(関連目次)→勤務医なんてやってられない! 医療を理解するには
(投稿:by 僻地の産科医)
山口先生!いつもありがとうございますo(^-^)o ..。*♡
かなりわかりやすくまとめられています!
報道・判決の攻撃性の背景についてまで述べられているのが
秀逸です(>▽<)!!!では、どうぞ!!!!
医師不足と医療崩壊について 加藤 政隆 (名古屋医報 平成20年3月1日 p7-11) はじめに 特に患者側からの攻撃の強い小児救急、紛争の多い産科医療が顕著で、産婦人科・小児科は休止に追い込まれた(図2)。何か医療を崩壊させたのか医師不足の観点から検証してみた。 (注)新医師臨床研修制度 厚生労働省の「医師の需給に閲する検討会」でも医師不足が問題視されており、北里大学医学部長の吉村博邦委員は要因を7点あげている。 ②インフォームドコンセントなど患者への ③医療安全、危機管理などへの対応 ④女医の増加 ⑤勤務医のQOL ⑥旧労働省(現厚生労働省)による、 ⑦新医師臨床研修制度の導入による大学医局の新 医師の総数は毎年増加しているのだが(表1)、2002年の厚生労働省報告の医師調査で出てきた実際に働いている医師数(医療施設の従事者:B)は25万人に対し、病院調査に出てくる実際に働いている医師総数(C)は29万人と、4万人の乖離(かいり)が生じており、 これは現状の病院体制を維持するのに29万人必要であることを意味する。厚労省は差し引き4万人不足の状態を1990年から放置してきたのである(表1)。実に2割にも及ぶ慢性的な不足を医師が時間外も働き、アルバイトもしてやっとの思いで補ってきたのだ。 さらに構造的な医師不足に拍車をかけているのは女性医師の増加である。女性医師数は年々増加し(図5)、2004年には2割弱を占めるまでに至っている。医師免許取得後10年前後で就業率が低下しており(図6)、実際に勤務している医部数の減少を引き起こしている。出産・子育てが原因と考えられる。 地方の現状は? 地方では医師不足解消の特効薬はなく、むしろ悪化を懸念させる現状がある。東北地方を例に挙げれば、秋田大学では、医学部在学生の県内出身者(うち75%が県内勤務希望)は2割しかなく、残りの8割弱の在学生は県外出身者で秋田県内勤務希望はわずか2割にとどまり(表2、図7)、「一県一医大構想」はもはや有名無実化している。さらに追い討ちをかけているのは2004年からの新医師臨床研修制度である。医学部卒業後は自ら研旅先を選べるようになり、多くの研修医は医局に残らず都会の設備のよい大病院へと集中している。 2007年度に大学病院を研修先と選んだ研修医は48.8%と新研修制度が始まる前の約半分の水準である。 地方の大多数の病院は大学病院の医局に医師の派遣を依存している。新入医局員の減った大学病院は生き残りを懸け、医局の医師を確保しようと必死になり、病院からの医師の撤退をし、その結果地方の病院は崩壊するに至っている。 勤務医の逃避:立ち去り型サボタージュ、立ち去り開業とは? 業務負担の増減の原因は委員会や会議などの「診療以外業務」が最も多く、次いで「教育・指導」、「外来患者数」の順である。病院常勤医の1週間の平均勤務時間は63時間(図9)。法定労働時間が過40時間なので、週当たり残業時間は23.3時間。月当たりでは93.2時間となる。一般企業社員や公務員3,000人を対象に行った調査では、月当たり残業時間の平均は、30歳代男性で42時間、男性全体では36.9時間との結果である。勤務医はこうした厳しい労働条件の中、患者のためじっと我慢し、耐えてきたのである。それに対する報酬は決して多くはなく、医師は自らの知識や技量に対する自負心と病者に奉仕することで得られる満足感のために働いている。 そうした理念を放棄するさらなる原因は警察の介入である。 2002年ごろより医師法21条(異状死の警察への届出)を理由に警察は医療に対する十分な知識がないまま医療現場に踏み込むことが多くなった。医療事故を担当するのは、東京では警視庁捜査一課で、普段、強盗、強姦、殺人などの凶悪犯罪を担当している捜査官が、そのままの手法で医師や看護師を取り調べるのである。医師が刑事責任を問われる場合、多くは刑法第211条の業務上過失致死罪が過用される。ところが現在の刑法は明治41年に施行されて以後本格的な改正は行かねていない。世界的にみて医療事故に業務上過失致死が適用されるのは一般的でない。また医療裁判は一般民事裁判と比べ時間がかかり(地裁での民事裁判全体で平均9.2ヵ月、医療裁判は平均34.6ヵ月)、訴追された医師は裁判でも長くつらい時間拘束されるのである。社会からの攻撃に耐え切れず、自分の生活と人生を守るために、明確な目的がないまま開業する医師が増え、病院の中堅医師加減少した。こうした開業を『医療崩壊』の著者小松秀樹医師は、「立ち去り型サボタージュ」と、日経メディカルは、「立ち去り開業」と称している。 終わりに
医師が不足しているかの問いにもはや異論を唱える者はおらず、医師不足が医療崩壊を引き起こしているのは明白である。医師不足が深刻化してきたのは医療事故をめぐる紛争が多発してきた2000年ごろで特に産科・外科領域であり、さらに2004年の新医師臨床研修制度(注)導入により、地域医療が危機に陥った。 2006年には診療報酬の大幅マイナス改定が行われ、病院の経営に大打撃を与えた(図1)。
医師法弟16条の2に定められている医師の研修制度で、これまで医師は免許取得後に2年以上「臨床研修を行うよう努めるもの」とされていたが、平成12年の法改正により、平成16年4月1日以降に医師免許を取得した者のうち、臨床に従事しようとする医師は臨床研修を受けなければならないとされた。研修期間は、原則2年間であり、当初の12ヵ月を内科、外科及び救急部門(麻酔科を含む)の基本研修科目に、次の12ヵ月を小児科、産婦人科、精神科および地域保健・医療を必修科目として研修することとされている。
①医療の専門分科、高度化による細分化の影響
説明時間の増加
医師の労働条件、労働環境改善への指導
入医局員の減少と、これに伴う、専門医養成
システムならびに医師の派遣システムの崩壊
どう不足しているのか?
日本全体では、OECDの2005年発表のデータによれば日本の医師欲は人口当たりでOECD加盟国中最低(日本医師数2.0人/1,000人)の部類で、OECD加盟国全休の平均(2.9人/1、000人)をかなり下回っている(図3)。病床当たり、あるいは患者当たりの医節数は深刻な状況で、ギリシャの1/5、アメリカの1/3、ドイツの1/2程度しかない(図4)。
勤務医不足は地方の中小都市の公立・公的病院でここ数年深刻化している。地方に多く見られるベッド数100~300床規模の病院は、少数医師で診療科を維持するいわゆるミニ総合病院の形態をとり、医師不足は産婦人科、小児科を中心に病棟・外来の閉鎖を余儀なく強いられ、内科や外科の主要診療科も崩壊の危機にある。患者は周辺病院へ集中し、医師の負担はさらに増加、その周辺病院も崩壊していくいわゆる“ドミノ倒し”も発生している。
医療崩壊の最大の要因は勤務医の不足である。
厚労省大臣官房統計情報部の報告では、少なくとも2002年まて勤務医の絶対数は増加しているが、医師総数に占める病院勤務医の比率は1994年を境に下降傾向を示している(表3)。逆に診療所従事者(開業医)の比率は1998年以後若干増加し、2004年以後は急激な伸びを示している(図8)。
なぜ勤務医は逃避するのか? 過酷な勤務状況は明らかで、国立保健医療科学院が2005年に全国の勤務医を対象に実施した調査では、勤務負担が3年前に比べ2/3の医師が増えていると回答。
今後の行方は? イギリス・アメリカの現状を踏まえて
イギリスの医療事情は日本の医療の近未来を暗示していると言われている。イギリスでは患者は受診する医療機関を自由に選べず、GPと呼ばれる主治医を選択して登録する。専門医の診療はGPからの紹介がないと受診できない。要するにフリーアクセスの制限である。患者は通常の手続きでは診療を受けるのに時間と手間がかかり、すぐには受診できず、そのため救急外米が混雑し、そこでも長時間待たされる。この状況に患者は怒り、多くの医療従事者は患者から暴力を振るわれている。国民保健サービス(NHS)は原則無料で国民に医療を提供しているが、400余りの独立法人に分割されたNHSは効率と競争を求め医療費を抑制、その結果医療は崩壊した。医療従事者の士気は低下し、イギリスの医師はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどに海外流失、新規登録医師数が1995年の↓万1,000人から2000年には8,700人にまで減少した。平成20年度にスタートする後期高齢者医療制度の「かかりつけ医」はまさにイギリスのGPを彷彿させる。
アメリカの医療は市場原理に委ねられている不平等医療で、金持ちは優れた医療を受けられるが、貧者はその限りでなく、そのため乳児死亡率は先進国と言えないほど高い。ちまたでもてはやされている病院ランキング本や多くの医療番組は患者の不安と個人的欲望を刺激し、医療に市場原理が持ち込まれ、日本が長年培ってきたいつでもどこても平等な医療を受けられる権利を損なう危険がある。お金がないと満足する医療サービスが受けられないアメリカのシステムをそのまま日本に待ち込めばさらに医療は崩壊しかねない。
医療の崩壊には様々な要因があり、医療従事者の環境、医療制度、診療報酬を含めた社会保障費などは喫緊に整備されなければならないが、もっと深い問題は医療に対し、生者と医師の間に大きな齟齬(そご)が存在することである。患者は、医療は万能で、病気はすぐに診断され、直ちに治療ができると思っている。しかも一部の患者は自分への奉仕をあらゆることに優先させることを医師に求める。
参考文献
「社会保険旬報]N0.2332(2007.11.1)
「医療崩壊」小松秀樹著 朝日新聞社
「週刊東洋経済」2007.11.3
「医師不足と地域医療の崩壊vol.1」東北大学大学院
医学研究科 地域医療システム寄附講座 日本医療企画
「日経メディカル]2007.1 日経BP社
コメント