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(投稿:by 僻地の産科医)
クラミジア性器感染症の若年女性における拡がり
宮内 文久 大塚 恭- 南條 和也
(産科と婦人科・第74巻12号(100)p1680-1683)
対象と方法 結 果 考 察
はじめに
クラミジア感染症は子宮頸管炎からFitz-Hugh-Curtis症候群まで多彩な別様を有しているにもかかわらず,「静かな性病」と呼ばれているようにその症状の多くは軽度であり,ときによっては感染自体がまったく自覚されないこともある.そのため,今回はマイクロトラック法あるいはクリアビュークラミジア法によりクラミジア抗原を検出した女性のうち,若年女性を対象に最近の傾向を観察し,現在の状況を分析することとした.
平成1年,4月~平成12年3月まではマイクロトラック法を用いて,平成13年4月~平成18年3月まではクリアビュークラミジア法を用いて,子宮頸管からクラミジア抗原を検出した1,497症例を検討対象とした(表1).1,497症例を既婚女性あるいは未婚女性に分け比較検討するとともに、年齢分布や淋菌との合併感染の有無も検討した.
また,平成5年度,10年度,15年度に高校生,および平成15年度に当科を受診した一般女性にクラミジア感染症について質問し,その理解度を比較検討した.
クラミジア感染症と診断したのは平成1年度の6人から平成17年度の141名まで、合計1,497名であった(表1).この観察期間中に診断した既婚女性は810名,未婚女性は687名(未婚女性率45.9%)であった.クラミジアに感染した女性数はこの観察期間中に増加し続け,平成14~17年度にかけては毎年約150人の女性がクラミジア感染症として診断された(図1).未婚女性の患者数は増加し続け,最近は年間約80人の未婚患者の発生を観察した(図2).平成14年度以後は未婚女性の患者数が既婚女性の患者数よりも多く、増加率も末婚女性のほうが既婚女性のよりも大きかった.
クラミジア感染女性を平成1~5年度,平成6~10年度、平成11~15年度,平成16~17年度の4群に分け,その年齢分有を観察した(図3).20~24歳の年齢群の患者数はこの観察期間中に常にかつ顕著に増加した。ついで15~19歳の年齢群が同様に増加した.一方.30歳以上の女性の頻度はこの観察期間中にゆるやかに減少していった.
クラミジア感染に淋菌が同時に感染している女性は平成3年度に1例を初めて観察して以来、平成6年度から緩やかに増加し平成14年度からは毎年約20例を認めた(図4)。淋菌合併感染者における未婚女性数は平成7年度から徐々に増加し,平成14年度からはほば一定に、毎年約12人程度を観察した(図5).淋菌合併感染者の多くは既婚と未婚を問わず20~24歳の年齢群に属していた(図6).
高校生に平成5,10,15年度にクラミジア感染症についてそれぞれ質問したところ、わずかながら増加したものの、高校生の理解度は約10%を超えることはなかった(図7).なお,平成15年度に同じ質問を一般女性にしたときの答えは,クラミジア性器感染症という病名を聞いたことがある女性が62%であり、性行為感染症と知っていた女性は46%であった.
平成1年度から平成17年度の観察期間中にクラミジア性器感染症は増加していった.この観察期間中,クラミジア感染者の年齢分布は20~24歳群がもっとも多く、ついで25~29歳群,30~34歳群の順であった.なお,20~24歳群の感染者は次第に増加してきていた.また,25~29歳群の感染者はほぼ一定しており,約30%の割合であった.
最近では未婚女性の増加が顕著であり,20~24歳と15~19歳の年齢層の患者群の増加を考え合わせると,クラミジア感染症の若年化傾向が窺える.今回の観察結果と平成8年の成績1)とはまったく同様であり,若年女性や未婚女性にクラミジア感染症が増加しているという特徴は依然として続いていることが明らかとなった.
クラミジア感染症のみならず淋菌感染症も近年増加している.この観察期間中の淋菌合併感染症の未婚患者と既婚患者の比率は59%と41%であり,しかも15~29歳までの年齢層の患者群が80%を占めていたことから、若年者層にはクラミジアのみならず淋菌の感染の危険性が増加していると推測できる.
ところで,一般的な細菌感染では白血球教の増加やCRP値の陽性が補助診断として有用であるが、クラミジア感染症ではこれらの兆候を認めることは少なく,子宮頸管炎,子宮付属器炎、骨盤腹膜炎へと感染が拡がっても白血球数の増加や,CRP値の上昇が認められないことから,クラミジア感染症を臨床検査結果から推測することは困難である.また,クラミジア感染症では帯下の増加や微熱など軽微な訴えが多いことから,クラミジア感染症は「静かなる性病]と呼ばれている.しかし一方では下腹部や右上腹部の激痛で発作することもあり、虫垂炎や胆嚢炎と誤って診断されることもある.このように臨床像も臨床検査結果も一定の傾向を示さないことから,クラミジア感染症と診断するには「まず疑い],ついで子宮頸管からクラミジア抗原を「同定する」ことが必要である。
「静かなる性病」であるクラミジア性器感染症を撲滅するためには,現在治療中の女性にクラミジア感染痛の理解を進めるだけでは不十分で,セックスパートナーヘの働きかけも必要となる.さらに,クラミジア感染症の若年者への拡散を防止するためには、一般女性のみならず高校生や中学校生への働きかけも必要となる.このためにも性教育講座や自治会・婦人会などの講演会などを通じて積極的に働きかけることが重要と考える.平成8年度の調査でクラミジア感染症はその存在も、性行為感染症である事実も知られていないことを報告したが、約10年が経過してもその動向に差は認められなかったことから,さらなる啓蒙活動が肝要と考える.
クラミジア感染症の増加を抑制するには産婦人科医の病院内での診療活動のみならず,産婦人科医が診察室を越えて病院外で活動することも要求される時代に突入しているといえよう.
本論文の一部を第2回中国四国思春期学会(平成18年7月,松山市)および第54回日本職業・災害医学会学術講演会(平成18年11月,横浜市)で発表した.また,本研究は労働者健康福祉機構研究基金によって行われた.
「愛ではビョーキは防げないんだぞ!セックスするなら子供欲しいとき以外はコンドームつけろ!」って口やかましく言うんですけどねえ。
こういう教育は、まじめに授業を聞いている年頃に、みっちり学校でたたき込まないと効果がないってのに、いつまでたっても「寝た子を起こすな」性教育観がはびこる現状に腹が立ちます。
投稿情報: 山口(産婦人科) | 2008年2 月 3日 (日) 21:10