、それだけ全国各地で医師不足が深刻になっているのだ。
さらに、前出の本田医師は、「医師不足の原因はもうひとつある」と言う。
「それは相次ぐ医師の逮捕・起訴です。現在、一年間で一千件以上の医療事故が報告され、連日のように医師が訴えられている。もちろん、なかには本当に悪質なものもありますが、多くは『どうしても防ぐことが出来ない過失』だと私たちは思っています。どんなに優れた技術を持っている医師でも“絶対”はない。多くの医師は自分が訴えられて逮捕されるのではないかという恐怖を感じながら日々勤務をしているのです。特に、産科、小児科、救急などが顕著で、いまや、そうしたハイリスクの現場からできるだけリスクのない診療科へと医師が避難している。このリスクは特に勤務医に顕著で、こんな状況がこれからも続けば、病院から勤務医が消えてしまうのではないかと、私は本気で危惧しているんです」
本田医師は、二年前に後輩の女性医師からこんな年賀状をもらった。
「精も根も尽き果てるような働きをせずとも、安全な医療が提供できること。それが今年の目標です」
これを書いたのは十六年目のベテラン医師だった。
「彼女ですらこんな風に思いながら仕事をしていたんだと思うと、心底驚きましたね。おそらく日本中の医師の多くが、同じ気持ちなのだと思います。私はこんな気持ちで仕事をしている後輩たちのために、せめて安全な医療を提供できる環境を整えてあげたいと、つくづく思いました」
現場の医師の過酷な労働環境を生んだ原因の一つに、平成十六年四月に導入された「臨床研修必修化」がある。これは研修医の二年間の研修を義務化する改革だ。
それまでは、現場経験もなく臨床技術にも乏しい研修医が、医療現場で最も過酷な労働を強いられていた。その結果、研修医による事故が相次いだ。だが、「臨床研修必修化」によって、研修医だけの当直とアルバイトは禁止され、指導医による教育も義務づけられ、給与も格段に上がった。この改革によって、研修医の待遇は格段に改善された。
だが、研修医の待遇が改善されたことにより、医療現場では中堅医師やベテラン医師の労働がさらに過酷なものとなってしまったのだ。それまで、研修医が担ってきた「過重な労働」がただ単に、中堅・ベテラン医師へと移っただけで、問題はいっこうに解決していなかったのだ。研修医問題を対症療法で解決しようとしたために、別の大きな問題が生まれてしまったのだ。
さらに、これまで「医師不足」が大きな問題にならなかったのは、あるカラクリがあったからだ。本田医師が語る。
「これまで私たち医師は、厚生労働省から『日本の医師は多い』とずっと言われ続けてきたんです。でも自分で調べ直してみると、それは大きな間違いだとわかったんです。例えば、OECD(経済協力開発機構)が調査した人口干人あたりの医師数の比較では、OECDの平均が三人に対して日本は二人。加盟三十カ国中ビリから四番目です。しかも、この差は年々開いている。なのに、厚労省はずっと『医師は足りている』と言い続けてきた」
実は、厚労省だけでなく、日本医師会も以前は「医師は不足していない」と主張していた。だが、最近になって「医師の絶対数は不足している」との考えに変わった。日本医師会常任理事である中川俊男医師はその理由をこう答える。
「それは最近の私たちの調査で、医師の仕事の質が変わって仕事量が圧倒的に増えたことがわかったからです。その原因の一つは医療が高度化したこと。もう一つは、患者さんの医師への要求水準が高くなったこと。例えば一昔前に比べて、インフォームドコンセントの回数や時間も飛躍的に増えています。また電子カルテの普及などにより、文書作成の時間も以前よりも増えました。こうした医師の仕事量の増加を考えれば、今の医師数は明らかに絶対数が不足しています」
これは世界的な傾向でもあると、本田医師も言う。
「世界中の多くの国でも、医師の仕事量は圧倒的に増えています。また、現在、先進国の医療の主流は『チーム医療』になっています。安全な医療をするにはチーム医療が必要なんですが、『チーム医療』にはマンパワーが不可欠です。ですから欧米諸国では、仕事量の増加と安全な医療を提供するために医師の数を相当増やしている。しかし、日本では増加は微々たるものでほぼ横ばい。日本が世界の先進国と肩を並べるためには、あと十四万人の医師を増やす必要があるんです」
日本の医師の定員数を決定するのは厚労省だ。その厚労省は、医師の数を増やすことに反対してきた。
自らも医師免許を持ち、臨床の経験もあるという医政局医事課課長補佐の井内努氏は、「これは厚生労働省の公式見解です」と前置きし、こう答えた。
「厚労省としても、現在の医師の絶対数が不足していることは認めているんです。ですが、現状でも医師は毎年八千人ずつ生まれており、それを考えると、この数年は不足しても二〇二二年には足りる計算になる。ですからいま大量に増員すると、十五年後には医師過剰になってしまう。このような考えから、いまは大量に医師を増員することはできないと考えているわけです」
だが、本田医師は厚労省にこう反論する。
「厚労省がカウントする医師数とは、医療現場で働いている医者の数ではなく、医師免許を持っている人の数なんです。つまり、結婚などの理由で医療現場を離れた女性や八十歳を過ぎてリタイアした医師も全てカウントされているんです。
医師の数を大量に増やしているアメリカでは、二〇〇〇年を境に統計上医師の数がぐんと下がったことがあるんですが、これは算定法を変えたからなんです。医師免許を持った医師の数から、医療の現場でフルタイムに働く医師だけをカウントする計算法(FTE)に変えたのです。現在先進国の多くはこのFTEを採用しているのですが、日本では相変わらず医師免許を持った人全員をカウントしている。いまだに、こんな算定法で計算しているから、日本では正確な医師数のデータがでないんです」
厚労省が二〇二二年には医師数が足りると考えるのは、「医師は死ぬまで辞めない」という前提があるからなのだ。だが、以前はそれが常識だったのかもしれないが、もはやその常識は通用しないだろう。
こうした「医療崩壊」の現状について、政治家からも新たな声が上がり始めた。二月十二日に発足した「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」には、超党派の議員が百四十名参加している。会長は元厚生労働大臣の尾辻秀久氏。幹事長は独自のルートで医師のヒアリングをしてきたという民主党の鈴木寛氏だ。鈴木氏が言う。
「実は、日本の医療費は世界的に見ても非常に少ないんですが、あまり知られていません。医療費が少ないにもかかわらず、国はさらに診療報酬を下げて医療費の抑制政策を進めています。このことが病院経営を逼迫させて医療崩壊を促進する要因になっているんです」
現在、日本の医療費は総額で約三十兆円だが、GDPに占める医療費の割合はG7平均が一〇・二%に対して、日本は八%にすぎない。本田医師もこう言う。
「その一方で、日本の公共事業費はずば抜けて多いんです。日本以外の先進六カ国の合計よりも日本一国の方が多いほどで、日本という国は、人の命よりも橋や道路をつくることを優先してきた国なんです」
それでは、ヨーロッパなみに医療費を引き上げることはできるのだろうか。
前出の鈴木議員が言う。
「ヨーロッパの国々がなぜ公共事業費よりも医療費にお金を使うようになったのか、それはその国の国民がそう選択したからなんです。税金の使い道を決めるのは、政治家でも役人でもなく、最終的には国民です。例えば、救急病院に担ぎ込まれる患者さんの何割かは交通事故の患者さんですよね。ならば、救急医療の充実のためにいま話題のガソリン税を使うこともあり得ると思うんです。道路を作るために税金を使った方がいいのか、医療崩壊を食い止めるために使った方がいいのか、決めるのは国民です」
道路を整備して病院に行くのが便利になっても、そこに肝心の医師がいなければ意味がないのではないか。
これ、医局にあったので読みましたが、正直微妙ですね。
特にこの部分↓。巧みに誘導していて、ひどいです。
この額でも勤務医対策には不十分です。本来は開業医の再診料を引き下げることで、もっと増額するはずだったのですが、開業医が多く加盟する日本医師会が猛反発した。抜本的な対策は先送りされた感を拭えず、今後も医師不足の深刻さは増すばかりでしょう」(厚労省担当記者)
投稿情報: physician | 2008年3 月 4日 (火) 01:20
そうそう。実はビミョーな記事なんです(笑)。
前半部分の一番重要なところに、一番重要にダメ部分があるという構成。
真ん中以降にこっそりだったら許すんですけれどね。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年3 月 4日 (火) 12:20
秀逸な記事をありがとうございます。少し古くてすみませんが、「自らも医師免許を持ち、臨床の経験もあるという医政局医事課課長補佐の井内努氏」の経歴はこんなですね。確かに記事通りですが、、これまたビミョーです。
井内 努(いうち つとむ)氏
1996年 (大阪市立大学医学部卒)大阪市立大学医学部付属病院放射線科入局
1997年 大阪厚生年金病院放射線科
1998年 大阪市立大学医学部附属病院放射線科
1999年 神戸市立中央市民病院放射線科
2001年 大阪市立大学医学部細菌学教室助手
2001年 厚生労働省入省、同健康局結核感染症課予防接種専門官
2003年 同疾病対策課臓器移植対策室室長補佐
2004年 総務省消防庁救急救助課救急専門官、現職
投稿情報: yukio | 2008年3 月 4日 (火) 12:55
井内努先生かぁ。
懐かしいです。今は医政局医事課課長補佐になられたんですね。
学生の頃、「医者なんてあかん。厚生省に入って楽するんや」と言ってたのが思い出されました。井内先生、学生にしてすでに医者の待遇の悪さに辟易とされ将来を悲観してましたね。私は当時、内科や外科なりの医者を目指さない発言にはびっくりしましたが、有言実行されていたとは驚きと言うか笑いました。経歴追加するなら、2浪で市大に入学するも進級に四苦八苦。たしか、野球部外野でエラーばかりしていました。決して悪い人ではなかったです。でも、井内先生の性格なら、いくら医者の立場、心情が痛いほど分かっていても国(職場)の方針に逆らわず、事なかれ主義で通されるでしょうね。
投稿情報: 人生いろいろですね。 | 2008年8 月18日 (月) 18:18