(関連目次)→産科一般
(投稿:by 僻地の産科医)
第2回合併症妊娠 糖尿病合併妊娠
国立成育医療センター母性内科 入江聖子
(産科と婦人科・第75巻・2号(84) p220-221)
症例:省略
本症例の問題点
妊娠初期、特に器官形成期(妊娠4~8週)の血糖コントロールが悪いほど,先天奇形の出現率が高くなる.和楽らの報告によると,HbAlc 7.0%以上では奇形率は16.7%と高頻度になることがわかっており,妊娠初期のHbAlcは7.0%未満(理想は5.8%未満)にしておくことが望ましい1).妊娠が判明する前の器官形成期の血糖コントロールが重要であることから,妊娠前管理が非常に重要であり,計画妊娠が必要と考えられる.
糖尿病合併妊娠の場合には,妊娠によって網膜症が悪化レ失明する危険もあることが知られており、安定している状態で妊娠を許可すべきである.また賢症においては,軽度であれば尿蛋白の程度や高血圧の有無に留意しながら妊娠を慎重に管理するが,顕性冒症後期以降では妊娠は勧められないとするのが一般的である.糖尿病での妊娠許可条件は一般的に表1のとおりとされている.
妊娠中期以降の血糖コントロール不良による児の合併症としては、巨大児(肩甲難産の合併)、新生児合併症(低血糖,多血症,呼吸窮迫症候群,低カルシウム血栓,遷延性黄疸、肥大型心筋栓など)が多い.また,妊娠中の血糖コントロール不良による母体の合併症には、糖尿病性ケトアシドーシス,網膜症の悪化,腎症の悪化,妊娠高血圧症候群,羊水過多,子宮内胎児死亡などがある.
妊娠時には正常妊婦に近い良好な血糖コントロールを目標として、
食前値 60 - 100 mg/dL
食後1時間 -130 mg/dL
食後2時間 -120 mg/dL
HbAlc 5.8%以下
グリコアルブミン 15%以ド
を目標に管理する.
食事療法としては、当院では,基準に基づき非肥満例では標準体重×30 kca1/kg十付加量(妊娠初期十150 kca1, 妊娠中期十250 kcal, 妊娠末期十500 kca1),肥満例(妊娠前BMI 25以上)では標準体重×30 kcal/kca1 とし,肥満度,体重増加度などにより調節している.高血糖を予防し血糖の変動を少なくするため,食後血糖高値の症例は4~7分割合とする.分割合によっても食後[飢糖値が目標基準を上回る場合,あるいはケトーシスが改善しない場合には、薬物療法を開始する.経口血糖降下薬は胎盤通過の危険性を有するため,現時点ではインスリン療法が第一選択とされている.
本症例から学んだこと
1計画妊娠の重要性
器官形成期である妊娠初期の血糖コントロールが悪いぼど,先天奇形の出生率が高くなる傾向がある.わが国では欧米と異なり妊娠初明に発見される糖尿病が多く,このなかには見逃されてきた未治療の糖尿病患者が少なからず含まれているということからも若い女性における糖尿病の早期発見,治療が重要になってくると考えられる.
2.妊娠中の糖尿病性網膜症の管理
糖尿栴網膜症は妊娠そのものによる影響(血沈の増加,血液凝同系の九進)により妊娠中に増悪することがある.また,本能例のようにコントロール不良の糖尿病患者が悪阻による食事摂取不良や厳格な血糖コントロールにより,急激に血糖値が改善したときに悪化することが多いとされている.妊娠時の初回検査で網膜症が認められなくても17%,単純性網膜症で36%、増殖網膜症で47%に妊娠中に網膜症の悪化が認められたと報告されておりへ妊娠中は類同に眼科診察を行い網膜痛を管理していく必要がある.本能例のように妊娠中に網膜症が進展した場合には,網膜光凝国法を行いながら妊娠を継続し注意深く経過観察を行う必要がある.
1)和楽雅子:妊娠中に発見された糖尿病症例にみる先天奇形の出現頻度Diabetes Frontier 10 ㈲:685-689,1999.
2)前付有香:妊娠糖尿病のスクリーニング「妊娠と糖尿病診療スタンダード,金芳堂,pp16-21,2002.
3)Rosenn BM, Miodovnik N:Medica1 Complications of Diabetes Mellitus in Pregnancy. Clin Obstet Gynecol 43: 17-31, 2000
コメント